

あなたが給油するガソリンの7割以上は動力に変換されず捨てられています。
カルノーサイクルは、フランスの物理学者サディ・カルノーが考案した理想的な熱機関モデルです。このサイクルは、等温膨張・断熱膨張・等温圧縮・断熱圧縮の4つの過程で構成され、高温熱源と低温熱源の間で熱を移動させながら仕事を行います。
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カルノーサイクルの重要な点は、その熱効率が温度だけで決まることです。効率の計算式は「η = 1 - (低温源T1 / 高温源T2)」で表されます。バイクのエンジンで燃焼最高温度を2500℃(2773K)、大気温度を25℃(298K)とすると、理論上の最大熱効率は約89%に達します。つまり理論的には、ガソリンの持つエネルギーの9割近くを動力に変換できるということですね。
しかし、この数値はあくまで理想的な可逆機関の話です。現実のエンジンでは摩擦や熱損失など様々な要因があり、この理論値に到達することは不可能です。カルノーサイクルは熱機関の効率の理論上の上限を示すものであり、実際のバイクのエンジン設計の指針となる重要な概念なのです。
参考)自動車を動かす「熱」の限界に挑む: カルノーサイクル - ク…
カルノーサイクルの4つの過程を詳しく図解で説明しているGIGAZINEの記事
一般的なバイクのガソリンエンジンの熱効率は、わずか15〜30%程度です。これは、燃料の持つエネルギーの7割以上が動力に変換されず、熱や音として捨てられていることを意味します。
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具体的な数字で見ると、ホンダの最高効率エンジンでも最大熱効率は41%に留まります。しかもこの数値はアクセル全開で最大トルク発生領域にあるような状態での話です。日常的な走行では、熱効率はさらに低下します。普通の走行条件では15%程度、効率的に使っている状況でもせいぜい30%くらいが現実です。
参考)知っておきたいエンジンの熱効率 – 愛車はホンダ…
この大きな損失はどこに消えているのでしょうか?
エンジンルームや排気管から逃げる熱が最大の損失源です。
排気音として失われるエネルギーもあります。
さらに駆動系の機械的な損失を加えると、最終的にタイヤに伝わるエネルギーは燃料の持つエネルギーの17%程度まで減少してしまいます。つまり170円分のガソリンを入れても、実際に走行に使われるのは約30円分だけということです。
参考)自動車エンジンの燃焼エネルギーは大半がムダになっているという…
これは燃費や維持費に直結する問題です。効率が2倍になれば、同じ距離を走るのに必要な燃料が半分で済みます。燃料代の節約だけでなく、環境への負荷も大幅に減らせます。
理論上89%の効率が可能なのに、なぜ実際は30%以下なのでしょうか?
最大の理由は、カルノーサイクルが「可逆過程」を前提としているためです。可逆過程とは、すべての変化を完全に元に戻せる理想的な状態を指します。しかし現実のエンジンでは、ピストンやクランクシャフトの摩擦、熱の周囲への拡散など、不可逆的な損失が必ず発生します。
参考)https://hitopedia.net/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB/
バイクのエンジンは「オットーサイクル」という実際的なサイクルで動作しています。オットーサイクルでは熱効率が30%を超えることはまずありません。理論熱効率は圧縮比が17あたりまでは上昇しますが、それ以上は横ばいになります。高い圧縮比は熱効率を向上させますが、ノッキング(異常燃焼)が発生しやすくなるという技術的な制約があります。
参考)ksyellowmonkyのブログ : エンジンの効率という…
さらに、カルノーサイクルが理論上100%の効率を達成するには、高温熱源と低温熱源の温度差を無限大にする必要があります。つまり低温熱源を絶対零度(-273℃)にするか、高温熱源を無限大の温度にしなければなりません。
どちらも現実的ではありませんね。
温度差が完全になくなると、どんなサイクルでも熱効率は0になります。
温度差が大きいほど効率は良くなる原則です。
参考)http://www.ns.kogakuin.ac.jp/~ft13245/lecture/2017/PhysD/PhysD_03.pdf
圧縮比と熱効率の関係、ノッキング対策について詳しく解説したclicccarの記事
カルノーサイクルの原理から、バイクのエンジン効率を上げるには「燃焼温度を上げる」「排気温度を下げる」という2つのアプローチがあることが分かります。
燃焼温度を上げる方法として、圧縮比の向上があります。圧縮比が高いほどエンジンの熱効率は向上し、出力と燃費が向上します。ホンダが開発した高膨張比エンジンは、12.2:1の圧縮比に対して膨張比を17.6:1まで拡大させることで、少ない燃料から最大限のエネルギーを得ることに成功しています。これは東京ドーム1個分の空間を、コンビニのおにぎり1個分まで圧縮するようなイメージです。
参考)圧縮比向上とは?エンジンの圧縮圧力を高めて熱効率をアップ【バ…
一方で、エンジンを冷やしすぎるのも問題です。実は燃調(燃料の混合比)を濃いめに設定すると、燃料が気化する際に周囲の熱を奪う「気化熱」でエンジンを冷却できます。夏場に油温を95℃程度に抑えられるのは、この気化熱効果のおかげです。
高回転域での走行は効率が悪く、無駄に燃料を消費します。
これが燃費を悪化させる要因です。
アイドリング時や低負荷走行では、エンジンの熱効率はさらに低下します。
効率的な走行を心がけるなら、急加速を避け、一定速度での巡航を意識することが基本です。エンジンの特性を理解し、最大トルク発生回転数付近で走行すると、比較的高い熱効率を保てます。
カルノーサイクルの背景にあるのが「熱力学第二法則」です。この法則は「熱をすべて仕事に変換し続けることは不可能」という自然界の根本的な制約を示しています。
参考)第350回 熱力学第二法則(後編)永久機関とカルノーサイクル…
熱力学第一法則がエネルギー保存則(エネルギーは形を変えるだけで総量は変わらない)を述べているのに対し、熱力学第二法則は「熱と仕事は質的に異なる」ことを教えてくれます。入ってきた熱のすべてを仕事に変換し続ける機械は「第二種永久機関」と呼ばれ、エネルギー保存則には反していませんが、熱力学第二法則に反するため実現不可能です。
バイクのエンジンで言えば、どんなに技術が進歩しても、吸収した熱をすべて動力に変換することはできず、必ずロス(放熱)を生じるということですね。これは物理法則による絶対的な制約なので、「100%効率のエンジン」は原理的に存在しません。
この事実は、燃費向上の限界を示しています。メーカーが熱効率を40%台まで引き上げたことは、物理法則の壁に挑む大きな技術的成果なのです。現在の技術では、理論最大効率の50%程度を実現するのが精一杯です。
温度のみで最大熱効率が決まるというカルノーの発見は、エンジン設計の指針となっています。燃焼温度を3000℃や4000℃に上げれば理論上は効率が向上しますが、材料の耐熱性や潤滑油の限界など、現実的な制約が多数あります。
エンジンの冷却システムは単なる「冷やす装置」ではありません。適切な温度管理により、熱効率を最大化しつつエンジンを保護する重要な役割を担っています。オイルクーラーやラジエーターは、この温度バランスを保つための必須装備です。
日常のメンテナンスでは、オイルの状態や冷却水の量を定期的にチェックすることが大切です。エンジンの適正温度を保つことで、燃費と寿命の両方を改善できます。エンジンオイルは2000〜3000km(または半年)ごとの交換が目安です。
カルノーサイクルの数式と熱効率の計算方法を詳しく解説した物理メモの記事

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