
天然ガス価格は地域によって大きく異なる構造を持っています。2025年9月時点で、日本の天然ガス価格は11.72ドル/百万BTU、アメリカ(ヘンリーハブ)は2.97ドル/百万BTU、欧州は11.12ドル/百万BTUとなっており、日本はアメリカの約4倍の価格水準です。日本の天然ガス価格は2024年から2025年にかけて12ドル台前半で安定推移していますが、2022年のピーク時(23.73ドル/百万BTU)と比較すると大幅に低下しています。
参考)天然ガス価格の推移 - 世界経済のネタ帳
世界の天然ガス需要は2024年に過去最高の4兆2,120億立方メートルを記録し、前年比2.8%増加しました。この需要増加の背景には、アジア市場の急成長と経済回復があります。特に中国を中心としたアジア太平洋地域が需要増加の約45%を占めており、この地域の経済活動が価格に強い影響を与えています。
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アメリカのヘンリーハブ価格は2024年11月に18%急騰し、重要な抵抗ラインを突破しました。この急騰の要因は、気温低下による暖房需要の増加観測、在庫の予想外の減少(30億立方フィート減)、そしてウクライナ情勢の緊迫化による供給懸念の3つです。
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天然ガス価格を左右する要因は多岐にわたります。最も直接的な影響を及ぼすのが気候条件で、冬季の寒波は暖房需要を増加させ、価格を押し上げます。2024年11月のアメリカでは、感謝祭から12月初旬にかけて気温が氷点下になる予想が出され、暖房燃料需要の思惑が価格上昇を招きました。
在庫水準も重要な価格決定要因です。米国エネルギー情報局(EIA)の統計によると、商業用天然ガス在庫がアナリスト予想に反して減少したことで、需給ひっ迫観測が強まり、価格がさらに上昇しました。在庫が過剰な状態では価格が下落し、不足すれば上昇するという基本的な需給メカニズムが働いています。
参考)天然ガス価格が下落、在庫増加幅が市場予想を上回り過剰在庫に
地政学的要因も無視できません。ロシアによるウクライナ侵攻は欧州の天然ガス市場に大きな混乱をもたらしました。2022年にはロシア産天然ガスの供給不安から欧州の天然ガス価格が急騰し、石炭需要も増加するという連鎖的な影響が発生しました。
参考)https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/1-2-1.html
原油価格との連動性も日本市場では特に重要です。日本の液化天然ガス(LNG)価格は原油価格にリンクする契約が主流であり、原油価格の変動が直接的にLNG価格に反映されます。この価格決定方式により、日本の天然ガス価格は国際的な原油市場の動向に強く影響されています。
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天然ガス価格の地域間格差は、各地域のエネルギー供給構造と取引形態の違いを反映しています。アメリカは世界最大の天然ガス生産国であり、2023年の生産量は1兆600億立方メートルに達しました。豊富な国内生産により、アメリカの天然ガス価格は他地域と比較して大幅に安価です。
参考)天然ガス価格の推移(スポット)|新電力ネット
過去の価格推移を見ると、2022年はエネルギー危機の年でした。ロシアのウクライナ侵攻により、欧州の天然ガス価格は2022年8月に70.04ドル/百万BTUまで急騰し、日本も同年9月に23.73ドル/百万BTUのピークを記録しました。その後、2023年から2024年にかけて価格は徐々に正常化し、日本では12ドル台前半、欧州では11ドル台、アメリカでは2-3ドル台で安定しています。
世界の天然ガス生産は2024年に4兆1,900億立方メートルとなり、中東での増加が顕著でした。主要生産国は、アメリカ(1兆600億立方メートル)、ロシア(6,820億立方メートル)、中東全体(7,410億立方メートル)、中国(2,460億立方メートル)です。
輸出では、アメリカが2,155億立方メートルで首位、ロシアが1,757億立方メートル、カタールが1,612億立方メートルと続きます。日本は天然ガスの大半を輸入に依存しており、供給源の多様化とコスト削減が課題となっています。
参考)2023年の天然ガス生産量は世界で4兆2,829億立方メート…
天然ガス価格がバイク愛好家に与える影響は、一見すると直接的な関係が見えにくいものの、実際には複数の経路で燃料費に波及します。まず、天然ガスは発電燃料として広く使用されており、その価格変動は電気料金に反映されます。電動バイクのユーザーにとっては、天然ガス価格の上昇が充電コストの増加に直結します。
参考)https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/price.html
さらに重要なのは、天然ガス価格と原油価格の連動性です。日本では天然ガス(LNG)の輸入価格が原油価格に連動する契約が多く、原油価格の上昇は同時に天然ガス価格も押し上げます。ガソリン価格は原油価格に強く影響されるため、間接的に天然ガス市場の動向がガソリン価格にも波及する構造があります。
参考)原油に連動する「天然ガス」の価格変動が影響を与える意外な商品…
興味深い研究によると、ガソリン価格が1ドル上昇すると新型バイクの販売台数が295,000台増加し、同時にバイク事故による死亡者数も233人増加するという統計があります。これは、燃料費の高騰により、経済的な理由で自動車からバイクへの乗り換えが進むためです。つまり、エネルギー価格の高騰は単なるコスト増だけでなく、バイクコミュニティ全体の規模と安全性にも影響を及ぼします。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5005806/
天然ガスを圧縮天然ガス(CNG)として直接バイクの燃料に使用する技術も研究されています。CNGは従来のガソリンよりも温室効果ガス排出量が10-20%少なく、環境面でのメリットがあります。ただし、インフラ整備の課題があり、現時点では普及が限定的です。
参考)https://downloads.hindawi.com/journals/jen/2013/268263.pdf
各国際機関による天然ガス価格の予測は、中長期的な安定化を示唆しています。米国エネルギー情報局(EIA)の短期エネルギー見通しでは、ヘンリーハブ天然ガススポット価格が2025年に3.40ドル/百万BTU、2026年に3.90ドル/百万BTUと予測されています。世界銀行の予測では、日本の天然ガス価格は2025年に12.5ドル、2026年に11.5ドル/百万BTUと、緩やかな下落傾向を見込んでいます。
参考)天然ガス価格の見通し・予測|新電力ネット
国際エネルギー機関(IEA)の「World Energy Outlook 2024」によると、現行政策シナリオ(STEPS)では日本の天然ガス価格が2030年に8.3ドル、2040年に8.8ドル、2050年に8.7ドル/百万BTUと予測されています。ネットゼロシナリオ(NZE)では、脱炭素政策の進展により2030年に5.0ドル、2050年に4.8ドルまで低下する可能性があります。
2025年の世界の天然ガス需要は前年比2.3%増加し、主にアジアの経済成長が牽引すると予想されています。供給面では、LNG液化能力が2022年以降1,500億立方メートル以上増加し、特に米国が75%を占めました。カタールやアラブ首長国連邦などの中東諸国でも新規プロジェクトが承認され、2024年の第1-3四半期だけで450億立方メートル以上の案件が進行しています。
参考)IEA、2024年と2025年の天然ガス需要は過去最高との予…
ライダーにとっての実質的な影響として、天然ガス価格の安定化は電気料金の抑制につながり、電動バイクユーザーのランニングコストを軽減します。また、原油価格との連動により、ガソリン価格も中期的には安定する可能性が高まっています。ただし、地政学的リスクや気候変動による需要変動は予測不可能な要素として残ります。
参考)[2407.16723] Interval Forecast…
長期的には、脱炭素化の流れの中で天然ガスから再生可能エネルギーへの転換が進むことで、化石燃料価格の変動がエネルギーコスト全体に与える影響は徐々に低下すると予想されます。しかし、その移行期間においては、天然ガス価格の動向を注視し続けることがバイクライフの経済性を考える上で重要です。
参考)https://ene.osakagas.co.jp/media/column/enebusi_10.html
米国エネルギー情報局(EIA)による天然ガス価格の長期予測データと2026年までの短期見通しを詳しく掲載
資源エネルギー庁による世界的なエネルギー需給ひっ迫と資源燃料価格高騰のメカニズムの解説