右心不全の利尿薬を増量すれば確実に改善できると思っていませんか?過剰利尿が右室前負荷を下げすぎ、心拍出量をかえって20〜30%低下させるリスクがあります。
右心不全とは、心臓の右側(右室・右房)が十分な機能を果たせず、全身静脈から返ってきた血液を肺循環へ送り出せなくなった状態です。 左心不全との大きな違いは、うっ血が「肺」ではなく「体静脈系」に現れる点で、下腿浮腫・肝腫大・腹水・頸静脈怒張といった症状が前面に出ます。 oogaki.or(https://oogaki.or.jp/circulation/heart-failure/right-heart-failure/)
2025年改訂版心不全診療ガイドラインでは、心不全のステージ分類(A〜D)が更新されており、ステージB(前心不全)の段階でも構造的心疾患や左室内圧上昇の評価が求められるようになりました。 これは右心不全の早期介入という観点でも重要な変化です。 carenet(https://www.carenet.com/news/general/carenet/60486)
診断の基本となるのは心エコー検査です。
- 右室拡大(右室拡張末期径の増大)
- 三尖弁逆流(TR)の存在と重症度
- TAPSE(三尖弁輪収縮期変位)の低下:正常値17mm以上
- 下大静脈の拡張(>21mm)と呼吸性変動の消失
- 右室収縮能の低下(FAC<35%)
心エコーが基本です。
意外なことに、右心不全の純粋な形態は臨床現場では比較的まれで、実際に遭遇する症例の多くは左心不全に伴う二次性のものです。 つまり右心不全の治療と左心不全の管理は切り離して考えられません。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/toc/18834833/8/1)
参考:日本循環器学会 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(心不全の定義・診断基準・ステージ分類の改訂内容が詳述されています)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf
右心不全治療において、利尿薬はうっ血を解消するための第一選択薬です。 ループ利尿薬(フロセミドなど)が主に使用され、体内の余剰水分を尿として排出することで、静脈系のうっ血を軽減し心臓への前負荷を下げます。 maruoka.or(https://maruoka.or.jp/cardiovascular/cardiovascular-disease/right-heart-failure/)
ただし、ここが重要なポイントです。
右心系は左心系と比べて前負荷依存性が高く、過剰な利尿により右室充満圧が低下しすぎると、心拍出量がかえって低下する「前負荷不足」の状態に陥ります。これはデータ上でも示されており、右心不全患者に対する過剰利尿は心拍出量を20〜30%程度低下させる可能性があると指摘されています。 利尿薬の使いすぎは危険です。 maruoka.or(https://maruoka.or.jp/cardiovascular/cardiovascular-disease/right-heart-failure/)
現場での判断材料として有用なのが以下の評価指標です。
- 体重変化(1日500g〜1kg以内の減少を目安に管理)
- 尿量モニタリング(成人で最低0.5mL/kg/時を確保)
- 血液検査:BUN/Cr比の上昇(>20は腎前性腎障害のサイン)
- 電解質:低カリウム血症(<3.5mEq/L)の出現
- 下大静脈径の変化(心エコーで前負荷を確認)
これらを組み合わせた判断が原則です。
2025年改訂版ガイドラインでは、HFmrEF・HFpEFに対する利尿薬についても改めてエビデンスが整理され、「うっ血に対する利尿薬の使用」が引き続き推奨されています。 一方、腎機能や電解質のモニタリングを徹底することがSGLT2阻害薬との併用においても特に重要とされています。 電解質の確認は必須です。 j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/06/jcs_jhfs_Recommendation_SGLT2_Inhibitors__HF.pdf)
フロセミドに反応が乏しい「利尿薬抵抗性」の症例には、トルバプタン(バソプレシンV2受容体拮抗薬)の追加が選択肢となります。トルバプタンは電解質に影響しにくい水利尿を促し、従来の利尿薬と作用機序が異なる点が特徴です。うっ血が強い症例では選択を検討する価値があります。
参考:大垣中央病院 循環器内科「右心不全の治療方法と治療薬」(利尿薬・血管拡張薬・強心薬の使い分けを段階的に解説)
https://oogaki.or.jp/circulation/heart-failure/right-heart-failure/
2025年改訂版ガイドラインにおけるもっとも大きな変化のひとつが、SGLT2阻害薬の適応拡大です。 従来のガイドラインでは、HFmrEF(駆出率軽度低下)・HFpEF(駆出率保持)に対するSGLT2阻害薬の推奨は限定的でしたが、2つの大規模無作為化比較試験(EMPEROR-Preserved、DELIVER試験)で心不全入院・心血管死の複合エンドポイント改善が示されたことを受け、推奨が改定されました。 youtube(https://www.youtube.com/watch?v=ibUfl4bm4hg)
これは使えそうです。
現行ガイドラインにおけるSGLT2阻害薬の推奨クラスは以下の通りです。
| 心不全分類 | 推奨クラス |
|---|---|
| HFrEF(EF低下型) | クラスI(強く推奨) |
| HFmrEF(EF軽度低下型) | クラスIIa(推奨) |
| HFpEF(EF保持型) | クラスIIb(弱く推奨) |
実践上の注意点をまとめます。
- 糸球体濾過量(eGFR)が20mL/min/1.73m²未満では利尿効果が減弱するため注意
- 利尿薬との併用時は腎機能・電解質を定期的にモニタリング
- 脱水・低血圧リスクがある患者では利尿薬の減量を検討
- 尿路感染症や性器感染症のリスク説明を患者・家族に行う
参考:日本循環器学会・日本心不全学会「心不全治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(2023年)」(SGLT2阻害薬の心不全別適応・モニタリング方法を詳述)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/06/jcs_jhfs_Recommendation_SGLT2_Inhibitors__HF.pdf
急性右心不全、または慢性右心不全の急性増悪期では、薬物療法だけでなく循環補助が必要になる場合があります。急性期治療の目標は数日〜数週間で症状の安定化と血行動態改善を図ることです。 oogaki.or(https://oogaki.or.jp/circulation/heart-failure/right-heart-failure/)
強心薬が必要な場面があります。
カテコラミン系強心薬(ドブタミン、ドパミンなど)は右室収縮力を高め、心拍出量の維持に用いられます。ただし心拍数増加・不整脈誘発・心筋酸素消費量増大といったリスクを伴うため、使用は必要最小限・最短期間にとどめることが原則です。 ubie(https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/crnmteu0kbp)
肺血管抵抗(PVR)が高い症例、たとえば肺動脈性肺高血圧症(PAH)に伴う右心不全では、肺血管拡張薬が重要な役割を果たします。 plaza.umin.ac(https://plaza.umin.ac.jp/~jscvs/wordpress/wp-content/uploads/2020/06/JCS2014_kyo_h.pdf)
- 吸入一酸化窒素(NO):肺血管抵抗の上昇に伴う急性右心不全の初期治療として使用。作用が肺血管に限局するため体循環への影響が少ない
- プロスタサイクリン製剤:吸入・持続静注で使用。エポプロステノール、トレプロスチニルなど
- ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬:シルデナフィルなど、慢性管理での使用が多い
重症例では補助循環が選択されます。
大動脈内バルーンパンピング(IABP)は左室補助に有効ですが、右室補助には適していません。右室補助循環装置(RVAD)や体外式膜型人工肺(ECMO/PCPS)が右心不全の補助循環として使用されます。 特にPCPSは急性期の循環不全が改善しない場合の最終手段となります。 medsafe.or(https://www.medsafe.or.jp/teigen/teigen14.pdf)
血行動態管理の実践では、以下の数値目標が目安となります。
| 指標 | 目標値 |
|---|---|
| 中心静脈圧(CVP) | 8〜12 mmHg |
| 平均動脈圧(MAP) | 65 mmHg以上 |
| 心係数(CI) | 2.2 L/min/m²以上 |
| 混合静脈血酸素飽和度(SvO₂) | 65%以上 |
参考:2020 AHA/ACC/ECC CPRガイドライン(吸入一酸化窒素・プロスタサイクリンの急性右心不全初期治療への位置づけを記載)
https://cpr.heart.org/-/media/cpr-files/cpr-guidelines-files/highlights/hghlghts_2020eccguidelines_japanese.pdf
右心不全の回復期・維持期において、心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)の導入が見落とされがちです。急性期を脱した後のリハビリは、単なる体力回復ではなく心不全の再入院率低下・QOL改善・生命予後改善のエビデンスが蓄積されています。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2011/113061/201120029A/201120029A0011.pdf)
これは知らないと損します。
2025年改訂版ガイドラインでも、安定した心不全患者に対する運動療法・心臓リハビリは引き続き推奨されています。心臓リハビリ導入後1〜2週間は一過性に心不全が増悪することがあるため、利尿薬の一時的増量や運動量の調整で対応します。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2011/113061/201120029A/201120029A0011.pdf)
右心不全患者の長期管理では以下が重要です。
- 塩分管理:1日6g未満が目標。浮腫の再燃防止に直結する
- 水分制限:うっ血が強い症例では1日1,000〜1,500mL程度に制限
- 体重モニタリング:毎朝同条件での測定。2〜3日で2kg以上増加したら早期受診を指導
- 運動療法:安定後は中等度の有酸素運動を週3〜5回。歩行・自転車エルゴメーターが推奨
多職種連携が条件です。
外来フォローアップでは、BNP・NT-proBNPの定期測定が推奨されます。ガイドライン上でも血中BNPを用いた心不全診療に関するステートメント(2023年改訂版)が独立して公表されており、数値の経時変化が治療評価・増悪予測の指標として重視されています。 carenet(https://www.carenet.com/news/general/carenet/60486)
再発リスクが高い患者への対応としては、植込み型デバイス(CRT:心臓再同期療法、ICD:植込み型除細動器)も検討対象となります。特に心臓サルコイドーシスに伴う右心不全では、突然死予防目的でのICD植込みが2025年改訂版ガイドラインに明記されています。 carenet(https://www.carenet.com/news/general/carenet/60486)
参考:心不全に対する療養指導(J-STAGE)(多職種による服薬支援・生活指導・セルフモニタリングの実践的内容が記載)