OECD移転価格ガイドライン2024を通関業者が押さえる実務の要点

OECD移転価格ガイドライン2024年版の改訂で、通関業者はどのような実務対応が求められるのか?利益Bガイダンス、関税申告との連動リスク、文書化義務まで、知らないと損する最新情報を徹底解説。

OECD移転価格ガイドライン2024を通関業者が押さえる実務の要点

移転価格調整を法人税だけの問題だと思っていると、関税過少申告加算税を課される可能性があります。


📋 この記事の3つのポイント
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2024年版の核心「利益Bガイダンス」とは?

2024年2月に公表された「利益Bガイダンス」は、基礎的な販売・マーケティング活動の移転価格を事前に決める新しいルール。中小企業を含む全ての輸出入企業が対象になる可能性があります。

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通関業者が直面する関税申告との連動リスク

移転価格調整金の支払いは、税関申告価格の修正義務を発生させます。申告漏れは過少申告加算税のリスクにつながる重大な実務問題です。

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文書化義務と通関業者が担う役割

マスターファイル・ローカルファイル・国別報告書の三層構造。通関書類との整合性確保が、今後ますます重要になります。


OECD移転価格ガイドライン2024の基本と「利益Bガイダンス」の概要

OECD移転価格ガイドラインとは、OECD(経済協力開発機構)の租税委員会が策定した、多国籍企業と税務当局の双方に向けた移転価格税制に関する国際的な指針です。 正式名称は「Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations(多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に関する指針)」といいます。 pwc(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/glossary/oecd-guideline.html)


2024年2月、OECD/G20 BEPS包摂的枠組(IF)は、移転価格税制の簡素化を目的とした「利益Bガイダンス(Amount B)」を公表しました。 このガイダンスの内容は、OECD移転価格ガイドライン2022年版の第4章の附属書として追加されます。 さらに2024年6月には、各種定義・対象国リストを含む追加文書も公表されています。 nta.go(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/oecd/tp/2024.htm)


「利益B」とは何でしょうか?


利益Bとは、「適用対象基準を満たす基礎的な販売取引について、利益水準をあらかじめ決定する新たな移転価格ルール」です。 基礎的な販売・マーケティング活動に共通の事実パターンが認められることを背景とし、当該活動に関する移転価格税制の執行を合理化・簡素化することを目的としています。 deloitte(https://www.deloitte.com/jp/ja/services/tax/perspectives/amount-b.html)


重要なのは対象範囲です。対象取引に関する金額的閾値が設けられていないため、適格取引があれば中小企業も全て対象となります。 また、各国・地域への制度導入は2025年1月1日以降に開始する事業年度から可能ですが、各国にとって任意とされています。 deloitte(https://www.deloitte.com/jp/ja/services/tax/perspectives/amount-b.html)


つまり、大企業だけの話ではないということです。


| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表時期 | 2024年2月(追加文書:2024年6月) |
| 対象 | 基礎的な販売・マーケティング活動を行う関連者間取引 |
| 金額閾値 | なし(中小企業含む全て) |
| 各国導入時期 | 2025年1月1日以降開始事業年度から(任意) |
| 位置づけ | OECD移転価格ガイドライン2022年版 第4章附属書に追加 |


参考リンク:国税庁による「利益Bガイダンス」公表の公式情報。ガイダンス原文の仮訳PDFも掲載されています。


国税庁:OECD/G20 BEPS包摂的枠組(IF)による「利益Bガイダンス」の公表について


OECD移転価格ガイドライン2024と関税・通関申告の連動リスク

通関業者が見落としやすい盲点があります。


移転価格税制は「法人税の問題」と認識されがちですが、関税申告と密接に連動している点を見逃してはなりません。 近年、移転価格税制上の独立企業間価格を確保するため、年度末等に遡及的に関連会社間で移転価格調整を行うケースが増加しています。 pwc(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/tax-customs/wms-20240927.html)


日本の輸入企業が海外の関連会社に移転価格調整金を支払う場合、関税の観点では、その調整金は「その年度の税関輸入申告価格を構成する価格」とみなされます。 これが原則です。 pwc(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/tax-customs/wms-20240927.html)


では、修正申告をしなかったらどうなるのでしょう?


税関事後調査等のタイミングで不足納税額が発生しているとして、過少申告加算税が課される可能性があります。 調整金支払いの事実を把握しながら税関修正申告を行わなかった場合、意図的な申告漏れとみなされるリスクも生じます。加算税課税リスクを軽減するためには、速やかに税関修正申告を行うことが重要です。 pwc(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/tax-customs/wms-20240927.html)


具体的な流れは以下の通りです。


  • 🔹 関連会社間で移転価格調整金の支払い決定
  • 🔹 税関申告価格への影響を確認(関税・輸入消費税の再計算)
  • 🔹 申告価格を構成すると判断された場合、税関への速やかな修正申告を実施
  • 🔹 法人税調査と並行して、税関事後調査への対応も準備


参考リンク:PwC税理士法人による移転価格調整金と関税申告の連動リスクの詳細解説。通関業者が実務で参照すべき内容です。


PwC:関税の観点に基づく遡及的な移転価格調整の取扱いと留意点


OECD移転価格ガイドライン2024における文書化義務と通関書類の整合性

文書化が条件です。


OECD移転価格ガイドラインに基づく文書化体系は「三層構造」で構成されます。①マスターファイル(グループ全体の事業概要・移転価格ポリシー)、②ローカルファイル(国内法人の個別取引情報)、③国別報告書(CbCR:国ごとの利益・税額・従業員数等の情報)の3つです。 asahinetworks(https://www.asahinetworks.com/library/japan_library/1024)


通関業者にとって重要な視点は、これらの文書と通関書類(インボイス価格・申告価格)との整合性です。


たとえば、マスターファイルで採用している移転価格算定方法と実際の輸入インボイスの価格水準が乖離していると、税関審査や事後調査の際に問題が浮上します。これは使えそうです。


文書化の要点を整理します。


  • 📋 マスターファイル:グループ全体の組織構造・取引フロー・無形資産情報を記載
  • 📋 ローカルファイル:特定の関連者間取引ごとに独立企業間価格の根拠を記載
  • 📋 国別報告書(CbCR):最終親会社の連結売上高が750億円以上の企業グループに提出義務
  • 📋 通関書類との整合:インボイス・L/C・申告価格とローカルファイルの価格根拠を照合


参考リンク:OECDが公表している各国の移転価格プロファイル最新版の内容と新規追加項目の詳細解説。


OECD移転価格ガイドライン2024と税務調査の現状−通関業者が知るべき調査リスク

調査リスクは高まっています。


2024年の国税局による法人税等の調査では、移転価格問題の指摘が調査開始からわずか3〜4週間で行われるケースが常態化している国税局もあると報告されています。 調査対応の時間的余裕が以前より大幅に短くなっている現実があります。 ey(https://www.ey.com/ja_jp/technical/ey-japan-tax-library/tax-alerts/2024/tax-controversy-update-2024-08-06)


移転価格の同時調査(複数国の税務当局が協調して行う調査)も増加傾向にあります。 問題点の指摘が早い段階で行われるため、証拠資料の準備が不十分だと対応が後手に回ります。厳しいところですね。 ey(https://www.ey.com/ja_jp/technical/ey-japan-tax-library/tax-alerts/2024/tax-controversy-update-2024-08-06)


同時調査で問題が指摘された場合、2つの深刻なリスクが生じます。 ey(https://www.ey.com/ja_jp/technical/ey-japan-tax-library/tax-alerts/2024/tax-controversy-update-2024-08-06)


  • ⚠️ 二重課税の長期化:相互協議の合意が困難になり、二重課税排除の道が閉ざされる
  • ⚠️ 翌年度以降の連鎖的調査リスク:修正申告した価格水準を翌年度以降も維持できない場合、期間を待たず追加調査が実施される


通関業者の視点で特に注意が必要なのは、法人税調査と並行して税関事後調査が入るケースです。移転価格調整金が通関申告価格に影響する場合、法人税上の修正申告と税関修正申告の両方を同時に処理しなければならない事態が生じます。


一方で、早期に対策を講じることでリスクを大幅に軽減できます。事前確認制度(APA:Advance Pricing Agreement)の活用は有効な手段の一つです。 APAとは、税務当局が事前に移転価格の算定方法を確認し合意する制度で、調査リスクそのものを低減する効果があります。移転価格リスクコントロールに係る事前対応から、調査中の税務当局との交渉、相互協議、事前確認申請まで、専門家のサポートを受けることが望まれます。 pwc(https://www.pwc.com/jp/ja/services/tax/transfer-pricing/tax-audit.html)


参考リンク:EYによる移転価格同時調査の最新状況レポート。調査リスクの実態と二重課税問題を詳しく解説。


EY:Tax controversy update vol.17 移転価格同時調査の最新状況


OECD移転価格ガイドライン2024:通関業者のための独自視点−中国税関の移転価格調査と日本実務への影響

国境をまたぐリスクは対岸の火事ではありません。


一般的に、移転価格の問題は「日本の国税局が行う法人税調査」の文脈で語られます。しかし実態として、中国をはじめとするアジア諸国の税関当局も独自に移転価格調査を実施しており、日本の通関業者が関与する輸出入取引に直接影響を及ぼします。 jetro.go(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/tohoku/pdf/202408.pdf)


中国税関は、全国各地税関の通関申告データのデータベース(価格情報データベース)を活用し、企業の関連者関係の申告内容をもとに移転価格調査を実施しています。 つまり、日本から中国向けに輸出している場合、中国税関側で移転価格の妥当性が独立してチェックされているわけです。 jetro.go(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/tohoku/pdf/202408.pdf)


これは見落とせません。


日本の輸出申告価格と中国の輸入申告価格の間に著しい乖離がある場合、中国当局から関連企業へ直接調査が入り、日本サイドにも影響が波及するケースが報告されています。 通関業者として、こうした「双方向の申告価格リスク」を認識しておくことが重要です。 jetro.go(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/tohoku/pdf/202408.pdf)


具体的な対策としては以下の点が挙げられます。


  • 🌏 輸出入双方の申告価格の一貫性確認:輸出申告価格と相手国の輸入申告価格との整合性を定期的に確認する
  • 🌏 関連者間取引の識別:通関書類上で関連者間取引に該当する可能性がある取引を洗い出し、適切なフラグ管理を行う
  • 🌏 移転価格方針との照合:グループの移転価格ポリシー(ローカルファイル等)と実際の通関申告価格を定期的に照合する
  • 🌏 クライアント企業への注意喚起:依頼企業が関連者間取引を行っている場合、年度末の移転価格調整が発生した際の修正申告について事前に説明しておく


OECD移転価格ガイドライン2024の改訂内容は、一見すると法人税の専門領域に見えます。しかし、利益Bガイダンスの対象範囲の広さ・関税申告との連動性・アジア諸国の税関調査動向を総合すれば、通関業者にとっても「自分ごと」として対処すべき最重要テーマであることが明らかです。


参考リンク:JETROによる中国税関の移転価格調査リスクの詳細分析資料。中国向け輸出取引に関わる実務者必読の内容です。


JETRO:中国における多国籍企業の移転価格に関する税関リスク