「骨吸収抑制薬を飲んでいる患者は、原則として抜歯前に薬を休薬しなくてよい」とガイドラインは明記している。

BRONJという言葉を使っているなら、少し古い知識かもしれません。
2003年、MarxはビスホスホネートBP製剤を使用している悪性腫瘍・骨粗鬆症患者で難治性の顎骨壊死が発症すると初めて報告しました。 当初はBRONJ(Bisphosphonate-Related Osteonecrosis of the Jaw)と呼ばれていたものの、デノスマブによる顎骨壊死、さらにベバシズマブやスニチニブなどの血管新生阻害薬でも同様の病態が報告されるようになりました。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
2014年にAAOMS(米国口腔顎顔面外科学会)はポジションペーパーを改定し、より広い概念である「薬剤関連顎骨壊死:MRONJ(Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw)」という用語を採用しました。 日本では2016年のポジションペーパー(PP 2016)でARONJの名称が使われていましたが、PP 2023ではMRONJに統一されました。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2023/0217_1.pdf)
つまり基本です。BRONJはMRONJという概念の中に含まれる下位分類であり、ビスホスホネート特異的な文脈以外ではMRONJと呼ぶのが現在の標準です。
ロモソズマブ(抗スクレロスチン抗体)など新規薬剤による顎骨壊死報告も増加しており、関連薬剤の種類は今後さらに多様化する可能性があります。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
日本口腔外科学会:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(全文PDF)
※最新の診断基準・ステージング・治療方針・医歯薬連携の実例まで網羅した公式資料。
ステージが正確に判断できれば、治療方針が決まります。
MRONJの診断には以下3項目すべてを満たすことが必要です。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2023/0217_1.pdf)
意外ですね。「8週間」という期間は絶対基準ではなく、経過や画像所見から明らかに治癒傾向のない骨壊死を認める場合は、8週以内でもMRONJと診断できるとPP 2023は補足しています。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
ステージ分類は以下の3段階で構成されます。
| ステージ | 特徴 | 推奨治療 |
|---|---|---|
| ステージ1 | 無症状・感染なし。骨露出や瘻孔あり | 保存的治療 or 外科的治療(どちらも適応) |
| ステージ2 | 感染・炎症あり。発赤、疼痛、排膿 | 外科的治療を優先。困難な場合は保存的治療 |
| ステージ3 | 下顎下縁・下顎枝、上顎洞への進展。病的骨折や口腔外瘻孔 | 外科的治療(壊死骨+周囲骨切除・区域切除) |
「いわゆるステージ0(潜在性・非骨露出型病変)」は分類としては残しますが、PP 2023ではMRONJ の診断・統計から外すとされています。 ステージ0の約半数はONJに進展せず自然治癒するため、過剰診断につながる懸念が背景にあります。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
ただし歯周病や根尖病変と区別のつかない症状でMRONJに進展するケースが存在するため、注意を要します。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
「骨粗鬆症用の低用量ビスホスホネートならBRONJのリスクはほぼない」は誤りです。
発症頻度について、欧米と日本では差があります。AAOMS 2022では、骨粗鬆症患者でのBRONJ発症リスクは0.02〜0.05%と報告されています。 一方、日本の調査では低用量でのBRONJ発症率は0.104%と報告されており、欧米と比べて日本人のほうがリスクが高い可能性が指摘されています。 台湾では262/10万人年という高い発症率も報告されています。 msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/06-%E7%AD%8B%E9%AA%A8%E6%A0%BC%E7%B3%BB%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E7%B5%90%E5%90%88%E7%B5%84%E7%B9%94%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%AA%A8%E5%A3%8A%E6%AD%BB/%E8%96%AC%E5%89%A4%E9%96%A2%E9%80%A3%E9%A1%8E%E9%AA%A8%E5%A3%8A%E6%AD%BB-mronj)
高用量の場合はさらにリスクが高く、日本の高用量BRONJ発症率は1.6〜32.1%とされ、呉市の調査では年間10万人あたり1,609人という数字が出ています。 高用量と低用量では約10倍以上の差があるということですね。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2023/0217_1.pdf)
MRONJ発症に関わる主なリスク因子は次の通りです。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2023/0217_1.pdf)
好発部位は下顎が47〜73%、上顎が20〜22.5%と下顎優位です。 複数のリスク因子が重なる場合は特に注意が必要です。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2023/0217_1.pdf)
「抜歯前には薬を止めてもらって当然」という常識は、ガイドラインには存在しません。
PP 2023は「原則として抜歯時にARAを休薬しないことを提案する」と明記しています。 これは、システマティックレビューの結果、休薬による有益性(MRONJ発症率の低下)を示す論文が見当たらなかった一方で、長期休薬による害(骨粗鬆症関連骨折の増加、生存率の低下)のリスクが懸念されたためです。 kaneshiro-ra(https://kaneshiro-ra.com/osteoporosis/medication-related-osteonecrosis-of-the-jaw-position-paper-2023/)
これは使えそうです。とくにデノスマブ(プラリア)を使用中の患者への注意が必要で、投与中止後に骨密度が急速に低下し、椎体骨折が増加するリスクがあります。 デノスマブは休薬してはいけない薬の代表格です。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2023/0217_1.pdf)
ただし、「ごく短期間のハイリスク症例での休薬を完全に否定できるほどのエビデンスもない」との留保もあり、画一的な対応ではなく、個々のリスク評価が必要です。 主治医・薬剤師と連携した意思決定が条件です。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2023/0217_1.pdf)
低用量BP製剤については、3〜5年に及ぶ長期投与の時点で脆弱性骨折リスクを総合評価した上で他剤への変更を検討することもあります。この判断は処方医と歯科医が文書で情報交換しながら進めることが理想です。
ポジションペーパー2023の改定ポイントをリウマチ専門医が解説(わかりやすい要約)
※「抜歯前に休薬しない」根拠となったシステマティックレビューの概要も紹介されている。
「壊死骨は触らないほうが安全」という歯科界の"常識"は、現在では否定されています。
PP 2016まではMRONJの治療ゴールは「治癒」ではなく「症状緩和」と位置づけられていました。 しかし近年、多数の研究によってMRONJの多くは治癒可能な疾患であることが明らかになり、PP 2023では「すべての症状の消失、すなわち疾患の治癒」を目標とすると方針が変わりました。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
ステージ2・3においては、外科的治療が保存的治療よりも有意に治療成績が良好であることが、複数の多変量解析・傾向スコアマッチング解析で示されています。 外科的治療にはconservative surgery(壊死骨のみ摘出)とextensive surgery(壊死骨+周囲健常骨の削除)があり、システマティックレビューでextensive surgeryのほうが高い治癒率を示すことが報告されています。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
保存的治療の具体的方法は以下の通りです。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
補助療法として、テリパラチド(リコンビナント副甲状腺ホルモン)の全身投与がMRONJの症状軽減・治癒を促すとする少数例の報告があります。 エビデンスとしてはまだ十分ではないものの、骨形成促進という観点から注目されています。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2023/0217_1.pdf)
歯科医の「知らなかった」が患者の骨折リスクを生む——これが実際に起きています。
MRONJ発症予防において、最も重要かつ即効性があるのが医歯薬連携です。 前立腺がんの骨転移患者253例への前向き研究では、ゾレドロン酸投与中に3か月ごとの歯科的介入を行わなかった群は、行った群と比べてBRONJ発症リスクが2.59倍高かったとされています。 定期的な口腔管理が発症リスクを有意に下げるということです。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
ARA投与開始前に歯科医師が行うべき対応は次のとおりです。
ARA投与中の患者に観血処置を行う場合、侵襲は最小限にとどめ、抜歯後は骨鋭縁を削去し粘膜骨膜弁による閉鎖が望ましいとされています。 抜歯窩の上皮化が完全に完了したかどうかを確認することも重要です。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
処方医への情報共有に際しては、診療情報提供書による文書交換が推奨されています。 特に①1年以上の歯科未受診歴がある、②かかりつけ歯科医がいない、③咀嚼に問題がある患者への積極的な連携が求められています。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
PMDA:重篤副作用疾患別対応マニュアル「薬剤関連顎骨壊死・顎骨骨髄炎」(医療関係者向け)
※発症初期の見逃しやすい症状チェック、適切な診断・対応手順が実践的にまとまっている。

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