

世界選手権で止まると5点減点です。
トライアル・デ・ナシオンは、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)が1984年から開催している国別対抗戦です。「デ・ナシオン」はフランス語で「オブ・ネイション」を意味し、各国の代表ライダーが国の威信をかけて戦います。
世界選手権の個人競技が終了した約1週間後に開催されるのが通例で、各国から選抜されたトップライダーが集結します。日本が初めて参加したのは1987年で、当時MFJが率先して参加を実現させました。
参考)GoGo DesNation by Shizenyama.c…
開催地は毎年変わり、2023年はフランスのAuron、2025年はイタリアのトルメツッオで実施されました。スペインが絶対的な強さを誇り、イギリス、フランス、日本がこれに挑む構図が続いています。
女子の大会は2000年が最初で、日本女子チームは2002年に初参加しています。男女ともに世界最高峰のライダーが集まる、トライアル競技の真の頂点を決める舞台です。
参考)TDN日本チームの記録
参考リンク(トライアル・デ・ナシオンの詳細な歴史と記録):
TDN日本チームの記録
トライアル・デ・ナシオンでは、各チーム3〜4名のライダーで構成され、独特な減点計算方式が採用されています。現在の主流は3名編成で、各セクションにおいて上位2名の減点を合計する方式です。
参考)2023TRIAL DES NATIONで日本代表チームが優…
たとえばライダーAが減点5、ライダーBとCがクリーン(減点0)なら、そのセクションのチームスコアは0点になります。つまり3人がクリーンすれば、最後の一人はエスケープしても結果に影響しません。
参考)GoGo DesNation by Shizenyama.c…
この仕組みが意味するのは?
チーム戦略が極めて重要になるということです。2人が3点の減点なら、3人目は思い切りクリーン狙いで挑戦できます。玉砕して5点になっても結果は同じで、成功すればチームに大きく貢献できます。
通常の世界選手権では2分ごとにスタートしますが、デ・ナシオンではチーム全員が同時スタートし、全員ゴールした時点で完了です。スタート間隔は4人編成なら8分となり、リタイヤしたライダーの成績は全て排除されます。
マインダー(アシスタント)は各チーム2名に制限されており、男女両チームが参戦する場合は各2名ずつ配置できます。15セクション×2ラップの構成が一般的で、減点が最も少ないチームが優勝です。
トライアル・デ・ナシオンと世界選手権の最大の違いは、チーム戦か個人戦かという点です。世界選手権は個人の実力を競う場ですが、デ・ナシオンでは国を背負ったチームプレーが求められます。
参考)2023 FIMトライアル・デ・ナシオン 日本代表チーム参戦…
2013年以降、世界選手権では「ノーストップルール」が採用されています。セクション内でマシンが止まると減点5となる厳しい規則で、11年以上運用が続いています。
ノーストップルールが基本です。
日本のライダーは全日本選手権でこのルールに慣れていないため、デ・ナシオン参戦時にプレッシャーとなることがあります。通常の世界選手権では足を1回着くと減点1、2回で減点2、3回以上で減点3、転倒やコースアウトは減点5です。
参考)https://www.honda.co.jp/WCT/race2016/tdn/
デ・ナシオンでは開催時期が世界選手権終了後となるため、全日本選手権のシーズン中と重なり、遠征が可能な選手と不可能な選手が出ることも課題です。また気温40度の猛暑や雨など、天候条件がレース展開を大きく左右します。
参考)https://fujigas.net/results/160911.html
観戦面での違いも興味深い点です。トライアル競技では黄色のテープで囲まれた競技エリア以外なら自由に移動でき、難所の真横で観戦できます。登山靴などの装備があれば、さらに観戦を楽しめます。
参考リンク(世界選手権のノーストップルール詳細):
世界選手権はノーストップルールに!
2023年9月、フランスのAuronで開催されたトライアル・デ・ナシオンで、日本代表チームが歴史的な金メダルを獲得しました。
これは日本にとって初の優勝という快挙です。
日本代表チームは藤波貴久、黒山健一、小川友幸の3名で構成され、インターナショナルトロフィークラスに出場しました。前年実績がなかったため、ワールドクラスではなくこのクラスでの参戦となりました。
先頭スタートの日本チームは1ラップ目をオールクリーンで通過します。ドイツチームも同様にオールクリーンを記録し、緊迫した展開になりました。2ラップ目のセクション5で日本は痛恨の減点1を喫しますが、残り全てクリーンでゴールします。
優勝を決めたのはドイツのミスでした。セクション11でドイツが減点2を記録した瞬間、日本の優勝が確定します。最終的に日本は減点1、ドイツは減点7で2位となりました。
2025年9月にイタリアで開催された大会では、小川毅士(38歳)、廣畑伸哉(20歳)、黒山陣(16歳)の3名が2位表彰台を獲得しています。
17ヶ国が出場する中での快挙です。
参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000152706.html
日本チームはこれまで世界2位を何度も獲得しており、近年では2019年にもフランス、イギリスとの激闘を制して2位を達成しました。過去には3位表彰台も多く、世界トップレベルの実力を持ち続けています。
参考リンク(2023年優勝の詳細レポート):
2023TRIAL DES NATIONで日本代表チームが優…
トライアル・デ・ナシオンの観戦最大の魅力は、世界トップレベルのライダーが国の威信をかけて戦う姿を間近で見られることです。普通の人が歩いて登ることすらままならない崖を、ライダーたちは当たり前のようにバイクで駆け上がります。
参考)55mph - 「2017トライアル・デ・ナシオン」観戦記 …
観戦は自由度が高く、セクション周辺を自由に移動できます。2017年スペイン大会の会場バイヨーナでは、海岸を一望できる丘や城塞近くの巨大岩、波打ち際の岩場など、ダイナミックなセクションが設定されました。
地元観客からも歓声が上がります。
スペイン大会では、日本チームが岩、砂、急こう配の岩盤といったハードなセクションを淡々とクリアする様子に、地元観客から「ファンタスティコ!」の声が響きました。
観戦時の注意点として、観客とバイクの動線が重なるため、ボーッと歩いていると選手の移動を邪魔したりバイクと接触する恐れがあります。小さな子どもを連れての観戦では、目を離さないよう注意が必要です。
気温40度の猛暑や雨など、過酷な天候条件下で行われることもあり、これがレース展開を大きく左右します。雨のタイミングとスタート順が明暗を分けた大会もありました。
持っていくと便利なのは?
履き慣れた運動靴とアウトドアチェアです。かなりの距離を歩く可能性があるため、快適な靴は必須です。お天気が変わりやすい時期なら、傘ではなくレインコートを準備すると周囲の迷惑になりません。
選手との距離が近いのもトライアル観戦の特徴で、缶バッジを持ち歩いてファンに配る選手もいます。世界最高峰のテクニックを間近で体感できる貴重な機会です。
トライアル・デ・ナシオンでは、個人の実力だけでなくチーム戦略が勝敗を分けます。各セクションで上位2〜3名の減点を採用する方式のため、誰がリスクを取り誰が確実に走るかの判断が重要です。
ライダーが実行する技術は神技としか思えないレベルです。濡れて滑る場所とそうでない場所が混在する波打ち際のセクションでは、卓越したテクニックに加え適切な走行ラインを見極める能力が求められます。
黒山選手はダイナミックなセクションについて「前後左右のバランスを保ったままスピードにのることを意識した」と語ります。乾いた砂や枯れた草など、路面状況が刻々と変化するため、必要な時に必要な分だけクラッチとアクセルの操作を行うことに神経を使います。
マシントラブルへの対応も重要です。過去の大会では、田中選手が1ラップのほとんどを費やしてマシン修復を行い、戦線に復帰したことで4位転落を免れました。
チームとしてのまとまりも成績に影響します。最小限度の3名でのメンバー編成では、誰かのミスを他の誰かがカバーする機能が働きにくく、最初から苦戦が明らかになることがあります。
実力差が少ない場合の戦略は?
チーム全体の安定性が重要です。例えばライダー全員が平均的に減点1〜2で走れるチームと、1人だけ飛び抜けて強いが他が不安定なチームでは、前者の方が有利になります。
セクションによっては3人がクリーンした後、最後の一人が思い切ってクリーン狙いで攻めることも戦略の一つです。失敗しても結果は変わらず、成功すれば大きなアドバンテージになります。
トライアルはオートバイ操縦技術の究極とも言われ、あたかもオートバイに翼が生えているかのような走りを見せます。世界一を競うにふさわしいダイナミックかつ難易度の高いセクションで、各国の代表ライダーが技術と戦略を駆使して戦います。
参考リンク(トライアル・デ・ナシオンのルール詳細):
GoGo DesNation by Shizenyama.c…
日本代表チームは参戦の歴史の中で、さまざまな困難に直面してきました。2001年にはニューヨークの連続テロ事件を受けて、代表選手間で「この時期の渡欧はいかがか」と相談がなされ、MFJが参加を断念する発表をしました。
参考)トライアル・デ・ナシオン
この決定に対し、海外からは「日本はテロに屈するのか、意味がわからん、腰抜けだなぁ」という厳しい感想が届きました。しかし主催団体はトライアルとライダーをよく知る組織で、日本をトップクラスから外すことはありませんでした。
過去には何度も惜しい3位表彰台を経験しています。2ラップ目で2位イギリスとの差を3ポイントまで詰めたものの、最終的に3位となったこともあります。気温40度の猛暑の中、2ラップ目にミスが目立ち、それをチームメイトがフォローできぬまま終盤に逆転されたこともありました。
女子チームも奮闘しています。2002年にヨーロッパのレディースチームに殴り込みをかけた日本女子チームは、3人とも初めてのヨーロッパでのトライアルでしたが、クリーン数わずか4個の差でフランスに惜敗して2位を獲得しました。
日本のいないTDNは、タコの入っていないたこ焼きのようなものだ――こう表現されるほど、日本チームの存在感は大きくなっています。実際、日本が不参加の大会では、スペイン優勝、大差でイギリス、イタリア、フランスという順位になりました。
どうやって克服したのか?
若手育成と戦略の見直しです。20歳以下の国際A級ライダーを集め、現地にいる藤波貴久をチームリーダーにつけて経験を積ませる取り組みも行われました。若手ライダーにとっては藤波と一緒に、しかも同じチームとして走れるめったにないチャンスです。
2023年の初優勝は、こうした長年の努力と経験の積み重ねが実を結んだ結果と言えます。減点わずか1点での優勝は、チーム全体の安定性と高い技術力を証明しました。
参考リンク(日本チームの詳細な歴史):
GoGo DesNation by Shizenyama.c…