
熱電変換とは、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換する技術のことで、この現象は1821年にトーマス・ゼーベックによって発見された「ゼーベック効果」を利用しています。ゼーベック効果では、ある物質の両端に温度差を与えると、その両端に電位差(起電力)が生じる現象が発生します。この効果はすべての物質で生じますが、物質の種類によって発生する電圧の大きさは異なり、両端の温度差が大きければ大きいほど発生する電圧も大きくなるという比例関係にあります。
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火力発電との大きな違いは、熱電変換が熱を直接電気エネルギーに変換するのに対し、火力発電は熱によってタービンを回し、熱を運動エネルギーに変換してから電磁誘導で電気を作る点です。そのため、火力発電には大量の熱が必要ですが、熱電変換物質は微小な熱を電気に変換することができます。原理的には、パソコンから出る熱や自動車から出る熱といった、現状では利用することが難しい廃熱などを電気に変えることが可能です。
参考)https://dept.tus.ac.jp/st/souiki-journal/5852
物理的なメカニズムとしては、金属や半導体の内部に温度差があると、高温側の電子が熱エネルギーを受けて活発に動き出し、冷温側へと移動します。その結果、電子が冷温側に流れていった部分はプラスの性質を持つ正孔が残り、プラスの性質を持つ部分とマイナスの性質を持つ部分が2極化するため、最終的に起電力が生じるのです。この熱起電力によって電流が流れ、電気エネルギーとして取り出すことができます。
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熱電効果には代表的な2つの現象があり、それがゼーベック効果とペルチェ効果です。これら2つは表裏一体の関係にありますが、現象が発生するときの要因が異なります。ゼーベック効果では温度変化が要因となって起電力が発生する一方、ペルチェ効果では電圧をかけることが要因となって温度変化が発生します。シンプルに、起電力が発生するのがゼーベック効果、温度変化が発生するのがペルチェ効果と覚えておくとわかりやすいです。
ペルチェ効果は1834年にフランスの物理学者ジャン・シャルル・ペルチェによって発見された現象で、異なる金属を接合して電圧をかけて電流を流したとき、接合部分で吸熱や放熱が発生します。具体的には、金属と半導体を接合させるとキャリア(電子・正孔)の流れる道に「段差」が生じ、この状態で電圧をかけると段差に向かってキャリアが流れてきます。すると、段差を乗り越えるために必要なエネルギーを周りから熱エネルギーとして吸収するため周囲の温度が下がり、反対に半導体から金属へ移動する場合には余分なエネルギーを周囲へ放出するため温度が上がります。
参考)日本冷凍空調学会
実用例としては、ゼーベック効果は温度センサーの熱電対や熱電発電(温度差発電)として、通信機器の電源や外惑星探査船の電源、スマートウォッチなどに使用されています。一方、ペルチェ効果はパソコンのCPU冷却装置(クーラー)、ワインセラー、医療用冷蔵庫、自動販売機の加温・冷却などに利用されており、冷媒が不要なためメンテナンスコストを抑えることができます。このように、両者は熱と電気のエネルギー変換という点で共通していますが、エネルギーの変換方向が逆になっている関係です。
参考)排熱を有効活用! 熱電素子の不思議
熱電変換材料の性能は、性能指数Z(S²/(ρ×K))で示されます。ここでSはゼーベック係数、ρは電気抵抗率、Kは熱伝導率を表し、性能指数に動作温度T(絶対温度)を乗じたものZTは無次元性能指数と呼ばれます。ZおよびZTが大きいほど熱電変換材料としての性能は高く、そのためにはSが大きく、ρおよびKが小さいことが必要です。
参考)Preparation of the Composite T…
熱電変換材料には温度域によって適した種類があり、常温から500Kまではビスマス・テルル系(Bi-Te系)、常温から800Kまでは鉛・テルル系(Pb-Te系)、常温から1000Kまではシリコン・ゲルマニウム系(Si-Ge系)が使用されます。車載用熱電発電材料の開発では、400℃~700℃の温度域で非常に良好な熱電性能を示すシリサイド系熱電変換材料、スクッテルダイト系熱電変換材料、ハーフ・ホイスラー系熱電変換材料の3種類が代表的です。また、室温~300℃の温度域の自動二輪車のマフラーへの装着に適したホイスラー系材料も開発されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/isciesci/65/6/65_201/_pdf/-char/ja
豊島製作所が開発したBi₂Te₃+α(n型)は、50℃から150℃の低温領域において性能評価ZTが0.8から0.94と高い数値を示し、発電用素子としての利用まで見込める将来性のある材料です。さらに、一般的に添加元素として毒性のあるSeが多く使用されていましたが、このBi₂Te₃+αではSeなどの毒性ドーパントを使用していないため、採用可能なアプリケーションが大きく広がる可能性を秘めています。熱を運ぶフォノンは結晶中の空孔や原子配列の乱れ、置換原子などによって散乱されるほか、結晶粒界や析出不純物などによって散乱され、熱の伝導が妨げられます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kona/22/0/22_2004022/_pdf
バイクや自動車の排気ガスは、アイドリング時で200~300度、全開時には700~800度といわれ、エンジンに近い触媒は1000度に到達することもあります。それに対し、冷却水は適正温度が70~90度であり、この大きな温度差を利用して熱電発電を行うことができます。車載用熱電発電モジュールは、冷却水が通る低温側熱交換器、低温側緩衝材を挟んで熱電発電素子で構成された熱電発電モジュール、そして高温側緩衝材を挟んで排気ガスが通る高温側熱交換器というサンドイッチ構造となっています。
参考)ただ棄てるだけだった排気ガスの高熱で発電して燃費向上!【人と…
ヤマハが開発した世界最大かつ最高出力の熱電発電モジュール「YGPX024」は、温度差385度の場合に1モジュールあたり143Wもの大電力を取り出すことが可能で、自動車搭載を想定した温度条件(高温側285度/低温側100度)でも40Wと高い出力を得ることができます。このモジュールは光通信用ペルチェモジュールで培った高性能熱電材料技術、および高精度実装技術を応用することで動作温度を高温化(最大400度/常用300度)し、出力密度を向上することで世界最高の出力を実現しました。
参考)マフラー排熱で発電する高効率車載用モジュール、ヤマハがサンプ…
BMWは2006年9月、530iへの熱電変換システムの搭載を想定し、実車にThermoelectric Generator(TEG)を装着してテストを行い、シミュレーションによれば8%の燃費向上が確認できました。高速走行時で最大1kW、市街地走行で最大500Wの出力、熱電変換効率12%を数値目標としていました。また、GMはゼネラル・エレクトリック(GE)と組んだチームで、排気ルートとラジエータールートのふたつのTEGシステムを備え、平均で350W、最大で914Wの出力をマークしました。350Wの出力は現状のオルタネータと照らし合わせれば、高速/市街地走行でおよそ3%の燃費改善に相当します。
参考)内燃機関超基礎講座
バイクに熱電発電システムを搭載することで、ライダーには従来のバッテリー充電システムにはないユニークなメリットがもたらされます。通常、バイクのバッテリーはエンジンの回転によって発電され充電されるため、アイドリングだけでは十分な充電ができません。しかし、熱電発電システムは排気ガスの熱を利用するため、エンジンが稼働している限り温度差が存在し、停車中のアイドリング状態でも一定の発電が可能になります。
参考)https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1305/09/news029.html
さらに、ツーリング中の長距離走行では、排気温度が高温状態を維持するため、熱電発電モジュールが継続的に電力を供給し続けることができます。これにより、電動二輪車製品の電気モーターとバッテリーから発生する廃熱も利用可能で、熱電発電機(TEG)技術で電力に変換できるという研究結果も報告されています。実際、排気ガスで400W発電できるシステムは、まずバイクの補助電源として実用化が期待されており、都市ガスで発電しお湯も得られるエネファームの考え方を最大限に拡張した応用例といえます。
参考)熱電発電機を用いた電動二輪車の電池・モータ排熱利用に関する実…
また、熱電変換システムには機械的動作部分がないため運転時に騒音がなく、小型軽量でメンテナンスフリーであり、動作時に排気ガス等が排出されないクリーンな特長を持っています。バイクのような振動が多い環境でも故障が少なく、単位面積当たりの出力密度が高いため省スペースで様々な場所に設置できる点も大きな利点です。発電した電気はDC-DCコンバーターを通してバッテリーに蓄えられ、補機類の動作に使われることで、オルタネーターの稼働率を減らすことができ、燃費の向上につながります。ハイブリッドスクーターパワートレインの有望なコンセプトでは、ワールドモーターサイクルテストサイクル(WMTC)で約20%の効率向上と電動走行の追加メリットが実証されています。
参考)ハイブリッドバイクの開発
ポケモンカードゲーム S8b 172/184 ヒート炎エネルギー 炎 (レアリティ表記無し) ハイクラスパック VMAXクライマックス