
ホンダは2050年カーボンニュートラル実現に向けて、バイク市場においても電動化を積極的に推進しています。その代表的な取り組みが、原付二種クラスの電動二輪パーソナルコミューター「CUV e:」です。2025年の東京モーターサイクルショーで注目を集めたこのモデルは、近未来的なデザインと実用性を兼ね備えています。
「CUV e:」の特徴は、交換可能なバッテリーシステム「Mobile Power Pack e:」を採用している点です。シート下に2個のバッテリーを搭載し、自宅での充電だけでなく、街中に設置されたステーションでの交換も可能にしています。これにより、充電時間の問題を解決し、電動バイクの実用性を大きく向上させています。ただし、1個あたり10.2kgと重量があるため、交換時には注意が必要です。
ホンダの電動化戦略は単なるエコロジーの追求だけではありません。同社は「EVが最も有効なソリューションである」という考え方のもと、2030年にはグローバルでのEV/FCEV販売比率を40%、200万台以上のEV生産を計画しています。この目標に向けて、魅力的なEVの投入、バッテリーを中心としたEVの包括的バリューチェーンの構築、生産技術・工場の進化という3つの柱で取り組みを進めています。
電動バイクの開発においては、軽量化と高効率化が重要なポイントとなっています。ホンダは自動車開発で培った技術を応用し、従来比約100kgの軽量化を実現するなど、電動モビリティの性能向上に取り組んでいます。これらの技術はバイク開発にも活かされ、バッテリーやパワーユニットの最適配置による低重心化、高い空力技術との組み合わせにより、軽快な走りと優れた航続距離の両立を目指しています。
ホンダのバイク開発において、「走りの楽しさ」は最も重要な要素の一つです。この価値観は電動化時代においても変わることはありません。ホンダのテストライダーたちは、「電動化しても、未来のバイクは楽しいはず」と確信しています。
テストライダーの役割は、開発するマシンのコンセプトをもとに、想定されるユーザー像を設定し、そのユーザーにとって最適なエンジン特性や加速性能、最高速度などを実際に乗って評価することです。様々な走行シチュエーションに対して、加速タイムや後輪駆動力などの具体的な数値を決定し、マシンのコンセプトに合致させていく重要な仕事を担っています。
興味深いのは、ホンダとヤマハのテストライダーによる座談会で語られた内容です。ヤマハのテストライダーは「Hondaさんの技術力に驚きます。かなり細かいところまで作り込んでいると思うことが多い」と評価し、一方でホンダは「乗っておもしろい」という部分に強いこだわりを持つヤマハの特徴を認めています。このように、日本を代表する二大バイクメーカーが互いの強みを認め合いながら、それぞれの個性を活かした開発を進めていることがわかります。
電動バイクの課題として挙げられるのが、従来のエンジンバイクのような「操る楽しさ」をいかに実現するかという点です。テストライダーたちは、電動バイクに初めて乗った際の「新鮮な感動」がすぐに消えてしまい、「味気なく感じる」という課題を認識しています。この課題を解決するために、ホンダは「FUN(走る楽しさ)」という要素を電動バイクにも取り入れる努力を続けています。
特に注目すべきは、「操るうえでライダーが関与する部分をあえて残す」という考え方です。例えば、ホンダのDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)は、マニュアルトランスミッションの構造をそのままに、クラッチ操作とシフト操作を自動化したシステムです。これにより、クラッチレバーの操作がなくなり、操ることに集中できるという新しい価値を生み出しています。テストライダーたちは、こうした技術が電動化によってさらに進化し、新たな走りの楽しさを創出すると期待しています。
バイク業界においても、コネクテッド技術の導入が進んでいます。ホンダは世界シェア約35%を誇るバイクメーカーとして、「世界で走っている3台の内、1台はHondaのバイク」と言われるほどの規模を持ち、グローバルで約3万店の販売網を有しています。この強みを活かし、バイクにコネクテッドサービスを融合させる取り組みを進めています。
しかし、バイク向けコネクテッドサービスの実現には、いくつかの特殊な課題があります。まず、バイク市場の80%はグローバルサウスと呼ばれる南半球の新興国が占めており、日本とアメリカの市場はわずか5%ほどです。このような市場特性に合わせたサービス展開が必要となります。
また、バイクというハードウェア製品は「壊れないことが正義」であり、容易に交換もできないため完璧を求められてきました。一方で、バリューチェーンの短いコネクテッドサービスでは「まずはやってみる」という価値観への変化が必要です。ホンダはこの価値観の変化に対応しながら、バイクユーザーにさらなる喜びを創造するためのコネクテッドサービスを開発しています。
コスト面での課題に対しては、先行する自動車のIVI(in-vehicle infotainment)システムをバイク向けにカスタマイズして展開することでコスト抑制を図っています。また、データ収集においては保有している現地法人と協力するなど、様々な壁を乗り越える工夫をしています。
将来的には、バイクのコネクテッド化によって、ライダーの安全支援や走行データの分析、メンテナンス情報の提供など、様々なサービスが可能になると期待されています。ホンダは「Wise(賢く)」をキーワードに、独自のビークルOSを搭載し、コネクテッド技術の進化と合わせて、ユーザー一人ひとりに最適化したデジタルUXを提供する計画を進めています。
ホンダの技術力の結晶として注目すべきは、2022年に生産を終了した2代目NSXのファイナルモデル「NSX Type S」です。世界限定350台、日本向けはわずか30台という希少なモデルですが、ここに込められた技術と思想は、ホンダのバイク開発にも通じるものがあります。
NSX Type Sの開発を統括した本田技研工業の水上聡シニアチーフエンジニアは、このモデルを「電動化技術を持った最高峰のスーパースポーツ、スーパーNSX」と表現しています。2代目NSXは2016年のデビュー時から、3モーターハイブリッドシステムを4WDと組み合わせる独自の「SPORT HYBRID SH-AWD」を搭載し、環境性能を強く意識した次世代の電動スーパースポーツとして先進性を示していました。
この先見性は、現在のバイク開発にも活かされています。ホンダは早い段階から電動化の流れを予測し、技術開発を進めてきました。NSX Type Sで培われた電動化技術や軽量・高剛性ボディ技術は、電動バイクの開発にも応用されています。
特に注目すべきは、NSXに搭載された「姿勢安定化技術」です。この技術はホンダが製作したヒューマノイドロボットのアシモなどで培われたもので、バイクが転倒しやすい停止中や極低速域で車体を安定させる機能として応用されています。これはバイクの安全性向上に大きく貢献する技術として期待されています。
また、ホンダはポケモンとコラボレーションし、「ホンダコライドン」という未来型モビリティを開発しました。これはゲーム「ポケットモンスター スカーレット」に登場するキャラクター「コライドン」を実際に動くモビリティとして再現したもので、ホンダのバイク向け先進技術「ホンダライディングアシスト」やヒューマノイドロボット「アシモ」の技術が投入されています。このような遊び心ある取り組みも、ホンダのバイク開発の多様性を示しています。
ホンダバイクの魅力は最新モデルだけではありません。長い歴史の中で生み出された数々の名車は、今もなお多くのファンを魅了し続けています。特に旧車バイクのメンテナンスやレストアに取り組むユーザーにとって、純正パーツの情報は非常に重要です。
そんなニーズに応えるため、バイク愛好家たちによって旧車バイクのデータベースサイトが構築されています。これらのサイトでは、バイクの系譜(同系統のバイクの年表)やパーツリスト、モデルチェンジの概要などが詳細に記録されています。
バイク系譜(けいふ)とは、同系統のバイクの年表のことで、例えばCB125シリーズの歴史的変遷などを知ることができます。これにより、自分が所有するバイクのモデルを正確に特定し、適合するパーツを探すことが容易になります。
データベースサイトの構築には、古いバイク雑誌からの情報収集や、実際のオーナーからのパーツ情報の募集など、地道な作業が必要です。しかし、こうした取り組みによって、旧車バイクの魅力が再発見され、長く乗り続けることが可能になります。
ホンダバイクの魅力の一つは、長期間乗ることで生まれる愛着です。ホンダとヤマハのテストライダー座談会でも、「世界中に販売網を持ち、充実したアフターサービスが受けられるので、長期間乗ることが可能になる。長く乗れることで愛着も生まれる」と語られています。
ホンダは新しい電動バイクの開発を進める一方で、これまでに生産された名車たちのサポートも続けています。このような姿勢が、多くのライダーから支持される理由の一つでしょう。
データベースサイトの活用により、CB125などの人気モデルの歴史を知り、正確なパーツ情報を得ることで、旧車バイクを長く楽しむことができます。また、こうしたサイトはSEO(検索エンジン最適化)の観点からも工夫されており、車種別トップページをカテゴリーページ(タクソノミー)で作成するなど、情報へのアクセスしやすさも考慮されています。
バイク愛好家たちの地道な努力によって支えられているこれらのデータベースサイトは、ホンダバイクの歴史と文化を次世代に伝える重要な役割を果たしています。ホンダバイクの魅力は、最新技術だけでなく、こうした歴史の積み重ねにもあるのです。