

光化学スモッグは、初夏から秋にかけての日差しが強く、風が弱い日に発生しやすい大気汚染現象です。自動車や工場の排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)や揮発性有機化合物(VOC)が、太陽の紫外線を受けて光化学反応を起こし、「光化学オキシダント」という有害物質を生成することで発生します。遠くの景色が白くモヤがかかったように見えるのが特徴で、この白いモヤの中に高濃度のオキシダントが含まれています。
参考)三重県|大気環境:光化学スモッグの基礎情報
バイクに乗る私たちは、四輪車のドライバーとは異なり、身体が外気に直接さらされている状態で運転しています。エアコンやキャビンフィルターで守られた車内とは違い、ライダーは汚染された大気をダイレクトに浴びながら呼吸し、目を開けていなければなりません。そのため、光化学スモッグの影響を非常に受けやすく、またその症状も強く出やすい傾向にあります。特に交通量の多い幹線道路を走行する場合、周囲の車の排気ガスと、発生した光化学オキシダントの両方にさらされる二重苦となりがちです。
参考)https://allabout.co.jp/gm/gc/302578/
この記事では、ライダーが知っておくべき光化学スモッグの具体的な症状から、走行中にできる対策、そして意外と見落とされがちな「バイクの機材そのものへの悪影響」までを深掘りして解説します。自身の健康を守るだけでなく、愛車を長く乗るための知識としてもぜひ役立ててください。
バイクの運転中に、突然目がチカチカしたり、涙が止まらなくなったりした経験はないでしょうか。これらは光化学スモッグの典型的な症状です。光化学オキシダントは強い酸化力を持っており、粘膜を刺激する性質があります。ライダーは走行風を受けるため、通常の歩行時よりも多くの空気が目や鼻、口に当たります。これにより、汚染物質への曝露量が物理的に増えてしまうのです。
参考)光化学オキシダント(スモッグ)注意報等に注意してください -…
主な症状として以下のようなものが挙げられます。
特にコンタクトレンズを使用しているライダーは注意が必要です。涙の分泌量が増えたり、目の表面が刺激されたりすることで、走行中にコンタクトがずれたり外れそうになったりするリスクがあります。高速道路などでこの状態になると、視界不良により重大な事故につながる可能性も否定できません。
また、喉の痛みや息苦しさは、集中力を著しく低下させます。ヘルメットの中で咳き込むと、シールドが曇ってしまい、さらに視界が悪くなるという悪循環も起こり得ます。「なんとなく調子が悪いな」と思いながら走り続けることは避け、異変を感じたらすぐに安全な場所に停車し、休憩を取ることが重要です。重症化すると呼吸困難や意識障害を引き起こす例も報告されているため、決して軽視してはいけません。
光化学スモッグが発生している、あるいは発生しそうな状況下でバイクに乗る場合、適切な装備と行動でその影響を最小限に抑えることが可能です。最も効果的なのは、外気との接触を物理的に遮断することです。
ヘルメットの選び方と使用法
ジェットヘルメットや半帽タイプは、顔の大部分が外気にさらされるため、光化学スモッグ対策としては不十分です。可能な限りフルフェイスヘルメットを着用しましょう。さらに重要なのはシールドの扱いです。暑い日はシールドを少し開けて走行風を取り込みたくなりますが、光化学スモッグ注意報が出ているような日は、シールドを完全に閉じて走行することを推奨します。
シールドが紫外線をカットするタイプであれば、目への紫外線ダメージは防げますが、気体であるオキシダントの侵入を防ぐには「密閉性」がカギとなります。最近のヘルメットにはエアインテーク(ベンチレーション)機能がついていますが、これも状況によっては閉じたほうが良い場合があります。外部の汚染された空気をヘルメット内に取り込まないよう意識しましょう。
参考)女子ライダー必見!日焼け防止にヘルメットのシールドにプロテク…
マスクやネックウォーマーの活用
呼吸器への影響を減らすために、排ガス対応のマスクや、フィルター機能のあるフェイスマスクを着用するのも一つの手です。一般的な不織布マスクではガス状の物質を完全に防ぐことは難しいですが、粒子状物質(PM2.5など)の吸入を減らす効果は期待できますし、喉の乾燥を防ぐことで粘膜のバリア機能を保つのに役立ちます。
走行後のケア
目的地に到着したり、帰宅したりした後は、すぐに洗眼と過度なうがいを行うことが推奨されています。水道水で目を洗うだけでも、表面に付着した刺激物質を洗い流す効果があります。また、顔や首など露出していた部分の皮膚も洗うとよいでしょう。皮膚が敏感な人は、オキシダントの刺激で肌荒れを起こすこともあります。
参考)光化学スモッグ|ひたちなか市公式ウェブサイト
走行ルートと時間の調整
光化学スモッグは、日射が強く気温が高い日中の午後(14時〜16時頃)に濃度がピークになります。可能であれば、この時間帯の走行を避ける、あるいは交通量の多い都市部や工業地帯を避けてルート設定をするなどの工夫も有効です。山間部や海沿いなど、風通しが良く汚染物質が滞留しにくい場所を選ぶのも良いでしょう。
自治体から「光化学スモッグ注意報」や「警報」が発令された場合、ライダーとしてどのような判断をすべきでしょうか。まず知っておくべきは、これらの発令基準です。
一般的に、光化学オキシダント濃度が0.12ppm以上になると「注意報」、0.24ppm以上で「警報」が発令されます。
注意報発令時の行動
注意報が出た場合、自治体からは「屋外での激しい運動を控える」「なるべく外出を控える」「自動車の使用を控える」といった呼びかけが行われます。
参考)光化学スモッグが発生したときはどうすればよいですか。また情報…
バイクの運転は、一見「座っているだけ」に見えますが、またがってバランスを取り、風圧に耐え、常に周囲に注意を払う行為は、身体的には軽い運動に相当します。さらに前述の通り、外気を直接浴びる環境は「屋外での活動」そのものです。
したがって、注意報発令時に不要不急のツーリングに出かけることは避けるべきです。もしツーリング中に発令を知った場合は、無理に走り続けず、屋内の休憩施設(道の駅の休憩所やカフェなど)に避難し、数値が下がるのを待つのが賢明な判断です。
警報発令時の行動
警報レベルになると、健康被害が出る可能性がさらに高まります。この状況下でのバイク走行は危険です。目が開けられないほどの痛みや、激しい咳が出る可能性があります。直ちに運転を中断し、屋内退避してください。
また、行政からは「自動車等の使用自粛」が強く求められます。これはライダー自身の健康を守るためだけでなく、オキシダントの原因物質であるNOxや炭化水素を排出しないための協力要請でもあります。バイクもガソリンを燃やして走る以上、汚染源の一つです。環境配慮の観点からも、警報時の走行は控えるべきでしょう。
参考)光化学スモツグの発生防止等に関する暫定措置について
情報の入手方法
走行中に防災無線が聞こえることは稀です。スマートフォンのアプリや自治体のメール配信サービスを活用し、リアルタイムで情報を得られるようにしておくことが大切です。最近では、現在地に基づいて大気汚染情報をプッシュ通知してくれる天気予報アプリもあります。特に夏場のツーリングでは、雨雲レーダーだけでなく、光化学スモッグ情報もチェックリストに入れておきましょう。
ここまでは人体への影響を中心に解説してきましたが、実は光化学スモッグは、あなたの愛車であるバイクそのもの、特に「ゴム部品」にも悪影響を及ぼします。これは多くのライダーが見落としがちな、盲点とも言える視点です。
オゾンクラックの恐怖
光化学スモッグの主成分である光化学オキシダントの正体は、大部分が「オゾン(O3)」です。オゾンは非常に強い酸化力を持っており、ゴムの分子結合(特に二重結合)を切断してしまう性質があります。
参考)【徹底解説】ゴムの劣化メカニズム:オゾンの影響を理解しよう …
タイヤの側面や、フロントフォークのダストシール、キャブレターやインジェクション周りのインシュレーターなどに、細かいひび割れが入っているのを見たことはありませんか?これは経年劣化や紫外線だけでなく、大気中のオゾンによる攻撃が原因であることが多く、「オゾンクラック」と呼ばれています。
参考)オゾンクラックとは?メカニズムと対処法をご紹介
なぜスモッグの時期に注意が必要か
「タイヤのひび割れは紫外線のせい」と思っているライダーは多いですが、紫外線とオゾンは別の劣化要因です。紫外線は表面を硬化させますが、オゾンはゴムを化学的に分解し、より深い亀裂を生じさせます。
参考)https://bunseki.jsac.jp/wp-content/uploads/2023/07/p259.pdf
光化学スモッグ注意報が出るような日は、大気中のオゾン濃度が通常よりも遥かに高くなっています。つまり、人間が息苦しさを感じるような環境下では、バイクのゴムパーツもまた、目に見えない化学的な猛攻を受けているのです。特に屋外駐車でカバーをかけていないバイクは、高濃度のオゾンに長時間さらされ続けることになります。
具体的な対策とメンテナンス
人間だけでなく、バイクという機械にとっても過酷な環境である光化学スモッグ。身体のケアと同時に、愛車の「肌」であるゴムパーツのケアも忘れないようにしましょう。この視点を持つことで、より安全で長くバイクライフを楽しむことができるはずです。
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