
ヤマハのドラッグスターシリーズは、1990年代に日本のアメリカンバイクブームの中で誕生しました。当時、ホンダのスティード400が市場を席巻していましたが、1996年に登場したドラッグスター400は、そのスティードに続くヒットモデルとなりました。
ドラッグスターの名称は、アメリカで人気のバイクスポーツイベント「ドラッグレース」の雰囲気をモチーフとしています。ドラッグレースとは、スタートから1/4マイル(約400m)までの到達時間を競うレースで、その爽快感と躍動感がドラッグスターシリーズのコンセプトに反映されています。
ドラッグスター400は、XV400ビラーゴの70度Vツインユニットを改良し、Vツインらしい鼓動感を楽しめるエンジンへとアップデート。これを低く構えたロー&ロングスタイルの車体に搭載し、スポーティで迫力あるフォルムを実現しました。その後、2000年には250ccモデルが登場し、「ニュークォーターアメリカン」をテーマに開発されました。
2008年には排ガス規制の問題で一旦生産終了となりましたが、2009年には排ガス規制をクリアしたモデルが再販され、その人気は衰えることなく続いています。現在では、ドラッグスターシリーズはヤマハを代表するクルーザーブランドとして確固たる地位を築いています。
ドラッグスター400の最大の特徴の一つが、バイクでは珍しい「シャフトドライブ方式」を採用していることです。一般的なバイクは自転車のようにチェーンを使用していますが、ドラッグスター400ではドライブシャフトを用いています。
シャフトドライブ方式とは、クランクの中心から後輪のハブ芯まで一直線の鉄の棒(シャフト)でつながっているシステムです。シャフトが回ることによって、クランクからシャフトを伝って後輪のハブへと動力が伝わります。このシステムの最大のメリットは、チェーンのようなメンテナンスが少なく済み、長距離走行でも安定した動力伝達が可能なことです。
また、ドラッグスターは「ロー&ロング」のスタイルを実現するために、ダブルクレードルフレームを採用しています。シート高は250ccモデルで670mm、400ccモデルで650mmと非常に低く設定されており、足つき性に優れています。これにより、初心者や女性ライダーでも安心して乗ることができるのです。
エンジン面では、空冷・4ストローク・SOHC・2バルブ・V型2気筒エンジンを搭載。特に400ccモデルは、33PSの最高出力と3.3kgf・mの最大トルクを発揮し、アメリカンバイクとしては軽快な走りを実現しています。また、キャブレター制御によるダイレクトな加速フィーリングも魅力の一つです。
ドラッグスターシリーズには主に250cc、400cc、1100ccの3つのモデルがあり、それぞれに特徴があります。ここでは各モデルの特性と乗り心地を比較してみましょう。
ドラッグスター250
ドラッグスター250は、250ccのアメリカンバイクとしては大柄なサイズ感が特徴です。しかし、軽量で取り回しやすく、初心者や女性ライダーに人気があります。高回転までスムーズに回るエンジン特性と、キャブレターによるダイレクトな加速フィーリングが魅力です。燃費も51.0km/L(60km/h走行時)と経済的で、日常使いにも適しています。
ドラッグスター400
ドラッグスター400は、シリーズの中で最も人気のモデルです。400ccならではのパワーと、日本の道路環境に合わせた取り回しやすさを両立しています。特筆すべきは素直なハンドリングで、アメリカンバイクにありがちな癖がなく、思い通りに操ることができます。回転数を落とした時の60km/hでの排気音は「ババババッ」と単気筒のような独特の音を奏で、乗る楽しさを倍増させます。
ドラッグスター1100
1100ccモデルは、より本格的なクルージングを楽しみたいライダー向けです。大排気量ならではの余裕あるトルクと迫力ある走りが魅力ですが、車重も増すため、取り回しには慣れが必要です。長距離ツーリングでの快適性は3モデルの中で最も高く、高速道路での安定感も抜群です。
実際に乗り比べてみると、250ccは軽快さと経済性、400ccはバランスの良さと操作性、1100ccはパワーと迫力という特徴があります。初めてアメリカンバイクに乗る方なら250ccか400cc、すでにバイク経験がある方で本格的なクルージングを楽しみたい方なら1100ccがおすすめです。
ドラッグスターの魅力の一つは、高いカスタム性です。シンプルなフレーム構造を持つドラッグスターは、様々なカスタムスタイルを楽しむことができます。ここでは、特に人気のあるカスタムスタイルをご紹介します。
1. ボバースタイル
フェンダーなどの不要な部分を最小限にし、ハンドルを比較的低めにしたミニマルなスタイルです。ドラッグスター400のローポジションの車体は、ボバースタイルと相性が良く、カッコよさが際立ちます。黒を基調としたブラックアウトカスタムも人気があります。
2. フリスコスタイル
高めのハンドルと長いフロントフォークが特徴的なスタイルです。ドラッグスターのロー&ロングのシルエットと組み合わせることで、より存在感のあるカスタムに仕上がります。
3. クラブスタイル
フリスコよりもスポーティーにビキニカウルを装着したスタイルです。走行性能を重視したカスタムで、ツーリングを楽しむライダーに人気があります。
4. チョッパースタイル
長いフロントフォークと高く構えたハンドルが特徴的なスタイルです。アメリカンバイクの王道とも言えるカスタムで、ドラッグスター250でもこのスタイルに仕上げるライダーがいます。
5. ネオビンテージスタイル
クラシカルな要素を現代的に解釈したスタイルです。ドラッグスター400クラシックをベースに、オールブラック仕様にカスタムするなど、レトロでありながらも新しさを感じさせるデザインが特徴です。
カスタムパーツとしては、ハンドル、マフラー、シート、タンク、フェンダーなどが人気です。特にハンドルをセパレートタイプにカスタムすると、カフェレーサー風やドラッグレーサースタイルを強調できます。また、サイドバッグやシーシーバー(タンデムシートの後ろの背もたれ)なども実用性と見た目の両方を向上させるパーツとして人気があります。
カスタムショップでは、フレーム加工、カスタムペイント、ワンオフパーツの製作など、様々なサービスを提供しています。横浜や福岡を拠点にしたFACTIONのような専門店では、一台一台が個性に溢れたカスタムバイクを製作しています。
ドラッグスターを長く快適に乗り続けるためには、適切なメンテナンスが欠かせません。特にキャブレター車の場合は、インジェクション車に比べてメンテナンスの頻度が高くなります。ここでは、ドラッグスターのメンテナンスのポイントをご紹介します。
日常点検のチェックポイント
ドラッグスターは振動が大きいバイクなので、走行によってボルトが緩むことがあります。特に25年以上経過した車両では注意が必要です。定期的にホイールやハンドル周りのボルトの締め付け状態を確認しましょう。
埃や汚れが溜まると、エンジン性能に影響します。定期的に清掃または交換しましょう。
キャブレター車の場合、定期的なオーバーホールが必要です。特に長期間使用していない場合や、燃料系統にトラブルがある場合は専門店での点検をおすすめします。
推奨オイルと容量
ドラッグスター400の場合。
バッテリーメンテナンス
ドラッグスター400のバッテリーはGT12B-4を使用しています。冬場や長期間乗らない場合は、バッテリー上がりに注意が必要です。定期的な充電や、トリクル充電器の使用がおすすめです。
タイヤの点検
ドラッグスター400のタイヤサイズは前100/90-19(57S)、後170/80-15(77S)です。定期的に空気圧のチェックと、溝の深さの確認を行いましょう。特にアメリカンバイクは後輪のタイヤが摩耗しやすいので注意が必要です。
車検とメンテナンスのタイミング
400cc以上のモデルは車検が必要です。車検時には、上記のメンテナンス項目に加えて、ブレーキパッドやディスクの状態、電装系統のチェックなども行われます。車検を機会に、普段見落としがちな部分もしっかりとメンテナンスしましょう。
適切なメンテナンスを行うことで、ドラッグスターの性能を最大限に引き出し、長く愛車として乗り続けることができます。特に中古車を購入した場合は、まず基本的なメンテナンスを行うことをおすすめします。
ドラッグスターは、そのロー&ロングのスタイルと足つきの良さから、女性ライダーやタンデム走行を楽しみたいカップルにも人気があります。ここでは、実際の女性ライダーの体験談とタンデム走行の魅力をご紹介します。
女性ライダーの体験談
ウェビック女子バイク部のメンバーであるMAYUさん(身長158cm)は、ドラッグスター250に乗っています。彼女によれば、「250ccにしては大きいと感じるバイクですが、足つきは問題なかったです。私より小柄な女性でも運転しやすいバイクだと思います」とのこと。
ただし、「カーブで車体を傾けすぎると下の方をガリッ!と擦ってしまうので焦ります。あと収納スペースが無いのが弱点かも!」という点も指摘しています。それでも「燃費も良くて周りから驚かれるほどだし、何よりもカッコいい!!」と、その魅力に惹かれているようです。
MAYUさんは、バイクに乗り始めてから行動範囲が広がったと言います。「以前なら片道3時間は遠い場所と思っていたけど、今ではツーリングに丁度良い距離という感覚になりました」「バイクに出会う前だったら絶対行かないような場所に出掛けるようにもなりました。例えば電車だとアクセスが悪いような場所にある海が見えるカフェとか。滝を見に行くためだけに山を走りにいくなど」と、バイクライフの楽しさを語っています。
タンデム走行の魅力
ドラッグスターでのタンデム走行は、その設計からも非常に適しています。シート高の低さはタンデマー(後ろに乗る人)にとっても乗りやすく、ライダーがまたがっている状態からでも無理なく乗車できます。
また、足つき性が高いので、信号待ちなどの停車時にライダーは両足をべったり付けることができ、バランスを崩すこともありません。2人乗りでのUターンも足をペタペタつきながら容易に旋回できるのです。
足を前に出すフォワードコントロールもタンデムライドに向いています。ネイキッドモデルなどのミッドコントロールだと、ライダーの踵とタンデマーのつま先がぶつかって操作がしにくくなることがありますが、ドラッグスター400ではその心配はありません。
タンデマーの乗車姿勢は、膝を直角に近いかたちで曲げることになります。ふたりの距離は近く、その間にタンデムベルトがありますが、これはやや握りにくい点があります。乗車姿勢という点で疲労度はタンデマーの方がはるかに大きくなるので、長距離走行ではタンデマー優先で休憩のタイミングを図ることが大切です。
ドラッグスターでのタンデムライドは、Vツインエンジンの心地いいフィーリング、ふたりの距離を縮めてくれるような絶妙な距離感、ライダーの操作に影響を及ぼさないポジション設定など、カップルや夫婦でバイクに乗る喜びを共有できる要素が詰まっています。ただし、より快適なツーリングを楽しむためには、バックレストやサイドバッグなどのオプションパーツの装着が必要でしょう。
実際に155cmの女性がライダーの位置で跨った例では、シート高が非常に低い660mmで足つきはばっちりだったとのこと。ハンドルも小柄な女性でも無理のない位置にあり、お尻をシートの後ろ側にくっつけても腕が突っ張ることがないようです。ただし、ステップ位置が遠いフォワードコントロールには不安が残るため、購入を考えている場合は必ず実車をまたがってポジションを確認することをおすすめします。