
「新基準原付」とは、2025年4月1日から施行される新たな車両区分で、最高出力を4.0kW(5.4ps)以下に制御した総排気量125cc以下のバイクを指します。従来の原付一種(50cc以下)と同様の法的扱いとなる画期的な制度改正です。
この新区分導入により、原付免許または普通自動車免許で運転できるバイクの選択肢が大幅に広がることになります。ただし、注意すべき点として、現在市販されている125ccバイクがそのまま原付免許で運転できるようになるわけではありません。あくまで最高出力を4.0kW以下に制限した特別な仕様の車両が対象となります。
新基準原付の主な特徴は以下の通りです。
この新区分は、道路交通法施行規則および道路運送車両法施行規則の一部改正によって実現しました。型式認定においては、総排気量に加えて最高出力も表示されることになります。
新基準原付が導入される最大の理由は、2025年11月1日から施行される「第4次排出ガス規制」への対応です。この規制は、これまでで最も厳しいと言われており、現在生産されている原付一種(50cc以下)では技術的・コスト的に対応が困難な状況にあります。
日本自動車工業会の発表によると、2023年3月末時点での二輪車保有台数約1,030万台のうち、原付一種は約433万台と全体の4割以上を占めています。この生活の足として広く普及している原付一種が規制強化によって生産終了となれば、多くの利用者に影響が出ることは明らかです。
そこで警察庁、国土交通省、経済産業省と国内二輪メーカーが議論を重ねた結果、排気量を拡大しつつも出力を制限することで、従来の原付一種と同等の扱いとなる「新基準原付」という新区分を設けることになりました。
排出ガス規制の変遷を見ると。
特に注目すべきは、2020年の規制からOBDⅡ(車載式故障診断装置)の搭載が義務化されたことですが、原付一種については2025年10月末まで猶予されていました。しかし、この猶予期間終了後は対応が必須となるため、国内メーカーは50ccクラスの生産終了を予定しています。
新基準原付は、排気量が拡大されても交通ルールは従来の原付一種と変わりません。具体的には以下のルールが適用されます。
免許区分については、原付免許(16歳から取得可能)または普通自動車免許で運転できます。ここで重要なのは、「125ccのバイクなら何でも原付免許で運転できる」という誤解を避けることです。
新基準原付と従来の原付二種(50cc超~125cc以下)は明確に区別されます。
区分 | 排気量 | 最高出力 | 必要免許 | 法定速度 |
---|---|---|---|---|
新基準原付 | 50cc超~125cc以下 | 4.0kW以下 | 原付免許・普通免許 | 30km/h |
原付二種 | 50cc超~125cc以下 | 制限なし | 小型限定普通二輪免許以上 | 60km/h |
原付免許しか持っていない状態で、従来の原付二種や出力制限のない125ccバイクを運転した場合、無免許運転として違反点数25点、免許取消(欠格期間2年)の行政処分、さらに3年以下の懲役または50万円以下の罰金という厳しい罰則が科されます。
新基準原付は税制面でも従来の原付一種と同等の扱いとなります。2025年3月31日に公布・4月1日に施行された「地方税法及び地方税法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律(令和7年法律第7号)」により、以下のように定められました。
これは従来の原付二種と比較すると、排気量によって税額が異なる点で大きなメリットがあります。
区分 | 排気量 | 税額 | ナンバープレート |
---|---|---|---|
原付一種・新基準原付 | 50cc以下・125cc以下(4.0kW以下) | 2,000円 | 白 |
原付二種 | 50cc超~90cc以下 | 2,000円 | 黄色 |
原付二種 | 90cc超~125cc以下 | 2,400円 | ピンク |
つまり、90cc超~125cc以下の新基準原付であれば、従来の同排気量の原付二種より400円税金が安くなります。また、維持費の面でも、排気量が大きくなることで燃費や走行性能が向上し、長距離走行時の経済性が高まる可能性があります。
さらに、新基準原付は原付一種と同じ扱いのため、駐輪場の料金体系においても有利になる場合があります。多くの駐輪場では原付一種と原付二種で料金が異なりますが、新基準原付は原付一種の料金が適用されることが予想されます。
新基準原付の導入は、電動バイク市場にも大きな影響を与える可能性があります。従来、電動バイクは原付一種(最高出力0.6kW以下)か原付二種(最高出力1kW超~2kW以下)に分類されていましたが、新基準原付の導入により、最高出力4.0kWまでの電動バイクが原付免許で運転可能になります。
これは電動バイクにとって大きなブレイクスルーとなり得ます。現在、電動バイクの普及における課題の一つは、十分な航続距離を確保するためにはバッテリー容量を増やす必要があり、それに伴って出力も上がってしまうという点でした。新基準原付の枠組みでは、より高出力の電動バイクが原付免許で運転できるようになるため、航続距離や走行性能の向上した電動バイクの開発が促進される可能性があります。
また、国内外の電動バイクメーカーにとっては、日本市場への参入障壁が下がることになります。特に中国や台湾などのアジア諸国では、すでに125cc相当の電動バイクが普及しており、これらのメーカーが日本市場に参入しやすくなることで、価格競争が活発化し、消費者にとってもメリットとなるでしょう。
さらに、環境面から見ても、電動バイクの普及は大気汚染の軽減やカーボンニュートラルの実現に貢献します。特に都市部での短距離移動において、電動バイクは効率的で環境負荷の少ない交通手段となり得ます。
将来的には、新基準原付の枠組みを活用した多様な電動モビリティが登場することが予想され、バイク業界全体の電動化が加速する可能性があります。
新基準原付の導入は、バイク市場と消費者の両方に大きな影響を与えることが予想されます。まず市場面では、国内メーカーの対応が注目されます。ホンダ、スズキ、ヤマハといった国内大手メーカーは、すでに新基準原付に対応した車両の開発を進めていると見られています。
具体的には、現在販売されている125ccクラスのバイクをベースに、最高出力を4.0kW以下に制限したモデルが登場する可能性が高いでしょう。例えば、ホンダのスーパーカブ110やDio110などがその候補として挙げられます。これらの車両は、エンジン制御ユニット(ECU)のプログラム変更などにより、出力を制限することが技術的に可能です。
消費者にとっては、選択肢の幅が広がるというメリットがあります。従来の50ccクラスと比較して、125ccクラスは車体が大きく安定性が高いため、特に通勤・通学などの日常利用において快適性が向上します。また、エンジン排気量が大きくなることで、坂道や長距離走行時のパワー不足を感じにくくなるでしょう。
一方で、注意すべき点もあります。法定速度は依然として30km/hであるため、より高速での走行が可能な車両性能と法定速度のギャップが生じます。これにより、速度超過の誘惑が高まる可能性があり、安全面での懸念も指摘されています。
また、新基準原付の導入初期は、対応車種が限られる可能性があります。メーカーが新たな規格に対応した車両を開発・販売するまでには時間がかかるため、2025年4月の法施行直後から多様な選択肢が揃うわけではないかもしれません。
消費者としては、新基準原付の導入を見据えて、バイク購入や免許取得の計画を立てる必要があります。特に、現在原付二種(125ccクラス)の購入を検討している方は、新基準原付の登場を待つことで、より低コストで同等排気量のバイクを運転できる可能性があります。
ホンダ スーパーカブ公式サイト - 新基準原付の候補車種として注目されています
日本二輪車普及安全協会 - 新基準原付に関する正確な情報を提供しています
最後に、新基準原付の導入は、バイク業界における大きな転換点となります。排出ガス規制の強化に対応しつつ、原付の利便性を維持するという観点から見れば理にかなった施策と言えるでしょう。しかし、交通ルールの理解不足による違反や事故を防ぐためには、正確な情報提供と啓発活動が重要です。バイクファンとしては、法改正の動向を注視しつつ、安全で楽しいバイクライフを送るための準備を進めていくことが大切です。