
ジャイロ効果とは、回転している物体をある方向へ傾けようと力を加えると、その方向とは違う向きへ傾こうとする現象を指します。一般的には、物体が自転運動をすると姿勢を安定させる性質として理解されています。
参考)ジャイロ効果 - Wikipedia
この効果は、回転する物体が高速で回転しているほど強く現れます。例えば、止まっているコマはすぐに倒れてしまいますが、勢いよく回転させると長時間立ち続けることができます。
参考)回っているコマはなぜ倒れない?「ジャイロ効果」の不思議な性質…
学術的には、以下の3つの性質が特徴として挙げられます:
ジャイロ効果は物理学における「角運動量保存の法則」に基づいています。物体が回転すると「角運動量」というエネルギーを持ち、一度生じた角運動量は外から力(トルク)を加えない限り変わらないという性質があります。
参考)なぜジャイロ効果は姿勢を安定させるの?回転体が生む“ブレない…
角運動量保存とジャイロ効果の詳しい数式解説(ScienceTime)
角運動量保存則を式で表すと、角運動量の変化分ΔLと時間Δtの比率がトルクNに等しくなります。このため回転体は今の回転方向を維持し続けようとし、向きを変えるのが難しくなります。
参考)角運動量
物体が回転している間は、回転軸に直角に力を加えると、回転軸は力の方向と垂直にふれる現象が生じます。これは力を加えた方向に傾くのではなく、90度ずれた方向に力が働くという独特の挙動です。
参考)https://www2.ph.sci.toho-u.ac.jp/saito/Mnote%20Saito%20(13)%20v1.3%202019.pdf
回転する車輪の軸を片側だけ吊るした実験では、重力によって下に落ちるのではなく、姿勢を維持したまま軸全体が水平に回転します。これは角運動量ベクトルがトルクを追いかける方向に動くためです。
ジャイロ効果において、回転軸が首を振るように回転する運動を「歳差運動(precession)」と呼びます。歳差運動は別名「首振り運動」「みそすり運動」「すりこぎ運動」とも表現されます。
参考)歳差 - Wikipedia
歳差運動が起こる仕組みは、回転するコマに重力によるトルクが継続的に加わることで、自転の角運動量ベクトルが大きさを変えずに向きだけを回転させるためです。これは、中心力によって等速円運動している物体が運動量ベクトルの大きさを変えずに向きだけを回転させているのと同じ関係にあります。
地球の歳差運動とジャイロ効果の実験的理解(高校物理の範疇での解説)
地球の歳差運動も同じ原理で説明できます。地球の自転軸は約26000年の周期で円を描くように振れていますが、これも太陽と月の引力によるトルクが地球の回転に影響を与えているためです。
参考)https://yamauo1945.sakura.ne.jp/saisa.html
回転軸が慣性主軸でない場合には、外力が無くても回転軸が慣性主軸のまわりを振れ回るような動きをする「自由歳差運動」も存在します。
バイクの走行安定性については、ジャイロ効果が関与していると長年考えられてきましたが、実は完全には解明されていない部分があります。従来はジャイロ効果とトレール効果がバイクの安定性に寄与すると説明されていましたが、近年の研究では両者とも直接的な安定性には関係ないという報告もあります。
参考)バイクがなぜ安定して走るのか、実はわかってない(その6)|n…
走行中のバイクには、ホイールの回転によってジャイロ効果が働き、バイクを傾けた方向と逆の力が発生します。このため安定して旋回するには、ジャイロ効果に打ち勝つ力でバイクを傾けることが求められます。
参考)セルフステアリング効果とは?車体の傾きで旋回力を生み出す【バ…
バイクのセルフステアリング効果とジャイロ効果の詳細解説(clicccar)
バイクの旋回力は複数の要素から構成されています。車体の傾きによって発生するセルフステアリング効果、タイヤの傾きに応じた旋回内側に発生するキャンバースラスト力、そしてタイヤの接地面の直径差に起因する旋回力の3つが主な要因です。
興味深い事実として、ホイールだけでなく回転するエンジン部品や駆動系部品にもジャイロ効果による力が働いています。物体が大きく重いほどジャイロ効果は大きくなるため、大型バイクほどこの影響は顕著になります。
参考)バイクにおけるジャイロ効果とは? - 具体的にはどのような状…
ジャイロ効果の原理は、現代の様々な技術分野で実用化されています。特にバイク業界では、姿勢制御技術として重要な役割を果たしています。
ホンダは二足歩行ロボットASIMOの開発で得られたジャイロ技術を、モーターサイクルの姿勢制御に応用しています。ASIMOが安定して歩いたり走ったりできるのは、自分の姿勢を感じ取って自らバランスを取る制御が行われているためです。
参考)https://www.honda.co.jp/WGP/spcontents2012/RC-V_factory/report-electronics/page3/
ホンダの二輪姿勢制御技術「Honda Riding Assist」公式解説
現代のバイクには、IMU(慣性測定装置)と呼ばれるシステムが搭載されています。IMUはジャイロセンサーとG(加速度)センサーで構成され、ピッチ・ロール・ヨーの回転運動(角速度)や前後・上下・左右の加速度を検出します。
参考)令和元年の技術はコレ! 2大電子制御『トラクションコントロー…
この情報はトラクションコントロールやコーナリングABSなどの安全制御に活用されています。加速度センサーとジャイロセンサーを複合したIMUや舵角センサーの情報を元に、ECUが各アクチュエーターを適切に制御することで、低速走行時や停止時でも自立を可能にしています。
参考)転倒不安のないバイクを目指して 二輪姿勢制御 Honda R…
ジャイロセンサーの応用は、バイクだけでなく、ドローンの姿勢制御、スマートフォンの画面回転検出、ゲームコントローラーの動き検出など、私たちの日常生活の至る所で活用されています。
参考)MEMS研究と応用の最新動向
航空機やロケットの姿勢制御にもジャイロ効果の原理が応用されており、安定した飛行を実現するための基盤技術となっています。ジャイロモノレールと呼ばれる実験的な交通システムでは、回転する円板のジャイロ効果を利用して二輪車の転倒を防ぐ仕組みが研究されています。
参考)ジャイロバイク、ジャイロモノレール、二輪車 href="https://hajimerobot.co.jp/attitude_control/gyrobike/" target="_blank">https://hajimerobot.co.jp/attitude_control/gyrobike/amp;#8211; …
ジャイロ効果を利用した姿勢制御は、将来的には自立走行バイクや転倒防止システムなど、さらなる安全技術の発展に貢献すると期待されています。
参考)自立走行2輪バイクを開発 : 東海大学新聞WEB版