

ABS搭載バイクでも、砂利道では制動距離がむしろ伸びて止まれなくなります。
ABS(Anti-lock Brake System)は「アンチロック・ブレーキ・システム」の略称で、日本語に直訳すると「ブレーキをロックさせないための機構」です。バイクを急停止させようとした瞬間、タイヤが完全に回転を止めてしまう「ロック状態」になると、車体は直進性を失い、最悪の場合は一瞬で転倒します。
特にフロントタイヤがロックした場合、ライダーが反応する間もなく転倒するほど危険です。ABSはこのリスクを最小化するために設計された電子制御装置です。つまりABSが必要な場面です。
バイクには「慣性の法則」が常にはたらいています。走行中のバイクはそのまま進み続けようとする力が働いており、ブレーキをかけてもタイヤのグリップ力が慣性力に負けてしまうとロックが発生します。ABSはそのギリギリの状態を電子制御でコントロールし、タイヤのグリップ力が最大限に発揮できる「ロック直前」の状態を維持し続けます。
もともとABSは航空機や鉄道のブレーキシステムとして開発されたテクノロジーです。二輪車に初めて採用されたのは1987年、BMW「K100」というモデルでした。四輪車への搭載(メルセデスベンツ、1978年)よりも約10年遅かったことを考えると、バイク用ABSの開発がいかに難しかったかがわかります。これは意外ですね。
| 項目 | ABSなし | ABSあり |
|---|---|---|
| 急制動時のタイヤ状態 | ロックして滑る | ロック直前を維持 |
| 転倒リスク | 非常に高い | 大幅に低減 |
| ハンドル操作 | 効かなくなる | ある程度維持 |
| 濡れた路面での制動 | 不安定 | 安定 |
ベテランライダーでも、パニック状態になったときには無意識にブレーキをロックさせてしまうことがあります。経験年数に関係なく、ABSはすべてのライダーに恩恵をもたらすシステムだと言えます。ABSがあれば本来の制動力を有効に活かせます。
バイクのABS仕組みと歴史をわかりやすく解説|オールメンテナンス
(ABSの構成部品や、バイクへの採用が遅れた歴史的背景が詳しくまとめられています)
ABSは主に「車輪速センサー」「ABSコントロールユニット」「ABSモジュール」の3つの部品で構成されています。それぞれが連携することで、タイヤのロックを毎秒数十回という速さで防止しています。これが基本です。
🔩 ①車輪速センサー(ホイールスピードセンサー)
ホイールハブに取り付けられた電磁センサーが、パルスホイール(凹凸が刻まれた円盤)の回転を読み取り、タイヤの回転速度を常時監視しています。このパルスホイールの存在こそ、ABS搭載車の見分け方のひとつです。ブレーキディスクの内側に穴の開いた円盤が見えれば、ABS搭載車である可能性が高いです。
💡 ②ABSコントロールユニット
センサーから受け取ったパルス信号をもとに、「実際の車速」と「タイヤの回転速度」の差を常時監視します。急ブレーキでタイヤがロックしかけると、この差が急激に大きくなります。コントロールユニットはその差を検知して「ロックしている」と判断し、次のABSモジュールへ制御指示を出します。
🛠 ③ABSモジュール(ABSアクチュエーター)
マスターシリンダーとブレーキキャリパーの間に設置されており、コントロールユニットの指示に従ってブレーキの油圧を素早く「減圧→加圧」と繰り返します。この動作が1秒間に10〜25回という速さで行われ、ライダーが手動でポンピングブレーキを行うよりもはるかに素早く、精密に制動力を制御します。
ブレーキレバーを握った力は油圧ホースを通ってABSユニットに伝わり、通常時はそのままキャリパーへ届きます。ABSが作動すると、その油圧経路が瞬間的にコントロールされ、ロック状態を回避するというメカニズムです。これで制動が安定します。
ABS作動中には、ブレーキレバーやペダルにわずかな振動(キックバック)を感じることがあります。これは故障ではなく、ABSが正常に働いているサインです。初めて体感すると驚く人も多いですが、そのままブレーキをしっかり握り続けることが重要です。
バイクのABSとは?仕組みや作動時の挙動をわかりやすく解説|webオートバイ
(月刊オートバイのベテランテスター・太田安治氏が仕組みと実際の挙動をわかりやすく解説しています)
ABSには「1チャンネル(1ch)」と「2チャンネル(2ch)」の2種類があります。この違いを知らずにバイクを選ぶと、乗り方と装備がミスマッチになる可能性があります。知っておくと得する知識です。
1チャンネルABS(前輪のみ)
前輪のみにABSが設置されているタイプです。タイヤのロックによる転倒はフロントブレーキの握りすぎが圧倒的に多く、前輪だけでも制御できれば転倒リスクは大幅に下がります。コスト上昇を抑えられるため、125ccクラスのモデル(Honda PCX、モンキー125、ADV150など)に多く採用されています。
2チャンネルABS(前後輪)
前輪・後輪の両方にABSが設置されているタイプです。より高いレベルで転倒を防止できるため、中〜大型バイクや、スポーツツーリングモデルに標準的に搭載されています。
| タイプ | 対象ホイール | 主な搭載車種 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 1チャンネルABS | 前輪のみ | PCX、モンキー125など | コスト抑制、小排気量向け |
| 2チャンネルABS | 前後輪 | 中〜大型バイク全般 | 前後ともロック防止、高安全性 |
最近では、さらに進化した「コーナリングABS」を搭載するモデルも登場しています。これはバンク角センサー(IMU:慣性計測装置)と連動して、コーナリング中でもABSが精密に作動するシステムです。従来のABSはバイクを直立させた状態でのブレーキングに最適化されていましたが、コーナリングABSはカーブ中の制動にも対応できます。
また、CRF1100LアフリカツインやTenere 700のように、リア側のABSだけをスイッチでオフにできるモデルも存在します。オフロード走行では後輪をあえてロックさせてリアスライドを使うテクニックが必要な場面もあるため、こうした機能が設けられています。フロント側のABSは残ったままなので、法的に問題はありません。
「ABSがあれば絶対に安全」と思っているライダーは注意が必要です。ABSは万能ではなく、路面状況によっては制動距離がABSなし車より長くなることがあります。
ABSが逆効果になるのは、主に以下の路面です。
- 🪨 砂利道・未舗装路:タイヤをロックさせると砂利がタイヤの前に壁のように積み上がり、その抵抗で短く止まれることがある。ABSが作動するとこの「砂利の壁効果」が使えなくなる。
- ❄️ 雪道・氷上:積雪路ではタイヤをロックさせた方が雪に食い込んで制動力が上がるケースがある。
- 🌿 泥道・草地:タイヤが路面に食い込む動きが重要な場面でABSが介入すると、制動距離が延びやすい。
これが原則です。だからこそ、競技用オフロード車やトライアル車はABSの義務化対象から除外されているのです。現行のCRF1100LアフリカツインやYAMAHA Tenere 700がリアABSのみキャンセルできる仕様になっているのも、こうした実態を踏まえた設計です。
一方、濡れたアスファルトや制動が求められる一般道では、ABSの効果は絶大です。70km/hで走行中にパニックブレーキをかけた場合、ABSなしではタイヤがロックして転倒するリスクが高まりますが、ABSありでは車体の安定を保ちながら効率よく減速できます。
路面状況を常に意識しながら走行することが大切です。オフロードや砂利道に頻繁に入る場合は、リアABSのキャンセル機能付きモデルを検討してみると、より安全に走れる可能性があります。
バイクのABS義務化・罰則・例外まとめ|ForR(ヤングマシン)
(ABS義務化の適用時期・例外モデル・警告灯の取り扱いなどが詳しく解説されています)
日本では、道路運送車両の保安基準の改正により、バイクへのABS搭載が段階的に義務化されました。この法律は、バイクによる交通事故死者数の削減を目的として2015年1月に閣議決定されたものです。
📅 ABS義務化の適用スケジュール
| 区分 | 適用開始日 | 対象 |
|------|-----------|------|
| 新型車 | 2018年10月1日以降生産 | 51cc以上 |
| 継続生産車・並行輸入車 | 2021年10月1日以降生産 | 51cc以上 |
| 原付二種(51〜125cc) | 同上 | ABSまたはCBS(前後連動ブレーキ)でもOK |
ここで重要な誤解を解いておきます。義務化以前に生産・購入されたバイクは、後付けでABSを装着する義務はありません。これは「メーカーが売る時点での義務」であり、既存ユーザーへのさかのぼり適用はないためです。
ただし、以下の点は絶対に覚えておいてください。
- ✅ 義務化対象のバイクなのにABSをキャンセル・取り外す行為は不正改造です。
- ✅ 不正改造が発覚した場合、整備命令が下され15日以内に修理が必要。従わなければ50万円以下の罰金が科されます。
- ✅ ABS警告灯が点灯したままのバイクは、2017年2月以降の車検に通りません(義務化前の旧型バイクでもABS付きならNG)。
50万円の罰金は痛いですね。特に「旧型バイクだからABS警告灯が点いていても問題ない」と思っている人は要注意です。2017年2月の車検基準変更以降、ABS搭載バイクはすべて、義務化の適用時期に関わらず、警告灯が点灯したままでは車検に通りません。
ABS警告灯が消えない主な原因としては、車輪速センサーの故障・汚れ、ABSコントロールユニットの異常、ヒューズ切れなどが挙げられます。修理費用の相場はセンサー交換なら1〜3万円程度が目安ですが、コントロールユニット交換となると10万円以上になるケースもあります。異常を感じたら早めに専門ショップへ持ち込むのが最善策です。
ABSがあるからといって、何も考えずにブレーキをかければいいわけではありません。ABSの恩恵を最大限に引き出すためには、正しい使い方を知っておく必要があります。ABSが条件です。
ABSを正しく作動させる基本ポイント
- 🛑 ブレーキはためらわず力強く握る:ABSの効果はブレーキを全力でかけることで引き出されます。「ロックしそうだから」と弱く握ってしまうと制動距離が逆に伸びます。
- 🏍 車体を直立に近い状態で:コーナリングABS非搭載のモデルでは、バンク中にABSが作動すると想定外の挙動が出る可能性があります。コーナーに入る前に速度を落とすのが基本です。
- ⛽ フロントとリアを同時にかける:スポーツモデルでは前後比7:3程度が一般的ですが、どちらも確実にかけることでABSの恩恵を最大化できます。
スキルのあるライダーがABSなし車でタイムを測ると、短い制動距離を出せるケースがあります。しかし現実のパニックブレーキ時は、ほとんどのライダーがロックを恐れて強いブレーキを躊躇してしまい、制動距離が長くなります。ABSがあれば、そうした心理的な躊躇をせずに全力でブレーキをかけられます。これは使えそうです。
また、初めてABSを体験したい場合は、交通量のない広い場所で、車体を直立させた状態から40km/h以下でリアブレーキを思い切り踏んでみるのが安全です。ブレーキレバーに感じるわずかな振動がABS作動のサインです。この感覚に慣れておくと、実際の緊急場面でパニックになりにくくなります。
ブレーキ性能はバイクのモデルによって異なります。スポーツモデルはレバーを握り始めから強く効くセッティングで、ABSが恩恵を受けやすい特性があります。一方、ストリートモデルは握り込み量に応じて徐々に効くように設定されており、日常的な街乗りでの扱いやすさを優先しています。乗っているバイクの特性を把握した上で、ABSを賢く活用することが安全なライディングへの近道です。
バイクのABSはなぜ義務化?コンビブレーキとの違いも解説|ベストカーWeb
(ABSの義務化の背景、コンビブレーキとの違い、最新モデルへの搭載状況が詳しく解説されています)

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