
直列2気筒エンジンは、2本のシリンダーが1本のクランクシャフトを共有して1列に並んでいる形式のエンジンです。オートバイでは進行方向に対してシリンダーを横並びに配置する場合が多く、その見た目から「並列2気筒」(パラレルツイン)とも呼ばれています。
かつては「安物バイク」というイメージもありましたが、近年では技術向上による性能の高さとコストパフォーマンスの良さから市民権を得て、中〜大排気量オートバイ用エンジンの主流となっています。特に700cc以上のクラスでは、多くのメーカーが直列2気筒エンジンを採用するようになりました。
直列2気筒エンジンの大きな特徴は、エンジン前後長が小さく、部品点数が少ないことです。これにより車体設計の自由度が高まり、製造コストも抑えられるというメリットがあります。また、クランク角の設定によって様々な出力特性や走行フィールを実現できることも、このエンジン形式の魅力の一つです。
直列2気筒エンジンは、その名の通り2つのシリンダーを一直線上に配置したエンジンです。4ストロークエンジンの場合、各シリンダーは「吸気(180度)→圧縮(360度)→燃焼(540度)→排気(720度)」という4つの行程を2回転(720度)で1セット完了します。
このエンジンの特徴は、クランクシャフト上でのピストンの配置(クランク角)によって、エンジン特性が大きく変わることです。クランク角とは、一方のピストンが燃焼行程(540度)に来た時に、もう一方のピストンがどの位置(何度)にいるかを角度で表したものです。
わかりやすく例えると、自転車のペダルの位置関係に似ています。左右のペダルが上に来るタイミングの差がクランク角に相当します。このクランク角の設定によって、エンジンの振動特性や出力特性、サウンドが大きく変わってくるのです。
エンジンの基本構造としては、クランクシャフト、コネクティングロッド(コンロッド)、ピストン、シリンダー、バルブ機構などから構成されています。直列2気筒の場合、これらの部品が2セット必要となりますが、4気筒などと比べると部品点数が少なく、シンプルな構造となっています。
180度クランクの直列2気筒エンジンは、2つのピストンが180度の位相差で動作するエンジンです。つまり、一方のピストンが上死点にあるとき、もう一方は下死点にあるという配置になります。
この180度クランクの特徴は、以下のようにまとめられます。
180度クランク直列2気筒エンジンを搭載する代表的なバイクとしては、以下のモデルが挙げられます。
特にCBR250RRは、水冷4ストロークDOHC 4バルブ直列2気筒250ccエンジンを搭載したスーパースポーツモデルで、2020年9月のマイナーチェンジでさらにパワーとトルクがアップしました。
180度クランクは特にスポーツバイクとの相性が良く、高回転まで伸びやすい特性から、スポーティな走りを楽しみたいライダーに適しています。CBR250RRやCBR400Rなどは、2気筒エンジンを採用する場合、180度クランクが最も適していると言えるでしょう。
270度クランクの直列2気筒エンジンは、近年特に人気を集めているクランク配置です。この配置では、一方のピストンが燃焼行程にあるとき、もう一方のピストンはそこから270度離れた位置にあります。
270度クランクの最大の特徴は、V型2気筒エンジンに似た鼓動感を直列2気筒で実現できることです。点火間隔がバンク角90度のV型2気筒エンジンと同じになり、不等間隔点火によるトラクション性能の向上が得られます。また、V型2気筒よりも前後方向にコンパクトな構成で、同様の走行フィールを享受できる点も大きなメリットです。
270度クランク直列2気筒エンジンの特徴。
270度クランク直列2気筒エンジンを搭載する代表的なバイクには以下のモデルがあります。
これらのバイクは特徴的な鼓動感と扱いやすさを兼ね備えており、街乗りからツーリングまで幅広いシーンで活躍します。近年では700cc以上の中~大排気量オートバイ用直列2気筒エンジンの主流となっています。
360度クランク(別名:0度クランク)の直列2気筒エンジンは、2つのピストンが同時に上下する配置です。つまり、両方のピストンが常に同じ位置にあり、同時に上死点・下死点を迎えます。
360度クランクの特徴。
360度クランクは振動が大きいため、現代のバイクではあまり採用されていませんが、かつてのブリティッシュバイクなどで使用されていました。
ここで、直列2気筒と他のエンジン形式を比較してみましょう。
エンジン形式 | 特徴 | 振動特性 | 代表的なメーカー・モデル |
---|---|---|---|
直列2気筒(180度) | 高回転型、バランス良好 | 一次振動少ない | ホンダCBR250RR、CBR400R |
直列2気筒(270度) | 鼓動感あり、トラクション良好 | 中程度 | ヤマハMT-07、ホンダトランザルプ |
直列2気筒(360度) | シンプル構造、コスト低 | 振動大きい | 旧型ブリティッシュバイク |
V型2気筒 | コンパクト、鼓動感あり | 特性はバンク角による | ドゥカティ、ハーレーダビッドソン |
直列4気筒 | 高出力、滑らかな吹け上がり | 振動少ない | 多くの日本製スポーツバイク |
V型エンジンは2つのシリンダーをV字状に配置する方式で、エンジン全体をコンパクトにしやすい特徴があります。V字の角度(バンク角)によってエンジンの外観や出力特性に変化をつけられ、ハーレーダビッドソンの45度、ドゥカティの90度が有名です。
直列2気筒と比較すると、V型2気筒は同等の排気量でよりコンパクトな設計が可能ですが、構造が複雑になりがちです。一方、直列4気筒は高出力で振動が少ないものの、エンジンサイズが大きくなり、重量も増加します。
直列2気筒エンジンは、その構造的なシンプルさから、メンテナンス性に優れているという大きな特徴があります。4気筒エンジンと比較して部品点数が少なく、整備作業がしやすいため、長期所有に適したエンジン形式と言えるでしょう。
直列2気筒エンジンのメンテナンス上のメリット。
特に、バルブクリアランス調整は4気筒エンジンだと4セット必要なところ、2気筒なら半分で済むため、整備時間とコストを大幅に削減できます。また、プラグ交換やオイル交換などの基本的なメンテナンスも、作業効率が良いのが特徴です。
長期所有のメリットとしては、以下の点が挙げられます。
近年の直列2気筒エンジンは技術的に成熟しており、かつての「安物バイク」というイメージを覆す高い信頼性と耐久性を備えています。適切なメンテナンスを行えば、10万km以上の走行も十分に可能で、長く付き合えるエンジンと言えるでしょう。
また、2ストロークエンジンの直列2気筒も存在します。2ストロークエンジンは1回転(360度)で1サイクルが完了するため、クランク位相角を180度にした場合、点火が等間隔で振動も少ない非常にバランスの良いエンジンになります。ただし、環境規制の厳格化により、現代のバイクでは4ストロークエンジンが主流となっています。
以上のように、直列2気筒エンジンは、そのシンプルな構造と多様なクランク角による特性の違いから、様々なタイプのバイクに採用されています。スポーツからクルーザー、ツアラーまで、幅広いジャンルで活躍する万能なエンジン形式と言えるでしょう。