むせがない患者さんでも、実は4割以上がサイレント誤嚥を起こしています。
嚥下機能評価とは、患者が安全に食事や水分を摂取できるかどうかを客観的に確かめる一連のアセスメントプロセスです。看護師が中心となって実施しますが、歯科従事者との連携なしには完結しません。
摂食嚥下は、大きく5つの段階(先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期)に分かれています。歯科従事者が関わるのは主に「準備期」と「口腔期」で、歯の状態や義歯の適合・口腔内清潔度が直接この段階の機能に影響します。
つまり、歯科的な問題が放置されると嚥下の安全性が下がるということですね。
口腔内細菌が誤嚥性肺炎の起炎菌になることも多く、厚生労働省の研究では口腔ケアにより誤嚥性肺炎の発症率を約40%低下できると示されています。
歯科従事者にとって特に重要なのは準備期と口腔期の評価です。歯の欠損・義歯不適合・口腔乾燥があると食塊がうまく形成されず、咽頭期の誤嚥リスクが上がります。
スクリーニング評価は、ベッドサイドや在宅・外来でも実施できる簡易テストが主体です。代表的なのはRSST(反復唾液嚥下テスト)とMWST(改定水飲みテスト)の2種類です。これは基本です。
🧪 RSST(反復唾液嚥下テスト)の実施手順
💧 MWST(改定水飲みテスト)の実施手順と評価基準
| スコア | 所見 | 対応 |
|---|---|---|
| 1 | 嚥下なし、むせ・呼吸切迫あり | 即中止・医師報告 |
| 2 | 嚥下あり、呼吸切迫 | 中止・再評価 |
| 3 | 嚥下あり、呼吸良好、むせ・湿性嗄声あり | 言語聴覚士へ相談 |
| 4 | 嚥下あり、呼吸良好、むせなし | 次の段階へ進む |
| 5 | 4に加え30秒以内に2回空嚥下可能 | 正常範囲 |
冷水3mlから口腔底に注ぎ、嚥下の様子を5分観察します。スコア4以上のときのみ最大2回追加実施し、最低スコアを最終結果とします。
歯科従事者が外来で患者の嚥下に不安を感じたとき、このMWSTを看護師・歯科衛生士と連携して実施することで早期発見につながります。これは使えそうです。
SpO2が2%以上低下した場合は評価を中止するのが原則です。
「むせていないから大丈夫」は危険な思い込みです。
むせ(咳嗽反射)は誤嚥に対する防御反応ですが、高齢者や脳血管疾患患者では反射が低下し、誤嚥しても全くむせない「サイレント誤嚥(不顕性誤嚥)」が生じます。在宅高齢患者の調査では、嚥下障害患者のうち約40~60%がサイレント誤嚥を呈するとされています。
サイレント誤嚥のサインとして見逃せない観察ポイント
食後に「お声が少しかすれていませんか?」と一声かけるだけで、湿性嗄声の確認ができます。歯科受診中の患者への声かけは歯科従事者にしかできない接点です。
嚥下前後の聴診(頸部聴診法)も有効な手段です。頸部外側に聴診器を当て、正常な嚥下音(ゴクッという1~2音)と比べて液体の流れるような連続音・喘鳴が聞こえれば咽頭残留を疑います。
サイレント誤嚥に注意すれば大丈夫です。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会:摂食嚥下障害の評価2019(権威ある評価指針の原典)
評価結果を受けて看護師が立てる計画には、大きく①食事形態の調整、②摂食姿勢の調整、③口腔ケアの3つがあります。
🍱 食事形態の調整
嚥下機能に応じた食形態の選択は、誤嚥予防の最前線です。日本摂食嚥下リハビリテーション学会が提唱する「学会分類2021」では、コード0(とろみ水)からコード4(軟飯・軟菜)まで7段階に分類されています。
🛏️ 摂食姿勢の調整
ベッド上での食事は30度以上のギャッチアップ位を基本とし、頸部前屈位(顎を少し引いた姿勢)を保持します。下顎挙上位は誤嚥しやすくなるため厳禁です。膝下と両肘にクッションを当て、体幹を安定させることで咀嚼・嚥下効率が上がります。
🪥 口腔ケアの重要性
口腔ケアは単なる清掃ではありません。食前の口腔ケアがブラッシング刺激となり唾液分泌を促進し、嚥下反射の感受性を高める効果があります。食後の口腔ケアは口腔内残留菌を除去し、誤嚥性肺炎リスクを下げます。
歯科従事者が担う専門的口腔ケア(スケーリング・義歯調整・口腔マッサージ指導)は、看護師の日常ケアと組み合わせることで最大の効果を発揮します。口腔ケアは必須です。
看護計画の主要O-P(観察計画)チェックリスト
ここは多くの嚥下関連記事で取り上げられない独自の視点です。歯科従事者は「口腔機能」という嚥下の源流にアクセスできる唯一の専門職です。
義歯管理と嚥下の直接的な関係
義歯が合っていない患者は、そうでない患者と比べて咀嚼力が大幅に低下し、食塊形成が困難になります。食塊が不均一なまま咽頭に送られると、咽頭残留と誤嚥リスクが高まります。厚みのある義歯床は舌の可動域を制限し、口腔期の送り込みそのものを阻害することもあります。
義歯の再適合が食事形態のコードを1段階上げることにつながった、というケースは現場で珍しくありません。意外ですね。
2018年に保険収載された「口腔機能低下症」の検査には舌圧測定が含まれます。舌圧の基準値は30kPa以上とされており、舌圧の低下は直接的に口腔期の食塊送り込み機能の低下を意味します。
歯科でのルーチン検査として舌圧測定を実施し、結果を看護記録と共有することで、看護師側の嚥下評価精度が上がります。舌圧測定が連携のカギです。
| 専門職 | 嚥下における主な役割 | 連携ポイント |
|---|---|---|
| 看護師 | 毎食前の簡易評価・体位調整・誤嚥時対応 | 異常所見の共有 |
| 歯科医師 | 義歯調整・口腔機能低下症診断・舌圧測定 | 口腔機能情報の提供 |
| 歯科衛生士 | 専門的口腔ケア・患者への口腔体操指導 | 日常ケアとの橋渡し |
| 言語聴覚士 | 精密な嚥下評価(VF・VE)・嚥下訓練 | スクリーニング陽性者の紹介先 |
| 管理栄養士 | 食形態選択・栄養補助食品の提案 | BMI・血清アルブミン値の管理 |
嚥下体操(間接的訓練)の歯科的指導
食前の嚥下体操は看護師が実施することが多いですが、口腔体操・パタカラ体操の正確な指導は歯科衛生士が得意とする領域です。「パ・タ・カ・ラ」各音の構音は唇・舌・口蓋弓・軟口蓋それぞれの運動を担い、継続することで嚥下筋群の廃用予防につながります。
患者への指導を歯科衛生士が行い、看護師が毎日の食前に促す分担が理想的です。これが連携の原則です。
長寿医療研究センター:摂食・嚥下障害の評価(歯科・口腔リハとの連携に関する記述あり)
評価の精度を上げるだけでなく、その結果を適切に記録・共有することが誤嚥事故の予防に直結します。記録の質がケアの質に直結します。
評価結果の記録に含めるべき最低限の項目
評価頻度の目安
評価を中止すべき基準も覚えておく必要があります。体温37℃以上・SpO2が95%未満・呼吸数24回/分以上のいずれかを認めた場合は評価を延期し、医師に相談します。JCS 10以上の意識障害がある場合も安全性を慎重に検討する必要があります。
歯科医院での実践的な連携フロー
外来患者が食事中のむせや体重減少を訴えた場合、歯科従事者が最初の相談窓口になることがあります。そのときの対応手順として、まず義歯・口腔機能のチェックを行い、次に舌圧や開口量を確認します。口腔機能低下の疑いがあれば看護師・主治医・言語聴覚士への紹介状を作成するという流れが、現場では機能しやすいです。
連携のゴールは「誤嚥性肺炎ゼロ」に近づけることです。
高齢者が誤嚥性肺炎で入院すると平均在院日数は約21日、医療費は1件あたり約40万円を超えるというデータがあります。歯科での早期介入がそのコストと苦痛を未然に防ぐことにつながります。これは大きなメリットです。
ネスレ ヘルスサイエンス:嚥下障害の看護計画・アセスメント(食形態・とろみ選択の実践指針)