
マグネットスイッチ(スターターリレー)は、バイクのエンジン始動システムにおいて非常に重要な役割を担っています。その主な機能は、バッテリーからセルモーターへの大電流を制御することです。
マグネットスイッチはバッテリーのすぐ近くに設置されていることが多く、基本的に2種類のタイプがあります。
バイクの中で最も電流を消費するのはセルモーターを回す瞬間です。この大電流をハンドル部分のスイッチに直接流すと危険なため、小さな電流でマグネットスイッチを作動させ、そこから大電流をセルモーターへ流す仕組みになっています。
マグネットスイッチの故障は、以下のような特徴的な症状として現れることが多いです。
1. カチカチ音はするがセルが回らない
これはマグネットスイッチの故障を示す最も一般的な症状です。この音はスイッチが作動しようとしているものの、セルモーターに十分な電流を送れていないことを意味します。
2. 全く音がしない
スイッチからの反応がない場合は、マグネットスイッチへの電流供給に問題がある可能性があります。
3. ジジジという異音
「カチッ」と音がした後に「ジジジジジ~」という音がする場合は、リレー内コイルが故障している可能性が高いとされています。
診断方法:
マグネットスイッチの故障を確認するには、以下の手順が有効です。
ただし、「カチカチ音がする=マグネットスイッチの故障」とは限りません。セルモーター自体の故障や配線の問題でも同様の症状が出ることがあります。
マグネットスイッチが故障する主な原因には以下のようなものがあります。
1. 経年劣化
バイクの使用年数が長くなると、内部のコイルや接点が劣化することがあります。特に5年以上経過したバイクでは注意が必要です。
2. 過度の使用
エンジンがかからない状態で長時間セルを回し続けると、マグネットスイッチに負担がかかり故障の原因となります。一般的には連続5秒以上のセル使用は避けるべきです。
3. 振動によるダメージ
バイクの走行時の振動により、内部の接点やハンダ付け部分が緩んだり外れたりすることがあります。特にオフロードバイクなど振動の多い車種では発生しやすい問題です。
4. 水分や湿気の侵入
防水処理が不十分な場合、雨天走行や洗車時に水分が侵入し、錆や腐食を引き起こすことがあります。
予防策:
マグネットスイッチの交換は、ある程度の知識と工具があれば自分でも行うことができますが、電装系のトラブルは専門店に依頼することをおすすめします。
交換の基本手順:
交換費用の目安:
実際の例として、ヤマハ YZF-R1の場合、スターター・スイッチの部品代が5,180円、交換工賃が4,000円、合計9,914円(税込)という事例があります。
マグネットスイッチの故障と似た症状を示す他の電装トラブルもあります。正確な診断のためには、以下のポイントを確認しましょう。
1. バッテリー関連の問題
2. セルモーターの故障
3. スターターボタン(セルスイッチ)の故障
4. 配線の問題
特に注意すべきは、スタータースイッチの断線です。これはハンドルバー内部の配線が振動などにより断線するケースで、外見からは判断しづらい故障です。スイッチボックスを分解して確認する必要があります。
マグネットスイッチが故障してしまった場合でも、応急処置や代替方法でエンジンを始動させることができる場合があります。ただし、これらの方法は一時的な対処法であり、早めの修理を推奨します。
1. 直接ジャンプ法(緊急時のみ)
マイナスドライバーなどの金属製工具を使って、マグネットスイッチの入力端子と出力端子を一時的に接続する方法です。ただし、スパークや感電の危険があるため、緊急時以外はおすすめできません。
2. キックスターター使用(装備されている場合)
古いタイプのバイクにはキックスターターが装備されていることがあります。セル不良時の代替手段として使用できます。
3. プッシュスタート
坂道や平地で、クラッチを切った状態でバイクを押し、ある程度のスピードが出たところでギアを入れてクラッチをつなぐ方法です。エンジンに負担をかける可能性があるため、最終手段として考えましょう。
4. バッテリーの一時的な過充電
バッテリーを充電器で少し高めに充電しておくと、一時的にマグネットスイッチが作動することがあります。ただし、バッテリーやマグネットスイッチに負担をかけるため、応急処置としてのみ使用すべきです。
5. 端子の清掃
マグネットスイッチの端子部分が酸化や汚れで接触不良を起こしている場合は、端子を清掃することで一時的に改善することがあります。接点復活剤などを使用するとより効果的です。
これらの応急処置は一時的な対処法であり、根本的な解決にはなりません。安全のためにも、早めに専門店での修理を検討しましょう。
バイクのマグネットスイッチは、小さな部品ながらエンジン始動に重要な役割を果たしています。定期的なメンテナンスと適切な使用で、トラブルを未然に防ぎましょう。特に冬場や長期間使用しない期間の前後は、バッテリーの状態とともにマグネットスイッチの動作も確認することをおすすめします。