

バイクの回転運動を理解する上で欠かせないのが、慣性モーメントを用いた運動方程式です。この方程式はN=Iβと表され、Nは力のモーメント(トルク)、Iは慣性モーメント、βは角加速度を表します。並進運動におけるF=maの式に対応する回転運動の基本法則といえます。
参考)慣性モーメント - Wikipedia
慣性モーメントI=mr2は、回転軸からの距離の二乗と質量の積で定義される物理量で、剛体の「回転のしにくさ」を数値化したものです。質量が並進運動における「動かしにくさ」を表すのと同様に、慣性モーメントは回転運動における抵抗の大きさを示します。
参考)慣性モーメント(イナーシャ)とは?公式と求め方を具体例で解説…
回転運動の運動方程式は、並進運動の運動方程式ma=Fの両辺に回転半径rをかけ、加速度a=rβの関係を代入することで導出されます。この導出過程から、慣性モーメントと角加速度の積が力のモーメントと等しいという関係が明確になります。
参考)回転運動の運動方程式 - date-physics-sp
実際の物体の慣性モーメントを求めるには、形状に応じた計算が必要です。質点系の場合、各質点の質量miと回転軸からの距離riを用いてI=∑miri2で計算します。
参考)https://w3e.kanazawa-it.ac.jp/math/physics/category/mechanics/rigidbody_mechanics/rotational_motion/henkan-tex.cgi?target=%2Fmath%2Fphysics%2Fcategory%2Fmechanics%2Frigidbody_mechanics%2Frotational_motion%2Fmoment_of_inertia.htmlamp;pcview=0
円板の場合、半径a、全質量Mの一様な密度を持つ円板の中心軸まわりの慣性モーメントはI=21a2Mとなります。これは中心から半径rの微小リングの慣性モーメントdI=2πρr3drを積分することで求められます。
工学院大学の教材では、様々な剛体の慣性モーメント計算例が詳しく解説されており、棒や板など基本的な形状の計算方法を学ぶことができます。
参考)https://www.ns.kogakuin.ac.jp/~ft82039/teaching/doc/cphys4.pdf
重心から距離h離れた軸まわりの慣性モーメントIhは、平行軸の定理によりIh=IG+Mh2で求められます。この定理は、回転軸の位置によって慣性モーメントがどう変化するかを示す重要な関係式です。
このIは前輪の慣性モーメントであり、回転し難さを数値化したものといえます。ジャイロモーメントによって前輪がキャスター角に応じた方向に転舵され、バイクは重心位置を調整して転倒を免れます。走行中、バイクは微少な転舵を繰り返すことで安定を維持しており、これを「バイクのプリセッション(二輪の歳差運動)」と呼びます。
二輪車の運動方程式では、車両総質量に対するライダーの割合が高いため、乗車姿勢に応じた重心位置と慣性モーメントの計算が重要になります。ステアリング軸まわりの慣性モーメントをJf、ライダーによる操舵モーメントをMとすると、前輪系の運動方程式が構成されます。
参考)301 Moved Permanently
奈良先端科学技術大学院大学の研究論文では、多目的慣性ロータによる二輪車の安定化制御について、運動方程式を用いた詳細な検討が行われています。
参考)https://naist.repo.nii.ac.jp/record/7657/files/R009032.pdf
コーナリング時には、遠心力に加えてタイヤ車輪の回転によるジャイロ効果も加わるため、実際の重心は複雑に変化します。バイクを右側に傾けると、重力によって右側に転倒させる力のモーメント(トルク)が作用し、タイヤの回転方向に対して垂直な方向にトルクが持続的に働くことで、新たな回転が生じます。
参考)https://bioring.boo.jp/jairo.html
角運動量Lと角速度ωの間には、慣性モーメントIを介してL=Iωという関係が成立します。この式は、回転運動における運動量保存則を理解する基礎となります。
参考)角運動量保存則3 慣性モーメントの具体例と平行軸の定理|宇田…
慣性テンソルを用いると、より一般的にはL=Iωと表現され、角運動量ベクトルは慣性テンソルによる角速度ベクトルの線形変換として得られます。慣性テンソルの対角成分は慣性モーメント係数、非対角成分は慣性乗積と呼ばれます。
オイラーの運動方程式Iω˙+ω×Iω=Nは、回転座標系における剛体の回転運動を記述します。左辺第一項は角加速度ω˙と慣性テンソルIに比例した回転の慣性力で、「回転のしにくさ」を表します。
参考)動かして学ぶバイオメカニクス#7 〜オイラーの運動方程式と慣…
スポーツバイオメカニクスの解説記事では、オイラーの運動方程式と慣性テンソルについて、動的なビジュアルで理解できる教材が提供されています。
回転運動に伴う運動エネルギーTは、慣性テンソルと角速度を用いてT=21∑jkIjkωjωkと表されます。この式は、回転運動のエネルギー解析に不可欠な関係式です。
低速走行時の直進安定性においても、ステアリング軸まわりの前輪系の慣性モーメントが重要な役割を果たします。前輪系のステアリング軸まわりの運動方程式を立てることで、ふらつきや振動特性を解析できます。
参考)https://meiji.repo.nii.ac.jp/record/15067/files/ndl_000000254855.pdf
ヤマハ発動機の技術資料によれば、車両の運動に与える影響を正確に評価するため、乗車姿勢に応じた重心位置と慣性モーメントを計算モデルに組み込むことが重要とされています。
フライホイール効果として知られる現象では、回転軸に慣性モーメントの大きい回転体を取り付けることで、回転速度の急激な変化を抑止したり、回転によるエネルギーを保存したりする目的で利用されます。電動バイクでは、走行中のクランク軸にジャイロ効果が作用し、この作用によって状態が保たれようとする性質が利用されています。
参考)電動バイクって、ぶっちゃけどうなの? - Webikeプラス
与えられた回転トルクが一定の場合、慣性モーメントが小さいほど大きな角加速度が得られるため、バイクの設計においては軽量化とともに慣性モーメントの最適化が重要な課題となります。距離Rが二乗に比例するため、回転軸から遠くにある質量ほど影響が大きくなり、これがホイール設計における重要な考慮点となります。
参考)http://atp-emtp-reserch.o.oo7.jp/basic_rotational_kinematics_rev.4.pdf