

化学合成油を入れれば交換頻度を大幅に減らせると思っているなら、それが年間1万円以上の余計な出費につながっているかもしれません。
エンジンオイルには大きく分けて「鉱物油」「部分合成油」「化学合成油(全合成油)」の3種類があります。この分類はベースオイル(主成分)の精製方法と純度の違いによるものです。
鉱物油は原油から不純物を取り除いて精製した、もっともベーシックなタイプです。製造コストが低いため販売価格が安く、頻繁に交換するライダーにとってコストパフォーマンスが高いのが特徴です。一方で熱に弱く、高温になるとオイルの粘度が下がりやすいというデメリットがあります。
化学合成油は、精製された成分を原料にしてさらに化学的に作り直したオイルです。つまり「作った」オイルという点が鉱物油との大きな違いです。分子構造が非常に均一に整っているため、熱や酸化に強く、広い温度域で安定した粘度を維持できます。
部分合成油はその中間で、鉱物油と化学合成油をブレンドしたものです。価格・性能のバランスが取れているため、街乗りからツーリングまで幅広い用途で使われています。
エンジンオイルの主成分であるベースオイルは、全体の80〜90%を占めています。残りの10〜20%が性能向上のための添加剤です。つまりオイルの性能の根幹はベースオイルの質で決まるということですね。
| 種類 | 精製方法 | 耐熱性 | 価格帯(目安/L) | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 鉱物油 | 原油を精製 | △ | 500〜1,000円 | 街乗り・原付 |
| 部分合成油 | 鉱物油+化学合成油ブレンド | ○ | 1,000〜2,000円 | ツーリング・一般走行 |
| 化学合成油 | 化学的に再合成 | ◎ | 2,000〜5,000円以上 | スポーツ走行・大型バイク |
なお、化学合成油にも「グレード」があり、ベースオイルのGroupによって性能が異なります。Group3(VHVI)は原油由来の高純度精製油、Group4(PAO)は化学合成された高性能油、Group5(エステル)は植物由来の最上位グレードです。市場に多く出回っている「100%化学合成油」の多くはGroup3のVHVI系であることも覚えておくと良いでしょう。
化学合成油のグループ分類やベースオイルとの違いについて詳しく解説したForR(フォーアール)の記事はこちら
化学合成油がバイクのエンジンに良い理由は、主に3つのメカニズムによるものです。それぞれ「どう守るのか」を具体的に理解すると、オイル選びの判断がぐっと楽になります。
① 150℃超でも粘度が保たれる熱安定性
バイクのエンジンは車より高回転を多用するため、エンジン内部の温度は一般的に走行中100〜150℃以上になります。鉱物油を150℃まで加熱すると、指で触れると分かるほどシャバシャバになり、本来の潤滑性能が著しく低下します。一方、100%化学合成油は150℃でもヌメリ感を保ったまま、油膜切れを起こしにくい状態を維持できることが実験でも確認されています。高温での粘度維持が基本です。
② 燃料希釈に強い「せん断性」
エンジン内部では、ガソリンが燃え切らずにオイルに混入してしまう「燃料希釈」が起きることがあります。鉱物油の場合、ベースオイルの質が低いために添加剤の配合比率が6対4程度と高くなります。燃料希釈が起きると、この添加剤とベースオイルが分離する「せん断」が発生し、粘度が急激に低下してしまいます。化学合成油はベースオイルが高品質なため、添加剤比率が9対1程度と少なく、燃料希釈が起きてもオイルが分離しにくいのです。
③ ドライスタートを防ぐ「吸着性」
エンジンを停止してから時間が経つと、オイルが各パーツから重力で流れ落ちて油膜が薄くなります。この状態でエンジンをかけると、オイルが回りきる前に金属同士が直接擦れてしまう「ドライスタート」が起きます。鉱物油の場合、エンジン停止後8時間でドライスタートの可能性が出るとされています。対してGroup4のPAO系化学合成油なら最低でも3〜5日、最上位のエステル系化学合成油では2週間程度は油膜を維持できるという特性があります。
これは使えそうですね。通勤でほぼ毎日乗るライダーより、週末ライダーや長期保管が多いライダーほど、化学合成油のメリットが出やすいと言えます。
化学合成油を選ぶとき、ラベルに並ぶ「10W-40」や「MA2」などの記号に戸惑うライダーは少なくありません。ここを押さえておけば、オイル選びで失敗することはなくなります。
SAE粘度(例:10W-40)の読み方
数字の前半「10W」のWはWinter(冬)の略で、低温時の流れやすさを示しています。数字が小さいほど低温でも固まりにくく、始動性が良くなります。後半の「40」は高温時の粘度の硬さを示しており、数字が大きいほど高温でも油膜が保ちやすくなります。
たとえば「10W-40」は、-25℃の環境でも始動でき、高温時には一定の粘度を保つバランス型です。一般的な国産バイクのメーカー推奨粘度として最も多く採用されています。夏の渋滞路や空冷エンジンには「10W-50」のように後ろの数字が大きいものが向いています。粘度はメーカー指定が原則です。
JASO規格(MA・MB)の重要性
バイクは車と違い、エンジンオイルが変速ギアのトランスミッションとクラッチにも使われています。この「湿式クラッチ」を持つバイクに車用オイルや省燃費添加剤入りのオイルを使うと、クラッチが滑って半クラが効かなくなるトラブルが起きます。
JASO規格はこの問題を防ぐために日本が定めたバイク専用の規格です。
- MA規格:摩擦係数が高く、湿式クラッチを持つスポーツバイク・ネイキッドバイク向け
- MA1:MA規格のなかでも比較的粘度が低いタイプ
- MA2:MA規格のなかでも摩擦係数が高いタイプ。大型バイク・ハーレー向け
- MB規格:摩擦係数が低く、スクーターや原付など遠心クラッチの車種向け
「いい化学合成油を買ったのにクラッチが滑る」という場合、JASO規格の確認不足が原因のことがあります。これだけ覚えておけばOKです。
| JASO規格 | クラッチ形式 | 主な対象車種 |
|---|---|---|
| MA・MA2 | 湿式クラッチ | 大型・中型スポーツ、ネイキッド |
| MA1 | 湿式クラッチ(低粘度タイプ) | 中型バイク全般 |
| MB | 遠心クラッチ | スクーター、原付 |
JASO規格の詳細やMAとMBの使い分けを解説したBike Life Labの記事はこちら
「高性能な化学合成油を入れたから、しばらく交換しなくて大丈夫」と思っていませんか?これがもっとも多い誤解のひとつです。
バイクのエンジンオイルの交換目安は、オイルの種類にかかわらず走行距離3,000〜5,000km、または半年に1回が一般的な基準です。オイルメーカーのWAKOS(和光ケミカル)は、バイク用オイルの交換を走行距離2,000〜3,000kmが妥当としています。
化学合成油は鉱物油より確かに劣化しにくく、高温での粘度低下も少ないです。しかし、エンジン内部で発生する金属粉・燃焼カス・水分が蓄積することでオイルは汚染されます。この汚染は走行を続けるほど進むため、粘度の性能が残っていても定期的な交換は必要なのです。
厳しいところですね。高性能なオイルを入れても、交換サイクルを大きく延ばせるわけではありません。
また、走行距離が少なくても注意が必要です。エンジンオイルは走っていなくても外気中の酸素と反応して少しずつ酸化します。年間走行距離が短いライダーでも、交換してから半年が経過したら距離にかかわらず交換することが推奨されています。
化学合成油のコストを正しく計算する
よくある考え方として「化学合成油は高いけど長持ちするから結局お得」というものがあります。しかし、バイクの場合は交換サイクルをむやみに延ばすことでエンジンにダメージが蓄積するリスクが上がるため、「高性能オイルで交換頻度を減らす」という使い方は基本的には推奨されていません。
たとえば、安い鉱物油(約600円/L)を3,000kmごとに交換するのと、高価な化学合成油(約2,500円/L)を5,000kmごとに交換するのでは、コスト差は車種によって異なりますが、大型バイク(1回交換で3〜4L使用)の場合、年間コストの差は大きくて数千円程度です。この差を踏まえてどちらを選ぶかは、走り方次第です。
バイクのエンジンオイル交換頻度や目安についてグーバイクが解説した記事はこちら
「旧車には鉱物油を入れるべき」という話を聞いたことがあるライダーも多いはずです。実はこの話には根拠があるものとないものが混在しており、ひとくくりに語ると混乱のもとになります。
PAO系化学合成油とガスケットの問題
Group4のPAO(ポリアルファオレフィン)を主成分とする化学合成油は、古いバイクのシールやガスケットを収縮させる性質があると言われています。旧車のシール類は現代のゴム素材と比べて化学合成油への耐性が低いものが多く、PAO系オイルを使うと油滲みや漏れが起きるケースがあります。
ただし、同じ化学合成油でもGroup5のエステル系は「ガスケットへの攻撃性がない」とされており、旧車にも使用可能とするメーカーもあります。また鉱物油(Group1・2)もガスケットへの攻撃性はないとされています。つまり「化学合成油=旧車NG」ではなく、「PAO系化学合成油は旧車に注意が必要」というのが正確な情報です。
「旧車に化学合成油を入れたらオイル漏れした」は本当か?
整備士が1,080基のエンジンを分解・検証したデータによれば、旧車でのオイル漏れの根本的な原因の多くは、オイルの種類ではなくガスケット自体の劣化や熱によるエンジンの歪みが原因です。オイル漏れを起こしている旧車に鉱物油に戻しても、漏れが収まるのは「粘度が高くて滲みにくい」という見かけ上の効果であり、根本的な解決にはならないことが多いです。
これは意外ですね。旧車オーナーが「化学合成油を入れたらオイル漏れした」と感じるケースの多くは、それまで高粘度の鉱物油がごまかしていた隙間から、低粘度の化学合成油が浸透したことで顕在化したというケースです。
空冷バイクへの化学合成油は効果的か?
空冷エンジンは水冷エンジンと違い、エンジンオイルが冷却にも大きく貢献しています。真夏の渋滞路や峠走行では空冷エンジンの油温が130〜150℃を超えることもあります。こういった条件では化学合成油の熱安定性が特に有効です。空冷・大排気量の旧車ほど、正しい化学合成油を選ぶことで得られるメリットは大きくなります。
旧車・空冷バイクにオイルを選ぶ際は、PAO系を避けてエステル系の化学合成油か高品質な鉱物油を検討するか、メーカーや整備店への相談が確実です。確認することが条件です。
整備士が1,080基のエンジン分解データをもとに旧車・空冷バイクのオイル選びを検証した記事はこちら

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