

空気圧を適正値より少し高めにするとグリップが落ちる。
バイクが曲がるとき、タイヤには横方向の力が加わります。このとき、タイヤのトレッド(路面と接する部分)は路面との摩擦によって弾性変形を生じ、横方向の力を発生させます。
参考)https://zenn.dev/tzykimura/articles/9a56aefa78da97
この変形は「スリップアングル」と呼ばれる現象と密接に関係しています。タイヤは旋回中に横方向の力が加わると、サイドウォールが変形します。それによりホイールの向きと車両の進行方向にはズレが生じ、このズレがコーナリングフォースという曲がる力を生み出すのです。
つまりグリップの正体は変形です。
タイヤは約600mmの円形であることから、接地点のタイヤが転がる方向もイン側を向き、実舵角は増加することになります。60度ものバンク角ではたった約2度の舵角でも前輪の接地点は40〜50mm近くも前方へ移動します。幅の広い後輪でフルバンクしたとしても、最大で100mmほどしか接地点はイン側へ移動しません。
トレッドゴムの変形は、滑り速度が生じた瞬間に一様に発生するわけではありません。タイヤが転がるにつれて、接地面の前縁から徐々に変形が広がり、接地面全体が変形したときにタイヤ力は定常値に達します。滑り速度が発生してからタイヤ力が定常値に到達するまでに、ある程度の時間(転動距離)を要するということですね。
空気圧はタイヤの変形特性を大きく左右します。直進走行時とコーナリング時では形状が変化するものの、タイヤはホイールリムとタイヤ内面の空間の空気によって形状が保たれています。
空気圧が低下すると内部空間の支えを失い、タイヤ本体の変形が大きくなります。大きな変形が継続することで過大な発熱につながり、パンクやバーストのリスクが高まります。接地面積が増えると単位面積あたりの荷重が低下するデメリットがあります。
一方で空気圧を既定値より高めることで、タイヤは変形しづらくなり、接地面積は少なくなっていきます。空気圧が高すぎると接地面積自体が減少してグリップ力の低下につながります。空気圧が高いとタイヤはより高剛性で変形しにくくなり、特にコーナリング時に「倒し込みやすさ」が増す傾向にあります。
参考)タイヤの力学:空気圧 - セイクレッドグランド【SACRED…
結論は適正値の維持です。
空気圧を上げるとタイヤ剛性が高まり、コーナリングフォースが高まります。と同時にオーバ・ターニング・モメントが小さいので車両は起き上がろうとする力が弱まり、倒れやすい傾向になります。低い空気圧ではタイヤが変形しやすくなり、接地面積が増加します。
これらの変形特性を把握するには、タイヤの空気圧を定期的にチェックする習慣をつけることが最も効果的です。月に1回程度、給油時についでに確認する、スマホのリマインダーアプリで通知を設定する、といった方法で管理できます。
オーバーターニングモーメントは、タイヤに加わる横力によって発生する重要な物理現象です。その主な要因として、横力によるタイヤの変形とキャンバによる接地点の移動の二つが挙げられます。
横力によってタイヤが変形すると、接地荷重の作用点がずれます。一般的なバイク用タイヤでは、正の横力が加わると接地荷重の作用点は正の方向に移動し、その結果、負のオーバーターニングモーメント(反時計回り)が発生します。
これが起き上がる力ですね。
タイヤが路面に接している間、タイヤが変形して生まれるズレ(スリップアングル)は接地面のゴムがねじれることで生じます。ゴムは元の形状に戻ろうとする性質を持っており、この復元力がセルフ・アライニング・トルク(SAT)を生み出します。スリップアングルが増すとねじれ量が増え、セルフ・アライニング・トルクも増加します。
参考)タイヤの力学:接地点 - セイクレッドグランド【SACRED…
接地面が広がる(例えば空気圧を下げた場合など)と、接地面でのねじれが増えるため、SATも増加します。スリップアングルが過大になり、接地面が滑り始めると、タイヤのねじれによる復元力が減少し、SATが低下します。極端なバンク角により、接地点がタイヤの端に達した場合もSATが減少することがあります。
タイヤの転がり抵抗は、進行方向と逆向きに生じる抵抗力のことです。この転がり抵抗は、①タイヤの変形、②接地摩擦、③空気抵抗の3つの要因から構成されていますが、特にタイヤの変形が9割程度の寄与となっています。
参考)タイヤの性能と技術
理想的なバネ(弾性体)は加えた力がバネに保存され、バネを解放すれば加えられた力がそのまま戻ってきます。
つまり理論上はエネルギーロスしません。
一方、ゴム(粘弾性体)に加えられた力は、変形により熱に変換されエネルギーを消費してしまいます。
これがヒステリシスロスです。
タイヤが路面から受ける力により、ゴムが変形し、エネルギーが熱に変換されます。このプロセスで生じる熱によって、タイヤは滑らずに路面に追従し、グリップ力が高まります。ヒステリシス摩擦は、特に粗い路面やウェットコンディションでのグリップ力を向上させます。
参考)タイヤの科学とその深層 - セイクレッドグランド【SACRE…
高圧のタイヤは路面の凹凸を吸収できず、バイクとライダー全体を上下に振動させます。この振動によって失われるエネルギーは「インピーダンス・ロス」または「サスペンション・ロス」と呼ばれます。ある一定の空気圧(ブレークポイント)を超えると、タイヤの変形ロス減少によるメリットよりも、車体の振動によるエネルギー損失の方が大きくなり、総抵抗は急激に増大します。
参考)「走るホイール」の正体:物理学、感性、そしてプラシーボの交差…
燃費だけを考えて空気圧を過剰に上げると、かえって走行抵抗が増える可能性があるということですね。空気圧の管理では、メーカー指定値を基準に、路面状況や走行スタイルに応じて微調整することが重要です。
タイヤの変形は、走行中の物理現象として正常なものですが、異常な変形は重大事故につながります。変形の範囲や具合によっては走行時のハンドルのブレやタイヤのバーストなど、重大事故につながる恐れがあります。
参考)タイヤが変形する原因とは?変形の直し方や予防法などを紹介 -…
タイヤ変形の主な原因は以下の通りです。長期間使用していないこと、保管環境がよくないこと、偏摩耗していること、高温によって溶けること、衝撃によって損傷することなどが挙げられます。
路肩の縁石にぶつかることで、タイヤにコブができることがあります。コブは、タイヤの横側に大きな衝撃を受けることで発生します。部分的に変形しても走行できますが、ハンドルがブレたりタイヤがバーストしたりするリスクは高まっている状態です。
早めの対処が原則です。
タイヤの変形を発見した際は、重大な事故を防ぐためにも早めに対処することが大切です。そのまま走行して直る場合もありますが、業者に依頼して修理してもらうか、新しいものに交換する方が安全です。
異常な変形を防ぐには、日常的な点検が不可欠です。タイヤの側面に膨らみやへこみがないか確認する、トレッド面の摩耗が均一かチェックする、といった基本的な目視点検を洗車時や給油時に行うことで、早期発見につながります。
📊 タイヤ変形による主な危険性
| 変形の種類 | 発生原因 | 具体的リスク |
|---|---|---|
| コブ(ピンチカット) | 縁石への衝突 | バースト・走行中の破裂 |
| フラットスポット |
長期間の放置 |
振動・ハンドルのブレ |
| 片減り | 空気圧不適正 | グリップ低下・偏摩耗 |
| 段減り | 急ブレーキ多用 | 走行不安定・異音 |
バイクのタイヤは四輪と異なり、トレッド(地面と接する部分)はバイクを傾きやすくするためにラウンドしています。近年のプロファイル(トレッドの断面形状)は円弧が一般的です。バイクを傾けると接地点はイン側へとスムーズに移動します。
路面の微小なアンジュレーション(うねり)などが前輪に入力されると、舵角が3度やそれ以上になることがあり、接地点は更に前方へ移動してしまいます。直径約600mmもあるタイヤのため、実舵角は10度とかそれ以上に瞬間的に変化する可能性があります。
意外な話ですね。
フロントに舵角が付き、タイヤの向きと進行方向の間のズレ角(スリップアングル)が生じると、曲がる力(コーナリングフォース)が発生します。接地面は静止摩擦により路面に対して静止しようとするため、タイヤの進行方向とホイールの向きにズレが生まれるのです。
スリップアングルの発生と増加に応じてコーナリングフォースは増えますが、最大は約10度です。タイヤは、微妙に滑るか滑らないかという状態のときに、最大のグリップ力を発揮します。加速時の後輪で考えるなら、路面に薄っすらとブラックマークが描かれているけど、ライダーはスリップを認識していないくらいが理想的です。
この特性を理解していれば、コーナリング時に無理な舵角を与えず、タイヤの変形を適切に活用した走りができます。サーキット走行では、ブレーキングポイントを少し手前にする、バンク角を深める前に十分に減速する、といった基本動作が接地点の急激な移動を防ぎます。