

フラッシャー体質とは、飲酒時に顔が赤くなる「フラッシング反応」を起こしやすい人のことを指します。この体質は、アルコールが代謝される過程で生じる有害物質「アセトアルデヒド」を分解するアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の働きが弱い、または全くないことが原因です。
参考)お酒を飲むと赤くなる?フラッシャー体質と食道がんの関係 - …
ALDH2遺伝子には活性型(1型)と不活性型(2型)があり、日本人の約45%がこの不活性型遺伝子を持っています。具体的には、2本の染色体のうち一方にALDH2不活性型遺伝子を持つヘテロタイプ(中間感受性フラッシャー)と、両方に不活性型を持つホモタイプ(高感受性フラッシャー)が存在します。ヘテロタイプの場合、同じ量の飲酒でも血中アセトアルデヒド濃度は活性型の人の約20倍にもなります。
参考)フラッシング反応別にみた飲酒とがん罹患リスクとの関連について…
アセトアルデヒドは発がん性物質として国際的に認められており、体内に長く留まるほどがんのリスクが高まります。このアセトアルデヒドが分解されるまでに時間がかかることで、毛細血管が拡張し顔が赤くなる現象が起こるのです。
参考)食道がん診療・飲酒後、顔が赤くなる人は食道がんになりやすい?…
バイクツーリング後の飲み会などで、少量のお酒でも顔が赤くなる方は、このフラッシャー体質に該当する可能性が高く、食道がんのリスクに特に注意が必要です。
フラッシャー体質の方が飲酒を続けると、食道がんのリスクが顕著に高まることが科学的に証明されています。特に重要なのは、毎日1.5合以上飲酒するフラッシャーは食道や下咽頭に発がんするリスクが極めて高いという事実です。
参考)がんを防ぐ ー 食道がん|くにちか内科クリニック
国立がん研究センターの大規模研究では、フラッシング反応のあるお酒に弱い体質の男性は、少量の飲酒量でも飲酒量が増加すればするほど、がんの罹患リスクが高かったことが明らかになっています。この研究では、フラッシング反応のない人では週450g以上の大量飲酒で飲酒関連がんのリスクが統計学的に有意に高くなったのに対し、フラッシング反応のある人では少量の飲酒でも統計学的に有意にリスクが上昇しました。
さらに、以前はお酒を飲んで赤くなっていたけれど、毎日飲むようにして赤くならなくなった「過去のフラッシャー」も高リスク群に含まれます。これは飲酒を続けることで耐性が生じただけで、ALDH2活性の弱い体質自体は変わらないため、アセトアルデヒドが毎日体内に蓄積し、食道などに炎症を起こし続けるからです。
参考)「お酒で顔が赤くなる」は食道がんのリスク?
ツーリング仲間との交流でお酒を飲む機会が多いライダーの方は、自分の体質を正しく理解し、適切な飲酒量を守ることが重要です。
食道がんのリスクは飲酒だけでなく、喫煙との組み合わせで相乗的に高まることが知られています。特にフラッシャー体質の方が飲酒と喫煙の両方を嗜む場合、食道がん発症のリスクが著しく増大します。
参考)食道がんについて; 症状から治療を中心に解説 - 広島市で内…
喫煙はそれ自体が食道がんの主要な危険因子ですが、フラッシャー体質の飲酒者がさらに喫煙すると、アセトアルデヒドと喫煙による有害物質の二重の暴露により、食道粘膜への継続的なダメージが蓄積されます。この相乗効果により、非フラッシャーの飲酒・喫煙者と比較しても、さらに高いリスクにさらされることになります。
参考)食道がんと飲酒・喫煙との密接な関係をご存じですか?|内視鏡医…
また、熱いものの摂取習慣も食道がんのリスク因子として指摘されています。バイクツーリング中の休憩で熱いコーヒーや熱い食べ物を頻繁に摂取する習慣がある方は、食道粘膜への継続的な刺激となり、がんのリスクを高める可能性があります。
参考)食道の病気(逆流性食道炎・食道がんなど)
ライダーの中には休憩時の喫煙習慣がある方も多いですが、フラッシャー体質であることが分かった場合は、禁煙と節酒を組み合わせた生活習慣の改善が、食道がんリスクの低減に最も効果的です。
食道がんの最も重要な特徴は、初期段階ではほとんど自覚症状がないことです。そのため、検診や人間ドックで偶然発見されることが多く、症状が出た時点ですでに進行している場合が少なくありません。
参考)食道がんの初期症状はない?
ごく早期に現れる可能性のある症状として、食べ物を飲み込む際に胸の奥にチクッとした痛みを感じる、熱い飲み物を飲むと胸がしみる感覚があります。これらの症状は一時的に起こることもありますが、繰り返し起こる場合は早期発見につながる重要なサインです。
参考)食道がんの初期症状|浦安のメディカルガーデン新浦安 消化器内…
がんが進行すると、食道内腔が狭くなり嚥下障害(のどの違和感やつかえ感)が現れます。最初は固形物を飲み込む時につかえ感を覚え、さらに進行すると水や唾液さえも通らなくなり吐き出してしまうようになります。この段階では食事量が減少し、体重減少が顕著になります。
さらに進行してがんが気管・気管支に浸潤すると咳症状が見られ、声帯の動きを調整する神経にまで広がると声のかすれが現れます。大動脈や肺、背骨などにまで浸潤した場合は、胸痛や背部痛などの症状も出現します。
ツーリング中の食事で違和感を感じたら、単なる疲れや一時的な症状と軽視せず、医療機関での検査を検討することが重要です。
食道がんを早期発見・確定診断できる唯一の検査方法は、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)です。バリウム検査(上部消化管造影検査)でも異常が見つかることはありますが、粘膜の変化が少ない早期の食道がんを発見できないことが多く、精度の面で内視鏡検査に劣ります。
参考)内視鏡検査
内視鏡検査では、病変のわずかな色調や凹凸の変化を捉えられるため、早期がんの発見に必要不可欠です。特にごく初期のがんは転移の危険性が少なく、内視鏡的切除で根治することができるため、早期発見が予後を大きく左右します。正確に病変の範囲を診断するためにヨード染色が行われ、がんかどうかは内視鏡所見と生検による病理組織学的検査で確認されます。
最近では鼻から挿入できるボールペン程度の太さの経鼻内視鏡が開発されており、口からの内視鏡が辛かった方にも負担が少ない検査が可能です。画質や操作性も通常の内視鏡とほぼ同等のレベルに向上しています。
フラッシャー体質で飲酒習慣がある方、特に喫煙もされている方は、年1回の定期的な内視鏡検査が食道がんの早期発見・早期治療につながります。ツーリングシーズン前の健康チェックとして、内視鏡検査を受ける習慣をつけることをお勧めします。
参考)https://www.hosp.u-toyama.ac.jp/amc/topic30/
食道がんのステージ別5年生存率は、早期発見の重要性を明確に示しています。ステージⅠでは5年生存率は約70%台であり、適切な治療によって延命・改善が期待できます。ステージⅡでは約40%台、ステージⅢでは約20%台と進行につれて生存率は低下し、ステージⅣでは約10%以下となります。
参考)食道がん治療センター:再発率・生存率 href="https://toranomon.kkr.or.jp/cms/departments/esophageal-cancer/recurrencerate.html" target="_blank">https://toranomon.kkr.or.jp/cms/departments/esophageal-cancer/recurrencerate.htmlamp;#8211; 虎の門…
早期の表在がんのうち、粘膜固有層までにとどまるがんはリンパ節転移がほとんどないため、内視鏡的治療が適応となります。内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)により、体への負担を最小限に抑えた治療が可能です。
参考)内視鏡治療
進行がんの治療には、手術、放射線治療、化学療法が用いられます。ステージⅡ・Ⅲでは手術療法や化学放射線療法が主体となり、ステージIVaでは化学放射線療法、IVbでは化学療法が推奨されます。ただし、治療の選択肢や効果は、患者の年齢や総合的な健康状態、がんの種類や腫瘍の位置によって異なります。
参考)食道がん
ライダーとして長くバイクライフを楽しむためには、早期発見が何よりも重要です。定期検査により早期ステージで発見できれば、治療後も通常の生活に早く戻ることができます。
フラッシャー体質と診断された、あるいは自覚があるライダーの方は、食道がん予防のために具体的な対策を講じることが重要です。最も効果的な予防策は、飲酒量の制限または禁酒です。フラッシャー体質の方は少量の飲酒でもリスクが高まるため、ツーリング後の飲み会では無理に付き合わず、自分の体質を理解して断る勇気を持つことが大切です。
禁煙も同様に重要な予防策です。喫煙と飲酒の相乗効果により食道がんリスクが著しく高まるため、両方の習慣がある方は、まず禁煙から始めることをお勧めします。バイクの休憩時の喫煙習慣を見直し、代わりにストレッチや景色を楽しむ時間に変えることで、健康的なツーリングライフを実現できます。
熱い飲食物の摂取を控えることも有効です。ツーリング中の休憩で熱いコーヒーや食べ物を頻繁に摂取する習慣がある方は、食道粘膜への刺激を減らすため、適温まで冷ましてから摂取する習慣をつけましょう。
定期的な内視鏡検査の受診も予防策の一環です。特にフラッシャー体質で飲酒習慣がある40歳以上の方は、年1回の胃カメラ検査を受けることで、万が一がんが発生しても早期発見・早期治療が可能になります。
参考)食道がんは初期症状がほばない?|喉のつかえ感はふじみ野 消化…
健康的な食生活も重要です。野菜や果物を十分に摂取し、バランスの取れた食事を心がけることで、食道粘膜の健康維持に役立ちます。ツーリング中の食事選びでも、栄養バランスを意識することが長期的な健康維持につながります。
参考)お酒で赤くなる体質を用いた食道がん高危険群スクリーニングテス…
バイクに乗る喜びは、風を感じながら自由に走ることにあります。その喜びを長く続けるためには、自分の体質を理解し、適切な健康管理を行うことが不可欠です。フラッシャー体質は決して珍しいものではなく、日本人の約半数が該当します。
参考)新人広報と学ぶ 食道がん~お酒に強い人・弱い人~
ツーリング仲間との交流で飲酒の機会が増えることは自然なことですが、自分の体質を正しく理解し、無理のない範囲で楽しむことが重要です。「お酒が弱い」ことを恥ずかしがる必要はなく、むしろ自分の健康を守るための賢明な選択として、適量を守る、またはアルコールを避けることができます。
定期的な健康チェックの習慣化も、ライダーとしての長期的な活動を支えます。ツーリングシーズン前や年度の区切りで内視鏡検査を受ける習慣をつけることで、食道がんだけでなく胃がんなど他の消化器系疾患の早期発見にもつながります。
バイクのメンテナンスを怠らないのと同じように、自分の体のメンテナンスにも気を配ることが、安全で楽しいライディングライフの基盤となります。風を感じながら走り続けるために、今日から健康管理を始めましょう。
日本消化器病学会によるフラッシャー体質と食道がんの関係について詳しく解説している公式記事
国立がん研究センターによる大規模コホート研究の結果:フラッシング反応別の飲酒とがん罹患リスクの科学的データ
日本食道学会公式サイト:食道がんの内視鏡検査と早期発見に関する専門的な情報