歯科従事者として知っておきたい事実がある。強い歯磨きで摩耗症が起きた患者の約6割は、自分の磨き方に問題があると気づいていない。
摩耗症の原因として、最も頻度が高いのは不適切な歯磨きです。具体的には、硬い毛の歯ブラシを使った強い横磨きや、粗い研磨剤入りの歯磨き粉の使用が該当します。これらが継続的に繰り返されることで、主に臼歯・小臼歯の唇頬側歯頸部に溝状・皿状・楔状の欠損が生じます。 jsop.or(http://www.jsop.or.jp/atlas/dental-caries-injury-resorption/abrasion/)
楔状欠損(Wedge-shaped defect:WSD)は、過度の横磨きによって唇頬側歯頸部に楔型の溝ができた状態です。はがきの厚さ(約0.2mm)ほどの欠損から始まり、長年にわたり数ミリ単位まで進行することがあります。つまり、初期は目視での発見が非常に困難です。 jsop.or(http://www.jsop.or.jp/atlas/dental-caries-injury-resorption/abrasion/)
欠損が進むと歯髄と口腔内の距離が縮まり、知覚過敏を引き起こします。さらに進行すると、虫歯を合併しやすくなり、最悪の場合は歯頸部での歯の破折につながります。 medicalnote(https://medicalnote.jp/diseases/%E7%A3%A8%E8%80%97%E7%97%87)
歯科従事者として重要なのは、患者に「力を抜いて磨く」だけでなく、「歯ブラシの毛の硬さ」「使用する研磨剤の粒度」まで細かく確認・指導することです。これが基本です。
研磨剤を含まない歯磨剤に変更するだけで、摩耗の進行を大幅に抑制できます。ただし着色しやすくなる点も患者に伝えておく必要があります。 medicalnote(https://medicalnote.jp/diseases/%E7%A3%A8%E8%80%97%E7%97%87)
参考:日本口腔病理学会による摩耗症の病理所見・臨床画像アトラス
口腔病理基本画像アトラス|摩耗症 – 日本口腔病理学会
見落とされがちな摩耗症の原因が、義歯の維持装置(クラスプ)や義歯床縁との接触による損耗です。部分義歯を装着している患者の支台歯は、クラスプとの慢性的な摩擦にさらされています。 jsop.or(http://www.jsop.or.jp/atlas/dental-caries-injury-resorption/abrasion/)
これは患者が「歯磨きはちゃんとしている」と言いながら、なぜか特定の歯に欠損が進行するケースの背景として見逃されやすいです。意外ですね。問診と口腔内写真の比較だけでは気づきにくく、義歯を外した状態での詳細な視診が欠かせません。
欠損の形状が一般的なブラッシング損耗と異なることが多く、クラスプの当たり方を反映した独特の輪郭を呈します。 jsop.or(http://www.jsop.or.jp/atlas/dental-caries-injury-resorption/abrasion/)
対処法としては、義歯の不適合を早期に発見し調整することが第一優先です。義歯を使用して数年以上経過している患者には、支台歯周辺を必ず重点的に観察する習慣をもつことが条件です。
「摩耗症=歯磨きのしすぎ」という認識は、実は一部しか正しくありません。職業や習慣に起因する摩耗症が、診断時にしばしば看過されるリスクがあります。 jsop.or(http://www.jsop.or.jp/atlas/dental-caries-injury-resorption/abrasion/)
日本口腔病理学会のアトラスによれば、以下のような職業・習慣が摩耗の原因として挙げられています。 jsop.or(http://www.jsop.or.jp/atlas/dental-caries-injury-resorption/abrasion/)
これらの損耗部位は、「くわえた物質の形状に相応する」外形を呈します。 これは非常に重要な診断上のヒントです。つまり、欠損の形が不規則であるほど、職業歴や習慣の問診が診断のカギになります。 medicalnote(https://medicalnote.jp/diseases/%E7%A3%A8%E8%80%97%E7%97%87)
初診時に「お仕事で何かをくわえる作業はありますか?」という一言を加えるだけで、原因特定の精度が上がります。これは使えそうです。
歯科従事者の中でも知識に差があるテーマが、アブフラクション(Abfraction)です。アブフラクションとは、ブラッシング損耗に加えて、咬合時の応力によるエナメル質の微小破折を伴う欠損を指します。 jsop.or(http://www.jsop.or.jp/atlas/dental-caries-injury-resorption/abrasion/)
単純な摩耗症と異なり、アブフラクションは力学的メカニズムが絡んでいます。具体的には、歯に側方力が加わると、歯頸部のエナメル質に応力集中が起き、ミクロなクラックが蓄積します。そこに日々のブラッシングが重なることで損耗が加速するという複合機序です。 pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16687882/)
PubMedに掲載された研究では、アブフラクションが咬耗・摩耗・酸蝕という3つのtooth wear機序をすべて増悪させる可能性が示されています。 結論はシンプルです。咬合調整なしにブラッシング指導だけを行っても、アブフラクションの進行を止めることはできません。 pubmed.ncbi.nlm.nih(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16687882/)
この原因を正確に説明するには、患者の咬合接触様式の評価が前提として必要です。アブフラクションを疑う場合は、咬合紙を使った精密な咬合診査を早期に行うことが条件です。
参考:Tooth wearにおけるabrasion・erosion・attritionの相互作用に関する原著論文
Interaction between attrition, abrasion and erosion in tooth wear – PubMed
臨床現場で特に注意が必要なのが、摩耗症と酸蝕症(Erosion)の複合パターンです。この2つを混同したまま治療方針を立てると、的外れなアドバイスになってしまいます。 regentdental(https://regentdental.ca/2025/02/01/abrasion-vs-erosion-vs-attrition-tooth-wear/)
酸蝕症は、炭酸飲料・柑橘類・胃酸逆流(GERD)・摂食障害(過食嘔吐)などが原因で歯面が化学的に溶解する病態です。 一方、摩耗症は純粋に機械的刺激による損耗であり、発生部位・表面性状が異なります。 regentdental(https://regentdental.ca/2025/02/01/abrasion-vs-erosion-vs-attrition-tooth-wear/)
| 鑑別点 | 摩耗症(Abrasion) | 酸蝕症(Erosion) |
|---|---|---|
| 主原因 | 機械的摩擦(歯ブラシ・異物) | 酸(飲食物・胃酸) |
| 好発部位 | 唇頬側歯頸部 | 咬合面・口蓋側 |
| 表面性状 | 滑沢、形状が鋭明 | 平滑・光沢(エナメル消失) |
| 問診のキーワード | 歯磨き習慣・職業・習癖 | 食事内容・GERD・嘔吐歴 |
実臨床では、炭酸飲料を飲んだ直後に歯磨きを行う習慣のある患者に、両者が同時に進行するケースが少なくありません。 この場合、酸によって軟化したエナメル質がブラッシングでさらに削られるため、損耗のスピードが通常より格段に速くなります。 doctors-me(https://doctors-me.com/disease/4212)
歯磨き後すぐに酸性飲料を飲む逆パターンも同様です。ただし「食後30分待ってから磨く」という従来の推奨については、最近の研究でその有効性に疑問を呈する声もあります。最新のエビデンスを随時確認することが原則です。
参考:摩耗症の概要・原因・治療に関する医療情報
磨耗症について – メディカルノート
| 原因 | メカニズム | 特徴 |
| ---------- | --------------------- | ------------------- |
| 🚬 喫煙 | ニコチン・タールがメラノサイトを刺激 | 最も頻度が高く、禁煙で徐々に改善 |
| 👄 口呼吸 | 慢性的な乾燥・刺激 | 前歯部歯肉に集中して現れやすい |
| ☀️ 紫外線 | 皮膚と同様のメカニズム | 口腔前庭部など露出部に多い |
| 🦷 金属補綴 | 金属イオンの歯肉への沈着(メタルタトゥー) | 自然回復しない・セラミックへ交換が必要 |
| 🕰️ 加齢 | メラノサイトの蓄積活性化 | 中高齢者に多い |
| 💊 全身疾患・薬剤 | アジソン病・抗マラリア薬など | 鑑別診断が最重要 |