

タイヤの空気圧を下げてもグリップ力は増えません
バイクのタイヤが路面を掴む力は、静摩擦係数という数値で表されます。摩擦力は「摩擦力(F) = 摩擦係数(μ) × 垂直荷重(N)」という式で計算できます。
垂直荷重はバイクとライダーの重量です。摩擦係数はタイヤと路面の組み合わせで決まり、一般的なゴムタイヤでは1〜2という高い数値になります。つまり摩擦係数が高いほど滑りにくいということですね。
ここで重要なのは、この式に接地面積が含まれていない点です。タイヤの空気圧を下げて接地面積を増やしても、荷重は変わらないため、グリップ力は理論上変化しません。
多くのライダーが「接地面積を増やせばグリップが上がる」と誤解していますが、摩擦の物理法則では面積は直接関係しないのです。タイヤメーカーの論文でも、荷重増加による摩擦係数の変化はわずかであることが確認されています。
ただし、ゴムタイヤには凝着摩擦という特殊な性質があります。これは路面の微細な凹凸にゴムが入り込み、分子レベルで接着する現象です。この効果により、タイヤの温度や路面状態が摩擦係数に大きく影響します。
参考)【滑らないは作れる?静止摩擦係数が支配する転倒・タイヤ・靴の…
タイヤが滑らずに路面と接している状態では静止摩擦力が働きます。ブレーキをかけてタイヤが滑り始めると、動摩擦力に切り替わります。
参考)https://kaki-dispirit.blog.ss-blog.jp/2012-06-28
物理的に、最大静止摩擦力は必ず動摩擦力よりも大きい値です。つまり、タイヤがロックして滑っている状態では、十分な制動力は得られません。最大の制動力を得るには、タイヤをロックさせる直前の状態を保つ必要があります。
どういうことでしょうか?
急ブレーキでタイヤがロックすると、静止摩擦から動摩擦に移行し、摩擦力が低下します。これが「ロックすると止まりにくい」理由です。ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)は、この原理を利用してタイヤのロックを防ぎ、最大静止摩擦力を維持する装置です。
ブレーキング中は荷重が前輪に移動するため、フロントタイヤのグリップが向上します。一方、リアタイヤは荷重が減るため簡単にロックしやすくなります。これが「前7:後3」のブレーキ配分が推奨される理由です。
街乗りでの急ブレーキ時、この知識があれば前後輪のブレーキバランスを意識できます。フロントブレーキを主体にしつつ、リアブレーキは補助的に使うことで、最短距離での停止が可能になります。
バイクがコーナーを曲がるとき、車体を傾けるバンク角は遠心力と重力のバランスで決まります。一般的な公道用スポーツタイヤでは、最大バンク角は約55°とされています。
参考)【フルバンク】バイクのバンク角の限界はどこまでか考えてみた …
高性能なダンロップSPORTMAX Q4では、最大62°までバンク可能です。62°というと、バイクのスライダーが地面につく80°付近まで、あと18°しか余裕がない状態です。
つまり限界に近いということですね。
コーナリング中の力の釣り合いは「摩擦力 ≧ 遠心力」で表されます。摩擦力が遠心力を上回っていれば安全に曲がれますが、遠心力が摩擦力を超えるとタイヤが滑り始めます。
バンク角には物理的な限界があるため、「速くコーナーを曲がる」よりも「最短時間で減速し、早く加速して元の速度に戻る」方が効率的です。無理にバンク角を深めようとすると、転倒リスクが急激に高まります。
公道でのコーナリングでは、55°の限界を意識することが重要です。この数値を理解しておけば、無駄なコケる心配をせずにコーナーをクリアできます。サーキット走行でない限り、フルバンクに近づく場面はほとんどありません。
タイヤのグリップ力は温度によって大きく変化します。一般的なストリートタイヤの適正温度は20℃〜30℃で、この範囲でグリップが安定します。
参考)寒い日の転倒リスク減少! 効果的なタイヤの温め方とライディン…
ハイグリップタイヤなどのスポーツタイヤでは、適正温度が50℃〜80℃とさらに高温です。路面温度が0℃近くになる冬場では、ゴムが硬化してグリップが大幅に低下します。
厳しいところですね。
温度が上がるとゴムが柔らかくなり、摩擦力が向上します。これは分子の運動が活発化し、凝着力(物と物が張り合う力)が大きくなるためです。タイヤが路面に「ベタッとくっつく」ような状態になります。
冬場の転倒リスクを減らすには、走り始めの数キロは特に慎重な運転が必要です。タイヤが適正温度に達するまで、急なバンクや急ブレーキを避けることが基本です。
デジタルタイヤ温度計があれば、リアルタイムでタイヤ表面温度を確認できます。走行前に温度をチェックする習慣をつければ、冷えたタイヤでの無理な走行を防げます。価格は3000円程度から入手可能で、安全投資として有効です。
バイクは4輪車と異なり、コーナリング時に車体を内側に傾けます。これは重力と遠心力の合力が車体の傾きと一致するためです。
4輪車は外側にロールし、ドライバーは外側に引っ張られる感覚がありますが、バイクは車体を傾けることで荷重の方向を調整します。この違いがバイク特有のコーナリングフィーリングを生み出しています。
コーナリング中はキャンバースラストとコーナリングフォースの2つの力が働きます。キャンバースラストはタイヤの傾きによって生じる横方向の力、コーナリングフォースはタイヤの進行方向とバイクの進行方向のズレ(スリップ量)によって生じる力です。
遠心力に対抗してバイクが倒れないのは、これら2つの力と遠心力がバランスしているからです。速度と回転半径によって遠心力の大きさが決まり、それに応じた適切なバンク角が自動的に決定されます。
コーナリング中にアクセルを一定に保つことが重要です。バンク角が深い状態でアクセルを開けると、リアタイヤが滑ってコントロールを失う恐れがあります。最悪の場合、ハイサイド転倒につながる危険性もあるため、まずは浅いバンク角でアクセル一定の練習から始めるべきです。
バイクブロス「バイクはなぜバンクして曲がるのか?」でコーナリング物理の詳細を図解で確認
「タイヤの接地面積を増やせばグリップが上がる」という考えは、摩擦の物理法則から見ると誤解です。接地面積が増えると、その分だけ面圧(接地面積あたりの荷重)が下がります。
摩擦力の式「F = μmg」には面積の項目がないため、空気圧を変えても理論上グリップは変化しません。μ(摩擦係数)、m(荷重)、g(重力)はすべて空気圧に影響されない値です。
参考)まだ、バイクの空気圧の目安は低めが良いと思ってる?【2つの勘…
ゴム協会の論文では、摩擦係数は荷重の-1/3乗に比例するとされていますが、その変化量はわずかです。現代のタイヤにおいて、バイクの垂直荷重が最大に掛かったとしても摩擦係数はほとんど変わらないのが正しい認識です。
ただし、空気圧を下げると走行抵抗が増えるため、同じスロットル開度では速度が下がります。速度が下がれば遠心力も減少するため、「グリップが良くなった」と錯覚する可能性があります。
結果的に燃費も悪化します。
適正空気圧を守ることが、タイヤの接地面積を最適化し、均一な摩耗を促進する最良の方法です。メーカー指定の空気圧から大きく外れた設定は、グリップ向上よりもデメリットが大きくなります。月に1度は空気圧をチェックし、指定値を維持する習慣が安全走行の基本です。
MOTO ACE TEAM「バイクのタイヤ空気圧を下げるとグリップが増すマジックの正体」で誤解の詳細を解説
摩擦係数を理解すれば、路面状態に応じた走行が可能になります。乾燥したアスファルトでの摩擦係数は0.4〜0.6、積雪路面では0.2〜0.5まで低下します。
氷上では接触部分で融解が起き、水が潤滑剤となるため摩擦係数が0.1以下になります。この数値は、乾燥路面の約1/4〜1/6です。
つまり限界速度も大幅に下がるということですね。
雨天時や冬季走行では、タイヤの摩擦係数低下を前提とした速度設定が必須です。通常の7割程度の速度を目安にすれば、安全マージンを確保できます。特にマンホールや白線、橋の継ぎ目などは摩擦係数がさらに低いため、これらの上では急な操作を避けるべきです。
タイヤの皮むき(新品タイヤの表面処理剤除去)も重要です。新品タイヤは表面に離型剤が残っており、摩擦係数が本来の性能を発揮できません。最初の100〜200kmは慎重に走行し、徐々にグリップが安定してきます。
路面状況を見極める目を養うことも大切です。濡れた路面、砂や落ち葉が堆積した場所、オイル漏れの跡などは、目視で摩擦係数の低下を予測できます。こうした場所では速度を十分に落とし、バンク角を浅く保つことで転倒リスクを大幅に減らせます。
安全運転支援システムとして、トラクションコントロールやABSを装備したバイクを選ぶのも有効です。これらのシステムは摩擦係数の限界を電子的に監視し、スリップを検知すると自動的に介入します。特に雨天走行が多い地域では、安全装備の充実したモデルが安心です。

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