バンク角とエンジン配置の関係:V型と並列の違い

バンク角とエンジン配置の関係:V型と並列の違い

バンク角とエンジンの関係

この記事のポイント
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エンジン幅とバンク角

V型エンジンは幅が狭いため、低い位置に搭載してもバンク角を確保できる特徴があります

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クランクシャフトの影響

並列4気筒は幅広のクランクシャフトにより、ジャイロ効果が強く安定性が高まります

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搭載位置の自由度

エンジン幅が搭載位置を決定し、それがバイクのハンドリング特性に大きく影響します

バンク角に影響を与えるエンジン幅の違い

バイクのバンク角を語る上で、エンジン幅は極めて重要な要素です。正面から見た時のエンジンの幅が広いと、深くバンクさせた際に路面と接触してしまうため、高い位置にエンジンを搭載する必要があります。逆にエンジン幅が狭ければ、低い位置に搭載してもバンク角の問題は起こりにくくなります。
参考)二輪車を考える 第三回 V型エンジンと直列エンジンを正面から…

V型エンジン、特にV型2気筒は並列4気筒に比べて圧倒的に幅が狭く、単気筒よりも少し広い程度です。この特性により、V型エンジンは低い搭載位置でもバンク角の制約を受けづらく、搭載位置の自由度が高まります。一方、並列4気筒エンジンはクランクシャフトが長いため幅が広く、バンク角を確保するには高い位置への搭載が必要になります。
参考)どうして高性能なバイクほどシートが高いのですか?【教えてネモ…

実際のバイク設計では、CBR600RRがコーナリング性能向上のためにクランクシャフト部分の横幅を狭く設定し、深いバンク角を実現しています。このように、エンジン幅はバンク角を左右する物理的な制約となるのです。
参考)バイク選びで知っておきたい「Vツインエンジン」は何がイイ?

バンク角を深くするためのV型エンジンのバンク角設定

V型エンジンにおける「バンク角」という用語には、実は二つの意味があります。一つは前後シリンダーの開き角度を指すエンジン自体のバンク角、もう一つはバイクを倒した時の車体のバンク角です。この二つは密接に関係しています。
参考)V型2気筒 - Wikipedia

V型エンジンのバンク角(シリンダー間の角度)は、一般的にバイクでは45度や90度が採用されています。90度のバンク角を持つV型エンジンは、前後シリンダーの振動が互いに打ち消し合うという大きなメリットがあります。しかし、バンク角を大きくするとエンジン幅が広がり、バイクを深く倒す際の制約になる可能性があります。
参考)バイクのエンジンはシリンダー配列が違うと変わる?並列、V型、…

興味深い例として、ヤマハVMAXは先代モデルからVバンク角を70度から65度に縮めています。バンク角を小さくすることで、全体的にコンパクトなエンジン配置を実現し、車体のバンク角確保に貢献しているのです。ただし、角度を詰めすぎると吸気系のレイアウトが厳しくなり、後バンクの排気管処理も難しくなるというトレードオフがあります。
参考)ヤマハVMAXのエンジン:あえて非合理なV型を選ぶ理由とは[…

エンジン搭載位置がバンク角に与える影響

エンジンの搭載位置は、バンク角だけでなくバイクのハンドリング特性全体に大きな影響を与えます。高い位置にエンジンを搭載すると、バンク角を大きく確保でき、中立付近の安定性が向上します。しかし、バンク角が深くなると高重心がバイクを地面へ引き寄せる作用が働き、フルバンク付近での安定性に欠ける傾向があります。
参考)http://replica2st.la.coocan.jp/etc/teijyushin.htm

逆に、低い位置にエンジンを搭載すると、中立付近は軽く動き倒し込みが楽になります。フルバンク付近では起き上がり小法師のように起きようとする力が大きく、この領域では重たいバイクに感じられます。V型ツインは幅が狭いため低くマウントでき、この低重心により軽快な倒し込みが可能になるのです。​
並列4気筒の場合、幅が広いため低い位置に搭載するとバンク角の問題が生じます。さらに、低い位置に搭載した場合、フルバンク付近でバイクの立ち上がりが強烈になるという問題もあります。そのため、並列4気筒は高い位置への搭載が一般的ですが、これにより重心が高くなるというトレードオフが生まれます。
参考)バンク角が深くなるとコーナーリングが速くなるとマウントする人…

クランクシャフトのジャイロ効果とバンク角の関係

クランクシャフトが高速回転することで発生するジャイロ効果は、バイクのハンドリングに大きな影響を与えます。クランクシャフトの幅が広い並列4気筒は、V型2気筒に比べてジャイロ効果が強く、直進安定性が高まります。しかし、この強いジャイロ効果は、コーナーでバイクを倒し込む際に抵抗として働きます。
参考)★なぜMotoGPでは逆回転クランクシャフトが採用されている…

エンジンの搭載位置とクランクのジャイロ効果の関係も重要です。V型ツインのような短いクランクシャフトは安定性を生み出しづらいですが、搭載位置が低い場合にクランクのジャイロ効果が弱いため、フルバンク付近での立ち上がりが穏やかになります。これはスポーツ走行において大きなアドバンテージとなります。​
最新の高性能バイクでは、逆回転クランクシャフトを採用することで、この問題を解決しています。逆回転クランクシャフトは、ホイールの回転で発生するジャイロ効果を打ち消す方向に働くため、バイクをクイックに曲げることができ、向き変えも素早くなります。DucatiのMultistradaV4など、コーナリング性能を重視するモデルで採用されているのはこのためです。
参考)MultistradaV4は何故逆回転エンジンなのか?

二気筒エンジンのクランク角がバンク角に及ぼす影響

二気筒エンジンにおけるクランク角(クランク位相)は、2つのピストンの動きのずれの度合いを示すもので、エンジン特性に大きな影響を与えます。並列2気筒エンジンでは、360度位相クランクが基本形で、2つのピストンが同時に往復運動しますが、爆発タイミングは交互にずらしています。
参考)バイク選びはエンジンで決まる?! 今さら聞けない『気筒数とク…

現在多くの並列2気筒エンジンで採用されている270度位相クランクは、2気筒らしい鼓動感を生み出すことを主眼としています。このクランク角の違いは、エンジンの振動特性や出力特性に影響を与え、間接的にバイクのハンドリングにも関わってきます。
参考)二気筒エンジンが七変化した理由 -クランク角について- - …

V型エンジンの場合、バンク角を90度に設定すると、クランク角も90度となり、互いの振動を打ち消し合う効果があります。しかし、多くのバイクではバンク角が90度よりも狭く設定されており、その理由はコンパクトな車体設計とのバランスを取るためです。興味深い例として、52度という狭角ながら90度と同じ燃焼タイミングを持たせたVツインエンジンも開発されています。​

バンク角を最大限活かすエンジン設計の最新技術

現代のスポーツバイクは、深いバンク角を実現するために様々な技術が投入されています。スーパーバイク系は、左右へ素早くリーンする運動性を狙って、とてつもなくスリムなエンジン幅と車体幅に設計されています。これにより、ライダーが深くバンクしても車体が路面に接触しにくくなります。​
バンク角の限界を知らせる「バンクセンサー」という装置も重要な役割を果たしています。ステップの下面に取り付けられた棒状のバンクセンサーは、深くバンクした際に真っ先に路面に接地し、その振動や音でライダーに限界を知らせます。これにより、エンジンやフレームなど重要な部分が路面に接触する前に警告を受けることができます。
参考)【Q&A】ステップから生えているツノは何のため? 地面に擦っ…

V型エンジンの場合、L字型に搭載することで全長を抑える工夫もあります。90度Vツイン自体を更に90度傾けてL字にすることで、前後長を短縮し、より理想的な重量配分を実現できます。ただし、この配置では後ろのシリンダーが立ってしまうため、フレームや吸排気のレイアウトに制約が生まれ、整備性が悪くなるというデメリットもあります。​
現代のバイク開発では、エンジン幅、搭載位置、クランクシャフトの回転方向、そしてバンク角という複数の要素を総合的に最適化することで、高いコーナリング性能を実現しています。単にバンク角を深くすれば速く曲がれるというわけではなく、これら全ての要素のバランスが重要なのです。
参考)ライテクをマナボウ 「深くバンクするほどよく曲がる…ワケジャ…