

予選で生き残っても完走率は2%以下です。
ハードエンデューロ世界選手権(HEWC)は、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)が公認する世界最高峰のオフロードバイク競技です。通常のエンデューロレースと異なり、岩場の急坂、直径1.5〜2mの大岩が3.7kmも続くセクション、沼地など、一般的にはバイクで走行することが考えられないような場所をコースとして採用しています。
参考)https://www.redbull.com/jp-ja/event-series/hard-enduro-world-championship
競技は制限時間内にコースを走破することを目指し、順位よりも完走そのものが大きな価値を持つ点が特徴的です。特に岩場の急坂セクションをクリアするのはたいへん困難であり、大勢の転倒者が坂を埋め尽くし、バイクから降りた状態でアクセルを吹かしながら登ったり、他の参加者と助け合ったり、観客に助けられながら登ったりするのがよく見られる光景です。他のエンデューロよりも遥かに完走率が低く、時には完走者0人ということも起こります。
参考)https://ren-x-mission.com/posts/2025-cross-mission-kegon-hard-enduro/
大会期間中の整備・補給・修理は基本的にライダー自身だけで、それも規定時間内で行う必要があるため、一定水準以上のメカニックとしての技術も求められます。つまりライディング技術だけではなく、整備スキルと体力、精神力の全てが試される総合格闘技的な競技ということですね。
2026年シーズンのHEWCは全9ラウンドで構成され、ヨーロッパ、アフリカ、北米の3大陸にまたがる真の世界選手権として展開されます。シーズンは4月17日〜19日にフランスで開催される24MX Alestrem Hard Enduroで開幕し、10月のスペインHixpaniaで幕を閉じます。
参考)Svelato il calendario del Mond…
イタリアでは2大会が開催され、Abestone Rodeo MiravalleとWild Woods Extremeが予定されています。また、スウェーデンでは新たにForza Orzaが世界選手権ラウンドとして加わり、北欧での開催が実現します。
参考)FIM Hard Enduro World Champion…
伝統的なビッグイベントも健在で、5月30日〜6月1日にオーストリアのアイゼンナーツで開催されるRed Bull Erzbergrodeo(エルツベルグロデオ)は「世界一過酷なレース」として知られ、毎年多くのライダーが完走を夢見て挑戦します。アフリカのレソトで開催されるRoof of Africa(ルーフ・オブ・アフリカ)は「ハードエンデューロの母」と呼ばれ、2025年シーズンでは劇的なタイトル決定戦の舞台となりました。トルコのSea to Skyは海抜0mから標高2000m超まで駆け上がる壮大なコース設定で知られています。
参考)Hard Enduro
日本人ライダーの世界選手権への挑戦は着実に進んでいます。エルツベルグロデオには過去5人の日本人選手が出場しており、完走を果たしたのはただひとりだけという厳しい現実があります。
参考)西脇から世界に挑戦 完走率1%「世界一過酷なレース」 - サ…
2024年、藤原慎也選手が3度目の挑戦でエルツベルグロデオ決勝に参戦し、1300台の予選参加者から絞られた500台の中で62位という成績を残しました。特に注目すべきは、直径1.5〜2mほどの大岩が3.7kmも続く地獄のようなセクション「カールズダイナー」を日本人で2人目として通過したことです。このセクションを時間内に走り抜けることが完走への最大の鍵となります。
参考)藤原慎也、日本人で二人目のカールズダイナー通過! エルズベル…
アジア地域でも日本人ライダーの活躍が見られます。2020年に台湾で開催された亀山ハードエンデューロには日本、台湾、韓国のトップライダーが参戦し、実質的にアジア・ハードエンデューロ・チャンピオンシップと呼べる大会となりました。日本からは2019年に高橋博選手が2位という成績を残しています。このように、世界の前にアジアという舞台で日本人ライダーが経験を積み、世界へのステップとしている状況です。
参考)https://www.off1.jp/_ct/17344698
国内では全日本ハードエンデューロ選手権も開催されており、2025年最終ラウンドでは森耕輔選手がYZ250Xで優勝を果たしました。多くの選手が2スト300ccを選ぶ中、250ccマシンでの優勝は技術力の高さを示しています。
ハードエンデューロの観戦は「全員参加型イベント」とも呼ばれ、観客も競技の一部として楽しめる点が大きな魅力です。コース上のどこか一箇所に待機して応援しているライダーの到着を待ったり、全てのライダーが走るのを見たり、さまざまな観戦方法があります。自分がいるポイントまでライダーが来たら全力で応援し、駅伝やマラソンを応援しているような感覚に近いと言われています。
参考)初観戦のハードエンデューロは【○○型イベント】だった|吉良祐…
国内大会では、関東最大級の採石場コースで開催されるCROSS MISSION ケゴンベルグが人気です。2022年12月にはハードエンデューロ世界選手権のトップライダー、グラハム・ジャービス選手を招いて開催され、世界中のレースを経験してきたジャービス選手も絶賛していました。路面は基本的にサンドで全開ヒルクライム、ロックセクション、キャンバーなど様々なシチュエーションが楽しめるコースです。
参考)ジャービスも認めた最高のコース、CROSS MISSION …
世界選手権の映像はRed Bull TVでフォローでき、各ラウンドのハイライトや決勝レースを視聴することができます。特にエルツベルグロデオやHixpania Hard Enduroなどの人気ラウンドは、フェスティバル的な雰囲気で数千人のファンが集まり、現地での観戦も大きな盛り上がりを見せます。
参考)https://www.redbull.com/jp-ja/hard-enduro-world-championship-season-preview
観戦してると、乗りたくてウズウズしてたまらなくなるのがハードエンデューロの魅力です。ある程度乗れる人は観客よりもエントリーして参戦することをオススメします。
ハードエンデューロに挑戦するには段階的なトレーニングが不可欠です。初心者がいきなり難易度の高いコースに挑むと、成長が遅くなるだけでなく怪我のリスクも高まります。まずは広い公園などで基本技術の反復練習から始めることが推奨されます。
参考)ヒルクライム苦手クンたちのための簡単練習法 - ホマニブログ
基本技術として最も重要なのはバランスとクラッチコントロールです。スタンディングのまま力みのない姿勢でゆっくり走ることによって、グリップ感覚やバランス感覚を養います。アクセルを急激に開けず、アイドリングか、それより少し開けるくらいのパーシャル域を使い、一定のスピードで走れるトレーニングをしましょう。
参考)Reddit - The heart of the inte…
ヒルクライムの練習では、初動から体が遅れない様にすることが重要です。とにかく捲れ上がらない様にできる限り前に座り、骨盤から背骨をしっかりと前傾させ、顎を引き、頭を前に出しましょう。前後ブレーキをしっかりかけ、ハンドルはフルロック、足裏の荷重に集中し、2〜3m先を見て、膝は伸ばすのが基本です。
参考)iRC TIRE Presents ロッシ高橋が教えるハード…
ブレーキングの練習も欠かせません。走ることよりも止まることが重要で、アップヒルを下るにしてもダウンヒルを下るにしても、確実に止まれる技術が安全の基本となります。また、自分のバイクの状態を常にチェックする習慣も必要です。エンデューロバイクは時間単位で点検が必要なほど過酷な環境で使用するため、日々のメンテナンスが完走への道につながります。
自分のテクニックと体力に合った強度で段階的に成長していくことが大切です。できないコースで無理をせず、一度止まって再挑戦し、そこから学ぶプロセスが上達への近道となります。
参考になる練習動画として、YouTubeのIRC Tire Guyシリーズでは、バランス、クラッチコントロールなどの基本的な練習を10パートのシリーズで解説しています。
iRC TIRE Presents ロッシ高橋が教えるハードエンデューロテクニック - Off1.jp
上記リンクでは、トライアルバイクではなくトレールマシンやエンデューロマシンでもできるテクニックが詳しく解説されています。
ハードエンデューロに魂を売る覚悟ができている人は2スト300ccを選ぶべきです。該当車両はKTM 300EXC、Husqvarna TE300、GASGAS EC300などで、ハード系への適性は最高評価となっています。これらのバイクは低速トルクが太く、技術的なセクションでの扱いやすさが群を抜いています。
参考)KTM系エンデューロレーサー どれを買えばいい? - ゆるり…
エンデューロレースで最強バイクとの呼び声が高いのが「KTM 250EXC」です。オフロードを速い速度で駆け抜け順位を競うエンデューロレースに最も適しており、世界中のトップライダーが使用しています。KTM系のエンデューロレーサーは耐久性も高く、実際に使用者の中には300時間、走行距離1.3万キロを超えてもエンジンを一度も開けていないという報告もあります。
参考)https://bikeman.jp/blogs/bikeparts/motobike30
初心者や趣味で楽しみたい方には、YAMAHA SEROWがおすすめです。マウント周辺を強化したことによって未舗装路の道でも問題なく走行でき、人間工学に基づいて設計されたライディングポジションで長時間の走行も疲れにくい特徴があります。
バイク選びのポイントは4つです。第一にオフロードモデルであること、第二に車体の軽さ、第三に排気量(200〜300ccが扱いやすい)、第四に乗り心地です。自分のクラスを間違えさえしなければ、ある程度の練習を積んできて、当日力を出し切ればなんとか一周できる、という絶妙な難易度のコースが設定されているため、無理のない範囲で挑戦できます。
参考)”なぜハードエンデューロは面白いのか” その魅力について -…
自分のバイク状態を常に把握しておくことも重要です。オフロードバイクの中でもエンデューロは時間単位で定期的に点検が必要なほど過酷な使用環境であるため、RPMの多様なパターンと回転数領域の力を理解し、適切なメンテナンスを行う習慣が完走への鍵となります。