

MotoGPのサテライトチームライダーでも、年収1億円を超えることがある。
中上貴晶(なかがみ たかあき)は1992年2月9日生まれ、千葉県千葉市出身のオートバイ・ロードレーサーだ。12歳でロードレースデビューを果たし、2006年(14歳)には全日本ロードレース選手権GP125クラスを6戦全勝という完璧な成績でチャンピオンに輝いた。これはクラス史上最年少チャンピオン記録でもある。
16歳で早くも世界選手権(125ccクラス)にフル参戦を開始した。その後Moto2クラスで6シーズンにわたって戦い続け、2016年のオランダGPでは日本人として6年ぶりとなるMoto2優勝を達成した。これが世界の舞台での実績として高く評価され、MotoGP最高峰クラスへの扉を開くことになる。
MotoGPクラスには2018年からLCRホンダ・イデミツチームで参戦を開始した。初年度はランキング20位だったが、2019年に13位、2020年には116ポイントを積み上げてランキング10位まで駆け上がった。ランキング10位以内というのは、全20チーム・22名程度が参戦するMotoGPグリッドのなかでトップ10に食い込む快挙だ。特に2020年シーズンにはポールポジションも獲得し、MotoGPにおける最高位4位を記録している。
7シーズンにわたりMotoGPに参戦し続けた中上選手は、2024年8月にその年限りでフル参戦を終了することを発表した。そして2025年からはHRC(ホンダ・レーシング)とMotoGPマシン開発ライダーとして複数年契約を締結している。つまり引退ではなく、HRCのマシン再建を技術面から支える重要ポジションへの転身だ。
HRCと中上貴晶選手がMotoGPマシン開発ライダー契約に合意(Honda Racing公式)
MotoGPのサテライトライダーとしての中上選手が受け取る収入は、大きく「チームからの契約金」「スポンサー契約料」「レース賞金・ポイント賞金」「メディア出演料」の4本柱で構成される。全盛期にあたる2019〜2020年頃の内訳を整理すると、以下のようなイメージになる。
| 収入項目 | 推定金額(円) | 補足 |
|---|---|---|
| チーム(LCR Hondaイデミツ)からの基本契約金 | 約6,000万円〜 | 年間固定報酬。HRCのサテライト支援あり |
| レース賞金・ポイント入賞ボーナス | 約1,000万円〜 | 1ポイントあたり数十万円規模の加算 |
| スポンサー契約料(出光興産など) | 約2,000万円〜 | チームスポンサー+個人スポンサーを含む |
| メディア・イベント出演料 | 約300万円〜 | CM出演・プロモーションなど |
| 合計(推定) | 約9,000万円〜1億5,000万円 | 全盛期(2020年前後) |
MotoGP参戦では1ポイント入賞するごとに賞金が積み上がる仕組みで、2020年に116ポイントを獲得した中上選手にはそれなりの賞金が加算されている。ポールポジションを取れば追加のボーナスも発生する。これは「勝てなくても稼げる」構造があることを意味する。意外ですね。
さらに重要なのが出光興産との関係だ。チーム名の「LCR Honda IDEMITSU(イデミツ)」にあるように、出光興産は長年にわたってチームのタイトルスポンサーを務めており、中上選手個人のプロモーション活動にも関わっていた。スポンサー収入はチームとの契約金とは別に発生するため、こうした付加価値が全盛期の年収を押し上げた主要因のひとつになっている。
アジア唯一のMotoGP正規ライダーという立場も大きい。ホンダにとって、アジア市場でのマーケティングにおいて中上選手は欠かせない存在だった。広告価値が高い分、スポンサー企業側から見ても「中上選手の露出」には相応のプレミアムがついていたと考えられる。全盛期の年収1億円超えというのは、こうした複数の収入源が重なった結果だ。
モトGP選手2021年年俸ランキング詳細(ITATWAGP)
MotoGPライダーの給与実態は非公開が原則だが、スペインのモータースポーツ専門メディア「Paddock GP」や「Motosprint」などが毎シーズンの推計データを公表している。そのデータによれば、2023年時点での中上選手の推定給与は50万ユーロ(約8,930万円)で、グリッド内15位にランクされている。
これを他のライダーと並べると比較が分かりやすい。トップのマルク・マルケスが年収約28〜32億円とも言われるのに対し、中上選手は約9,000万円。金額的には大きな開きがあるが、サテライトチームのライダーとしては中位以上の待遇であると言える。同じく2021年のデータではアレックス・マルケスが100万ドル(約1億3,000万円)、中上選手は50万ドル(約6,500万円)と推計されており、ファクトリーチームと明確な差がある。
「サテライトライダーだから年収は低い」という先入観は、半分正しく半分間違いだ。ホンダLCRのように大手メーカーのサポートが手厚いチームの場合、ファクトリー準拠に近い待遇が整っていることもある。中上選手がHRCのサポートを受けたサテライト所属だったことは、収入面でもプラスに作用していたと推測される。
一方で、グリッドのなかには25〜30万ドル(日本円で3,300〜4,000万円)規模の年収しか受け取れない下位サテライトライダーも複数いる。これはトップライダーのおよそ1/100以下の水準だ。つまりMotoGPというカテゴリーだけで一括りにできるほど、格差がフラットではない。結論は「ライダーの格付けと所属チームで年収は大きく変わる」ということだ。
2024年シーズンをもってMotoGPフル参戦を終了した中上選手は、2025年からHRC(ホンダ・レーシング)との複数年契約のもと「MotoGPマシン開発ライダー」として活動している。これはいわゆる「テストライダー」に分類される役職だが、単なる走り込み係ではない。
HRCは現在、ドゥカティやアプリリアに対する競争力を回復するための開発フェーズに入っており、中上選手にはその最前線で7年間のMotoGP参戦経験を活かしたフィードバックが求められている。欧州テストへの参加、エンジニアとの密なやり取り、若手ライダーへの経験伝達といった多面的な役割を担う戦略的ポジションだ。
現在の推定年収は3,600〜4,800万円程度とされている。フル参戦時(最大1億円超)と比べると収入は下がるが、開発ライダーとしては高水準の待遇だ。
| 収入項目 | 推定金額 | 補足 |
|---|---|---|
| HRC開発ライダー契約金 | 約2,500〜3,500万円 | 複数年の安定契約 |
| 出光興産スポンサー契約(縮小の可能性あり) | 約500〜1,000万円 | フル参戦終了で縮小傾向 |
| メディア・イベント出演 | 約100〜400万円 | HRC関連イベントなど |
| 合計(推定) | 約3,600〜4,800万円 | テストライダーとしては上位水準 |
テストライダーには原則として「レース賞金」が発生しない点は覚えておきたい。現役ライダーはシーズン中に1位フィニッシュするたびに数百万円単位のボーナスが積み上がる構造を持つが、開発ライダーにはその仕組みが適用されない。賞金ゼロが基本です。
その分、固定の契約金で安定した収入が保証されるため、家計的なリスクは現役ライダーより低いとも言える。レース活動の休止後にライダーが選ぶキャリアパスとして、開発ライダーへの転身は欧州でも一般的な選択肢だ。ホンダが中上選手と複数年契約を結んだという事実は、彼の技術・経験・コミュニケーション能力が純粋に評価されているあかしでもある。
HRC開発ライダー中上貴晶 独占インタビュー2025(Honda Racing公式)
ここまでの情報を整理すると、中上選手の収入モデルには他のMotoGPライダーとは異なる「日本人特有の構造」が浮かび上がる。日本のメーカー(ホンダ)が国内メディア露出も含めてサポートし、国内スポンサー(出光興産)が資金を補完するという仕組みだ。
過去の日本人ライダーを振り返ると、1994年の阿部典史(ノリック)がMoto2デビュー時に1億円規模の契約金を得たことが話題になり、1999年の原田哲也は500ccクラスで4億円の契約金を受け取ったとされる。この額は今も日本人ライダーの最高記録とも言われている。いいことですね。
ただし、こうした高額契約を実現するには「レースで勝つ」だけでなく「マーケティング的な価値を持つ」ことが条件になる。中上選手がアジア唯一のMotoGP正規ライダーとして7シーズンにわたり参戦できた背景には、純粋なレース実力に加え、スポンサー企業・メーカーにとっての価値という面も無視できない。
バイクに乗るファンとしては、こうした構造を知ることで「あの選手のマシンにはあのロゴがなぜ付いているのか」という視点でレースを楽しめるようになる。これは使えそうです。スポンサーロゴ1つひとつが、実はライダーの年収に直結している。MotoGPという競技を「純粋なスポーツ」としてだけでなく、「ビジネスと技術の競争」としても見ることで、観戦の楽しみ方が一段深まるはずだ。
また、MotoGPへの道を本気で歩もうとする若い国内ライダーにとっては、「賞金だけで食べていける時代ではない」という厳しい現実もある。Moto2・Moto3クラスでは多くのライダーが年間3,000万〜6,000万円を持参金として自己負担しながら参戦している実態がある。MotoGPというカテゴリーのグラマラスなイメージの裏側には、こうした経済的な構造があることも、バイクを深く愛するファンなら知っておきたい知識だ。
危険と隣り合わせのMotoGP、ライダー達の給与は案外安い?(Motorsport.com Japan)