

加速するとリアが沈むと思っていませんか?
トラクションとは英語で「牽引力・駆動力」を意味し、バイクでは後輪が路面に力を伝えて前進する現象を指します。物理学的には、後輪と路面の接地点に発生する「摩擦力」であり、これによって「駆動力」が生まれます。エンジンの燃焼エネルギーが後輪を回転させ、タイヤと路面の間に摩擦が生まれることで、バイクは前に進めるわけです。
ライダーはこの駆動力を「加速度」として体感しています。スロットルを開けてトラクションがかかると、車体が前に進む感覚とともに、シートに押し付けられるような力を感じるはずです。逆にスロットルを開けても前に進まず後輪が空転している場合は、トラクションが失われている状態です。
「フロントタイヤのトラクション」という表現を耳にすることがありますが、これは物理的に正しくありません。一般的なバイクの前輪は駆動力を生まないため、トラクションという概念は後輪にのみ適用されます。前輪が担うのはステアリングとブレーキングであり、駆動とは無関係です。
つまり駆動力の話ですね。
トラクションが発生するには、後輪を地面に押し付ける力と、駆動力を生むためのグリップ(摩擦力)が必要です。このバランスが崩れると、タイヤが空転してスリップダウンのリスクが高まります。
多くのライダーは「加速するとリアサスが縮んで後輪が沈む」と誤解していますが、実際は真逆の現象が起きています。加速時にはリアサスペンションが伸びる(リアが上がる)方向に力がかかります。これは「アンチスクワット効果」と呼ばれる物理現象です。
参考)トラクションは誰でも気づける簡単なメリット、その反応を積極利…
このとき重要なのは「反力」の存在です。リアサスが伸びようとする力に対して、路面から上向きの反力が働き、結果的にリアタイヤが地面に強く押し付けられます。この押し付け力が大きくなると、ライダーは「トラクションがある!」と感じやすくなります。
参考)https://ridersclub-web.jp/column-764617/
考えてみれば理にかなっています。もし加速でリアサスが縮んだら、コーナリング中にバンクした後輪が路面から一瞬離れることになり、容易にスリップしてしまうでしょう。リアが路面に押し付けられる方向に力が働くからこそ、安定した加速が可能になります。
荷重移動が基本です。
駆動力がかかると後輪は路面に押し付けられる一方、フロントには荷重が抜ける方向の力が働きます。この荷重バランスを理解することが、安全なライディングの第一歩です。
トラクションを邪魔する最大の要素は、濡れた路面や突然の路面変化、あるいは深すぎるバンク角など、前進方向に対するグリップが弱まる状況です。路面の摩擦力が低いと、いくらエンジンパワーがあってもタイヤが空転するだけで、前に進む力に変換できません。
タイヤの空気圧も重要な要素です。空気圧が高すぎるとブレーキングやスロットルオンで入力してもタイヤが潰れにくく、ライダーがタイヤの状態を感じづらくなります。
実際のグリップレベルも上がりません。
逆に低すぎると腰砕けのような状態となり、本来の機能を発揮できません。
参考)https://ridersclub-web.jp/column/technic-767361/
空気圧が高いと安全な走行を阻害する可能性があります。タイヤの変形する範囲が減って接地面積が減少し、摩擦が減少します。その結果、グリップ力が低下し、特に雨天時にはスリップするリスクが高まります。
参考)バイクのタイヤの空気圧が多いとどうなる? 少ない方がいい?
適正空気圧が条件です。
また、路面とタイヤが冷えた冬期や、路面温度が高くなりすぎる真夏は、タイヤと路面の間に発生する摩擦力が低めになります。グリップが低下するため、結果的に接地感がなくなりやすい状況です。
スロットルを一気にガバ開けすれば、リアタイヤのグリップを十分に引き出すことは難しくなります。近年のスーパースポーツは電子制御が高度化していても、基本的な操作技術は変わりません。正しいスロットル操作は「2段階で開ける」ことが鉄則です。
まずは少しスロットルを開け、後輪に荷重してリアの接地感を得ます。これはドライブチェーンの弛みをなくし、駆動力を少し後輪に伝え、リアタイヤの接地感を探りつつグリップを引き出すイメージです。この段階で後輪が路面にしっかり押し付けられている感覚を確認してから、フル加速態勢に入ります。
参考)スポーツライテクQ&A【スロットル編】|中野真矢が一発回答!…
トラクションはレース以外でも大切で、これがかけられている状態は、ライダーがいわゆる「接地感」を得やすいので安心感につながります。また、後輪が地面に押し付けられている状態なので、スロットルを開けたときにリアタイヤが滑っても、トラクションしていない状態と比べてコントロールしやすいのです。
2段階開けが原則です。
この操作を理解できると、走りは格段に上達します。急なスロットル操作は後輪を空転させるだけで、本来のトラクション性能を引き出せません。
タイヤには「摩擦円」という重要な概念があります。深いバンク角で横方向に多くのグリップを使っているときは、前後方向に使えるグリップが減ります。タイヤのグリップ力には限界があり、横方向と前後方向のグリップを合計した総量は一定だからです。
コーナーの立ち上がりでは、身体をイン側に残しつつマシンを起こしてからフル加速するのが理想です。車体だけいち早く起こすことで、タイヤのセンター寄りでグリップを使えるようになり、前後方向のグリップに余裕が生まれます。
深いバンク角のままスロットルを大きく開けると、横方向のグリップを使いながら前後方向にも力がかかるため、タイヤのグリップ限界を超えやすくなります。
これがスリップダウンの原因です。
バンク角が条件です。
スロットルをワイドオープンする直前に、マシンをスッと起こし気味にしてからフル加速する技術を身につけましょう。摩擦円理論を理解すれば、安全マージンを確保しながら効率的に加速できます。
ハイグリップタイヤは安心感が段違いですが、意外なほど使用期間が短いことを意識しておく必要があります。ハイグリップタイヤの寿命は街乗り中心で5,000〜10,000km程度しかありません。これは普通のタイヤの30,000〜40,000kmと比べて、約4分の1から8分の1という短さです。
参考)タイヤのグリップ性能とグレードで陥りやすい勘違い!│WEBヤ…
ソフトなコンパウンド(ゴム)を使用しているため、グリップ力は高いものの摩耗が非常に早いのです。サーキット走行をすると寿命は一気に短くなり、1日走ると数百km〜数千km相当の摩耗になることもあります。路面温度が高く、タイヤが高温になりやすいため、摩耗が一気に進行します。
参考)ハイグリップタイヤの寿命は何km?街乗りユーザーが知るべき基…
ハイグリップタイヤはある程度温度が上がって初めて本来の性能を発揮します。タイヤが冷えている状態で無理に攻めると、滑りやすいだけでなく、摩耗の仕方が不均一になって寿命が縮みやすくなります。冬場の街乗りで「なんかグリップしない…」と感じるのはこれが原因です。
寿命7,500〜15,000kmが目安です。
参考)バイクのタイヤ交換の目安は?日常点検や長持ちさせるコツを解説…
グリップ力の高さと引き換えに、短い寿命とこまめな交換コストを受け入れる必要があります。使用頻度や走行スタイルに応じて、タイヤのグレード選択を慎重に行いましょう。
トラクションコントロールシステムは、スロットルの開けすぎによるスリップ転倒を防ぐ電子制御技術です。路面状況が悪かったり急加速したりすると、後輪のグリップ力を超えた駆動力が発生し、タイヤが空転(スリップ)することがあります。このスリップ状態では、後輪が左右どちらかに流れるテールスライドを引き起こし、最悪の場合はスリップダウンという転倒事故につながります。
参考)トラクションコントロール バイク で スリップ 防止 システ…
トラクションコントロールの仕組みは、前後の車輪の回る速度差から即座にスリップを検知し、スリップが収まるまでエンジン出力を抑えてくれます。
転倒する確率がものすごく低くなります。
コーナーでタイヤが滑って一気にホイールスピンしても、この機能がスピンを検知して、徐々に外へスライドしていく程度に出力を抑えてくれるため、転倒には至りません。
参考)[ライテクQ&A]コーナー出口へ向かってグイグイ加速しなくて…
主要メーカーのシステムは複数モードを搭載しています。
| メーカー | システム名 | 特徴 | モード数 |
|---|---|---|---|
| ホンダ | HSTC | 路面状況対応 | 3〜5モード |
| ヤマハ | TCS | 複数モード、路面状況対応 | 2〜6モード |
| BMW | DTC | バンク角連動、路面状況対応 | 4〜6モード |
ただしトラクションコントロールは非常に優れた安全装備ですが、万能ではありません。ホンダの公式説明でも「スリップをなくすためのシステムではありません。あくまでもライダーのアクセル操作を補助するシステムです。無理な運転までは対応できません」と明記されています。
電子制御はあくまで補助です。
システムに頼りすぎず、基本的なスロットルワークと荷重操作の技術を身につけることが、安全走行の土台となります。
トラクションの物理学的解説と二輪動力学の詳細 - ライダースクラブ
トラクションコントロールシステムの仕組みと各メーカーの技術比較