
2025年3月時点でのバイオディーゼル燃料の市場価格は、混合率によって大きく異なります。純度100%のバイオディーゼル(B100)は200円~340円/Lという価格帯で取引されており、通常の軽油価格164円/Lと比較すると高額です。一方で軽油に5%だけ混合したB5燃料の場合、安値166円から高値186円の範囲で推移しており、通常の軽油とほぼ同等の価格設定となっています。
参考)BDF バイオディーゼル燃料
バイオディーゼル燃料の製造コストについて、全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会の調査では、2021年度の単純平均で259.5円/Lという結果が出ています。この製造コストには、原料回収・購入費、メタノール・触媒購入費、精製コストなどが含まれています。特に2021年度以降は、円安の影響でメタノール・触媒購入費の中央値が29.0円/Lへと上昇し、製造コストの増大要因となっています。
参考)https://www.jora.jp/wp-content/uploads/2023/03/bdf_2022chousa.pdf
経済産業省の資料によると、軽油(大口需要者向けローリー渡価格)とFAME(脂肪酸メチルエステル)の製造コストを比較した場合、およそ2倍弱程度の差があることが明らかになっています。さらにHVO(水素化植物油)の価格については、軽油の3~5倍程度と推定されており、バイオディーゼルの種類によって価格差が存在します。
参考)https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001889539.pdf
バイオディーゼル燃料の製造コストは複数の要素から構成されています。廃食油を原料とした場合、収集費用として約1,000円/L、前処理コスト(フィルタリング・脱水)として500円/L、エステル化反応費用(メタノールと触媒)として800円/L、精製コストとして700円/L、品質検査費用として200円/Lがかかり、合計で約3,200円/Lのコストが発生します。
参考)バイオディーゼル製造コストは?廃食油・微細藻類の原料比較
原料である廃食油の価格変動も製造コストに大きく影響します。中国における廃食油(UCO)の取引価格は、2025年6月初旬の時点で1トン当たり1,000ドルを超える水準まで上昇しています。こうした原料価格の高騰は、日本国内のバイオディーゼル製造事業者にも影響を及ぼし、一部の事業者は製造から撤退する事態となっています。
参考)エネルギートランジションとバイオ燃料 —エネルギー・通商政策…
製造コストが高額となる背景には、バイオ燃料特有の製造プロセスの多さがあります。素材収集のコスト、運搬に必要なコスト、精製時のコストなど多種類にわたるコストが発生するため、従来の化石燃料よりも製造プロセスが複雑になっています。
参考)バイオディーゼル燃料とは?概要とメリット・デメリットについて…
一般的な軽油価格と比較すると、バイオディーゼル燃料は依然として高価格帯にあります。2025年3月時点でガソリンスタンドの軽油表示価格が164円であるのに対し、B100のバイオディーゼルは最低でも200円以上という価格設定です。ただし、ローリー等による業務用インタンク価格の場合、表示価格より概ね10~20%減の価格設定となるため、大口購入者にとっては若干有利な条件となります。
過去の試験販売事例を見ると、2021年4月にユーグレナ社が東京都内のガソリンスタンドで行った試験販売では、バイオディーゼル燃料が116円/L、バイオハイオク燃料が151円/Lという通常の燃料同等の価格で提供されました。しかしこれは「品質の高さをより多く知ってもらって普及につなげる」という目的のため、本来のコストである約1,000円/L程度を大幅に下げた特別価格でした。
参考)ユーグレナ、次世代バイオ燃料を日本で初めて一般販売 通常価格…
バイオディーゼル燃料の普及を妨げている最大の要因は、製造コストが高く、販売価格では軽油に対して競争力が低いことにあります。軽油との価格差に対する補助が必要であり、企業の自助努力だけでは限界があるという指摘もあります。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/nenryo_seisaku/pdf/018_04_00.pdf
バイオディーゼル燃料の価格を左右する重要な要素として、原料費の変動があります。全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会の調査によると、原料回収・購入費は事業者によって大きく異なり、半分程度の事業者が一桁台~十数円台/Lで調達できている一方、地域によっては取引価格が上昇傾向にあります。
廃食油を原料とする場合、収集ルートの確保が重要なコスト要因となります。飲食店やコンビニエンスストア等の施設、家庭から出る使用済みてんぷら油等を効率的に回収できるかどうかが、製造コストに直結します。一部の地域では専門の回収業者が存在し、収集システムが確立されていますが、そうでない地域では自主的な収集活動が必要となり、コスト増につながっています。
参考)軽油の代替燃料「バイオディーゼル燃料(BDF)」とは?
メタノールや触媒などの化学薬品類も、製造コストの重要な構成要素です。2021年度の調査では、メタノール・触媒購入費の中央値が29.0円/Lとなり、前年の26.0円から3円上昇しています。輸入薬品類は円安の影響を受けやすいため、為替変動が製造コストに大きな影響を与える構造となっています。
バイクにバイオディーゼル燃料を使用する場合、経済性の観点からいくつかの検討事項があります。まず前提として、バイオディーゼル燃料は主にディーゼルエンジン用の軽油代替燃料であり、ガソリンエンジンを搭載する一般的なバイクには使用できません。ディーゼルエンジンを搭載した特殊なバイクや車両でのみ利用可能です。
参考)https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/kankyo/bio_diesel.pdf
混合率が5%以下の軽油混合燃料(B5)であれば、混合前のバイオディーゼル燃料が一定の規格に適合していることを前提に、通常の自動車燃料として使用することが可能です。B5の場合、価格も通常の軽油とほぼ同等の166円~186円/L程度であるため、経済的な負担は少なくなります。
参考)報道発表資料:「高濃度バイオディーゼル燃料等の使用による車両…
しかし、バイオディーゼル燃料をそのまま使用する場合や軽油との混合率が5%を超える場合には、燃料品質の確保に加え、適切な方法により車両改造、点検整備を行わなければ、車両不具合や排出ガス性能の悪化などを引き起こすおそれがあります。これらの改造や点検にかかる追加コストも考慮する必要があります。
バイオディーゼル燃料の価格動向について、将来的にはいくつかの変化要因が考えられます。環境規制の強化や脱炭素化の流れを受けて、バイオ燃料への需要は今後増加すると予想されています。需要の増加に伴い、製造技術の改良や大量生産によるスケールメリットが働けば、製造コストの低減も期待できます。
参考)302 Found
一方で、原料となる廃食油の供給量には限界があり、需要増加に伴って原料価格が上昇する可能性も指摘されています。食用油の価格変動や国際的なバイオ燃料市場の動向も、国内のバイオディーゼル価格に影響を与える要因となります。特に欧州や米国におけるバイオディーゼル需要の増加は、原料である廃食油の国際価格を押し上げる要因となっています。
参考)バイオ燃料とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説|エバ…
政策面では、バイオディーゼル燃料の普及促進のため、軽油引取税の非課税化などの税制優遇措置が求められています。現状では軽油に対する価格競争力が低いため、何らかの補助や支援策がなければ、一般消費者への普及は困難な状況です。
参考)https://www.jora.jp/wp-content/uploads/2025/03/bdf_2024chousa.pdf
二輪車業界においても、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みが進んでいます。日本の二輪エンジンメーカーは、バイオエタノールなどの代替燃料への対応について「明日からでも切り替えられる」という技術的な準備が整っており、燃料系統のゴムやシール材の改良も完了しています。今後は政策決定や市場環境の整備が、バイオディーゼル価格の安定化と普及の鍵となるでしょう。
参考)二輪・四輪メーカー5社がカーボンニュートラル実現に向けた取り…
BDF バイオディーゼル燃料の最新市場価格と混合率別の価格帯について詳しく解説(アブラックス株式会社)
経済産業省によるバイオディーゼルの国内外動向と価格比較データ(PDF)
全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会による製造コスト実態調査(2023年度実績)