

夏の朝に入れたタイヤの空気は昼には10kPa以上も上昇しています。
参考)夏はタイヤがパンクしやすい季節!?暑くなる前に空気圧を調整し…
熱膨張とは、温度の変化によって物質が膨張したり収縮したりする物理現象です。固体、液体、気体のすべての状態で起こります。
物質を構成する原子は常に振動しており、温度が上がると熱エネルギーの増大により原子運動が活発になります。振幅が大きくなることで、体積が増加するのです。
バイクに使われる金属部品も例外ではありません。たとえば鉄の熱膨張率は11.7で、1m当たり1℃上昇すると11.7μm(0.0117mm)伸びます。20cmのミッションシャフトが20℃から80℃まで上昇すると、約0.14mm伸びる計算になります。
小さな変化に思えますが、高精度で組み合わされているバイクの部品にとっては無視できない数値です。つまり熱膨張が原因でトラブルが起きるということですね。
タイヤ内の空気は温度が上昇すると膨張し、空気圧が上がります。具体的には、気温が10℃上昇するとタイヤの空気圧は約10kPa(0.1kgf/㎠)上昇すると言われています。
実際のバイクで測定した例では、気温が30℃から20℃へ下がった場合、リアタイヤは290kPaから277kPaへ13kPa低下し、フロントタイヤは250kPaから238kPaへ12kPa低下しました。これは温度と空気圧が密接に関係している証拠です。
参考)https://ameblo.jp/tomo-vfr800f/entry-12762258358.html
空気圧が適正値から外れると、タイヤの接地面が変化してブレーキ性能が低下します。高すぎる空気圧は接地面を減らし、低すぎる空気圧は燃費を悪化させます。夏の暑い時期には空気圧が上がりやすいため、朝の涼しい時間帯に測定して調整するのが基本です。
デジタル式の空気圧計を持っておくと、いつでも正確な数値を確認できます。価格は2,000円程度から購入可能で、ツーリング前のチェックに役立ちます。
エンジン内部では、金属部品が熱膨張により寸法が変化します。エンジンを組んだ時点の気温が15度で、運転中に平均130度になると、カムシャフトとクランクシャフトの間隔は0.8mm弱伸びます。
参考)DIARY|KAWASAKI Z 専門店 PAMS(パムス)
アルミ合金の線膨張係数は22.5と鉄よりも大きいため、アルミ製のエンジンケースはより大きく膨張します。一方、鋼製のカムチェーンはほとんど伸びないため、相対的にチェーンにかかる張力が増加します。
この結果、組み立て時にカムチェーンを張りすぎると、運転中にテンショナーやアイドラーに過度な負担がかかります。
痛いですね。
熱膨張を考慮して、エンジン組み立て時にはクリアランス(隙間)を適切に設定する必要があります。
これがエンジン設計の重要なポイントです。
ブレーキディスクは制動時に非常に高温になり、適温は350℃~400℃とされています。ハードブレーキを続けると冷却が間に合わず、熱膨張によってディスク面に歪みが発生します。
参考)ディスクブレーキの構造を完全解説!安全に「止まる」バイクの基…
通常のソリッドディスクでは、熱膨張により良くてジャダー(振動)、最悪の場合クラックが入ります。外周部分は内側よりも速度が速いため、より多くの熱を発生させ、円錐状に反り返る傾向があります。
参考)知ってるようで知らない!ブレーキディスクのフローティングって…
この問題を解決するのが、フローティングディスクです。中心のハブと外周の摩擦面が分離された構造により、熱膨張による歪みを吸収し、安定した制動力を維持できます。
フルフローティングタイプでは、アウターローターが可動することでブレーキパッドとの接触時間が短くなり、熱が上がりすぎることを防ぎます。結論はブレーキフィーリングが向上するということです。
スポーツ走行やサーキット走行をする場合、フローティングディスクへの交換を検討する価値があります。価格は1枚あたり3万円程度からで、制動性能の向上と長寿命化が期待できます。
エンジンが過熱すると、金属の膨張により回転数が上がりにくい、アイドリングが不安定になる、シフトが硬くなるなどの症状が現れます。
これを「熱ダレ」と呼びます。
空冷エンジンは、オイルのみで冷却するため水冷エンジンに比べて熱ダレが起こりやすいです。走行風で強制的に冷却するため、渋滞やストップ&ゴーが多い状況では油温が急上昇します。
エンジンが高温になると、クラッチの熱膨張によってクラッチが切れずに引きずり、シフトがシブくなりニュートラルも出にくくなります。
これは使えそうです。
参考)Instagram
熱ダレ対策としては、渋滞を避ける、こまめに休憩を取る、エンジンオイルを適切な粘度のものに変更するなどがあります。特に夏場は高温に強い高粘度オイルへの変更が有効です。油温計を装着しておくと、エンジンの状態を数値で把握できて安心です。
パーコレーションとは、ガソリンが熱によって気化し、燃料系に気泡が発生する現象です。エンジンの熱が燃料タンクやキャブレターに伝わり、ガソリンを加熱することで起こります。
真夏の炎天下や長時間の走行でエンジンが過熱すると、ガソリンの蒸気圧が上昇して気化しやすくなります。フューエルホースや燃料フィルターがエンジンのヘッド部分に触れていると、熱が伝わりやすくパーコレーションを起こしやすくなります。
パーコレーションが発生すると、エンジンの始動不良や走行中の不調、最悪の場合エンジンが停止してしまいます。
厳しいところですね。
発生してしまったら、自然に冷めるまで30分程度待つしかありません。応急処置として、燃料タンクに水をかけて冷やす方法もありますが、根本的な解決にはなりません。
参考)すぐできるバイクのパーコレーション対策、燃料沸騰対策の答え
対策としては、ガソリンを小まめに給油することが最も簡単で効果的です。燃料が少ないと少しの熱量で沸騰しやすくなるため、タンクの半分以下にならないよう給油すると良いでしょう。大掛かりな対策としては、キャブレターに遮熱板を設置したり、燃料ホースに耐熱シートを巻きつけたりする方法があります。
バイクの熱トラブル全般について詳しい対処法が掲載されています
バイクメーカーは、熱膨張を前提とした設計を行っています。たとえば、フローティングディスクはサーキット走行での熱によるアウターの膨張をインナーと切り離すことで、ディスク面の変形を防ぎます。
カワサキH2のような高性能バイクでは、スーパーチャージャーによる過給で高出力を得ながら、インタークーラーを必要としない設計により軽量化を実現しています。高い燃焼効率と最適化されたエンジン設計で吸気温度の上昇を抑えているのです。
エンジン組み立て時のクリアランス設定も、熱膨張を考慮した重要な作業です。冷間時(エンジンが冷えている状態)と温間時(エンジンが温まった状態)での寸法変化を計算し、適切な隙間を確保します。
これらの技術により、バイクは幅広い温度条件で安定した性能を発揮できます。熱膨張は避けられない物理現象ですが、それを上手く利用した設計がバイクの信頼性を支えているのです。

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