

コーナリングABSが搭載されたバイクでも、ABS警告灯が点灯したまま走行すると不正改造扱いとなり、50万円以下の罰金が科されることがあります。
ABS(アンチロックブレーキシステム)は、急ブレーキ時にタイヤがロックするのを防ぐ装置です。2018年10月以降に生産された新型車(排気量51cc以上)には装着が義務化されており、現代のバイクにはほぼ標準搭載されています。
しかし「普通のABS」には、大きな弱点がありました。バンク(傾き)した状態では正常に機能しないのです。
普通のABSは、前後ホイールのスピードセンサーが検知する「回転差」だけを頼りに制御しています。つまり、バイクが直立しているかコーナリング中かを区別できません。コーナリング中に急ブレーキをかけると、ABSがかえって転倒を引き起こすリスクがありました。これが原則です。
コーナリングABSは、この弱点を根本から解決したシステムです。リーンアングルセンサー(傾斜角センサー)または6軸IMU(慣性計測装置)を搭載し、バイクが今どのくらい傾いているかをリアルタイムで把握します。その情報をもとに、コーナリング中に最適化されたブレーキ制御を行います。
つまり、バンク状態でも安全にブレーキをかけられるということですね。
普通のABSとコーナリングABSの主な違いをまとめると。
ライダーにとって特に重要なのは「バンク中の急ブレーキ」です。コーナリング中に突然障害物が現れた場合、普通のABSでは対応できない状況でも、コーナリングABSなら制動力を適切に調整してくれます。これは使えそうです。
参考:コーナリングABSの仕組みについてのわかりやすい解説(ライダーズクラブ)
https://ridersclub-web.jp/column/technic-654979/
コーナリングABSを語るうえで、IMU(イナーシャル・メジャーメント・ユニット=慣性計測装置)の存在は欠かせません。IMUとは何でしょうか?
IMUは、加速度センサーとジャイロスコープを組み合わせたセンサーユニットで、バイクの「今の姿勢」を6つの軸(前後・左右・上下の加速度、ピッチ・ロール・ヨーの回転速度)で計測できます。人間の内耳にある三半規管を電子化したようなイメージです。スマートフォンの中に入っているセンサーとほぼ同じ原理ですが、二輪車向けに高精度化されています。
ボッシュのMSC(モーターサイクル・スタビリティ・コントロール)に採用されているIMUは、秒間最大100回というスピードでバイクのダイナミクスを計測します。1秒間に100回というのは、スポーツカメラが超スローモーション撮影をするコマ数と同程度。それほど高速に車体の状態を読み取り、制御しているわけです。
バンク角に応じてなぜABSの挙動を変える必要があるのか、具体的に説明します。バイクのタイヤは断面が丸みを帯びた形状をしており、直立時とバンク時では路面に接地するタイヤの部分(接地点)が大きく変わります。直立時はタイヤ中央部(外周が大きい)、バンク時はタイヤ左右端寄り(外周が小さい)に接地点が移動します。
外周が変わるということは、同じホイール回転数でも「実際に進む距離」が変わることを意味します。つまり、ホイール回転差だけを見ていた普通のABSは「ロックしている」と誤判定する危険があったのです。IMUを活用したコーナリングABSは、このバンク角に応じた誤差を補正し、正確なブレーキ制御を実現しています。
IMUが搭載されているバイクでは、コーナリングABS以外にも以下の電子制御がよりインテリジェントに機能します。
IMUがあるかどうかが、コーナリングABSの性能を大きく左右します。これが基本です。
参考:BoschのMSCシステムとIMU技術についての公式発表(ボッシュ・ジャパン)
https://www.bosch.co.jp/press/group-2511-01/
コーナリングABSは、かつてはDucatiやBMWなどのハイエンドモデルにしか搭載されていませんでした。しかし近年は、ミドルクラスのバイクにも普及が進んでいます。各メーカーの特徴をまとめました。
BMW Motorrad:ABS Proシリーズ
BMWは2輪向けABSの草分けです。世界初の量産バイク用ABSは1988年モデルのBMW K100系に搭載されたものです。現在はABS Proという名称で、コーナリングABSを幅広いモデルに展開しています。R1250GS、S1000RR、R nineT など主力モデルほぼすべてに標準装備されており、バンク角に応じた緻密な制御で高い評価を受けています。
Ducati:ボッシュMSC採用
ドゥカティは「ST4 S」に初めてABSを搭載し、その後コーナリングABSを積極展開してきたメーカーです。ボッシュ製のMSCを核に、Panigale V4、Multistrada V4、Diavel V4などに搭載しています。ドゥカティはコーナリングABSを「バイク誕生以来、最も画期的な安全ソリューション」と表現しています。
Honda:スーパースポーツ向けABS
ホンダはCBR1000RR-Rファイヤーブレードに「スポーツモード」と「トラックモード」の2段階ABS切り替えを採用。急制動時のリアリフト(後輪浮き上がり)をIMUで検知してブレーキ圧を調整する機能も備え、サーキット走行でも最適な制動を実現しています。
Yamaha:自社製6軸IMU搭載
ヤマハは2022年モデルのXSR900やMT-09、TRACER 900などに自社開発の6軸IMUを搭載しました。ABSモードはBC1(一般ABS制御)とBC2(コーナリングABS制御)の2種類を切り替えられ、ライダーが状況に応じて選択できる仕様になっています。意外ですね。
Kawasaki:ミドルクラスへの普及
カワサキはGPZ1100に世界初のボッシュ製モーターサイクル用ABSを搭載したパイオニア的存在でもあります(1995年)。近年はZ900RSやNinja 1000SXなどのモデルにも展開し、コスト面でのミドルクラスへの普及をリードしています。
KTM:オフロード用ABSとの組み合わせ
KTMの250アドベンチャーはリーンアングルセンサー搭載で、ロード用とオフロード用の2モードを切り替えられます。オフロードモードではフロントのみのABS制御となり、路面状況に応じた柔軟な対応が可能です。
コーナリングABSが普及し始めているとはいえ、現時点では主に排気量400cc以上のスポーツ・ツアラー・アドベンチャー系モデルへの搭載が中心です。バイク選びの際には、カタログのスペック欄で「コーナリングABS」または「IMU搭載ABS」の表記を確認するのが確実です。
「高価な電子デバイスは速いライダーのためのもの」と思っているライダーも多いかもしれません。しかし実際のデータは、コーナリングABSが一般ライダーの安全を大きく底上げすることを示しています。
ボッシュの事故調査報告書によると、すべての二輪車にMSC(コーナリングABSを含む)が装備された場合、ABSとMSCを組み合わせることで、ドイツ国内だけでも人身事故を含む二輪車事故の30%以上を防止または軽減できる可能性があるとされています。東京ドームのグラウンドに3人の負傷者がいるとしたら、その1人をコーナリングABSが救える計算です。
コーナーでのブレーキングミスは、バイク事故の主要な原因のひとつです。ベテランライダーでも「まさか」という瞬間は訪れます。急な雨で濡れた路面、砂が浮いたコーナー、前方から対向車がはみ出してきた瞬間。そういったパニックブレーキの場面で人間の反射神経が限界を超えたとき、コーナリングABSが0.01秒単位で介入してくれます。
「ABS搭載車でもコーナリング中の強いブレーキはスリップやバランスを崩すおそれがある」とスズキのオーナーズマニュアルには記載されています。これは普通のABSについての注意書きです。コーナリングABSはこの「普通のABSの限界」を解消した技術であり、その差は非常に大きいと言えます。
また、ボッシュはMSCの研究を2008年から開始し、量産化まで5年を要しています。2013年に初めて市場に登場したコーナリングABSは、それだけ技術的に難しい挑戦だったわけです。
安全性の向上だけでなく、コーナリングABSはライダーの心理的余裕にもつながります。「コーナー進入でもしもの時にブレーキを使える」という安心感が、ライディングの楽しさを増幅させる効果もあります。厳しいところですね、純粋なライディングの楽しさと安全機能はしばしば対立して語られますが、コーナリングABSはその二項対立を解消してくれる存在です。
参考:ボッシュのMSC安全性データに関する公式プレスリリース(ボッシュ・ジャパン)
https://www.bosch.co.jp/press/group-2511-01/
コーナリングABSについては、誤解も少なくありません。正しく理解することで、安全性もライディングの楽しさも高めることができます。
❌ 誤解①「コーナリングABSがあれば、コーナーで強くブレーキを握っても大丈夫」
コーナリングABSはスリップダウンを「抑制」するシステムであり、物理の法則を無効化するものではありません。バンク角が深い状態での強制制動は、コーナリングABSがあっても転倒リスクを完全にゼロにはできません。あくまで「パニックブレーキなどの緊急時に転倒しにくくなる」というサポート機能です。過信は禁物ということですね。
❌ 誤解②「普通のABSとコーナリングABSは同じようなもの」
前述のように、普通のABSはバンク時には本来の性能を発揮できません。「ABSが搭載されているから安心」と思って購入した場合、それが普通のABSであれば、コーナリング中の急ブレーキ時にかえって危険な場合があります。購入前に必ずスペックを確認する必要があります。
❌ 誤解③「ABS警告灯が点灯しても、ブレーキは利くから問題ない」
これは要注意の誤解です。ABS義務化の対象車でABS警告灯が点灯したまま走行すると、保安基準違反(整備不良)になる可能性があります。街頭検査で発覚した場合には整備命令が下され、15日以内に整備が必要です。従わない場合は「不正改造」として50万円以下の罰金が科されます。この一点だけは絶対に覚えておいてください。また、ABSキャンセル(ABS機能を意図的に無効化する改造)も不正改造に該当し、同様の罰則リスクがあります。
ABS警告灯が点灯した場合の対処手順として、以下を確認しましょう。
❌ 誤解④「オフロードでコーナリングABSをオンにしていれば安全」
コーナリングABSは舗装路向けに最適化されています。未舗装路(砂利道、泥道など)ではABSが早く介入しすぎて制動距離がかえって伸びることがあります。オフロード対応モデルには専用のオフロードABSモードがあり、切り替えて使用することが前提となっています。オフロード走行中にリアABSを意図的にキャンセルできるモデルも多いのが理由です。
❌ 誤解⑤「コーナリングABSはスーパースポーツ専用」
2023年にボッシュは小型車向けMSCを導入し、インド・中国・ASEAN向けの小排気量バイクへの供給も開始しました。国内でも今後、ミドルクラスのバイクへの搭載が進む見通しです。バイク選びの際に確認する価値は十分あります。
コーナリングABSというと「サーキット用の特別な機能」と思われがちですが、一般ライダーこそ恩恵を受けやすい技術です。ここからは、コーナリングABSの「公道での実際の活用シーン」に絞って解説します。
🌧 シーン①:雨の日の峠道
濡れた路面ではタイヤのグリップが大幅に低下します。乾燥時と同じ感覚でコーナーに進入してブレーキをかけると、タイヤがスリップするリスクが一気に高まります。コーナリングABSがあれば、ブレーキ圧を自動調整して転倒リスクを大幅に抑えられます。
⚡ シーン②:コーナー途中の急な飛び出し
山道や住宅街の曲がり角で、自転車・歩行者・動物が突然飛び出すことがあります。コーナリング中にパニックブレーキをかけた瞬間、普通のABSではホイールがロックして転倒しやすくなります。コーナリングABSはこの状況に直接対応できます。
🪨 シーン③:コーナー出口の砂や落ち葉
季節や天候によっては、コーナーの出口に砂や落ち葉が積もっていることがあります。グリップを失ったときにブレーキをかけた場合、コーナリングABSがスリップを検知してブレーキ圧を最適化します。
🏁 シーン④:サーキット走行(スポーツモード)
HondaのCBR1000RR-Rのように、公道用とサーキット用の2段階モードを切り替えられるモデルがあります。サーキット走行ではリアタイヤのリフトをIMUで検知してブレーキ圧を調整する「トラックモード」を選択することで、よりアグレッシブなブレーキングが可能になります。ただしサーキット走行では、コーナリングABSをオフにするオプションを選ぶライダーもいます。これは上級者が意図的に後輪をスライドさせて旋回するライテクを使う場合があるためです。
公道ライダーにとっての結論として、コーナリングABSは「上手いライダーの走りを再現するための機能」ではなく、「予期しない状況での最終防衛ライン」と理解しておくと正確です。バンク角に応じて制動力を最適化することで、人間の反応速度を超えた速さで転倒を防いでくれるシステムです。
もしコーナリングABS搭載モデルの試乗を検討している場合は、大型バイクメーカーの試乗イベントや正規ディーラーの試乗会を活用するのがおすすめです。実際にABSが介入する感覚を体感してから購入判断するのが最も確実な方法です。
参考:コーナリングABSの技術解説(Ducati公式日本語ページ)
https://www.ducati.com/jp/ja/editorial/cornering-abs

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