

空気圧を下げても実はグリップ力は上がりません。
バイクの走行性能を決定する最も重要な要素は、タイヤと路面の間に働く摩擦力です。加速、減速、コーナリングというバイクの全ての動作は、この摩擦力なしには成立しません。
参考)物理法則を知る-タイヤの摩擦力│めんてや for motor…
物理学的には、摩擦力は「摩擦力F=垂直抗力N×摩擦係数μ」という式で表されます。垂直抗力Nは車重とほぼ等しく、摩擦係数μはタイヤと路面の組み合わせで決まる数値です。つまり、どれだけハイパワーなエンジンを搭載していても、タイヤのグリップ力を超える性能は発揮できないのです。
意外なことに、タイヤの太さやサスペンションの性能、ライディングテクニックは、グリップ力の向上にはほぼ役立ちません。
摩擦係数が全てです。
この事実を理解していないライダーは、無意識のうちに摩擦力の限界を超えた操作をして転倒リスクを高めています。ドライコンディションでの摩擦係数は約0.8ですが、ウェットでは約0.4~0.6、積雪時は約0.2~0.5、氷結時は約0.1~0.2まで低下します。路面状況によって摩擦係数は2倍近く変化するということですね。
バイクの加速性能を決めるのは、実はエンジンパワーではありません。「加速力a=重力加速度g×摩擦係数μ」という物理式が示すように、加速度は摩擦係数のみに依存します。
この式から導かれる重要な結論は、車重が重くても軽くても、最大加速度は摩擦係数だけで決まるということです。減速時もマイナス方向の加速度として、コーナリング時も角加速度として、同じ原理が働きます。
プロのライダーなら当然のように理解しているこの事実を、一般ライダーの多くは知りません。ほとんどの市販バイクは、タイヤの性能に対してエンジン性能がオーバースペックなのです。つまり、エンジンが生み出せる駆動力は、タイヤが路面に伝えられる摩擦力を大きく上回っています。
摩擦係数が全てを決めるのが基本です。
タイヤの摩擦力には、静止摩擦力と動摩擦力の2種類があります。静止摩擦力は、タイヤが滑る直前までに発揮される最大の摩擦力で、動摩擦力はタイヤが滑り始めた後に働く抵抗力です。
参考)摩擦力とは タイヤがスリップしている時の摩擦 転がり抵抗~制…
重要なのは、一般的に静摩擦係数よりも動摩擦係数の方が小さいという事実です。つまり、タイヤが一度スリップしてしまうと、グリップ力が低下してスリップし続けやすくなります。これがホイールスピンやロック状態が継続する物理的な理由です。
通常のグリップ走行時は静止摩擦力が働いていますが、駆動力がこれを上回るとタイヤはスリップします。そして一度スリップすると、駆動力が動摩擦力を上回っている間はスリップし続けることになります。
スリップ後の回復が難しいのです。
急ブレーキによるタイヤのロックも同じメカニズムで発生し、ロック後は制動距離が延びてしまいます。最近のバイクに装備されているABSは、このロック状態を防いで静止摩擦力を最大限活用するシステムです。
バイクのタイヤが発揮できるグリップ力は有限であり、前後方向と左右方向のグリップを円で示したのが「摩擦円」の概念です。直立状態では加速や減速に使えるグリップが最大ですが、バンクすると横方向のグリップにも力が配分されます。
参考)【タイヤと路面の接点を感じる”感じるグリップ”】プロフェッサ…
摩擦円の重要なポイントは、縦方向と横方向のグリップを足した合計が100%を超えられないことです。例えば、ブレーキでタイヤのグリップ力を摩擦円の限界(100%)まで使ってしまうと、コーナリングのためのグリップ力は0%になり、ステアリングを切っても反応しません。
参考)【超高速ドラテク講座】第5回「摩擦円」縦と横を足して100%…
逆に、コーナリングでタイヤのグリップ力の限界まで使っている時にブレーキをかけると、減速方向のグリップ力が残されていないため減速できず、アンダーステアを出してコースアウトする危険があります。
コーナリング中はリカバリーが効きません。
グリップは有限だと覚えましょう。
この摩擦円理論を理解することで、コーナー進入前に十分減速する重要性や、コーナリング中のブレーキ操作が危険な理由が明確になります。ハンドルを切っても、ブレーキを踏んでも、アクセルを開けても車両は直進してしまうという最悪の事態を避けるためには、摩擦円の限界を意識した操作が必須です。
コーナリング速度を上げるには、バンク角を大きくする必要があります。コーナーを曲がるバイクには常に遠心力がかかっており、この遠心力とバイクの重力、そして路面からの垂直抗力のバランスでバンク角が決まります。
参考)バイク コーナリング速度をあげる方法 – こたけ…
物理的には、コーナリング速度vとバンク角αの関係は数式で表現できますが、実際の走行では数式だけではわからない絶妙なバランス感覚が必要です。バンク角を大きくしすぎると、路面とタイヤ間の摩擦力が小さくなってタイヤが滑り、転倒してしまいます。
参考)バイク コーナリング速度をあげる方法 – こたけ…
コーナリング中にタイヤの摩擦力の限界を超えると、車両は曲がらなくなります。ハンドルを切っても、ブレーキを踏んでも、アクセルを開けても車両は直進するという危険な状態に陥ります。
特に意識すべきはこの曲がる時なのです。
バランス感覚がカギですね。
一般道では安全第一で運転し、限界性能を探るのはサーキットなどのクローズドコースで実施することが推奨されます。公道でのコーナリング速度の追求は、予測できない路面状況や他の交通との関係で極めて危険です。
「空気圧を下げるとグリップが上がる」という情報を聞いたことがあるライダーは多いでしょう。確かに空気圧を下げると接地面積が増えることは目視できます。しかし、物理的には摩擦力の公式「F=μmg」から、空気圧を変えてもグリップ力Fは変わりません。
参考)バイクのタイヤ空気圧を下げるとグリップが増すマジックの正体と…
摩擦係数μは一定、荷重m(ライダー+バイク車重)も一定、重力gも一定ですから、空気圧に関係なくグリップ力は同じなのです。接地面積が増えても、単位面積あたりの荷重(面圧)が下がるため、総合的な摩擦力は変わらないというのが物理法則です。
参考)タイヤの空気圧を下げてもグリップしない理由とグリップメカニズ…
ただし、レーシングスリックにおいては、温まった作動温度領域で荷重をかけると若干摩擦係数が上がる場合があります。これはゴムの凝着説に基づくメカニズムで、ゴムに荷重が乗るとたわんでアスファルトと接触する真実接触面積が増加するためです。
空気圧低下には別のデメリットもあります。転がり抵抗が増加して燃費が悪化し、同じ速度を維持するためにより多くのスロットル開度が必要になります。タイヤの摩耗も空気圧不足によって進行しやすくなり、これがスリップの原因となることもあります。
参考)https://www.goobike.com/magazine/ride/technique/1/
接地面積だけでは決まりません。
タイヤのグリップメカニズムについて凹凸説と凝着説の詳しい解説があります
バイクの転倒事故の多くは、摩擦力の限界を超えた操作によって引き起こされます。代表的なのが急ブレーキ等によるタイヤのロックからのスリップダウンです。水や砂が浮いた路面など摩擦が低い状態でグリップを失うケースも多く発生しています。
危険を避けようと急ハンドルを切ってのスリップダウンも頻繁に起きます。コーナリング最中にブレーキをかけると、前述の摩擦円理論により横方向のグリップ力が減少し、バランスを崩して転倒しやすくなります。
教習所ではこれが減点対象となっています。
さらに危険なのがハイサイドと呼ばれる転倒です。コーナリングで車体をバンクさせている際、突発的なタイヤのグリップ力の回復によって車体が急に起き上がり、その勢いでアウト側にライダーもろとも引っ張り倒されます。減速時に後輪のグリップ力が失われた後、急激に回復することが主な原因です。
参考)https://www.goobike.com/magazine/ride/technique/40/
コーナー中のブレーキは厳禁です。
これらの事故を防ぐには、カーブに差し掛かる手前の直線部分で十分に減速してカーブに進入することが基本です。摩擦力の限界を意識し、一度に複数の操作(ブレーキとコーナリングなど)を行わないことが安全走行の鉄則となります。
路面状況によって摩擦係数は劇的に変化します。ドライコンディションでの摩擦係数は約0.8ですが、ウェットコンディションでは約0.4~0.6と半分程度まで低下します。積雪コンディションでは約0.2~0.5、氷結コンディションでは約0.1~0.2まで下がります。
この摩擦係数の変化は、加速度や減速度、コーナリング速度に直接影響します。例えば、ドライ路面で安全に曲がれるコーナーも、ウェット路面では同じ速度で進入すると摩擦係数が半分になるため、タイヤが滑って転倒する危険が高まります。
雨天時や路面が濡れている時は、ドライ時の半分程度の速度で走行することが安全の目安です。特に橋の継ぎ目、マンホール、白線などは摩擦係数がさらに低く、これらの上でブレーキやコーナリングを行うのは極めて危険です。
雨天は摩擦係数が半分です。
タイヤの状態も摩擦係数に影響します。タイヤの摩耗や空気圧不足などのメンテナンス不良は、グリップ力を低下させてスリップの原因となります。定期的なタイヤの点検と適正空気圧の維持が、摩擦力を最大限活用するために不可欠です。
太いタイヤを装着すればグリップ力が上がると考えているライダーは少なくありません。しかし、摩擦力の公式「F=μN」から明らかなように、接地面積が変わっても摩擦力は変わらないのが物理法則です。
同じ空気圧下では、太いタイヤも細いタイヤも接地面積はほとんど変わりません。変わるのは接地する部分の形状で、細いタイヤは縦長に、太いタイヤは横長に接地します。接地面積自体はほぼ同じため、この部分での抵抗の差はありません。
ワイドタイヤのメリットは、グリップ力の向上ではなく別のところにあります。接地圧(荷重を接地面積で割った値)が分散されるため、荒れた舗装や継ぎ目での追従が滑らかになり、車体が落ち着く傾向があります。また、コーナーでの横剛性が上がり、より安定してコーナリングできるという利点もあります。
参考)アメリカンバイクで極太ワイドタイヤ装着の魅力とカスタム成功の…
太さだけでは決まりません。
一方で、ワイドタイヤはタイヤ重量が増加するデメリットがあります。平坦な道では気になりませんが、ヒルクライムでは負担が大きくなります。加速時のトラクションも細いタイヤの方が高い場合があります。用途に応じた適切なタイヤ幅の選択が重要です。