

ライテクをどれだけ磨いても、交差点で右折車に突っ込まれて重傷を負うリスクは変わらない。
「うまくなれば事故は防げる」——多くのライダーがそう信じています。しかし、事故データを丁寧に見ていくと、この考えだけでは不十分だとわかります。
交通事故総合分析センター(ITARDA)のデータによれば、二輪車の死亡事故で最も多い類型は「車両単独事故(転倒・ガードレールとの衝突)」で全体の31%を占めます。これはライテクと直結する部分ですが、次に多い「右直事故」は全体の約20%、「出会い頭事故」を含む交差点での死亡事故も非常に多くなっています。
重要なのは、右直事故の場合、バイク側が直進しているケースが約9割という点です。つまり、技術的にどれだけ正しく走っていても、対向右折車がバイクを見落とした瞬間に事故は起きます。これは純粋な「ライテク問題」ではなく、「認知・予測・判断の問題」です。
ライテクは確かに大切です。ただし事故の原因を「技術の未熟さ」だけに帰結させてしまうと、本当に必要な対策を見落とします。そのことが一番のリスクになります。
参考:バイク事故の統計・類型データ(交通事故総合分析センター)
二輪車事故の特徴(ITARDA)
ライテクを学んだライダーの多くが「アウト‐イン‐アウト」のライン取りを知っています。コーナーの外側から入り、頂点でイン側に寄り、出口でアウト側に抜ける——サーキットでは有効な技術です。しかし公道、とくに連続カーブが続く日本のワインディングロードで実践すると、これが事故につながる可能性があります。
バイク専門誌でキャリア25年の小川勤氏(クシタニ「ライテクをマナボウ」)によれば、右→左と連続するカーブで1つ目をアウト‐イン‐アウトで走ると、2つ目のカーブ入口ではすでにイン側についてしまいます。結果として対向車線へはみ出す危険が生まれます。これは理論的に正しいライン取りが、実際の道路構造によって逆効果になる典型例です。
公道での推奨ラインは「ミドル‐イン‐ミドル」と呼ばれる方法です。車線の中央(ミドル)から入り、頂点でイン側に寄り、再び中央へ戻る走り方です。次のカーブに備えた余裕を常に確保できます。
また、日本の山道では路肩に落ち葉や砂が堆積しています。アウト‐イン‐アウトを徹底するとアウト側の荒れた路面を踏むリスクがあり、スリップ転倒の原因にもなります。ライテクをそのまま公道に持ち込まないことが条件です。
参考:公道でのライン取りとワインディング走行の考え方
ライテクをマナボウ|アウト‐イン‐アウトは危険(クシタニ)
バイクの死亡事故のなかで、右直事故(直進バイクと右折車の衝突)は特に対策が難しい類型です。警察庁の令和5年データでは、バイクとクルマの死亡事故の中で右直事故が多数を占め、そのうち約9割でバイクが直進中に事故が起きています。
なぜ起きるのでしょうか? レーシングライダーの柳川明選手がブリヂストンのコンテンツで語っているように、クルマのドライバーの視点からは、バイクは実際よりも「遅く・小さく」見える傾向があります。ドライバーが「まだ余裕がある」と判断してハンドルを切ったとき、すでにバイクは目の前にいる——この認識のズレが事故の根本原因です。
対策は「かもしれない運転」に尽きます。二輪車新聞で柏秀樹氏が提唱するように、交差点直進時は前後ブレーキを早めに準備し、ブレーキランプが点灯したまま通過するくらいの用心深さが求められます。これは「速く走るライテク」ではなく「止まれる準備のライテク」です。
具体的な実践ポイントをまとめると、以下の通りです。
- 交差点手前では速度を落とし、右折待ちの車が見えたらさらに減速する
- 右折待ち車の前輪が少しでも動いたら、即座にブレーキングへ移行する
- 夜間・雨天・夕暮れ時はライトが点灯していても視認されにくいと前提に置く
技術よりも「予測する習慣」が右直事故を減らす最大の要因です。つまり意識が条件です。
参考:右直事故の統計と対策(Motor-fan)
ライテクを学ぶライダーは装備にも気を配りますが、胸部プロテクターの着用率は依然として低いままです。交通事故総合分析センターの6年間(2017〜2022年)の集計によると、胸部プロテクターの着用率は平均わずか4.2%。事実上、ほとんどのライダーが着けずに走っている計算です。
この数字が問題なのは、バイク事故の死因データと照らし合わせると鮮明になります。自動車工業会(JAMA)の発表では、二輪車乗車中の死亡原因として「頭部」が第1位、「胸部」が第2位であり、過去10年にわたってこの順位は変わっていません。胸部と腹部の損傷を合わせると死因の53.5%に達します(ヤングマシン調査)。
頭部を守るヘルメットの着用率はほぼ100%です。法律で義務化されているためです。一方、胸部プロテクターは任意のため、着用者が極めて少ない。この差が、命を落とす確率に直結しています。
胸部プロテクターには「バッグ型」「インナー一体型」「ジャケット内蔵型」など多くの選択肢があります。安いものでは4,000円台から購入でき、JMCA(全国二輪車用品連合会)の推奨マーク付き製品は欧州規格EN1621-3をクリアした信頼性の高いものです。痛いですね。命を守るための数千円を惜しんでいるライダーがほとんど、というのが現実です。
ライテクを磨くのと並行して、装備を見直すことが必須です。
参考:胸部プロテクターの着用率と死亡事故データ(JAMA・Motor-fan)
ライテクを磨いた経験豊富なライダーほど、ツーリングの距離が伸びます。しかし長距離走行が増えるほど、疲労による認知ミスのリスクが上昇します。これは教習所では教わらない盲点です。
クシタニのコンテンツでも指摘されているように、長時間のライディングではグリップへの過度な力みが脳へのプレッシャーに直結し、集中力が著しく低下します。この状態でワインディングを走れば、いくらライテクが優れていても認知が追いつかない局面が生まれます。
警視庁のデータによると、バイクの死亡事故の約半数は午後10時〜午前7時の時間帯に発生しています。深夜・早朝のツーリングやロングランの後半時間帯に当たるケースが多い。これは疲労が蓄積した状態での走行リスクを示しています。
ライテクの達人として知られる柏秀樹氏は、5分または5km走るごとに「バイク版10秒マインドフルネス」を実践することを推奨しています。鼻から3秒吸って口から7秒吐き、その間だけグリップを緩める——これだけでも疲労の蓄積を遅らせ、認知ミスを防ぐ効果があります。
実践的な疲労対策は次の通りです。
| 対策 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 定期休憩 | 1〜2時間ごとにエンジンを切って5分以上休む | 集中力の回復 |
| グリップの力み解消 | 走行中、定期的にグリップを緩める意識を持つ | 脳・肩の疲労軽減 |
| 夜間走行を避ける | 午後10時以降のロングランを計画に入れない | 死亡事故リスクの大幅低減 |
| 事前ルート確認 | 初めてのワインディングは曲率・勾配をマップで予習する | 認知ミスの減少 |
これが基本です。ライテクと疲労管理を一体で考えるライダーは少ない。でも、技術が高いほど過信が生まれやすく、疲れていても「まだ走れる」と判断してしまいます。この自己過信が、ベテランライダーの事故につながる典型的なパターンです。
参考:ライダーの疲労とライディングフォームの関係(クシタニ)
疲労と集中力低下がもたらす事故リスク(クシタニ公式)
ライテクを事故防止に本当に役立てるためには、「技術を使うタイミング」の判断力が必要です。速く走るためのテクニックより、止まるための技術・避けるための技術が実際の公道では重要になります。
ブリヂストンのコンテンツに登場するトッププロたちが共通して語るのは「かもしれない運転」の重要性です。青信号でも挙動のおかしいクルマを見つければアクセルを緩める、公園の横を走るなら子どもが飛び出すかもしれないと予測して速度を落とす——このような「先読みの習慣」が事故を回避しています。
ブレーキングについても同じことが言えます。コーナー手前での正しいブレーキングは「スローイン・ファーストアウト」として知られています。カーブ手前で十分に減速し(スローイン)、バイクをバンクさせながら立ち上がりでアクセルを開く(ファーストアウト)という基本です。このとき重要なのは「コーナーに入る前に止まれる速度まで落とす」ことであり、コーナー内でのブレーキ操作は極力避けることが原則です。
ナップス-オン マガジンによれば、フロントブレーキは「じわっと徐々に強く」かけることが基本で、いきなりぎゅっと握るとロックしてそのまま転倒につながります。正しいブレーキングを身体に染み込ませるには、空いた駐車場での反復練習が最も効果的です。
下記の点は、公道ライテクの核心として覚えておきましょう。
- フロントブレーキは「じわっと、徐々に強く」——急握りは転倒の直接原因になる
- コーナー手前で十分に減速——バンク中のブレーキ操作はリスクが高い
- 交差点は「ブレーキを準備しながら通過」——ブレーキランプが点くくらいの構えが理想
参考:二輪車のブレーキングと事故防止の基本(ズリッヒ)
二輪車のブレーキのかけ方と転倒しないための注意点(ズリッヒ)