エア抜き とバイク修理 の基本知識
バイクブレーキのエア抜き作業の重要性
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安全性の確保
ブレーキ内のエアはブレーキの効きを悪化させ、重大な事故につながる可能性があります。
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定期メンテナンス
2年に1度のブレーキフルード交換と同時にエア抜きを行うことで最適なブレーキ性能を維持できます。
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作業の難易度
適切な工具と手順を知れば、初心者でも自分で行える基本的なメンテナンス作業です。
バイクのブレーキシステムは、ライダーの命を守る最も重要な安全装置の一つです。そのブレーキシステムの性能を最大限に発揮させるためには、定期的なフルード交換とエア抜き作業が欠かせません。ブレーキ内にエアが混入すると、ブレーキレバーを握ってもスポンジのように柔らかくなり、制動力が著しく低下します。これは非常に危険な状態であり、早急な対処が必要です。
ブレーキフルードは経年劣化により沸点が低下し、高温になると気化してエアが発生する原因となります。また、フルード交換作業中にも不注意によりエアが混入することがあります。正しいエア抜き作業を行うことで、ブレーキの効きを回復させ、安全な走行を確保できます。
バイク修理工場では、エア抜き作業は日常的に行われる基本的なメンテナンス項目です。しかし、適切な知識と工具があれば、DIYでも十分に行える作業です。この記事では、バイクのブレーキシステムにおけるエア抜きの重要性から具体的な作業手順、トラブルシューティングまで詳しく解説していきます。
エア抜き に必要な工具とブレーキフルードの選び方
バイクのブレーキシステムのエア抜き作業を効率的に行うためには、適切な工具とブレーキフルードの準備が必要です。以下に必要な工具とフルードの選び方について詳しく解説します。
【必要な工具】
- メガネレンチ(8mm、10mm、12mm):ブリーダーボルトを緩める際に使用します。サイズはバイクによって異なるため、事前に確認しておきましょう。
- 透明なビニールホース:ブリーダーから出るフルードとエアを確認するために使用します。内径はブリーダーに合わせて選びましょう。
- 廃液受け容器:使用済みのブレーキフルードを回収するために必要です。
- スポイト(容量10ml程度):リザーバータンク内のフルードを抜き取るのに便利です。
- エア抜き専用工具(オプション):初心者の方は、エア抜き専用の工具を使用すると作業が格段に楽になります。手動式のものがおすすめです。
- 注射器(オプション):フロントフォークの油面調整用の注射器があれば、エア抜きにも活用できます。
- ウエス:フルードがこぼれた際の拭き取りに必要です。ブレーキフルードは塗装を傷める性質があるため、十分な量を用意しましょう。
【ブレーキフルードの選び方】
ブレーキフルードは主にDOT3、DOT4、DOT5、DOT5.1の4種類があります。バイクの説明書に記載されている指定のフルードを使用することが重要です。
- DOT4:多くの日本車で採用されており、ホンダBF(DOT4)がコストパフォーマンスに優れています。沸点が高く、性能面でも優れています。
- DOT5:シリコン系のフルードで、水分を吸収しにくい特性がありますが、一般的なバイクでは使用しません。
- DOT5.1:DOT4よりもさらに沸点が高く、レース用などの高性能バイクに使用されることがあります。
異なる種類のフルードを混ぜることは絶対に避けてください。化学反応を起こし、ブレーキの性能を著しく低下させる恐れがあります。また、開封後のフルードは吸湿性があるため、できるだけ早く使い切るようにしましょう。
エア抜き の正しい手順とブレーキフルード交換方法
バイクのブレーキシステムからエアを抜く作業は、ブレーキフルード交換と同時に行うことが一般的です。以下に、正確かつ効率的なエア抜きの手順を詳しく解説します。
【作業前の準備】
- バイクを水平な場所に駐車し、メインスタンドを立てて安定させます。
- ハンドルバーが真っ直ぐになるようにセットします。
- リザーバータンクのキャップを外す前に、周囲の汚れをきれいに拭き取ります。
【フロントブレーキのエア抜き手順】
- リザーバータンクのキャップを外し、ダイアフラムとダイアフラムプレートを取り外します。
- スポイトを使って古いブレーキフルードを可能な限り抜き取ります。
- リザーバータンク内部の汚れをウエスで拭き取ります。
- 新しいブレーキフルードをリザーバータンクに注入します。
- ブリーダーにメガネレンチをセットし、透明なビニールホースを取り付けます。ホースの先端は廃液受け容器に入れておきます。
- ブレーキレバーをゆっくりと握りながら、ブリーダーを1/4〜1/2回転ほど緩めます。
- ブレーキフルードとエアが排出されたら、ブリーダーを締め直します。
- ブレーキレバーをゆっくりと放します。
- リザーバータンク内のフルード量を確認し、必要に応じて補充します。
- 6〜9の手順を、透明なホースからエアが出なくなるまで繰り返します。
- 最終的にリザーバータンク内のフルードをUPPERレベルまで補充します。
- ダイアフラム、ダイアフラムプレート、キャップを元に戻します。
【ダブルディスクブレーキの場合の注意点】
ダブルディスクブレーキを装備したバイクの場合、左側(マスターシリンダーから遠い側)のキャリパーから先にエア抜きを行います。これは、ブレーキホースが長い順にフルード交換を行うことで、効率よくエアを抜くためです。
【リアブレーキのエア抜き】
リアブレーキのエア抜きも基本的な手順はフロントと同じですが、リザーバータンクの位置が異なります。リアブレーキのリザーバータンクは通常、車体後部に配置されています。作業の際は、タンクの位置を確認し、アクセスしやすい体勢で行いましょう。
【エア抜き作業のコツ】
- ブレーキレバーはゆっくりと握りましょう。早く握ると微細なエアが入りやすくなります。
- ブリーダーは可能な限り緩めた状態でフルード交換を行いましょう。開き量が少ないと、フルードに圧力がかかりエアが混入しやすくなります。
- リザーバータンク内のフルードレベルを常に確認し、LOWERレベル以下にならないように注意しましょう。
- エア抜き作業中は、ブレーキレバーを完全に戻してから次の操作を行うことが重要です。
これらの手順を丁寧に行うことで、ブレーキシステム内のエアを効果的に排出し、ブレーキの性能を最適な状態に保つことができます。
エア抜き 作業中のトラブルシューティングと対処法
バイクのブレーキシステムのエア抜き作業中に様々なトラブルが発生することがあります。ここでは、よくあるトラブルとその対処法について詳しく解説します。
【エアが抜けない場合の対処法】
- リザーバータンクからエアを吸った場合
- 症状:エア抜き作業中にリザーバータンク内のフルードが少なくなり、エアを吸い込んでしまった。
- 対処法:リザーバータンクにブレーキフルードを補充した後、ブレーキレバーを何度か握り、感触が出てくるか確認します。感触がない場合は、マスターシリンダーにエアが噛んでいるため、マスターシリンダーのエア抜きが必要です。
- マスターシリンダーのエア抜き方法
- マスターシリンダーのバンジョーボルト周辺にウエスを敷きます。
- バンジョーボルトをメガネレンチで緩めた状態でブレーキレバーを握り、ブレーキフルードが出てくることを確認します。
- この操作を数回繰り返すと、ブレーキレバーの感触が戻るはずです。
- 頑固なエアの除去方法
- 注射器をブリーダーにセットし、ブリーダーを緩めた状態で注射器を数回引くと、簡単にエア抜きができます。
- エア抜き専用工具を使用する場合は、エアコンプレッサーを使用するタイプよりも、手元のレバーを握って抜く手動タイプの方が効果的です。
【ブレーキレバーが柔らかい(スポンジー)場合】
- エアが残っている可能性
- 症状:エア抜き作業後もブレーキレバーが柔らかい感触がある。
- 対処法:再度エア抜き作業を行います。特に、キャリパー内の奥に溜まったエアを抜くために、キャリパーを軽く叩きながらエア抜きを行うと効果的です。
- ブレーキの特性による違い
- 初期制動が高いタイプ(NISSINに多い)のものは感触が硬い印象を受けます。
- 握り量に比例して効くタイプ(住友電工に多い)は、エアが噛んでいる印象を受けることがありますが、これは特性によるものです。
- エア混入の判断をするには、エア抜きを行って確認するしかありません。
【ブレーキフルードが漏れる場合】
- リザーバータンクからの漏れ
- 症状:リザーバータンクのキャップ周りからフルードが漏れる。
- 対処法:ダイアフラムとリザーバータンクの接地面のフルードをしっかり拭き取ってからキャップを締めます。また、ダイアフラムが破損している場合は交換が必要です。
- ブリーダーからの漏れ
- 症状:ブリーダーのねじ山からフルードが上がり、ホイールに付着する。
- 対処法:フルード交換から10分後位にブリーダーを再度確認し、パーツクリーナーや水でフルードを除去します。ブリーダーの締め付けが不十分な場合は、適切なトルクで締め直します。
【その他のトラブル対処法】
- リザーバータンクキャップの破損
- 樹脂製のリザーバータンクキャップは締め付けすぎると割れることがあります。適切な力で締め付けましょう。
- 金属製のリザーバータンクの場合は、塗装剥げ防止のためにブレーキフルード交換後に水を含んだウエスで拭くと安心です。
- ブレーキフルードによる塗装剥がれ
- ブレーキフルードは塗装を剥がす性質があります。作業中にフルードが付着した場合は、すぐに水で洗い流しましょう。
- 特にタンクやカウルなどの塗装部分には注意が必要です。
これらのトラブルシューティング方法を知っておくことで、エア抜き作業中に問題が発生しても冷静に対処できます。困難な場合は無理せず、専門のショップに相談することも検討しましょう。
エア抜き 後の点検とブレーキシステムの安全確認
バイクのブレーキシステムのエア抜き作業が完了したら、安全に走行できるよう適切な点検と確認を行うことが重要です。以下に、エア抜き後の点検手順と安全確認のポイントを詳しく解説します。
【ブレーキレバーの感触確認】
- ブレーキレバーを数回握り、適切な抵抗感があるか確認します。
- レバーがスポンジのように柔らかい場合は、まだエアが残っている可能性があります。
- レバーを握った状態で保持し、徐々に戻ってこないことを確認します(ブレーキ圧の保持)。
- フロントとリアのブレーキレバーの両方を確認しましょう。
【ブレーキフルードの漏れ確認】
- マスターシリンダー周辺:キャップ部分やバンジョーボルト周りからの漏れがないか確認します。
- ブレーキホース:ホース全体を目視で確認し、亀裂や膨らみ、フルードの漏れがないか確認します。
- キャリパー周辺:ブリーダーボルトやピストンシール周りからの漏れがないか確認します。
- バンジョーボルト:各接続部のバンジョーボルトからの漏れがないか確認します。
【リザーバータンクのフルードレベル確認】
- リザーバータンク内のフルードレベルがUPPERマークまであることを確認します。
- 走行中に車体を傾けた際にエアを吸わないよう、適切なレベルを維持することが重要です。
- ダイアフラムの状態も確認し、破れや劣化がある場合は交換しましょう。
【試走による動作確認】
- 低速での試走:まず低速で走行し、ブレーキの効きを確認します。
- 段階的な制動テスト:徐々に速度を上げながら、ブレーキの効きを確認します。
- 緊急制動テスト:安全な場所で、緊急時の制動性能を確認します(この際は後続車に注意)。
- 異音の確認:ブレーキ操作時に異音がしないか確認します。
【安全確認のポイント】
- ブレーキフルードによる汚染除去。
- 作業中にフレームやホイールにフルードが付着した場合は、水で十分に洗い流します。
- 特にアルミホイールや塗装面は、フルードが付着すると腐食や塗装剥がれの原因になります。
- ブリーダーキャップの確認。
- ブリーダーキャップが正しく取り付けられていることを確認します。
- キャップが無いと雨水が侵入し、ブレーキシステムの劣化や錆の原因になります。
- 工具の片付けと確認。
- 使用した工具がすべて回収されていることを確認します。
- 特にブレーキ周りに工具や部品が残っていないか注意深く確認しましょう。
- 廃液の適切な処理。
- 使用済みのブレーキフルードは環境に有害です。適切な方法で廃棄しましょう。
- 多くの自治体では、ブレーキフルードは有害廃棄物として特別な処理が必要です。
エア抜き作業後の適切な点検と確認を行うことで、ブレーキシステムの安全性と信頼性を確保できます。少しでも異常を感じた場合は、再度エア抜き作業を行うか、専門のショップに相談することをおすすめします。安全な走行のためには、ブレーキシステムの完璧な状態を維持することが何よりも重要です。
エア抜き 専用工具の活用とプロが教える時短テクニック
バイクのブレーキシステムのエア抜き作業をより効率的に行うためには、専用工具の活用と時短テクニックの習得が役立ちます。ここでは、プロの整備士が実践している効率的なエア抜き方法と専用工具の使い方について詳しく解説します。
【エア抜き専用工具の種類と特徴】
- 真空ポンプ式エア抜き工具
- 手動ポンプでブレーキシステム内に負圧をかけ、エアとフルードを吸い出す工具です。
- 一人でも作業がしやすく、効率的にエアを抜くことができます。
- 価格は2,000円〜5,000円程度で、DIYユーザーにもおすすめです。
- 加圧式エア抜き工具
- リザーバータンク側から圧力をかけてフルードを押し出す方式です。
- 短時間で効率的にエア抜きができますが、使用方法を誤ると部品を破損する恐れがあります。
- プロ向けの工具で、価格も高めです。
- 注射器タイプのエア抜き工具
- 最も手軽で安価なエア抜き方法です。
- フロントフォークの油面調整用の注射器(容量20ml以上)をブリーダーに接続し、引くだけでエアを抜くことができます。
- 初心者でも扱いやすく、効果も十分です。
【プロが実践する時短テクニック】
- キャリパーのタッピング技術
- エア抜き作業中にキャリパーを軽くゴムハンマーなどで叩くことで、内部に溜まったエアを浮き上がらせます。
- 特に古いバイクや長期間エア抜きをしていないバイクに効果的です。
- タッピングの強さは軽く「コンコン」と叩く程度で十分です。
- 二人作業による効率化
- 一人がブレーキレバーを操作し、もう一人がブリーダーを操作することで、作業効率が大幅に向上します。
- コミュニケーションを取りながら、タイミングを合わせて作業することがポイントです。
- リザーバータンクの位置調整
- リザーバータンクをできるだけ高い位置に保つことで、重力の助けを借りてエアを効率的に抜くことができます。
- ハンドルを固定するためのバイスやスタンドがあると便利です。
- フルードの温度管理
- 新しいブレーキフルードを少し温めておくと(約30℃程度)、粘度が下がり、エアが抜けやすくなります。
- ただし、40℃以上に加熱すると性能が劣化する恐れがあるので注意が必要です。
- ブレーキホースの振動技術
- エア抜き作業中にブレーキホースを指で軽く弾くように振動させると、ホース内に溜まったエアが移動しやすくなります。
- 特にホースの曲がっている部分に効果的です。
【プロの現場で使われている裏技】
- シリンジと逆流防止弁の組み合わせ
- 注射器に逆流防止弁を取り付けることで、一度引いたフルードが戻らず、効率的にエア抜きができます。
- 自作も可能ですが、市販の専用キットも比較的安価で入手できます。
- 透明ホースの活用法
- 透明ホースをブリーダーに接続する際、ホースの先端を上向きにループさせることで、エアの確認が容易になります。
- エアは上に溜まる性質を利用したテクニックです。
- ブレーキフルードの選択
- 高性能なレーシングブレーキフルード(DOT5.1など)は粘度が低く、エアが抜けやすい特性があります。
- 頻繁にサーキット走行をする場合は、高性能フルードの使用を検討しましょう。
これらの専用工具と時短テクニックを活用することで、バイクのブレーキシステムのエア抜き作業をより効率的かつ確実に行うことができます。ただし、初心者の方は基本的な手順をしっかりと理解してから、これらのテクニックを試すことをおすすめします。安全性を最優先に考え、無理のない範囲で作業を行いましょう。