

晴れた日のツーリングでも、横風注意標識の先で突風に煽られた瞬間、ハンドルを取られて隣車線に流れたライダーは少なくありません。
雨の日に濡れたアスファルトが滑るのは誰でも知っています。でも、乾いた晴れの日でも「すべりやすい」標識が出ていることに気づいているライダーは、意外と少ないのが現実です。
「すべりやすい(標識番号209)」は、路面が著しく滑りやすい状態になっている区間に設置される警戒標識です。凍結や雨はもちろん、落ち葉・砂利・路面の摩耗なども設置の対象になります。これはあくまで警戒標識であり、速度制限を命じるものではありませんが、見かけたら即減速が鉄則です。
バイクにとって特に注意が必要なのは、路面のμ(摩擦係数)が急激に下がる箇所です。中古二輪自動車流通協会の調査によると、86%のライダーがマンホールや白線で「滑ると感じる、または滑った経験がある」と回答しています(回答数249人)。
数値で見るとその深刻さがよくわかります。乾燥したアスファルトのμは0.8前後であるのに対し、雨で濡れたマンホールのふたはμ=0.2程度まで落ちます。積雪路と同じレベルです。白線(横断歩道の塗料部分)も、ウェット時はμ=0.2と同等です。
| 路面の種類 | 乾燥時μ | 雨天時μ |
|---|---|---|
| アスファルト舗装路 | 0.8前後 | 0.4〜0.6 |
| マンホールのふた | 0.4程度 | 0.2程度 |
| 白線(路面標示) | 0.4程度 | 0.2程度 |
| 積雪路(参考) | — | 0.2〜0.5 |
つまり、晴れていても交差点に多いマンホールや横断歩道の白線は、乾燥アスファルトの半分以下の摩擦しかありません。
さらに問題なのは老朽化です。日本グラウンドマンホール工業会の推計によると、全国約1500万個の下水道マンホールのうち300万個(全体の約2割)が標準耐用年数を超過しているとされています。交換費用は1か所あたり20万円弱かかるため、老朽化した危険なふたが今も各地に残っている状況です。
制動距離にも大きく影響します。60km/hで走行中、乾燥路面での制動距離は約20mですが、濡れた路面では約35mと、1.7倍以上に延びる計算になります。「すべりやすい」標識を見たら標識のずっと手前から速度を落とし、ブレーキ・アクセル・ハンドルいずれの急操作も避けることが命を守る基本です。
マンホールの上を通過する場合は、できるだけ車体を直立させ、通過中は一切のブレーキ操作とアクセル操作を控えることが原則です。
JAFメイト「バイクの大敵!マンホールのふたの危険とは?」:マンホール上でのスリップ事故の実例と専門家の解説
高速道路の路肩で、こいのぼりのような細長い筒がはためいているのを見たことはあるでしょうか。あれが「吹き流し」です。横風注意標識とセットで設置されることが多く、角度を見るだけで現在の風速が把握できるという、ライダーにとって非常に重要な情報源です。
吹き流しの角度と風速の目安は以下の通りです。
| 吹き流しの角度 | 風速の目安 | バイクへの影響 |
|---|---|---|
| 約30度 | 3m/s程度 | ほぼ影響なし |
| 約45度 | 5m/s程度 | 軽量バイクは注意が必要 |
| 60度以上 | 7m/s程度 | 明確なふらつきを感じ始める |
| 水平(真横) | 10m/s以上 | 全車種で走行に危険を伴う |
風速10m/sとはどのくらいの強さでしょうか。体感としては「傘が差しにくい」「自転車の走行が危険」とされる強さです。走行中の車が横風にあおられるのを感じるほどのレベルで、バイクでは進路がそのまま持っていかれるリスクがあります。
特に注意すべきなのは、風速の変化が急激な場所です。無風のトンネル内で速度を維持したまま出口に出た瞬間、10m/s以上の横風に突然さらされるケースがあります。これは「トンネル出口横風」と呼ばれる現象で、多くのライダーが「気づいたら隣車線に移動していた」と体験する状況の正体です。
横風が特に強くなりやすい場所は次の通りです。
- 🌊 海辺の大橋・湾岸線:風を遮る物が何もない最悪の環境(明石海峡大橋・東京湾アクアライン等)
- 🏔️ 山間部の橋:谷が風の通り道になっており、密度の高い風が集中する
- 🚇 トンネルの出口:内部の無風状態から突然の横風へ、準備する間もない
- 🏙️ ビル街のビル風:建物の隙間で風が加速・方向が急変する
フルカウル車は車体面積が広い分、横風を受けたときに流される感覚が強く出ます。一方でネイキッドやクルーザー系は重心が低く横風に対して相対的に安定しやすいと言われていますが、いずれも過信は禁物です。
吹き流しが水平に近くなっているのを確認したら、次のSAやPAで風がおさまるまで休憩を取ることを真剣に検討してください。走行継続ありきで考えないことが、転倒を防ぐ最善策です。
ほとんどのライダーは、「滑りやすい路面」と「横風」を別々のリスクとして考えています。しかし実際のツーリングでは、この2つが同時に発生する複合リスクこそが最も危険です。これはあまり語られない視点ですが、知っておくと命に関わります。
雨の日の高速道路や山間部での走行を想像してみてください。路面は濡れていて摩擦係数は半分以下、かつ橋の上やトンネル出口では横風にさらされます。通常の状況ならバイクを傾けることで風に対応できますが、路面が滑りやすいときにリーン(傾け)操作をすると、タイヤが横滑りするリスクが一気に高まります。
この複合状況で特に重要なのが、前後ブレーキの使い方の切り替えです。乾燥路面では前輪ブレーキをやや強く使うのが基本ですが、路面が滑りやすいときは後輪ブレーキをやや強く使うことが推奨されています。前輪ロックは転倒に直結しやすいため、滑りやすい路面では後輪に比重を移すのが原則です。
具体的な対処手順をまとめます。
また、ABSが搭載されたバイクでは、急ブレーキ時のタイヤロックは防いでくれますが、横滑りそのものには効きません。ABSがあれば安心、という思い込みは危険です。
2018年10月以降に販売された126cc以上の新型車にはABS搭載が義務化されており、2021年10月以降は継続販売の旧型車にも順次義務付けが進みました。自分のバイクがABS搭載かどうかを確認し、ABSがない場合はより慎重なブレーキ操作が求められます。
横風が強いと感じたらすぐ止まる判断ができる、というのがベテランライダーの基準です。走り続けることと安全を天秤にかけるのではなく、リスクを感じたら即停車できる勇気を持てるかどうかが、事故を防ぐ分岐点になります。
Hondaグローバル「危険予測トレーニング・高速道路のトンネル出口」:トンネル出口での横風リスクを実際の状況に即して解説
「カウルが付いているバイクの方が風に強い」と思っているライダーは多いはずです。確かに走行風への防護という意味ではカウルは有効ですが、横風に限って言えば話が変わってきます。
フルカウル車は車体の受風面積が大きいため、強い横風が当たったときに横方向への力も大きくなります。つまりフルカウル車は横風を正面から「受けやすい」という逆説があります。カウル付きの大型バイクに乗っているライダーほど、横風に対して過信しやすいので注意が必要です。
車種別の横風への強さを簡単にまとめると次のようになります。
いずれの車種でも、風速10m/sを超える横風下では走行に危険を伴います。10m/s以上ではできる限り走行を避けるのが安全で、特に15m/s以上の強風下での走行は非常に危険とされています。風速15m/sは「向かい風の中では歩けなくなる人も出る」強さです。バイクでその風の中を走ることの危険性は、言うまでもありません。
ネイキッド乗りで横風対策を強化したい場合、ビキニカウルやスクリーン(ウインドシールド)の後付けが有効です。スクリーンを追加するだけで走行風・横風ともに体への負担が大幅に減り、長距離ツーリングの疲労軽減にも直結します。価格は車種によりますが、汎用品なら1万円台から選択肢があります。ただし装着後は車体の特性が変わるため、低速域から慣らして感覚をつかむことが条件です。
教習所の先生「バイクの横風対策5選【知らないと危険】」:車種別の横風リスクとニーグリップ等の対策を詳しく解説
走る前の情報収集が、転倒の確率を大きく下げます。これは地味に聞こえますが、実際には最も効果の高い対策です。
天気予報アプリで「風速」を確認する習慣を持っているライダーは少ないものです。しかし、天気予報の「晴れ」という情報だけではバイクの安全判断には不十分です。晴れていても風速10m/s以上なら高速道路の走行は慎重に考えるべきで、5〜10m/sの段階でも軽量バイクやスクーターは影響を受け始めます。
走行前チェックとして意識すべきポイントをまとめます。
走行中には、上述した「吹き流しの角度チェック」を習慣にするだけで、危険区間を早期に察知できます。標識や吹き流しはライダーへのリアルタイム情報です。見逃さないよう、遠くを見る視野の広さを意識することが大切です。
また、高速道路で横風を強く感じたときは、次のSA・PAまで無理に走り続けず、速度を落として走行し続けるか、路肩で一時停車して風の状況を確認するのが正解です。「あとちょっとで次のPAだから」という判断が、最もリスクの高い状況を生み出します。
転倒してからでは取り返しがつきません。標識・吹き流し・路面状態の3つを「乗る前に・走行中に」常にチェックする習慣が、あなたのツーリングを守る最大の武器になります。
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