あなたの施設訪問、月507円で損します
往診歯科を始めるとき、まず整理したいのは「治療」と「管理」は別物だという点です。訪問歯科のう蝕治療、歯周治療、義歯調整などは医療保険で算定し、要支援・要介護認定者に対する居宅療養管理指導は介護保険で扱います。つまり併用です。
この基本を外すと、現場では「訪問だから介護保険でまとめて請求できる」という思い込みが起きやすいです。ですが実際は、医療保険だけで完結する場面と、医療保険に介護保険を上乗せできる場面が分かれます。保険の役割分担が基本です。
たとえば、通院困難な患者さんに義歯調整をした日は医療保険の診療行為が中心です。そのうえで、療養上の管理や家族・介護職への口腔管理指導まで行えば、介護保険の居宅療養管理指導の対象になります。ここを切り分けるだけで返戻を減らしやすいです。
訪問歯科で医療保険と介護保険は併用できる、という理解は現場でかなり重要です。逆に「どちらか一方だけ」と決めつけると、算定漏れか誤請求のどちらかに寄りやすくなります。意外ですが、ここが出発点です。
診療と指導の線引きが分かる資料は厚生労働省の在宅歯科医療資料が参考になります。制度の全体像を確認したい場面で有用です。
厚生労働省 在宅歯科医療について
介護保険が使えるかどうかは、患者さんの状態だけでなく「どこに住んでいるか」で変わります。要支援または要介護認定があり、さらに居宅として扱われる住まいで療養している場合に、歯科の居宅療養管理指導が介護保険の対象になります。施設区分が条件です。
ここで見落としやすいのが、施設なら全部同じではない点です。有料老人ホーム、ケアハウス、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームなどは対象になり得ますが、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、病院は介護保険の居宅療養管理指導の対象外と案内されている例があります。ここは差が大きいですね。
同じ「施設訪問」でも、介護保険が使える施設と使えない施設で請求設計は大きく変わります。特養や老健でいつもの流れのまま介護保険を前提に準備すると、後で修正に時間を取られます。時間損失が大きいです。
また、介護保険を使っていない患者さんでも、通院困難であれば訪問歯科そのものは対象になることがあります。64歳以下や要介護認定未申請でも、医療保険での訪問歯科診療は検討可能です。介護保険の有無だけで訪問可否を決めないことが重要です。
介護保険が使える居宅の範囲を確認したい場面では、施設区分を具体的に整理している歯科訪問の解説ページが役立ちます。対象施設の確認用です。
介護保険について|さくら会の訪問歯科
収益と運用で最も差が出やすいのが回数上限です。歯科医師が行う居宅療養管理指導は月2回まで、歯科衛生士等が行うものは月4回までが基本で、歯科衛生士側は1回20分以上の実地指導が必要とされます。回数管理が原則です。
数字で見ると、単一建物居住者1人の場合、歯科医師の居宅療養管理指導は1回507単位、1割負担なら507円です。歯科衛生士は1回356円前後の案内があり、月4回ならおよそ1,400円台になります。積み上げで効きます。
ただし、同じ建物に2人から9人、10人以上と対象が増えると単価は下がります。つまり患者数が増えれば自動的に得、とは限りません。単一建物の考え方が条件です。
現場では「施設にまとめて行くほうが効率的だから収益も高い」と考えがちです。もちろん移動効率は上がりますが、単一建物区分で1人あたり単価が下がるので、時間と収益のバランスを見ないと逆に薄利化します。ここは盲点です。
一方で、同居する同一世帯の利用者が2人以上いる場合は、一般的な2~9人区分ではなく、1人の場合として扱う例が示されています。夫婦在宅などでは算定区分が変わるため、施設と在宅を同じ感覚で整理しないほうが安全です。ここは実務差が出ます。
居宅療養管理指導の単位や上限回数は、重要事項説明書や公的解説資料が確認しやすいです。単一建物区分を見直すときの参考になります。
健康長寿ネット 居宅療養管理指導とは
訪問歯科では距離要件も見逃せません。一般に、保険診療としての訪問歯科は、歯科医院から診療場所まで半径16km圏内が条件として案内されることが多いです。16kmが条件です。
16kmといっても実感しにくいですが、車で一直線に少し走れば超える距離です。名古屋市内から近隣市へ出る感覚でも、エリア次第では十分あり得ます。意外に近いです。
このルールを曖昧なまま受診調整すると、せっかく初回訪問まで進めても保険適用に問題が出ます。日程調整、スタッフ配置、器材準備まで終えてから発覚すると、時間も人件費も無駄になりやすいです。痛いですね。
さらに、ケアマネや家族からの依頼を急いで受けたケースほど、距離確認を後回しにしがちです。こうした場面の対策としては、受付段階で住所を地図アプリに入れて半径確認する、という1動作に絞るのが実務的です。確認だけ覚えておけばOKです。
厚生労働省でも訪問診療・往診等の距離要件資料が示されています。院内ルール作成の根拠にしやすい資料です。
厚生労働省 訪問診療・往診等における距離要件について
検索上位の記事は、保険の使い分けや費用説明までは丁寧です。ですが実際の現場では、それ以上に「誰が、いつ、どこまで記録したか」で運用差が出ます。記録設計が基本です。
たとえば歯科医師の月2回、歯科衛生士の月4回という上限は、患者さんごとの口腔状態だけでなく、訪問日・実地指導時間・同一建物区分・介護保険証確認の流れまで一つの線でつながっていないと崩れます。算定できるのに漏れる、あるいは善意でやった指導が請求根拠として弱い、ということも起きます。これが現場のロスです。
特に、施設側との連携メモが曖昧だと、次月に担当者が変わっただけで前提条件がずれます。そこで狙うべきは大がかりなシステム化ではなく、訪問前チェック項目をA4で1枚に固定することです。これなら問題ありません。
項目は、要介護認定の有無、施設区分、保険証確認日、単一建物の人数見込み、今月の実施回数、歯科医師か歯科衛生士か、の6点で十分です。はがき2枚ぶんほどの情報量ですが、これだけで返戻、算定漏れ、確認電話の往復をかなり減らせます。つまり院内フローの勝負です。
訪問歯科を拡大したい医院ほど、新規患者数より「請求と記録の再現性」を先に整えたほうが伸びやすいです。売上の話に見えて、実際は時間管理の話でもあります。ここは検索上位に少ない論点です。