薬剤関連顎骨壊死ガイドラインで変わる医歯薬連携の実践

薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)のガイドライン(PP2023)では、予防的休薬や治療戦略に関する重要な改訂が行われました。医療従事者として正しく理解し実践できていますか?

薬剤関連顎骨壊死ガイドラインで押さえる診断・予防・治療の最新知見

骨吸収抑制薬を休薬せずに抜歯しても、MRONJは1例も発症しなかったという研究結果があります。


薬剤関連顎骨壊死ガイドライン(PP2023)3つのポイント
💊
予防的休薬は原則不要

ARA投与中でも、抜歯前の予防的休薬がMRONJ発症を減らすエビデンスはなく、PP2023では「原則として休薬しない」と提案されています。

🦷
感染制御が最重要リスク因子

PP2023では、抜歯自体よりも根尖病変・歯周病などの感染持続がMRONJ発症の主要リスク因子として位置づけられました。

🤝
医歯薬連携の強化

PP2023では「医科歯科連携」から「医歯薬連携」へ拡張し、薬剤師も含めた3職種による情報共有と予防体制の構築が強調されています。


薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)の定義とPP2023によるステージング改訂

MRONJは、ビスホスホネート(BP)製剤やデノスマブ(Dmab)製剤などの骨吸収抑制薬(ARA)の投与を受けている患者の顎骨に、8週間以上持続する骨露出または骨に達する瘻孔が生じる疾患です。 2023年7月に日本口腔外科学会をはじめとする6学会が連名で改訂した「顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(PP2023)」では、呼称をARONJからMRONJへ変更し、より広範な薬剤が原因となりうることが明確にされました。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


診断には以下の3項目すべてを満たす必要があります。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


- ❶ BPやDmab製剤による治療歴がある
- ❷ 8週間以上持続して、口腔・顎・顔面領域に骨露出を認める(または骨を触知できる瘻孔)
- ❸ 顎骨への放射線照射歴がなく、顎骨への原発癌・転移でない


ステージング(1〜3)は2016年版(PP2016)から大きな変更はありませんが、いわゆる「ステージ0」(骨露出を伴わない潜在性病変)はMRONJの診断・統計から外すこととなりました。 これはステージ0の症例の約半数が骨露出を伴うONJに進展しないという知見から、過剰診断を避けるための重要な変更です。意外ですね。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


ステージ分類は以下のとおりです。


| ステージ | 特徴 |
|--------|------|
| ステージ1 | 無症状・感染なし、骨露出または骨触知できる瘻孔 |
| ステージ2 | 感染・炎症を伴う骨露出、発赤・疼痛・排膿あり |
| ステージ3 | 下顎下縁・下顎枝・上顎洞・鼻腔への骨露出、病的骨折や口腔外瘻孔 |


なお、ベバシズマブスニチニブなどの血管新生阻害薬やロモソズマブによる顎骨壊死もMRONJの範疇に含まれるようになっています。 この点はまだ認知が低い現場も多いです。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


参考:日本口腔外科学会による公式ポジションペーパー2023(PDF)
顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(日本口腔外科学会)


薬剤関連顎骨壊死の発症頻度と骨吸収抑制薬ごとのリスク差

MRONJの発症頻度は薬剤の「用量」によって大きく異なります。これは基本です。


高用量投与(がん骨転移多発性骨髄腫への使用)では、ゾレドロン酸投与の癌患者でBRONJの累積リスクは5%未満とされており、日本国内の調査では高用量投与患者の1.6〜32.1%にBRONJが発症したと報告されています。高用量デノスマブ(ランマーク)では、日本の調査で年間発症率が10万人あたり3,084.8人という衝撃的な数字も報告されています。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


一方、低用量(骨粗鬆症への使用)では発症率は大幅に低下し、国際的な発症率は0.001〜0.01%程度とされています。 ただし、日本のレセプトデータを基にした調査では、ARAを投与された骨粗鬆症患者のMRONJ発症率は22.9/10万人年と報告されており、欧米より高い可能性が示唆されています。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


以下に、主要薬剤別のリスクをまとめます。


| 薬剤 | 用途 | リスクレベル |
|------|------|------------|
| ゾレドロン酸(ゾメタ) | 癌・骨転移(高用量) | 🔴🔴🔴🔴 高 |
| デノスマブ(ランマーク) | 癌・骨転移(高用量) | 🔴🔴🔴🔴 高 |
| アレンドロン酸フォサマック) | 骨粗鬆症(低用量) | 🟡🟡 中低 |
| デノスマブ(プラリア) | 骨粗鬆症(低用量) | 🟡🟡 中低 |
| ロモソズマブ | 骨粗鬆症(骨形成促進) | 🟡 要注意 |


また、日本口腔外科学会の疾患調査によると、MRONJの報告数は2017年4,950例→2018年5,960例→2019年6,909例と、わずか2年で約1.4倍に増加しています。 骨粗鬆症患者の増加と高齢化が背景にあり、「低用量だから安全」という認識は禁物です。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


参考:PMDA(医薬品医療機器総合機構)による重篤副作用対応マニュアル
重篤副作用疾患別対応マニュアル「薬剤関連顎骨壊死・顎骨骨髄炎」(PMDA)


薬剤関連顎骨壊死の発症リスク因子と感染の重要性

PP2023の大きな方向転換の一つが、MRONJ発症のリスク因子の「再優先付け」です。これは知っておくべき変更です。


発症リスク因子は以下のように整理されています。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


🔬 薬剤関連因子
- 高用量ARA(BP製剤・デノスマブ)
- 長期投与(累積投与量が多い)
- ロモソズマブ、血管新生阻害薬、mTOR阻害薬の併用


🦷 局所因子(特に重要)
- 歯周病・根尖病変・顎骨骨髄炎・インプラント周囲炎
- 口腔衛生不良
- 不適合義歯・過大な咬合力


🏥 全身因子
- 糖尿病自己免疫疾患・人工透析
- 重度貧血(Hb<10g/dL)
- 喫煙・飲酒・肥満


特に注意したいのは、「抜歯自体がMRONJを引き起こす」のではなく、抜歯前にすでに潜在的なMRONJが発症しており、抜歯によって顕在化するケースの存在です。 歯根膜腔が拡大した後に歯が自然脱落するような症例では、抜歯操作自体がMRONJの原因とは言い切れないのです。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


つまり、感染源を放置することが最大のリスクです。


また、下顎での発症頻度が47〜73%と上顎(20〜22.5%)を大きく上回ります。 これは解剖学的に下顎の骨リモデリングが活発であるため、ARAの影響を受けやすいからと考えられています。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


薬剤関連顎骨壊死ガイドラインが示す予防的休薬の是非と医歯薬連携の実際

「抜歯前にARAを2〜3ヶ月休薬してから処置する」という方法は、長年多くの現場で行われてきました。厳しいところですね。


しかし、PP2023はこの慣行に明確にNOを突きつけています。国内外の複数のシステマティックレビューを検討した結果、予防的休薬によるMRONJ発症率の低下を示したエビデンスが一つも得られなかったからです。 兵庫医科大学病院のShudoらによる前向き研究でも、経口BP製剤を休薬せずに抜歯した患者群において、抜歯後にMRONJは1例も発症しなかったと報告されています。 honetoha(https://honetoha.jp/info/0576/)


さらに、予防的休薬には以下のデメリットが存在します。 honetoha(https://honetoha.jp/info/0576/)


- ⚠️ 休薬待機中に歯性感染症が悪化し、骨髄炎から骨壊死に進展するリスク
- ⚠️ 患者がARAの再開を拒否した場合、脆弱性骨折リスクが上昇
- ⚠️ 特にデノスマブ(プラリア)は中止後に急速な骨密度低下と椎体骨折リスク増加


ただし、PP2023は「ごく短期間の休薬を完全に否定できるほどのエビデンスはない」とも付記しています。 ハイリスク症例では個別判断が必要です。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


医歯薬連携の実際のフローとして、PP2023が示す連携の基本は以下の通りです。


1. 処方医(医科):ARA投与開始前に歯科へ患者を紹介し、感染源の除去を依頼
2. 歯科医:根尖病変・歯周病のスクリーニング、必要な侵襲的処置の実施、口腔管理の継続
3. 薬剤師:ARAの処方内容確認・患者への服薬情報提供・医師・歯科医の橋渡し


前立腺がんの骨転移患者253例への前向き研究では、ゾレドロン酸投与中に3ヶ月毎の歯科的介入を行わなかった群はBRONJの発症リスクが2.59倍高かったと報告されています。 定期的な口腔管理が原則です。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


参考:日本病院薬剤師会によるマニュアル改訂情報
重篤副作用疾患別対応マニュアル「薬剤関連顎骨壊死・顎骨骨髄炎」改訂情報(日本病院薬剤師会)


薬剤関連顎骨壊死の治療戦略とPP2023で強化された外科的治療の位置づけ

PP2016ではMRONJは「難治性疾患」として、治療ゴールを「治癒」ではなくQOL維持に置いていました。これは今や古い考え方です。


PP2023では「MRONJの多くは治癒可能な疾患」という認識に基づき、すべての症状の消失(治癒)を治療目標と明確に設定しました。 そして治療戦略も大幅に見直されています。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


PP2023の治療戦略(表)


| ステージ | PP2016 | PP2023 |
|---------|--------|--------|
| ステージ1 | 保存的治療 | 保存的治療または外科的治療 |
| ステージ2 | 保存的治療→難治例に外科的治療 | 外科的治療を優先(全身状態が許す場合) |
| ステージ3 | 外科的治療 | 外科的治療(区域切除含む) |


外科的治療の方法としては、壊死骨のみを除去する「conservative surgery」よりも、周囲健常骨を含めて切除する「extensive surgery」のほうが治癒率が高いことが複数のシステマティックレビューで示されています。 これは重要な情報です。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


保存的治療は治癒率こそ低いものの、骨粗鬆症患者でARAを休薬あるいは変更できる場合には治癒に至ることもあります。 外科待機期間中の炎症軽減にも有効なため、役割が完全になくなるわけではありません。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


補助療法として以下が検討されています。ただし、現時点で有効性を確定するほどのエビデンスはなく、あくまで補助的な位置づけです。


- 🩸 PRP(多血小板血漿)・PRGFの局所投与
- 💨 高気圧酸素療法(HBO)
- 💡 低出力レーザー照射(Er:YAGレーザーなど)
- 🧬 テリパラチド(リコンビナント副甲状腺ホルモン)の全身投与


なお、MRONJ治療時のARA休薬については「積極的に推奨する根拠はない」とされており、特に外科的治療を行う場合は数ヶ月程度の休薬が治療成績に影響しないとの報告が複数あります。 休薬は必須条件ではありません。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


参考:骨と歯の健康連携ポータルによるPP2023の詳細解説
【2023改訂】顎骨壊死ポジションペーパーのFAQ(骨と歯の健康連携ポータル)


薬剤関連顎骨壊死の見落とされがちなリスク薬剤と現場での実践的対応

「MRONJはビスホスホネートの問題」という認識が現場ではまだ根強いです。これは大きな誤解です。


PP2023では、ARA以外の薬剤についても顎骨壊死のリスクが注意喚起されています。 以下に、意外と見落とされやすい薬剤をまとめます。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


⚠️ MRONJリスクのある「意外な」薬剤一覧


- 🔴 ロモソズマブ(イベニティ):抗スクレロスチン抗体骨形成促進薬だが顎骨壊死の報告あり。国内の販売後2年間の報告率は0.03/100人年と概算される。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
- 🔴 ベバシズマブ(アバスチン):抗VEGF抗体。単独での顎骨壊死は少ないが、BP製剤との併用でリスクが高まる(0.9% vs 非併用0.2%)。 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
- 🟡 スニチニブ(スーテント):マルチキナーゼ阻害薬。血管新生阻害作用によりリスクあり。


- 🟡 メトトレキサートエベロリムス:免疫抑制薬。単独での顎骨壊死は症例報告レベルだが、ARAとの併用でリスク増加。


これらの薬剤を処方・調剤している医師・薬剤師は、患者に歯科受診を勧める場面でも「ARAを使っていないから大丈夫」と判断してはなりません。


現場での実践的なポイントをまとめると。


1. お薬手帳の活用:経口ARAは記録が残りやすいが、注射薬(ゾメタ、ランマークなど)は施行施設でのお薬手帳への追記が特に重要 jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
2. 歯科紹介のタイミング:ARA投与「開始前」に紹介するのが原則。投与開始後では感染源の除去が間に合わない場合がある
3. ARA投与前の抜歯後は2週間が口腔内閉鎖の目安。糖尿病・ステロイド内服患者では延長を考慮する jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
4. デノスマブ(プラリア)の休薬は特に慎重に。中止後に急速な骨密度低下と椎体骨折リスク増加の報告があるため、安易な休薬指示は避ける jsoms.or(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)


これらを踏まえた実践こそ、PP2023が求めている医歯薬連携の姿です。患者を骨折からも顎骨壊死からも守るために、薬剤師・医師・歯科医それぞれが連携の「自分の役割」を明確に把握しておくことが最重要条件です。