

初心者でもGPSがあれば砂漠で迷わないと思っていませんか?
チュニジア・ラリー(Rally de Tunisie)は1981年に創設された、ダカール・ラリーに次ぐ長い歴史を持つクロスカントリーラリーです。フランス人の冒険家ジャン・クロード・モレレによって始められ、チュニジアの砂漠地帯を舞台に30年以上にわたって開催されてきました。
参考)Rally de T炭nez - Wikipedia, la…
毎年200台を超える参加車両を集める規模の大きな大会でしたが、2012年から2014年にかけて中東情勢の不安定化により中断されました。2015年に3年ぶりに復活したものの、2016年には地政学的な安全上の理由から再び中止となっています。
参考)「Rallye OiLibya de Tunisie」(通称…
つまり開催状況が不安定です。
現在、チュニジアでは「Swank Rally Tunisia」という新しい形式のラリーイベントが開催されており、5日間で約800kmの砂漠地帯を走破するプログラムとなっています。ドゥズ、キャンプ・ズメラ、マトマタといったチュニジアの美しい砂漠エリアを巡るルート設定です。
参考)https://jp.deuscustoms.com/blogs/news/swank-rally-tunisia-1
チュニジア・ラリーへの参加には、想像以上に高額な費用が必要になります。実際の参加者の情報によると、レンタルバイク+メカニックサポートで5,200ユーロ(約85万円)、エントリー費が1,590ユーロ(約26万円)という金額が報告されています。
参考)ラリーにかかった費用 Cost of the Tuareg …
これに加えて、ラリー期間中のホテル代、自分の渡航費用(18万3000円程度のパッケージツアー)、さらにバイクの輸送費も別途必要になります。自分のバイクで参戦する場合は、エントリーフィーとバイク輸送費を合わせた117万8000円という金額も提示されています。
総額で計算すると300~500万円規模が基本です。
マシンを自前で用意する場合は、ラリーマシンの購入費用と改修費用も加算されます。レンタルの場合は毎日の整備をメカニックに任せられますが、自前マシンの場合は予備パーツの準備と自身での整備作業が求められるため、技術と知識も必要になります。
参考)トゥアレグラリー チュニジア Tuareg Rally in…
ダカール・ラリーのような世界最高峰の大会では、1日あたり71万円という計算になり、14日間の大会期間で約1000万円規模の予算が必要とされています。チュニジア・ラリーは開催期間が短いため、ダカールよりは低予算ですが、それでも一般的なツーリングとは桁違いの出費を覚悟する必要があります。
参考)第8話 ダカールラリーの参加方法 - あたしをダカールに…
ラリーレイドに参戦するには、通常のオフロードバイクでは不十分で、専門的な装備の追加が必須となります。走行に必要な装備として、マップホルダー、ラリーコンピュータ、ビッグタンク、補助灯が挙げられます。
ラリーコンピュータは走行距離と区間距離を正確に計測するための機器で、コマ図(ラリーレイドで支給されるナビゲーション用の略図)を読みながら走行するために不可欠です。コマ図には走行距離、区間距離、略図が記載されており、これを頼りに広大な砂漠をナビゲートします。
出場に必要な装備はもっと多岐にわたります。
携行工具、予備部品、ダッフルバッグ(22.5kg以内に荷物を収める)、ライディングギアに加え、出場前の整備としてクラッチ、ハブベアリング、スプロケット、チェーン、ブレーキパッドなどの部品交換が推奨されています。
体調維持のためのハイドレーションパック(移動しながら水分補給できるウォーターバッグ)、携行食、雨具も必要です。生命維持のために救急箱、蒸着シート、サイリウム、ダクトテープ(応急修理・止血用)も準備リストに含まれます。
さらに競技維持のための筆記用具、コンパス、ライト、ポンプも忘れてはいけません。安全基準をクリアしたヘルメット、ゴーグル、オフロード用グローブ、スネまでガードするオフロードブーツ、膝ガード、肘ガードも装備として必要です。
砂漠でのラリーレイドで最も恐ろしいのが、迷子になって日没までにビバーク(キャンプ地)にたどり着けないケースです。夜の砂漠に取り残されると、気温の急降下や方向感覚の喪失により生命の危険にさらされます。
実際の参加者の証言によると、スタートから7時間後に砂漠の中で完全に迷ってしまい、SSのタイムアップ1時間前まで焦りながらナビゲーションに苦しんだという経験が報告されています。約8時間迷子になるという珍道中を経験したライダーもいます。
参考)砂漠で迷子?トヨタ社員がヨルダン・サウジで”冒険者”となる初…
迷子は命に関わる問題です。
砂漠には目印がほとんどなく、「GPS使用不可」というルールを設定しているラリーも存在します。この場合、現在地も向かう先も紙の地図と方位磁石だけで判断しなければなりません。
参考)砂漠を激走するラリーでクルマが大回転!? 自動車ライターが経…
GPS使用が許可されている大会でも、砂漠で電波を拾える保証はありません。ただし、スマホには電波受信とは別にGPS受信機能があり、衛星からの電波が受信できる場所であれば、インターネットがつながらなくてもオフラインでGPS座標が取得できます。事前にマップをダウンロードしておけば、GPS受信だけで現在地がわかるため、GPS対応アプリの準備が推奨されます。
参考)母さん、ゴビ砂漠で迷子になったらどうしよう?|Sunny
コンパスとGPS受信装置が動いていれば、いざという時の生命線になります。飲料水や食料も一定量を荷物に備えておくことが、砂漠での迷子に備える基本的な対策です。
「お金さえあれば誰でも参戦できる」というのは、1980年代のパリダカ時代の話です。当時は確かにエントリーフィーを払ってマシンを用意すれば、昨日バイクの免許を取った人でも参加できました。
しかし現在は状況が大きく変わっています。世界的にダカール・ラリーの人気が高まった結果、主催者によるセレクション(選考)が行われるようになりました。
原則は誰でも参加できる建前です。
実際には、ダカール・ラリーに出場するには他のラリーで好成績を残す必要があり、国際ラリーの常連やエンデューロ世界選手権の国代表クラスの参加者がほとんどです。国内でモトクロスの経験があるだけでは不十分で、チュニジア・ラリーやエジプトのファラオラリーなどで実績を積むことが求められます。
日本国内のJAF公認ラリー競技に参加するには、国内Bライセンスが必要で、全日本選手権の場合は運転免許取得後1年以上経過していること、またはラリーの地方選手権で2回以上の順位認定実績を持つことが条件となっています。
参考)ラリー入門講座
海外ラリー入門としては、アジアクロスカントリーラリーのような比較的参加しやすい大会で経験を積むのが現実的です。参加費用が1,700米ドル程度と、チュニジアやダカールに比べて低予算で始められます。
参考)海外ラリー入門はアジアクロスカントリーラリーで ラリー-バイ…
砂漠を走るラリーレイドでは、日本の林道やオフロードコースでは考えられないようなトラブルが多発します。道中には砂丘の連なる砂漠、石ころだらけの山道、浅瀬の河渡りなどの難所があり、砂地でのスタック、タイヤのパンク、転倒、鉄砲水によるマシンの流失、砂煙で前が全く見えない状態、観客や他車両との接触といったアクシデントが日常茶飯事です。
実際に経験されたトラブル事例として、サハラ砂漠を走るガゼルラリー参戦時に砂丘で大回転してしまい、大事故一歩手前の状況に陥ったケースが報告されています。
砂丘での転倒は命取りになります。
岩場での走行中にパンクしても、動じずにレスキューが来るまでの間に自分たちでできる作業を行えるスキルが求められます。メカニックサポート付きのツアーでない場合、自分で応急修理をする技術が生死を分けることもあります。
過去にはメインピストから外れて走らないよう事前警告が出ていた地雷地帯で、主催者から指示されルートブックにも記載されていたメインピストを外れて走行してしまい、地雷のリスクにさらされたケースも報告されています。主催者の指示とルートブックの記載を正確に理解することが安全の前提です。
砂漠の環境は昼夜の寒暖差も激しく、日中は灼熱、夜間は氷点下近くまで下がることもあります。体調管理を怠ると、脱水症状や低体温症のリスクが高まります。テント泊がある大会では、食器類や寝具の準備も必要で、過酷な環境での数日間の滞在に耐えられる体力と精神力が試されます。
こうした危険を理解した上で、十分な準備と訓練を経て参戦するのが、チュニジア・ラリーを安全に楽しむための鉄則といえるでしょう。