
バイクのエンジンが冷えている状態での始動が難しくなる最大の原因は、バッテリーの性能低下です。バッテリーは化学反応によって電気を放電する仕組みですが、気温が低くなると化学反応が鈍化し、セルモーターを回すための十分な電力が供給できなくなります。特に外気温が5℃を下回ると、バッテリーの放電力が著しく弱まり、始動性が悪化する傾向にあります。
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セルモーターはエンジンを始動させるための起爆剤となる重要な部品で、始動時には大量の電力を必要とします。冬場の寒い朝や長期間放置した後のバイクでは、バッテリーの蓄電量が少ない状態で放電しなければならず、エンジンがかかりにくくなるのです。また、バッテリーの経年劣化も見逃せない要因で、古いバッテリーをいつまでも使い続けていると蓄電力が弱まってしまいます。
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バッテリーの状態を確認する簡単な方法として、エンジンスタート時の音をチェックすることが推奨されます。セルモーターが力強く回らず、「キュルキュル」という弱々しい音が続く場合は、バッテリー交換のタイミングと考えてよいでしょう。
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バイクのエンジンは、ガソリンと空気を最適な比率で混ぜた混合気を燃焼させることで動作します。しかし、冬場のような寒い時期は空気の密度が高くなり、この混合気のバランスが崩れやすくなります。特にキャブレター車の場合、吸い込む空気の量は一定であるため、酸素濃度が上がってしまい、ガソリンの量が不足した「薄い混合気」になってしまうのです。
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薄い混合気では燃焼が不安定になり、エンジンがかかりにくくなるだけでなく、かかったとしてもアイドリングが不安定になりエンストしやすくなります。気温が低い時は燃料自体も気化しにくくなるため、さらに始動性が悪化する要因となります。
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キャブレター車には「チョーク」という装置が備わっており、これは冷間始動時に混合気を濃くする役割を果たします。チョークを引くことで吸入される空気の量を絞り、相対的に燃料の割合を増やすことで始動性を改善できます。特に気温が10℃以下になる冬場では、ほぼ確実にチョークを使用して始動する必要があります。
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エンジンオイルは温度によって粘度が大きく変化する性質を持っています。気温が下がるとオイルは固くなり、エンジン内部での抵抗が増加します。その結果、セルモーターがエンジンを回すために余分な電力が必要となり、バッテリーへの負担も増えてエンジンがかかりにくくなるのです。
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真冬の時期、日本の多くの地域で最高気温は10℃を下回ります。このような低温環境では、エンジンオイルの粘度が高い状態となり、オイルの回りが悪くなって始動性が低下します。特に長時間放置したバイクでは、エンジン内部のオイルが完全に冷え切っているため、冷間始動時の抵抗が最大になります。
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対策としては、低温時の粘度が低いマルチグレードオイルを選ぶことが有効です。例えば「5W-30」というオイル表記の場合、「5W」の部分が冷間時の粘度を示しており、この数値が低いほど低温での始動性が良くなります。ウインターグレードを下げることで、エンジンが冷えている状態でもオイルの回りが良くなり、始動性向上の効果が見込めます。
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気温に応じたエンジンオイルの粘度選択について詳しく解説されています
バイクの燃料供給方式には、キャブレター式とインジェクション式の2種類があり、冷間始動時の特性も大きく異なります。キャブレター車は機械式で、エンジンの負圧を利用して燃料を供給する受動的なシステムです。あらかじめセッティングした通りにしか燃料を供給できないため、気温や気圧の変化に弱く、季節や標高によって始動性が大きく変わります。
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一方、インジェクション車は電子式で、コンピューターが各種センサーからの情報をもとに燃料噴射量を自動調整する能動的なシステムです。気温や気圧などの環境変化に応じて最適な混合気を作ってくれるため、場所や季節に影響されにくく、安定した始動性を実現しています。真冬の朝でも500馬力以上のハイパフォーマンスエンジンがグズることなく始動できるのは、この精密な制御のおかげです。
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キャブレター車の場合、冷間始動時にはチョークを使用して手動で混合気を濃くする必要があります。チョークの扱いが不適切だと、逆に始動しにくくなったり、プラグかぶりを起こす原因となります。インジェクション車ではこのような操作は不要で、ブレーキペダルやクラッチペダルを踏んでスターターボタンを押すだけで始動できます。
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エンジンがかかりにくい時の対処法として、まず5~10分程度の間隔をあけてエンジンをかける動作を繰り返すことが効果的です。時間を置いて繰り返すのがポイントで、少しずつエンジンが暖まりエンジンオイルが滑らかになるため、エンジンがかかる可能性が高まります。連続してセルを回し続けるとバッテリーが消耗してしまうため、適度な休憩を挟むことが重要です。
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キャブレター車の場合は、チョークの正しい使用が不可欠です。冷間時にはチョークレバーを「閉」位置にセットし、エンジンがかかった後は徐々に開いていきます。エンジンが暖まってもチョークを引いたままにしておくと、混合気が濃すぎてプラグかぶりを起こす原因となるため、早めに戻すことが大切です。また、始動前にアクセルを2~3回軽く踏んで、キャブレターの加速ポンプを使って燃料を増量させる方法も有効です。
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予防策としては、定期的にバイクを動かすことが最も重要です。週1回、30分程度バイクを走らせることで、バッテリーの充電を維持し、エンジンやキャブレター内部の燃料が劣化するのを防ぐことができます。長期間放置すると、キャブレター内のガソリンが劣化してジェット内部に詰まり、始動できなくなるパターンもあります。
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対処法 | 効果 | 実施タイミング |
---|---|---|
5~10分間隔でセルを回す | バッテリー保護とエンジン暖機 | エンジンがかからない時 |
チョークの適切な使用 | 混合気を濃くして始動性向上 | キャブ車の冷間始動時 |
電装品をオフにして始動 | 始動時の電力消費削減 |
エンジン始動前 |
低粘度オイルへの交換 | 冷間時の抵抗軽減 | 冬場のメンテナンス時 |
週1回30分の走行 | バッテリー充電と燃料劣化防止 | 日常的な予防策 |
プラグかぶりを起こした場合は、アクセルを全開にしながらエンジンをかけることで改善できることがあります。アクセル全開にすることで燃焼室に多くの空気が送り込まれ、濡れてしまったプラグを乾燥させ、余分な燃料を燃焼させる効果が期待できます。それでも始動しない場合は、プラグを取り外して清掃・乾燥させるか、新品に交換する必要があります。
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キャブ車のエンジンを一発始動させるための詳しい手順とコツが紹介されています
バッテリーの状態を良好に保つためには、エンジンを切った状態で電気を使わないことも重要です。また、寒い日にはできるだけバッテリーやエンジンが温まっている状態での始動を心がけ、長時間放置した後は数分間アイドリング状態でエンジンを動かしてからの走行が推奨されます。ディーゼルエンジンの場合は、グロープラグを使用して燃焼室を予熱することで、クランキング時間を大幅に短縮でき、バッテリーへの負担も軽減できます。
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冬場の始動性向上には、バッテリーの定期点検と交換時期の見極めも欠かせません。特に冷間始動時にエンジンがかかりづらいと感じたら、一度バッテリーの状態をチェックすることをおすすめします。バッテリーの寿命は一般的に2~3年程度とされており、定期的な電圧測定や充電状態の確認が、トラブルを未然に防ぐ鍵となります。