

ラッカースプレーで塗ったカバーが、たった1回のエンジン熱で剥がれてしまい、塗装代が無駄になったライダーが後を絶ちません。
クランクケースカバーの塗装で最初にぶつかる疑問が「どの塗料を使えばいいか」という問題です。ホームセンターに行けばさまざまな缶スプレーが並んでいますが、選択を誤るとエンジンをかけた直後に塗膜がぶよぶよに膨れ上がる、という最悪の結果になります。
まず整理しておきたいのが、クランクケースカバー(クラッチカバー・ジェネレーターカバーなど)はシリンダーやエキパイとは異なり、直接燃焼熱を受ける部位ではないという点です。エンジンオイルの温度は通常100℃前後で推移し、水冷エンジンなら表面温度は80〜110℃程度にとどまります。この「比較的低温」という事実が、塗料選びの重要なポイントになります。
| 塗料の種類 | 耐熱温度の目安 | クランクケースカバーへの適性 |
|---|---|---|
| ラッカースプレー | 約80℃ | ❌ エンジン熱で即剥がれる |
| 2液ウレタンスプレー | 約120〜130℃ | ✅ 水冷エンジンならほぼ対応可 |
| 耐熱塗料(シリコン系) | 200℃以上 | ✅ 空冷・水冷どちらも安心 |
| パウダーコーティング(業者) | 200℃以上 | ✅✅ 最高の耐久性・仕上がり |
ラッカーはダメです。耐熱温度が80℃前後しかないため、エンジンをかけて数分もすれば塗膜が軟化し、あっという間に剥がれてしまいます。実際にYahoo知恵袋などのQ&Aサイトでも「ラッカーは瞬殺で剥がれる」という回答が多数見られます。
DIYで仕上げるなら2液ウレタンスプレーが現実的な選択肢です。つや消しブラックやシルバーメタリックなどの色展開も豊富で、価格も1本1,500〜2,500円程度と手が届きます。ただしウレタンスプレーには「使用前にカチッとなるまで缶底を押して硬化剤を混合させる」という重要な手順があり、これを忘れると硬化剤なしで塗装したことになり、塗膜が強度を発揮しません。
空冷エンジンや旧車など、エンジン表面温度が高くなりがちなバイクには耐熱塗料(シリコン系)を使うのが原則です。耐熱塗料は200℃以上に対応しており、エキパイにも使用できます。ただし色の種類はシルバー・ブラック・チタン系など限定的です。
つまり塗料選びは「バイクのエンジン冷却方式」と「塗りたい場所の実際の温度」で決まるということです。
塗装の品質は下地処理で8割が決まると言われます。これはクランクケースカバーの場合も同様で、むしろ「アルミ素材」という特性からより一層下地処理の重要度が高まります。
クランクケースカバーは基本的にアルミ鋳物でできています。アルミは鉄と違って赤サビは出ませんが、白サビ(酸化アルミニウム)が発生しやすく、特に屋外保管が続いたバイクや中古車では白い粉が表面全体を覆っているケースがよくあります。この白サビを残したまま塗装すると、短期間で塗膜が浮き上がり剥がれる原因になります。
白サビ除去の手順は以下の流れで行います。
下地処理に使う時間は作業全体の6〜7割を占めても構いません。丁寧にここをやり切った人ほど、仕上がりに大きな満足感を得られます。
なお、アルミ鋳物にはサンドブラスト処理も非常に効果的です。細かな砂粒を高圧で吹き付けることで均一な凹凸(アンカーパターン)が表面に形成され、塗料の食いつきが格段に良くなります。自分でやるのが難しい場合は、後述するパウダーコーティング業者に前処理含めて依頼する手もあります。
Webike NEWS|エンジン腰下のDIYペイント手順(脱脂・マスキング・2液ウレタン塗装の詳細手順を写真付きで解説)
いよいよ本塗りの工程です。ここでやってしまいがちな失敗が「一度に厚塗りしてしまう」こと。垂れが出たり、乾燥時に表面が割れたりする原因になります。薄く塗って重ねる、これが基本です。
塗装当日の環境選びも重要なポイントです。夏場の直射日光下では、スプレーを吹いた瞬間にカバーの表面温度が高すぎて塗料が弾かれることがあります。晴れた日の午前中など、気温が高すぎず湿度も低い条件が理想的です。また風が強い日はスプレーのミストが流れてしまい、均一に塗れません。風のない日を選ぶのが原則です。
2液ウレタン缶スプレーは一度「カチッ」と押して硬化剤を混合すると、15時間以内に使い切る必要があります。残量が気になるからといって後日に持ち越すのは不可能なので、使い始める前に塗装する面積を把握しておき、一気に作業を進めることが大切です。
ここが重要です。塗装後にマスキングを剥がすタイミングは「完全硬化前」です。完全に乾いてしまってからマスキングテープを剥がすと、塗膜がテープに引きずられて境界線がギザギザになることがあります。表面がある程度乾いた段階(吹き終わり後30〜60分以内)にゆっくり剥がすときれいな仕上がりになります。
BikeBros.|エンジン載せたままのウレタンスプレーペイント手順(マスキング・塗り方・仕上げまで詳しく解説)
「プロに頼んだほうがいいのか、自分でやるべきか」という迷いはよくあります。費用と仕上がりの両面から整理してみましょう。
DIYで揃える材料は以下の通りで、合計でも5,000〜8,000円程度に収まります。
一方、業者にパウダーコーティング(粉体塗装)を依頼した場合の費用は、クランクケースカバー1枚あたり5,000〜15,000円程度が相場です。焼き付け温度が約200℃で、耐久性はDIY塗装をはるかに上回ります。また結晶塗装(リンクルブラック)のような特殊な仕上げも業者なら可能で、こちらはより高級感のある見た目になります。
| 方法 | 費用目安 | 耐久性 | 仕上がり |
|---|---|---|---|
| DIY(2液ウレタン) | 5,000〜8,000円 | 中〜高 | 良好(慣れが必要) |
| 業者(パウダーコーティング) | 5,000〜15,000円 | 非常に高い | プロ仕上げ |
| 業者(結晶塗装) | 8,000〜20,000円 | 非常に高い | 高級感あり |
費用だけを見ると「DIYが圧倒的に安い」とは言い切れず、道具を一から揃える場合はほぼ同額になることもあります。これは意外な事実ですね。
ただし、DIYにはカスタムや作業の楽しさ、自分の手でバイクを仕上げる達成感という「お金に換算できない価値」があります。逆に業者依頼のメリットは下処理(サンドブラスト含む)から仕上げまでを一括で任せられること、そして均一で高品質な塗膜が得られることです。
塗装が完全に剥がれた状態や深い腐食がある場合は、業者に前処理含めて依頼するほうが長期的にコスパが良くなります。
AWANO COATING|クランクケースカバーへのパウダーコーティング(リンクルブラック)の施工事例と注意点
多くの塗装DIY記事が触れていないのが、「オイル滲みが起きた後のカバーへの再塗装」という問題です。これはクランクケースカバーならではの状況で、知っておかないと余計な出費を招く落とし穴になります。
クランクケースカバーは構造上、エンジンオイルと接触するガスケット面を持っています。経年劣化したガスケットからオイルが滲み出した場合、表面の塗膜にオイルが染み込んでしまうことがあります。この状態で「見た目が悪い」からと上から塗装してしまうと、塗料がオイルを弾いてしまい密着しません。
再塗装前のオイル汚染チェックは必須です。脱脂をしても塗料が点々と弾かれるようなら、オイルが素材深部に染み込んでいる可能性があります。その場合は、パーツクリーナーで何度も洗浄し、場合によっては表面を0.5mm程度削り込んでからプライマーを塗布する対処が必要です。
また、ガスケット交換なしに再塗装だけしても、また同じ場所からオイル滲みが再発します。根本的に直すには、塗装作業と同時にガスケット交換を行うのが最も合理的です。カバーを外す手間は1回で済み、ガスケット代も液体ガスケットなら数百円、紙ガスケットでも数百〜千円程度で収まります。
塗装とガスケット交換はセットで考える。これだけ覚えておけばOKです。
もう一つ見落とされがちなのが「ボルト」の状態です。塗装をきれいに仕上げた後でも、錆びたボルトが残っていると見た目のチグハグ感が目立ちます。クランクケースカバーを固定するボルトは1本あたり100〜300円程度で新品に替えられます。塗装と同時にボルトも新品交換することで、トータルの仕上がりが大きく変わります。これは使えそうです。
MC WEB|KLX125のクランクケース耐熱塗装レポート(白サビ除去・横倒し塗装・カムスプロケットカバーの塗り直しまで写真多数)