再使用した患者を叱責するほど、治療脱落率が上がり回復が遠のきます。
薬物依存症治療を困難にしている最大の原因は、治療者が患者に向ける陰性感情・忌避感情だとされています。 断薬を強要し、再使用を責める対応は患者を治療から遠ざけ、支援の網の目からこぼれ落とす結果につながります。
関連)https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=119&year=2017&mag=0&number=4&start=260
つまり「再使用=治療失敗」ではないということです。
麻薬依存の治療では、患者が再使用しても治療関係を継続することが、長期的な回復の土台になります。 実際、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師は「断薬を強要せず、再使用を責めず、受容的に接すること」を外来治療の基本姿勢として繰り返し強調しています。
関連)https://www.ohishi-clinic.or.jp/drug/drug-program/
医療従事者としての最初の役割は「治す」ことよりも「関係を切らない」ことです。
患者が再使用を打ち明けられる安心感のある診療環境を作ることが、結果的に断薬継続率の向上につながります。 叱責・通報への恐れが強いほど、患者は正直に話さなくなり、問題が深刻化します。
関連)https://psych.or.jp/publication/world080/pw06/
| 対応スタイル | 患者への影響 | 治療継続率 |
|---|---|---|
| 断薬強要・叱責 | 治療回避・隠蔽行動 | 低下 ⬇ |
| 受容的・非審判的対応 | 正直な開示・信頼形成 | 向上 ⬆ |
麻薬依存の治療で注目される代表的プログラムが SMARPP(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program)です。 覚せい剤依存患者を対象とした外来集団認知行動療法であり、週1回・全16回のセッション構成が標準的です。
関連)https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1120090877.pdf
これは使えそうです。
SMARPPの最大の特徴は、治療継続率の改善にあります。 平成22〜24年度の厚生労働科学研究班の検証では、SMARPPは通院継続率を著しく高め、自助グループ(NA・ダルクなど)の利用率まで底上げする効果が示されました。薬物依存症の予後は「治療の継続性」が鍵であるため、この効果は臨床的に非常に大きい意味を持ちます。
関連)https://psych.or.jp/publication/world080/pw06/
通院継続率が条件です。
また、SMARPP の第1クール(7名対象)ではセッション期間中の外来治療継続率が100%を記録しました。 従来の治療法と比較してもその脱落防止効果は明確であり、精神科・依存症専門外来を持つ医療機関での導入が全国的に広がっています。
関連)https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1120090877.pdf
違法薬物の使用が発覚した際、「通報しなければならない」と考える医療者は少なくありません。これが患者の治療アクセスを阻む大きな壁になっています。
関連)https://www.ncasa-japan.jp/you-do/supporter/for-medical
厳しいところですね。
しかし実際には、現行の日本の制度において通報するかどうかは医療者の裁量に委ねられています。 医療者が職務(=治療)の正当な理由がある場合には、たとえ公務員であっても守秘義務を優先することが許容され得ると解釈されています。
関連)https://www.ncasa-japan.jp/you-do/supporter/for-medical
守秘義務が原則です。
依存症対策全国センターは「依存物質が違法薬物だからといって、医療者としての関わりを放棄して良いはずがない」と明示しています。 まずは治療の可能性を優先し、専門機関へつなぐことが医療者に求められる対応です。
関連)https://www.ncasa-japan.jp/you-do/supporter/for-medical
この誤解が解けると、患者が「正直に話せる診察室」を作る第一歩になります。具体的には初診時の問診で「ここでの話は治療のためだけに使われます」と伝えるひとことが、患者の開示を大きく促します。
関連)https://www.ncasa-japan.jp/you-do/supporter/for-medical
参考:依存症対策全国センター「依存症の疑いがある患者さんをお持ちの医療関係者の方へ」には、通報・守秘義務に関する実務的な解説が掲載されています。
https://www.ncasa-japan.jp/you-do/supporter/for-medical
麻薬依存の治療をめぐる議論では、「再発は避けられない」という声と「治療で回復できる」という声が交錯します。数字を正確に把握することが、医療従事者としての現実的な支援設計に欠かせません。
数字が条件です。
まず刑事罰ルートの現実を見ると、覚せい剤取締法違反による同一罪名再犯者率は66.6%に上ります。 毎年約1万人が有罪判決を受け、その6〜7割が再犯するという状況が続いています。 「刑務所に入れれば更生する」という考えが通用しない現実がここにあります。
関連)https://izonsho.mhlw.go.jp/supporter02.html
一方、治療プログラムを経たケースはどうでしょうか。
米国の研究では、違法薬物乱用者を刑務所収容した場合の出所後3年以内再犯率は78%でしたが、地域での治療プログラム修了者では21%まで低下しました。 これは約4分の1以下という劇的な差です。東京ドーム5つ分の違いを1つに縮める規模のインパクトと言えます。
関連)https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=30
また、DARC(ダルク)利用者データによれば、薬物の再使用率は6ヶ月後5.3%、12ヶ月後5.8%、18ヶ月後4.0%、24ヶ月後4.5%と、いずれの期間も低水準を保っています。 治療・回復支援への継続的な接続が、再使用を抑制することを示す重要なデータです。
関連)https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/reference/pdf/darc2018.pdf
関連)https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=30
関連)https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=30
関連)https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/reference/pdf/darc2018.pdf
麻薬依存の治療は、医療機関単独で完結するものではありません。自助グループや地域支援機関との連携が、長期的な回復を支える重要な柱です。
関連)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202218003B-buntan8.pdf
連携が基本です。
代表的な自助グループには NA(Narcotics Anonymous・麻薬断ち匿名者の会)と DARC( Drug Addiction Rehabilitation Center・ダルク)があります。 国内外の研究で、AA・NA などの自助グループは CBT(認知行動療法)などの介入と同等またはそれ以上の効果があることが示されています。
関連)https://izonsho.mhlw.go.jp/interview_drug.html
意外ですね。
DARC は日本全国各地に施設を持つ回復支援施設であり、当事者スタッフによる仲間支援(ピアサポート)が特徴です。 医療機関からDARC へのリファー(紹介)は、外来治療の補完として非常に有効な手段です。
関連)https://izonsho.mhlw.go.jp/interview_drug.html
医療従事者が連携を実践するための具体的なステップは以下のとおりです。
また、ハームリダクション(危害軽減)の視点も医療現場に浸透しつつあります。 完全断薬ではなく「使用に伴う害を減らす」アプローチであり、治療から脱落しがちな患者を医療につなぎ続けるための現実的な戦略として、欧米を中心に効果が認められています。
関連)https://ptokyo.org/column/post/14016
参考:日本精神神経学会「松本俊彦先生に薬物依存症を訊く」は治療の考え方・支援資源について詳しく解説されています。
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=30
参考:依存症対策全国センター「日本における薬物使用・薬物依存の傾向」は疫学データと最新動向を確認できます。