

学校を午前中で早退して、毎日バイクに乗り続けると子供が世界ランキング4位になれます。
「黒山健一の子供」と検索する人の多くが、健一本人の子供を想像するかもしれません。ただ、正確に言うと少し異なります。
黒山健一(1978年・兵庫県生まれ)は、バイクとトライアルに生涯を捧げた人物で、家族構成も競技中心で組み立てられています。健一の実弟である黒山二郎がメカニック兼マインダーとして長年チームを支えており、その二郎の息子たちが「黒山健一の子供世代」として注目されています。つまり、健一にとっては甥にあたる子供たちです。
3人の名前と生まれ年を整理すると次のとおりです。
- 陸一(りくと):2007年生まれ頃、現在18歳前後。ヤマハファクトリーチームで健一のマインダーを担当
- 陣(じん):2009年生まれ頃、現在15〜16歳。2024年に世界選手権に初挑戦、2025年フル参戦
- 太陽(たお):2012年生まれ頃、現在12〜13歳。走りの強さで注目される末っ子
さらに、末の妹・夢結(めい)も生まれており、黒山家の次世代は4人構成です。これが全員、幼い頃からトライアルの練習を積んでいます。
黒山家において健一は「おじさん」にあたりますが、指導者・競技者・精神的支柱として、この子供たちの成長に深く関わっています。「親子三代」という表現で語られるこの家族の物語は、一郎(祖父)→健一(叔父)→陸一・陣・太陽(甥)という縦のラインで成立しています。つまり黒山家の「子供」とは、家全体でトライアルを引き継ぐ次世代のことなのです。
ヤマハ公式「55mph」:黒山家の親子三代の物語。一郎・健一・二郎・子供たちの生き様が詳しく掲載されています。
「バイクは何歳から乗れるの?」という疑問はライダーなら誰でも持つものです。黒山家の答えは、驚くほどシンプルです。
太陽(たお)は5歳の時点でオートバイに乗れるようになったと記録されています。これはヤマハ公式サイトの取材記事にも記載されており、同時点で兄の陸一は10歳、陣は8歳でした。彼らの生活スタイルは「学校を昼で早退し、午後はトライアルの練習に充てている。晴れの日も雨の日も毎日だ」というもの。一般的な小学生の放課後とはまったく異なる日常です。
毎日練習というのは、週に1〜2回のスクールとは根本的に違います。年間で計算すると、365日のうち雨天も含めほぼ毎日乗り続けるわけで、一般的なライダーが週末にサーキットへ行くペースとは、積み上げる技術量がまるで異なります。
これについて健一は次のように語っています。「いくら素質とセンスがあってもそれだけでは絶対的な優位を築くことは難しい。どこで差が付くかといったらどれだけの時間をトライアルに捧げたかなんです」。これはバイクに乗っている人なら深く刺さる言葉ではないでしょうか。才能よりも時間と積み重ねが最終的な実力を決める。これが基本です。
健一自身も同じ道を歩んでいます。9歳から12歳の間に自転車トライアルの世界選手権で4度のチャンピオンを獲得し、小学6年生でオートバイへ転向。14歳でジュニアクラスから国際A級へ特進という異例のキャリアを積みました。父・一郎が「歌舞伎役者の世襲制度みたいなもの」と表現するように、黒山家ではトライアルは学習や習い事ではなく、生活の一部として存在します。
つまり英才教育です。
ただ、これは単に親が子供を競技に「放り込む」のとは違います。父・二郎はメカニックとして独学で専門技術を習得し、祖父・一郎は自ら旋盤・フライス盤・溶接機を揃えたワークスペースを一家の1階に設けています。その設備の充実ぶりはワークスチームのピットと同水準です。子供の成長に家族全員がのたうち回りながら関わる、それが黒山流です。
黒山陣(じん)の話は、バイク乗りとして聞いてもゾクッとするものがあります。
陣は2024年の時点でまだ14歳。その年齢で世界選手権(トライアル3クラス・125cc以下)に初挑戦しました。年齢制限により16歳未満はT3クラスしかエントリーできないため、125ccのマシンで欧州のライダーたちと戦うことになります。
この挑戦についてトライアル専門メディア「自然山通信」のインタビューで、陣はこう語っています。「現場に行くまでは怖かった。なにが起きるのかという漠然とした恐怖。ところが実際には、すごく楽しかった」。初挑戦では準備万全のつもりで臨んだものの、世界の125ccクラスのレベルに圧倒されます。「完璧に準備したはずが、ぼくが思っているよりもっと125を操っている選手がいた」——この経験が、世界に飛び出す覚悟を固めた転換点になったのです。
2025年シーズン、陣は15〜16歳でT3クラスにフル参戦。第1戦スペイン大会では1日目4位・2日目2位という結果を出し、シーズン序盤で世界ランキング2位に立ちました。専門メディアmspro.jpによると、2025年7月時点で世界ランキング4位を記録しています。これはただの「若手の挑戦」ではありません。
興味深いのは、陣が高校進学をしていないことです。「中学卒業後は学校に行かない」と明言しており、その代わりに世界選手権にフルコミットしています。1月1日から125ccしか乗らないという練習計画を自分で立て、「300ccで上げた実力の80%を125で出せるようにする」という具体的な目標設定も自ら行っています。プロアスリートとしての自覚と思考回路は、10代とは思えない水準です。
陣の存在は、バイクに乗っている人にとってひとつの気づきを与えてくれます。「バイクは年齢を問わない」ということです。世界選手権のスターティンググリッドに14歳が並ぶ現実は、バイクという乗り物の奥深さを改めて示しています。
自然山通信「世界をとれ、黒山陣」:黒山陣本人への独占インタビュー。世界選手権への挑戦経緯と技術論が詳細に語られています。
健一自身のバイク観・子育て観は、一般のライダーが持つそれとはかなり異なります。ここに独自の哲学があります。
「当時はトライアルが楽しいという感覚すらなかった。あまりにも身近で当たり前のことでしたから」——これは健一が自身の幼少期を振り返った言葉です。多くのライダーは「バイクが好きだから乗る」「楽しいからレースに出る」という順番で競技に入っていきますが、健一の場合はまったく逆です。「楽しい」という感覚が芽生える前から、すでに頂点を目指す行動が日常になっていた。これが原点です。
さらにこう続けます。「当初から上手くなりたいというより『勝ちたい』というのが大きなモチベーションになっていました。勝つために沢山練習して上手くなる。趣味や遊びではなく、最初から頂点を目指してやっていた」。これはバイクに乗っている多くの人が持つ「趣味として楽しむ」スタンスとは、根本から異なるアプローチです。
ただ、健一が子供たちに対して一方的に「やれ」と押しつけているわけではありません。これは使えそうです。
甥の陣は「世界に行くのは全日本タイトルを取ってからだと思っていた。でもタイミングも大事だということを学んだ」と語っており、自分でタイミングと優先順位を判断する力を持っています。一方で陣の母・まみさん(二郎の妻)は幼稚園の保育士経験を生かし、子供の気持ちを第一に考えた子育てを実践しています。「大人のエゴではなく、子どもが一番望む心地よさや楽しめることは何なんだろう」という視点を大切にしているのです。
トップライダーを育てるのに必要なのは「強制」ではなく「環境」と「寄り添い」の組み合わせだということですね。親が子供のバイクライフに関わりたいと思っているなら、黒山家のアプローチは非常に参考になります。まず自分自身が競技の知識を深め、機材の整備ができる環境を整える——それが子供の成長を加速させる最大の要因になっていることが、黒山家の実績からも見えてきます。
ここまで子供・甥っ子たちの話を中心にしてきましたが、健一本人の2025年の動きも見逃せません。バイクファンにとっても、これは大きなニュースです。
2025年の全日本トライアル選手権で、黒山健一はヤマハの電動トライアルバイク「TY-E 3.0」で全日本チャンピオンを獲得しました。これは史上初となる電動バイクによる最高峰クラスのタイトル獲得であり、しかも前回のチャンピオン(2012年)から実に13年ぶりの戴冠です。2025年11月時点でこのニュースは多くのバイクメディアが報じており、電動バイクの可能性を世界に示した歴史的な出来事として評価されています。
これが子供・甥っ子世代に与える影響は計り知れません。厳しいですね。なぜなら、おじさんがまだ頂点にいるからです。
陣は「全日本チャンピオンを取ってから世界に出るつもりだったが、おじさんはそうじゃなかった」と述べており、健一の現役継続がむしろ甥たちの戦略に影響を与えています。同時に、現役でトップを走るおじさんの背中は、最高の「生きた教材」でもあります。「技術・精神・判断力」すべてにおいて、身近な大人が世界水準であるという環境は、どんな指導よりも価値があるのかもしれません。
黒山健一の子供・甥っ子たちの将来を考えるうえで、健一本人がまだ現役チャンピオンとして走り続けていることは非常に重要な文脈です。一郎(祖父)→健一(叔父)→陣・陸一・太陽(甥)という三代の継承は、まだ進行形の物語として続いています。
ヤマハ発動機公式リリース:黒山健一選手が電動バイクTY-E 3.0で2025年全日本IASチャンピオンを獲得した公式発表。史上初の記録の詳細が確認できます。
「トライアルなんて自分には関係ない」と思っているバイク乗りも多いかもしれません。ただ、黒山家の話はバイクライフ全般に通じる普遍的なメッセージを持っています。
まず、トライアル競技そのものについて簡単に説明します。トライアルは障害物(岩・段差・急斜面など)で構成されたセクションをいかに足を着かずにクリアするかを競う競技で、タイムではなく減点(失点)の少なさで順位が決まります。スピードよりも正確なバイクコントロールが問われるため、「バランス・アクセルワーク・体重移動」の精度が極限まで磨かれます。これが原因です。
実は、トライアルの技術はオンロード・オフロードを問わず一般のバイク乗りにも応用できる部分が多くあります。急制動時のバランス感覚、滑りやすい路面でのアクセルコントロール、ヘアピンでの低速バランス——これらはすべてトライアル的な身体感覚と直結しています。黒山健一がスクールや学校への訪問デモを積極的に行っているのも、「トライアルで鍛えたスキルは広く応用できる」という信念があるからでしょう。
子供をバイクに乗せたいと考えているライダーには、黒山家の事例は大きなヒントになります。大切なのは3点です。「環境を整えること(自宅近くに練習できる場所・工具・整備知識)」「毎日続けさせること(週1回よりも短時間でも毎日)」「大人が本気で関わること(子供任せにしない)」。これだけ覚えておけばOKです。
子供をトライアル競技に入門させたい場合、まずは「黒山familyトライアルスクール」のようなスクールへ参加するのが現実的な第一歩です。全国各地で開催されており、初心者・子供向けのクラスも設けられています。健一本人が指導にあたる場合もあり、バイク好きの親子にとっては貴重な体験になります。
バイクという乗り物は、世代を超えて人と人をつなぐ力を持っています。黒山家の三代にわたる物語が証明しているのは、ただ「バイクが速い」ことではなく、バイクを通じて人生が豊かになるということです。
OFF1.jp:黒山familyトライアルスクール2Daysの詳細。子供から大人まで参加できる初心者向けスクールの内容が紹介されています。