
バイクや車を運転する際に最も恐ろしいトラブルの一つが、ブレーキが効かなくなる現象です。ペーパーロック現象とフェード現象は、どちらもフットブレーキの連続使用によってブレーキの制動力が低下する現象ですが、発生するメカニズムには明確な違いがあります。フェード現象は摩擦材の発熱によりガスが発生し摩擦係数が低下するために起こるのに対し、ペーパーロック現象はブレーキオイルの沸騰により気泡が発生し、ブレーキの圧力を伝えることができなくなることで起こります。
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ペーパーロック現象は、フットブレーキを使いすぎることで発生した摩擦熱がブレーキフルード(ブレーキオイル)に伝わり、ブレーキフルードが沸騰して気泡が発生することで起こります。この気泡によって、ブレーキペダルを踏んだ際の油圧がうまくブレーキに伝えられなくなり、ブレーキが完全に効かなくなってしまうのです。ペーパーロック現象の特徴として、フットブレーキの多用だけでなく、メンテナンス不足も大きな原因となります。ブレーキフルードは吸湿性が高いため、次第に水分を含んでしまい、その結果沸点が下がって摩擦熱によって沸騰しやすくなります。
参考)https://www.sbisonpo.co.jp/car/column/column81.html
フェード現象は、フットブレーキを何度も使用することでブレーキパッドの摩擦材が過度に加熱され、摩擦材の素材であるゴムや樹脂が耐熱温度を超えてガス化することで発生します。ガス化した摩擦材がブレーキローターとブレーキパッドの間に入り込むことで、ガス膜が形成され摩擦係数が低下し、フットブレーキの効きが悪くなります。特にドラムブレーキは放熱性が悪いという特徴があるため、ディスクブレーキよりもフェード現象が起きやすいとされています。2022年に静岡県で発生した観光バス横転事故は、フェード現象が原因とされており、事故を起こしたバスのドラム式ブレーキ部分には焼けた跡があったと報告されています。
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両現象の見分け方として重要なポイントは、ブレーキが冷えた後の回復状態です。フェード現象の場合、ブレーキが冷えると制動力が回復することが多いのに対し、ペーパーロック現象の場合はエアーが残り完全に回復することは難しく、再発の可能性が高くなります。また、発生の前兆として、両現象ともブレーキの効きが悪くなったり、ブレーキから異臭がするといった症状が現れます。フェード現象は主に摩擦材の問題であるのに対し、ペーパーロック現象は油圧系統の問題であるという本質的な違いがあります。
バイクや車のブレーキシステムには、ブレーキペダルを踏んだ力をブレーキに伝える油圧式、エアー式、空気油圧複合式があり、一般的な普通自動車やバイクには油圧式が採用されています。ブレーキの構造にはドラムブレーキとディスクブレーキの2種類があり、ドラムブレーキはブレーキシューという部品をドラムに押し付けることで制動力を発生させ、ディスクブレーキはブレーキパッドがブレーキローターを挟むことで制動力を発生させます。ペーパーロック現象は油圧式ブレーキに多く発生するという特徴があり、バイクライダーは特に注意が必要です。
バイクは車体重量が軽いため一見ブレーキへの負担が少ないように思えますが、山道やワインディングロードでの走行時には連続的なブレーキング操作が必要となり、フェード現象やペーパーロック現象のリスクが高まります。特にスポーツライディングを楽しむライダーや、峠道を頻繁に走行するライダーは、ブレーキの熱管理について十分な知識を持つ必要があります。また、大型バイクや重量のあるツーリングバイクでは、車体重量による制動時の発熱量が大きくなるため、より注意深いブレーキ操作が求められます。
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ペーパーロック現象を予防する最も効果的な方法は、ブレーキフルードを定期的に交換することです。バイクの場合、走行距離にして1万~2万km、期間にして1年~2年程度を目安に交換すると良いでしょう。ブレーキフルードは空気に触れているだけで水分を取り込んで劣化するため、あまりバイクに乗る機会がなくても2年に1度程度の交換が推奨されています。リザーバータンクでブレーキフルードの色を確認し、薄い黄色から黒や茶色に濁っていたら交換時期と判断しましょう。梅雨時期など湿気が多い時期に頻繁に走ると、ブレーキフルードが湿気を帯びやすくなるため、場合によっては1ヶ月程度で交換が必要になることもあります。
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フェード現象を予防するには、フットブレーキの多用を避けることが最も重要です。長い下り坂では、Dレンジ(ドライブ)から低速ギアに切り替えて、エンジンブレーキを主体的に使用するようにしましょう。エンジンブレーキは、アクセルペダルから足を離すことでエンジン内の抵抗が増え、減速力が発生する仕組みです。ギアが低いほうが強く効くので、3、2、1といった順番で段階的にシフトダウンさせます。急にギアダウンさせるとエンジンの回転がついていけなくなり、エンジンに支障をきたすため注意が必要です。フットブレーキは補助的に使い、強く短く踏むことでフェード現象の予防に有効です。
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ブレーキに異常が起きていないかを日ごろから点検しておくことも、フェード現象やペーパーロック現象の予防に効果的です。日常点検する際には、適切なブレーキペダルの踏みしろ、ブレーキフルードの液量が規定量入っているか、ブレーキの利き具合、異音の有無などについてチェックすると良いでしょう。ブレーキを踏んだ際に違和感がある場合や、ブレーキパッドを踏んだ時に車体から「キー」という甲高い音がする場合は、ブレーキパッド摩耗の合図ですので新品に交換してください。車検があるバイクなら、車検のタイミングでブレーキフルードの交換を行うのも良い方法です。
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山道はカーブが多く、アップダウンの激しい勾配が続く道路も多いため、ブレーキを多用しやすくフェード現象が起きやすい環境です。特に直線距離が短く、コーナーが続く場合にはブレーキを酷使しがちなので、低いギアとエンジンブレーキを使い、フットブレーキ頼りの運転をしないようにしましょう。坂道でスピードを出し過ぎないように注意することも重要で、速度管理を適切に行うことでブレーキへの負担を軽減できます。バイクでツーリングに出かける際は、事前にルートを確認し、長い下り坂がある場合は特に注意して運転することが求められます。
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バイク特有の予防策として、長時間の走行後や山道走行後には、適度に休憩を取ってブレーキを冷却させることが重要です。ブレーキパッドやブレーキディスクの温度が上がりすぎないよう、連続走行を避けて定期的に停車し、走行風による自然冷却を促すことが効果的です。また、高性能なブレーキパッドや放熱性の高いブレーキローターに交換することで、熱による影響を軽減することも可能です。スポーツ走行を頻繁に行うライダーは、ブレーキ冷却ダクトの装着やメッシュホースへの交換など、ブレーキシステムの強化を検討するのも良いでしょう。
参考)https://www.goobike.com/magazine/ride/technique/42/
もしペーパーロック現象が発生してブレーキが効かなくなった場合は、まず慌てずにエンジンブレーキを使用して減速しましょう。ギアを少しずつ下げて減速し、十分にスピードが下がったところでパーキングブレーキ(サイドブレーキ)をかけて停車します。減速の際は、いきなり低速ギアに入れるのではなく、徐々にシフトダウンすることが重要です。もしこの方法を使っても止められない状況であれば、ガードレールや路肩にこすらせながら止める方法もありますが、その際は周りの安全に十分注意してください。走行中に急にエンジンを切るのは厳禁で、エンジンを切るとパワーステアリングが利かなくなり、思うようにハンドルを動かせなくなる恐れがあります。
フェード現象が起きた場合も、ペーパーロック現象と同様にエンジンブレーキを使用して減速することが基本です。近くに停車スペースがあれば停車して、ブレーキが冷えるまで60分程度待ってみましょう。フェード現象の場合、ブレーキが冷えると制動力が回復することもありますが、ペーパーロック現象の場合はエアーが残り完全に回復することは難しく再発の可能性が高いため、基本的には走らず、販売店で点検をしてもらいましょう。ブレーキ部分から白煙が出ていても、ローターの割れなどの原因となるため、水をかけることは厳禁です。
これらの現象が発生した後は、必ず専門店での点検を受けることが重要です。フェード現象の場合は、ブレーキパッドやブレーキシューの摩耗状態、ブレーキローターの状態を確認する必要があります。ペーパーロック現象が発生した場合は、ブレーキフルードの交換に加えて、ブレーキラインのエア抜き作業が必要になることがあります。トラブルがある状態の車両やバイクに乗ることは非常に危険ですので、必要に応じてロードサービスを利用して、自走せずに修理工場まで搬送することをお勧めします。
エンジンブレーキによる減速や自然冷却は、あくまでも応急処置です。日ごろから車両の状態に気を配り、少しでも異常を感じたら早急に点検・修理を行ってください。特にブレーキ系統のトラブルは重大事故に直結するため、自己判断で走行を続けることは絶対に避けるべきです。ブレーキフルードの交換やブレーキパッドの点検など、定期的なメンテナンスを怠らないことが、これらの現象を未然に防ぐ最も確実な方法です。
実際にこれらの現象を経験したライダーの多くが、「前兆に気づかなかった」「メンテナンスを怠っていた」と証言しています。ブレーキの効きが普段と違うと感じたら、たとえ小さな違和感であっても無視せず、すぐに点検を受けることが重要です。また、長距離ツーリングの前には必ずブレーキフルードの状態を確認し、必要に応じて交換しておくことで、旅先でのトラブルを防ぐことができます。バイク乗りにとって、ブレーキは命を守る最も重要な装置であることを常に意識し、適切なメンテナンスと慎重な運転を心がけましょう。
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