ストレプトゾトシン糖尿病モデルの作製と注意点

ストレプトゾトシン(STZ)を用いた糖尿病モデル動物の作製プロトコルや注意点を詳しく解説。1型・2型糖尿病モデルの違いや失敗しやすいポイントとは?

ストレプトゾトシンで作る糖尿病モデルの基礎と実践

STZ投与後に一時的な低血糖が起き、グルコース補充を怠ると実験動物が死亡することがあります。


ストレプトゾトシン糖尿病モデル:3つのポイント
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作用機序

STZはGLUT2を介して膵β細胞に取り込まれ、DNA損傷・壊死を引き起こし、インスリン分泌不全による高血糖を誘発する。

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投与量の目安

ラットでは40〜70 mg/kg(腹腔内)、マウスでは100〜200 mg/kg(単回)または20〜50 mg/kg×5日(低用量連続)が標準プロトコルとされる。

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モデル判定基準

投与1週間後の血糖値が300 mg/dL以上であれば糖尿病発症とみなし、実験に使用できる。それ以下の場合は再投与を検討する。


ストレプトゾトシンの作用機序と膵β細胞への影響

ストレプトゾトシン(STZ)は、放線菌 Streptomyces achromogenes から単離されたニトロソウレア系化合物です。 構造上、グルコース輸送体GLUT2に対して高い親和性を持ち、膵島β細胞に特異的に取り込まれます。 細胞内に入ったSTZはDNAをアルキル化し、PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)を過剰活性化させます。これにより細胞のNAD⁺が枯渇し、β細胞が壊死に至ります。 yeasenbio(https://www.yeasenbio.com/ja/blogs/animal/streptozotocin-stz-induced-diabetes-mellitus-animal-model)


つまり、STZは「糖に似た形で膵β細胞を騙して入り込み、内側から破壊する」物質といえます。


この選択的毒性こそが、STZ誘発糖尿病モデルが世界中の研究室で50年以上使用され続けている理由です。 肝臓・腎臓・脾臓など他の臓器にも一定の影響が及ぶことが知られており、実験デザイン時には臓器重量の変化にも注意が必要です。 pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33905609/)


臓器への影響は見落としやすい落とし穴です。


ストレプトゾトシン糖尿病モデルの1型・2型の作製プロトコル

STZを用いた糖尿病モデルは、1型(T1DM)と2型(T2DM)で投与方法が大きく異なります。 下の表を参考にしてください。 yeasenbio(https://www.yeasenbio.com/ja/blogs/animal/streptozotocin-stz-induced-diabetes-mellitus-animal-model)








モデルタイプ 動物 STZ用量 投与方法 補助処置
1型(単回高用量) ラット 40〜70 mg/kg 腹腔内、1回 絶食12時間後に投与
1型(低用量連続) マウス 20〜50 mg/kg 腹腔内、5日連続 同上
2型(HFD+STZ) ラット 25〜45 mg/kg 腹腔内、1回 高脂肪食4〜8週+ニコチンアミド60 mg/kg前投与


creative-biolabs(https://www.creative-biolabs.com/drug-discovery/therapeutics/streptozotocin-induced-diabetes-protocols-and-experimental-insights.htm)


2型モデルではニコチンアミドの前投与が条件です。 ニコチンアミドはNAD⁺前駆体としてβ細胞を保護し、完全なβ細胞壊死を防ぐことでインスリン抵抗性と不完全なインスリン分泌不全が共存した状態、つまりヒト2型糖尿病に近い病態を再現します。 creative-biolabs(https://www.creative-biolabs.com/drug-discovery/therapeutics/streptozotocin-induced-diabetes-protocols-and-experimental-insights.htm)


1型か2型かで、プロトコルを根本から変える必要があります。


1型モデルの場合は、投与前の12時間絶食が必須です。 絶食により血糖値が低下し、インスリン分泌が抑制された状態でSTZが投与されるため、β細胞へのGLUT2発現が高まり取り込み効率が上昇します。 yeasenbio(https://www.yeasenbio.com/ja/blogs/animal/streptozotocin-stz-induced-diabetes-mellitus-animal-model)


ストレプトゾトシン投与後の血糖値変動パターンと管理の実際

STZ腹腔内投与後には、血糖値が3段階で変動することが報告されています。 これを把握しておくことは、動物の死亡事故を防ぐ上で極めて重要です。 yeasenbio(https://www.yeasenbio.com/ja/blogs/animal/streptozotocin-stz-induced-diabetes-mellitus-animal-model)



  • 🔺 一過性高血糖:投与後1〜2時間、β細胞からのインスリン漏出で軽度高血糖

  • 🔻 一過性低血糖期:投与後6〜10時間、崩壊したβ細胞から大量インスリンが放出され低血糖に

  • 🔺 持続性高血糖期:投与後72時間以降、β細胞枯渇による慢性高血糖が定着


yeasenbio(https://www.yeasenbio.com/ja/blogs/animal/streptozotocin-stz-induced-diabetes-mellitus-animal-model)


最も危険なのは「一過性低血糖期」です。 この時期に適切なグルコース補充を行わないと、動物が低血糖発作で死亡します。投与6〜10時間後には、10%グルコース水溶液を自由摂取させるか、腹腔内にグルコース投与を行うことが標準的な対応です。 研究室内でこの知識が引き継がれていないケースでは、モデル作製失敗率が高くなります。 yeasenbio(https://www.yeasenbio.com/ja/blogs/animal/streptozotocin-stz-induced-diabetes-mellitus-animal-model)


低血糖対策は省略不可の手順です。


投与1週間後に尾静脈採血または眼窩静脈叢採血を行い、血糖値300 mg/dL以上を確認します。 基準を満たさない場合はSTZを10〜20 mg/kg追加投与するか、血糖値が正常に戻った後に再度通常量を投与します。 jax.or(https://www.jax.or.jp/cms/jaxweb/pdf/product/rm/documents/STZ_model_WI_SD_ICR_BALBc_6N_2005.pdf)


ストレプトゾトシン糖尿病モデルで生じる合併症の再現性

STZ誘発糖尿病モデルは、ヒト糖尿病の細小血管合併症をある程度再現します。 ただし、全ての合併症が同等に再現されるわけではありません。これが意外と見落とされやすいポイントです。 jsedo(https://jsedo.jp/post-395/)



  • 🫀 糖尿病性神経障害:発症後2週間で神経伝導速度の遅延が認められる
  • jsedo(https://jsedo.jp/post-395/)


  • 👁️ 糖尿病性網膜症:周皮細胞の脱落・網膜血管の拡張・血液網膜関門の破綻が生じる
  • jsedo(https://jsedo.jp/post-395/)


  • 🫘 糖尿病性腎症:腎肥大と糸球体過剰濾過が起こり、STZラットの腎臓重量は対照ラットの約7倍に増加する報告もある
  • shc.usp.ac(http://www.shc.usp.ac.jp/shibata/H20-II-10.pdf)


一方、増殖性網膜症(牽引性網膜剥離血管新生緑内障)はSTZラットでは再現されにくく、SDTラットの方が適しています。 研究目的の合併症に合わせてモデル動物を選ぶことが、研究の質を左右します。 jsedo(https://jsedo.jp/post-395/)


合併症の種類によってモデル動物の選択も変わります。


ストレプトゾトシン糖尿病モデルのあまり知られていない注意点:系統差と性差

多くの研究者がSTZ投与量として一律の数値を採用しがちですが、マウスの系統によって必要な投与量が大幅に異なります。 これは見落とされがちな重要な事実です。 jax.or(https://www.jax.or.jp/cms/jaxweb/pdf/product/rm/documents/STZ_model_WI_SD_ICR_BALBc_6N_2005.pdf)



  • 🐭 C57BL/6NCrlCrlj マウス:250 mg/kg(腹腔内)が推奨
  • jax.or(https://www.jax.or.jp/cms/jaxweb/pdf/product/rm/documents/STZ_model_WI_SD_ICR_BALBc_6N_2005.pdf)


  • 🐭 BALB/cAnNCrlCrlj マウス:200 mg/kg(腹腔内)が推奨
  • jax.or(https://www.jax.or.jp/cms/jaxweb/pdf/product/rm/documents/STZ_model_WI_SD_ICR_BALBc_6N_2005.pdf)


  • 🐭 Crl:CD1(ICR) マウス:250 mg/kg(腹腔内)が推奨
  • jax.or(https://www.jax.or.jp/cms/jaxweb/pdf/product/rm/documents/STZ_model_WI_SD_ICR_BALBc_6N_2005.pdf)


  • 🐀 Slc:SDラット(雄):60 mg/kg(腹腔内)が標準的
  • jslc.co(https://www.jslc.co.jp/pdf/data/2007/stz2007.pdf)


  • 🐀 Slc:SDラット(雌):50 mg/kg(腹腔内)が推奨
  • jslc.co(https://www.jslc.co.jp/pdf/data/2007/stz2007.pdf)


系統と性別によって投与量を変えることが原則です。 雌ラットは雄ラットよりも低用量で高血糖が誘発されることが多く、この点を考慮しない場合、過剰な臓器毒性を引き起こすリスクがあります。 jslc.co(https://www.jslc.co.jp/pdf/data/2007/stz2007.pdf)


さらに、WTCラットなど一部の系統ではGLUT2の発現パターンが異なるため、STZを腹腔内投与しても血糖値が上昇しない「STZ糖尿病抵抗性」を示すことが報告されています。 これは実験失敗ではなく、系統固有の生物学的特性です。 repository.dl.itc.u-tokyo.ac(https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/48528/files/A32649.pdf)


意外ですね。


モデル選定の段階で文献をもとに系統の「STZ感受性」を確認しておくことで、実験の失敗リスクを大幅に減らせます。ラットとマウスの系統情報は日本クレアや日本SLCの公式データシートに詳しく記載されており、プロトコル設計の出発点として活用することをお勧めします。


日本クレア:ストレプトゾトシン誘発糖尿病動物の系統別投与量・血糖値データ(PDF)


この参考資料では、Wistar・SD・ICR・BALB/c・C57BL/6の各系統について、STZ投与量と血糖値の経時変化が具体的な数値で記載されています。


日本SLC:STZ誘発糖尿病モデル動物作製データシート(PDF)


この参考資料では、SDラットの雌雄別投与量や体重・血糖値の週別変化が詳細に示されており、プロトコル設計の実務的な参考になります。


Yeasen Biotechnology(日本語):STZ誘発1型・2型糖尿病モデルの詳細プロトコル解説


この参考資料では、投与後の血糖変動3フェーズ、モデル判定基準、救済プロトコルまで包括的に解説されており、初めてSTZモデルを作製する研究者に特に有用です。