

トレール量が70mm以下だと低速旋回時に転倒リスクが急増します。
メカニカルトレールは、バイクの操縦安定性を決定づける最も重要な物理現象の一つです。具体的には、ステアリング回転軸の延長線が路面と交わる点と、前輪タイヤの接地点中心までの水平距離を指します。
この距離をミリメートル単位で表したものが「トレール量」です。一般的なロードバイクでは100mm前後、ミニバイクでは70〜80mm、クルーザーでは110mm以上が標準的な値となっています。
トレール量が大きいほど、ハンドルが元の位置に戻ろうとする復元力が強くなります。
つまり直進性が高まるということですね。
バイクメーカーはこの数値を車種の性格に合わせて綿密に設計しています。スポーツバイクは機敏な操作性を重視して小さめに、ツアラーやクルーザーは安定性を優視して大きめに設定されるのが一般的です。
多くのライダーが混同しがちなのが、キャスター角とトレール量の違いです。キャスター角は路面に対するステアリング軸の傾き角度を表しますが、トレール量は前述した水平距離を指します。
参考)Q18:キャスター/トレールって結局何だ?【30秒でわかる!…
重要なのは、直進安定性に直接影響するのはキャスター角ではなくトレール量だという点です。キャスター角が同じでも、フォークオフセット(ハンドル中心からフォークがどれだけ離れているか)によってトレール量は変化するためです。
例えばスーパースポーツバイクのキャスター角は23〜24度、ネイキッドやツアラーは25〜26度、クルーザーは28〜30度が目安です。キャスター角が大きい(フォークが寝ている)ほど、高速域での直進安定性が高まります。
しかし実際の操縦性を決めるのはトレール量が基本です。タイヤの外径が変わるとトレール量も変化するため、タイヤサイズの変更は操縦性に大きな影響を与えます。
トレールがなぜ直進安定性をもたらすのか、その物理メカニズムを見ていきましょう。バイクが直進中、外乱やライダーの操作で前輪が右に向こうとすると、タイヤの接地点はステアリング軸の接地点を中心に横方向にずれようとします。
このずれが発生すると、タイヤと路面の間に摩擦力が生じます。この摩擦力がトレール量の距離を通じてモーメント(回転力)を生み出し、ハンドルを元の直進状態に戻そうとするのです。
トレール量が大きいほど、このモーメントも大きくなります。
つまり復元力が強くなるということですね。
逆にトレール量がゼロだと復元力が働かず、車輪が左右に不安定に動いてしまいます。これがキャスターの車輪が安定して進む理由でもあり、バイクにも同じ原理が応用されているのです。
ライディング中、トレール量は常に変化しています。特に注意が必要なのが、低速でのターン時です。
バンクして旋回すると、サスペンションが縮んでトレール量が減少します。30km/h以下の低速でターンをしている時、深くバンクさせてサスペンションが大きく縮むと、トレール量が危険なレベルまで減る可能性があります。
スーパーカブ110はトレール量が73mmと、17インチバイクなのにミニバイク並みの設定です。そのためハンドリングが非常に軽く感じられますが、深いバンク時には注意が必要です。
トレール量が少ない状態でバンクすると、ハンドルが切れた時に接地点が前に移動し、最終的に接地しなくなってグリップが破綻します。市販バイクのトレール量が100mm前後に設定されているのは、ハンドリングと安全性のバランスを取るためです。
バイクのカスタムでトレール量を変更する際は、慎重な判断が求められます。フォークのオフセットを変更したり、前後の車高を調整することでトレール量を変えられますが、安全性への影響を十分理解しておく必要があります。
トレール量を減らすと旋回性能は向上しますが、グリップ感が減少し、すっぽ抜ける危険が増します。特に高速走行時には、ハンドルがブレやすくなる現象が発生することがあります。
逆にトレール量を増やすとハンドルが重くなり、復元力が強まってグリップ感は増しますが、クイックな操作がしにくくなります。例えば、適正範囲はわずか2mm程度で、許容範囲でも4mm程度しかないと言われています。
メーカーが決めたノーマル状態が最もバランスが取れています。カスタムする場合は、専門知識を持ったショップに相談することをお勧めします。
<参考リンク>
トレールとキャスターの技術的な詳細について、以下のサイトで図解入りで解説されています。
キャスターとトレール - mc-taichi.com
ライディングによるトレール量のコントロール技術について、実践的な内容が記載されています。
GRA『トレール・コントロール ライディング』その1 - gra-npo.org

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