制動距離とバイクの物理現象を解説

制動距離とバイクの物理現象を解説

制動距離とバイクの物理現象

低速域ではバイクは車より制動距離が短いのに高速では長くなります。


この記事の3ポイント要約
📐
速度2乗の法則

制動距離は速度の2乗に比例し、50km/hが100km/hになると距離は4倍以上に伸びる

⚖️
前後ブレーキの比率

減速Gで前輪に荷重が移るため、前輪7:後輪3の比率が基本で後輪を強くかけると滑る

🌧️
ウェット路面の危険性

濡れた路面では全ての速度域で制動距離が伸び、摩擦係数が大きく低下する

制動距離の基本と速度の2乗則


制動距離とは、ブレーキが効き始めてからバイクが完全に停止するまでに進む距離のことです。一般的に50km/hで走行時には約18m、100km/hで走行時には約84mの制動距離が必要とされています。この距離が伸びる理由は、制動距離が速度の2乗に比例するという物理法則にあります。


速度が2倍になると制動距離は4倍に、3倍になると9倍になります。これは運動エネルギーが速度の2乗に比例するためです。具体的には、制動距離は「減速前のスピード(km/時)の2乗÷254×摩擦係数」という計算式で求められます。つまり速度が上がるほど、止まるために消費すべきエネルギーが指数関数的に増大するということですね。


バイクの場合、速度60km/hでは制動距離が約27m、80km/hでは約54m、100km/hでは約84mと、速度が上がるにつれて急激に伸びていきます。これに危険を察知してからブレーキを踏むまでの空走距離を加えると、実際の停止距離はさらに長くなります。50km/hでの停止距離は約32m、100km/hでは約112mにも達するのです。


街中の交差点で前方車両が急ブレーキを踏んだ場合を想定してみましょう。60km/hで走行中なら、停止までに約44m(25m分の車約11台分)の距離が必要です。この距離感を常に意識しておく必要があります。


バイクと車の制動距離の違い

バイクの制動性能は速度域によって車と比較した場合に大きく異なります。JAFの検証によると、低速域ではバイクは車よりも制動距離が短いものの、速度が上がるにつれて制動距離が長くなる傾向があります。これはバイクの接地面積が車に比べて小さいためです。


参考)車とは異なるバイクの特性とは?(JAFユーザーテスト)


二輪車は前後2つのタイヤのみで路面と接触しており、四輪車と比べて接地面積が圧倒的に小さいです。低速では軽量なバイクの方が有利ですが、高速になると摩擦力の総量が物を言うようになります。60km/h、100km/hといった高速域では、タイヤの接地面積が大きい四輪車の方が制動距離は短くなるのです。


JAFの実験では、40km/h、60km/h、100km/hの各速度でフルブレーキをかけた際の制動距離を測定しています。速度と路面状況によって制動距離が変化することが明らかになりました。周囲の状況に応じて速度を控えめにし、車間距離を十分に取る必要があります。


参考)速度と路面によって変化! 二輪車の制動や旋回の特性を検証


特に高速道路や幹線道路での走行時には、この特性を理解しておくことが命を守ることにつながります。前方車両との車間距離は、自分の速度における停止距離以上を常に確保しましょう。


前輪と後輪のブレーキ比率の物理

バイクのブレーキングでは、前輪7:後輪3の比率が基本とされています。これは単なる経験則ではなく、物理法則に基づいた最適配分です。ブレーキをかけたときに発生する減速Gにより、前輪側へ大きな荷重が加わり、後輪側の荷重は減少します。


この荷重移動により、前後輪のブレーキ性能には差が生じます。後輪は荷重が抜けるため、強くブレーキをかけるとロックしやすくなるのです。前輪に比べて後輪は路面との間で滑りやすく、滑ると制動ができないだけでなく、操縦の安定性もなくなります。


参考)前後ブレーキ力比 – 自転車探検!


自転車のデータですが参考になる数値があります。体重60kg、自転車質量10kg、サドル高さ890mm、ホイールベース1050mm、重心-後輪間距離230mmの場合、後輪の望ましいブレーキ力は前輪の36%となります。つまり前輪と後輪の望ましいブレーキ力の比は7.4対2.6です。


バイクでも同様の原理が働き、前輪に7割程度の制動力を配分することで、最短距離で安全に停止できます。後輪ブレーキを強くかけすぎると、リアタイヤがロックして転倒のリスクが高まることを覚えておきましょう。


白バイの回避制動訓練の詳細がこちらで解説されています

路面状態と摩擦係数の影響

制動距離を決定する重要な要素が路面の摩擦係数です。一般的な計算では、乾いたアスファルト路面の摩擦係数は0.7~0.8程度とされています。この数値が制動距離の計算式に直接影響します。


参考)https://www5d.biglobe.ne.jp/Jusl/Koutuu/%E9%80%9F%E5%BA%A6%E7%AD%89%E8%A8%88%E7%AE%97.pdf


JAFの検証では、ウェット路面は全ての車両でドライ路面よりも制動距離が長くなることが確認されました。濡れた路面や速度の上昇によって制動距離が長くなり、80km/h以上では旋回時に大きく膨らむ傾向が明らかになっています。


参考)JAF がバイクの制動・旋回について検証結果を公開(動画あり…


摩擦係数は路面の種類によっても大きく変化します。平坦なアスファルト舗装路では0.01(転がり抵抗係数)、砂利道では0.125、砂地や石ころの路面では0.165、粘土質の自然路では0.25です。


雨や雪が降ると、さらに大きく変動します。


制動時の摩擦係数はこれより大きな値になりますが、路面状況による変化の傾向は同様です。


雨天時の走行では、路面の状況に応じて速度を控えめにして車間距離を取ることが大切です。特にマンホールの蓋や白線の上は摩擦係数が極端に低くなるため、その上でブレーキをかけるのは避けましょう。晴天時の感覚で走行すると、予想以上に長い距離が必要になり危険ですね。


参考)JAF がバイクの制動・旋回について検証結果を公開(動画あり…


ABS装着による制動距離の短縮

ABS(Anti-lock Brake System)は、急ブレーキ時にタイヤがロックするのを防ぐシステムです。ロックがかかりそうなブレーキ圧が検知されると、ABSはロックする手前で最適な制動力を発揮できるように制御してくれます。


参考)【意外と知らない】バイクの「ABS」とは何なのか!?


ABSの有無による制動距離の違いは驚くほど大きいです。ある実験動画では、ABSありとなしで最終的に停止までに要した距離が全く異なることが示されています。ABSなしの場合はコケたらバイクがスライドしてもっと大きく違ってくるのです。
これにより制動距離が短くなり、万が一の時でもできる限り安全に停止できるようになっています。特に雨天時やパニックブレーキの場面では、ABSの恩恵は計り知れません。タイヤがロックすると摩擦係数が低下し、かえって制動距離が長くなってしまいます。


現在では多くのバイクにABSが標準装備されていますが、古いバイクには装着されていないことも。バイクの買い替えや中古車選びの際には、ABS装着の有無を重要な判断材料にすることをおすすめします。


安全性能の差は歴然ですからね。


JAFの二輪車特性テストの詳細レポートはこちら

空走距離を含めた停止距離の計算

実際の停止には、制動距離だけでなく空走距離も加算されます。空走距離とは、危険を察知してからブレーキをかけ、ブレーキが効き始めるまでに進む距離です。50km/hで走行時には約14m、100km/hで走行時には約28mにもなります。


参考)https://www.goobike.com/magazine/ride/rule/5/


空走距離は「反応時間(秒)×バイクのスピード(m/秒)」で計算されます。一般的な反応時間は0.7秒程度とされていますが、予期していない場合の知覚反応時間の95パーセントタイル値(100人中95人が反応できる時間)は1.6秒程度です。予期しない状況に直面した場合は2.5秒を用いることが推奨されています。


参考)制動距離と判例。ロードバイクが停止できるまでの距離って??


停止距離は「空走距離+制動距離」で求められます。つまり、危険を感じた瞬間から完全に停止するまでに進む距離の総計ということですね。速度が2倍になれば空走距離は2倍、速度が3倍になれば空走距離は3倍となります。


参考)速度が2倍の場合の制動距離は?空走距離・停止距離の計算方法・…


最低でも車間距離はこの停止距離以上が必要です。法律上、先行車が突如速度ゼロになったことを想定して停止できるだけの車間距離を求められています。バイクの場合、ブレーキレバーに指をかけていると、僅かに反応時間が短くなる可能性が高いです。カバーリングブレーキと呼ばれるこの技術は、緊急時のリスク軽減に有効です。


制動時の荷重移動とピッチオーバー

ブレーキをかけると、バイクの荷重は前輪側に大きく移動します。この現象が前述の前後ブレーキ比率7:3の根拠となっています。荷重移動が大きすぎると、リアタイヤが浮き上がり、最悪の場合はピッチオーバー(前転)が発生します。


参考)自転車の制動距離計算器 – 自転車探検!


ピッチオーバーは、強すぎる前輪ブレーキによって後輪が浮き上がり、バイクが前方に回転してしまう現象です。ブレーキをかけると、その位置で止まるように感じられますが、実際はある距離(制動距離)を走って止まります。この間、慣性の法則により車体には前方へ進もうとする力が働き続けています。


急ブレーキでタイヤをロックさせてしまうと、かえって制動距離が長くなってしまいます。これは静止摩擦係数よりも動摩擦係数の方が小さいためです。タイヤが回転している状態で路面をグリップしている方が、ロックして滑っている状態よりも大きな摩擦力を得られるということです。


白バイの回避制動訓練では、進入速度に応じて停止位置が決められています。速度が高ければ物理的に制動距離も伸びるため当然、停止位置も変わってくるからです。プロのライダーでも、物理法則には逆らえません。一般ライダーは、さらに余裕を持った速度設定と車間距離の確保が必要ですね。


参考)Lesson12/回避制動 “白バイ流” 究極の安全運転テク…


制動距離を短くする実践的テクニック

制動距離を最短にするには、タイヤをロックさせずに最大の摩擦力を引き出すことが重要です。前輪7:後輪3の比率を意識しながら、徐々にブレーキ圧を高めていく「段階的ブレーキング」が基本です。いきなり強くかけるのではなく、荷重が前輪に移るのに合わせて前輪ブレーキを強めていきます。


カーブの手前では十分に減速することが大切です。速度が上がるにつれて回転半径が大きくなり、60km/hと比べ80km/hでは2倍以上になります。カーブ内でのブレーキングは不安定になりやすいため、直線区間で速度を落とし切ることが原則です。


タイヤの空気圧管理も制動性能に直結します。空気圧が低いとタイヤの変形が大きくなり、接地面の状態が不安定になって制動距離が伸びる可能性があります。


メーカー指定の空気圧を維持しましょう。


タイヤの溝が減っている場合も、特に雨天時の制動性能が大幅に低下します。


日頃から自分のバイクの制動性能を把握しておくことも重要です。安全な場所で様々な速度から制動の練習をしておけば、緊急時に適切な判断ができます。これは実際にやってみると、思った以上に距離が必要なことに驚くはずですよ。




DUANLVLF 電動バイク用ショックアブソーバー 硬さ調整可能で道路衝撃吸収 通勤・宅配便・サイクリング愛好家・改造愛好家向け 運転快適性向上・高安定性・異常ノイズ除去・長寿命・制動距離改善(Black,310mm)