

バイクが曲がる時、ライダーは外側へ引っ張られる感覚を覚えます。
これが遠心力です。
コーナリング中のバイクには垂直方向に重力、外側へ遠心力が同時に作用しています。
車体をバンクさせるのは、この二つの力の釣り合いを保つためです。
重力と遠心力の合力の方向と車体の傾きが一致することで、ライダーとバイクは安定した姿勢を保てます。これはコーナリング中の荷重の方向とも一致します。
興味深いのは、バンク角が同じであれば高速で大きな半径を旋回している時も、低速で小さな半径を旋回している時も遠心力はほぼ同じになることです。遠心力は車両とライダーの総重量、旋回半径、角速度の二乗に比例するためです。
参考)【元ヤマハエンジニアから学ぶ】二輪運動力学からライディングを…
つまり同じバンク角なら速度差があっても体感する力は変わらないということですね。
四輪車は外側にロールしてドライバーは外へ引っ張られる感覚を持ちますが、バイクは車体を内側へ傾けることで合力方向と一致させる点が大きく異なります。
バイクが自立している時、重心三角形という概念が重要になります。重心三角形とは前輪の接地点、後輪の接地点、そしてライダーを含む車両全体の重心位置の3点を結んだ三角形です。
参考)【元ヤマハエンジニアから学ぶ】二輪運動力学からライディングを…
バイクが一定速度で走行中、重心には地球の引力により鉛直方向に荷重が発生します。この重力ベクトルの延長線と前後輪の接地点を結ぶ直線が交わっている間、つまり重力ベクトルと重心三角形の面が重なっている間はバランスが保たれてバイクは自立しています。
重力ベクトルが重心三角形から外れた瞬間に転倒が始まります。
走行中に右へ微妙に車両が傾いた場合、前輪も右に転舵すると前輪の接地点は右に移動します。重心三角形の1点が右に移動し、重心三角形の面が重力ベクトルと重なって転倒モーメントがゼロになり自立したままになります。
バイクはこうして常に微少な修正を繰り返しながらバランスを保っているのです。
停止時やごく低速時にはこの修正が間に合わず転倒リスクが高まります。フル加速時には重心が後輪の直後付近まで移動し、フルブレーキ時には前輪の前辺りまで移動するため、それぞれウィリーやジャックナイフのリスクが生じます。
バイクが走行中に安定するのはジャイロ効果の働きによるところが大きいです。ジャイロ効果とは回転している物体に働く物理現象で、バイクの車輪が回転することで発生します。
参考)https://bioring.boo.jp/jairo.html
慣性モーメントが大きく回転速度が速いとジャイロモーメントも大きくなり、バイクの微少なふらつきが目では分からないレベルになり安定します。回転数が落ちるとジャイロモーメントが減少してふらつきが鈍くなり、最後には転倒してしまいます。
参考)【元ヤマハエンジニアから学ぶ】二輪運動力学からライディングを…
バイクの走行中に体を使って右側に傾けるとバイクは右に曲がります。
これがジャイロ効果です。
バイクを右側に傾けるとは重力によって右側に転倒させる力のモーメント(トルク)を作用させることを意味します。
直進中にはハンドルに無駄な力を入れないことで、ジャイロモーメントによるとても微少な転舵を阻害せずバイクが安定するという原理があります。
ジャイロ効果は前輪のみで、後輪は角運動量保存の法則に依存しているという点も興味深いですね。
参考)https://obalog.cocolog-nifty.com/obas_blog/2023/03/post-cbbf23.html
芝浦工業大学のチームはジャイロ効果を利用した二輪車の転倒防止装置を開発しており、直径約30cmのフライホイールを回転させてロール方向の力を発生させ転倒を防止するアイデアを提案しています。シミュレーションでは時速40km走行時に回避可能距離が4m伸び、完全停止時には足を地面に付けずに直立が可能という結果が得られました。
参考)https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/1503/20/news031_2.html
ジャイロ効果を使った転倒防止装置の詳細な開発プロセスと実験結果
タイヤのグリップ力はバイクが走る、止まる、曲がるすべての基本動作に使われています。
コーナリング中は特別な状況が生まれます。
参考)ブレーキの力学 (2) コーナリングとグリップ力 - ロード…
直進時にペダルを漕ぐ足を止めればタイヤはグリップ力を使いませんが、コーナリング中は違います。
ペダルを漕ぐ足を止めていてもタイヤはグリップ力を使っています。それは前方向でも後ろ方向でもなく横方向です。コーナーを回っている時、体とバイクはコーナーの外側へ押し出されるように遠心力を受けます。
タイヤがグリップすることで路面を外側へ押し、その反作用の力を受け取り内側へ曲がっていけるのです。つまりコーナーを曲がっている時には加減速をしていなくても路面からタイヤへずっと力を受け続けています。
横方向と縦方向のグリップ力は単純な数値のたし算ではなくベクトルのたし算になります。軽くブレーキをかけた場合、横方向のグリップ力が少し減り、強くブレーキをかけた場合はコーナリングに使えるグリップ力がぐっと小さくなります。
曲がるためのグリップ力を最大限使おうと思ったらコーナリング中の加減速はしない方がよいのです。
ロードバイクの場合、自転車がまっすぐ進んでおりかつまっすぐ立った状態だとブレーキング力とタイヤのグリップ力を最大限に発揮できますが、曲がっている最中で自転車が傾いた状態だとブレーキングでタイヤのグリップ力が失われやすくなります。
これがスリップによる落車の原因になります。
参考)ロードバイクの必須技術「コーナリング」の基本|サイクルスポー…
加速度の大きな変化はバイクの挙動に劇的な影響を与えます。フル加速している最中はその重心が後輪の直後付近に移動します。パワーのあるバイクや軽量なバイクならフル加速で簡単にウィリーします。
フルブレーキをかければバイクの中で重心が前輪の前辺りまで移動することになります。
ジャックナイフが起きる原理です。
車体に作用する力が重心を路面と平行に押す場合にはタイヤ荷重は全く変化しませんが、作用する力がずれた場合には荷重が変化します。
参考)https://gra-npo.org/lecture/ride/Qamp;A/Wheel_Load/Wheel_Load.html
加速時には「アクスルシャフト」を作用点として働く加速の力が重心に働きかけるために二つの分力に分かれます。分力Aは重心に作用して車体とライダーを加速させる力となり、もう一方の分力Bは前方下方向への力となりタイヤを路面に押し付ける力、つまり荷重が生まれます。
ジャンプなどで接地している路面が無い場合は荷重は0の状態になります。また進入速度が高くない場合でも、サスペンションは平地走行時よりも伸び荷重も減少した状態になります。
前後輪共に荷重が無くなったり少なくなる場合があり、サスペンションの伸縮状態で荷重の変化を確認することができます。
体重移動についてはライダーの間で誤解があります。もし体重移動でバイクが傾くとすると体重移動したままではバイクは傾き続け最後には転倒してしまうことになりますが、実際は遠心力とつり合い(バランス)が取れて転倒することはありません。
参考)【元ヤマハエンジニアから学ぶ】二輪運動力学からライディングを…
体重移動が基本です。
コーナリングに移っていく時、バイクはターンするためにバンクを増やしていきます。ライダーにとって身体に感じる重力感(重力と遠心力の合力)はいつもと同じ頭の上からなのに、スピンの方向はバンク角が増えると変わってしまいます。
参考)コーナリングへの身体の(前傾度の)遷移。|いなむらメカの雑談…
バイクもライダーも構造上、感じたりコントロールしやすいのは重力方向に対する動きです。
シートの形状も重要で、できるだけシンメトリックな状態でステアリング操作できることが求められます。S字のフォームにすると余計な筋力も使わないし体に掛かる負担が減ります。
参考)シートは大事!|「KRS」柏 秀樹ライディングスクール [2…
空気抵抗についても興味深いデータがあります。時速400kmのH2Rは空気抵抗がなければ時速2009.6kmという途方もない速度を出せる計算になります。空気抵抗は速度の2乗に比例し、出力は速度の3乗に比例するため、速度を2倍出そうと思ったら出力は8倍必要になります。
これがバイクの速度の制限が最大の理由です。