

全合成油を入れても、3,000kmで交換しないとエンジンが内側からじわじわ削れていきます。
エンジンオイルは約80〜90%の「ベースオイル」と残り10〜20%の「添加剤」で構成されています。部分合成油と全合成油の最大の違いは、このベースオイルの種類と配合にあります。
全合成油は、原油を化学分解・精製して不純物を徹底的に取り除いた化学合成ベースオイルだけで作られています。一方、部分合成油は「鉱物油+化学合成油」をブレンドしたもので、一般的には鉱物油に対して化学合成油を20〜30%程度混合したものが多いです。
ベースオイルには国際的な分類(APIグループ分類)があり、グループⅠ・Ⅱが鉱物油、グループⅢ〜Ⅴが化学合成油に相当します。興味深いのは、「全合成油」や「化学合成油」という表記に、実は業界内で統一された明確な基準がないという点です。ヤマハのオイル担当者への取材でも「各メーカーで表示方法は様々」と明言されており、あるメーカーが「全合成油」と表記していても、別のメーカーの「部分合成油」と成分がほぼ同等の場合もあり得ます。
つまり全合成油が必ず100%化学合成とは限らないということですね。
| 種類 | ベースオイル | 性能 | 価格 |
|---|---|---|---|
| 鉱物油 | グループⅠ・Ⅱ(原油精製) | 標準 | 安い |
| 部分合成油 | 鉱物油+化学合成油のブレンド | 中間 | 中間 |
| 全合成油(化学合成油) | グループⅢ〜Ⅴ(化学合成) | 高い | 高い |
以前はグループⅢについて「原油由来だから鉱物油だ」という議論もありましたが、アメリカの広告審議機関(NAD)の裁定で「化学合成油」に分類することが認められており、現在は多くのメーカーがグループⅢ製品を全合成油・化学合成油として販売しています。
参考:ベースオイルの種類とグループ分類についての詳細解説(TAKUMIモーターオイル)
https://takumi-motoroil.co.jp/knowledge/knowledge01/
「全合成油は部分合成油より絶対にいい」というイメージを多くのライダーが持っていますが、実際の性能差はどのくらいなのでしょうか。
モーターファン編集部が実施した比較テスト(同じ粘度10W-30で比較)によると、常温および100℃では3種類の粘度に大きな違いは見られませんでした。しかし150℃まで加熱した場合は明確な差が出ています。鉱物油はサラサラでヌメリ感がほぼ消失、部分合成油は若干ヌメリが低下、全合成油は最も粘度を維持していました。これは150℃という完全なオーバーヒート領域での話です。
温度変化の速さという点でも違いがあります。
全合成油は50〜100℃の適温域で温度が上がりにくい特性があります。さらに冷却後の温度下降速度も速く、放熱性に優れることが確認されています。一方で鉱物油と部分合成油の温度下降率はほぼ同じという結果も出ており、この2つの差はそれほど大きくありません。
もう一つ重要なのがドライスタートへの耐性です。エンジンを止めて長時間放置すると、摺動部分からオイルが落ちきって「油膜切れ」の状態でスタートしてしまいます。鉱物油の場合、エンジン停止後わずか8時間でドライスタートのリスクが生じるのに対し、化学合成油(全合成油)は最低でも3〜5日は油膜を維持します。最上位のエステル系全合成油であれば約2週間は油膜切れが起きないというデータもあります。
週末ライダーや長期間乗らないことがあるライダーにとって、これは大きなメリットです。
参考:鉱物油・部分合成油・化学合成油の実験比較データ(MotorFan)
バイク用オイルを選ぶ際に、部分合成油か全合成油かという選択以上に重要なポイントがあります。それがJASO規格(日本自動車技術会が定める二輪車用オイル規格)の確認です。
バイクのエンジンは車と根本的に構造が異なります。バイクは湿式クラッチとミッションがエンジンオイルで一緒に潤滑される一体型設計が一般的です。これが要注意点です。
JASO規格の分類は以下の通りです。
MA指定のバイクにMB規格のオイル(または摩擦低減剤入りの車用オイル)を入れてしまうと、クラッチが滑る原因になります。これは全合成油・部分合成油どちらでも同様のリスクがあります。
つまり「全合成油を買えば安心」ではなく、「JASO MA規格の全合成油を選ぶ」というのが正しい判断です。MA規格が条件です。
参考:バイク用オイル規格(JASO MA・MA2・MB)の詳細解説(ヤマハ・ワイズギア担当者インタビュー)
https://www.autoby.jp/_ct/17556831
「高い全合成油を入れておけば長持ちするから、結果的にコストは同じか安い」と思っているライダーは少なくありません。しかしバイクに限っては、この考え方が少し危険です。
バイクのエンジンは車に比べて排気量に対する回転数が高く、オイルへの負荷が大きいのが特徴です。一般的な4輪車では全合成油の場合10,000〜15,000kmの交換サイクルが目安とされることがありますが、バイクはそのまま当てはまりません。
WAKOSなどのオイルメーカーは、バイクのエンジンオイル交換の目安として2,000〜3,000kmを推奨しており、一般的には3,000〜5,000kmが目安です。全合成油を使ってもこのサイクルが大幅に伸びるわけではないというのが現場の声です。
コストを比較してみましょう。例として年間走行距離6,000kmのケースを想定します。
価格差は想像より小さいですが、サイクルが変わらないなら部分合成油の方が確かに安価です。これは使えそうです。
ただし以下のケースでは全合成油を積極的に選ぶ価値があります。
つまり「街乗り中心なら部分合成油を適切に交換」「スポーツ走行・空冷・長期保管なら全合成油」というのが基本的な使い分けの原則です。
旧車やクラシックバイクオーナーの間でよく耳にするのが、「化学合成油(全合成油)に変えたらガスケットからオイルが滲んできた」という経験談です。これは都市伝説ではなく、実際に起こりうる現象で、原因が明確に解明されています。
トタルエナジーズ(elfオイルブランド)への取材によると、全合成油の中でもグループⅣ(PAO:ポリアルファオレフィン)を主成分とする製品には「ゴムや樹脂シールを縮小させる性質」があるとされています。古いバイクはガスケット素材が現代のものより劣化しやすく、またPAO耐性を考慮した設計になっていない場合があります。その結果、PAO主体の全合成油に切り替えた後にオイル滲みやオイル漏れが起きることがあるのです。
意外ですね。
一方で、鉱物油(グループⅠ・Ⅱ)はガスケットに対して良くも悪くも変化を与えません。そして最上位のエステル系(グループⅤ)全合成油もガスケットへの攻撃性はないとされています。
つまり旧車ライダーへの対策は次のように整理できます。
1,080基のエンジン分解データを持つ旧車専門メカニックによると、「化学合成油はダメ」というのは一概には言えず、オイルのグループ(種類)によって判断が変わるとのことです。油膜に注意すれば大丈夫です。
また、部分合成油への切り替えも一つの選択肢です。部分合成油は鉱物油と化学合成油のブレンドのため、PAO比率が低くガスケットへの影響が少ない製品が多い傾向にあります。ただしこれも製品によって異なるため、メーカーや販売店への確認が安心です。
参考:化学合成油と旧車・空冷バイクの関係について(ForR/トタルエナジーズ取材記事)
https://for-r.jp/useful/75145.html

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