

シート高870mmのバイクでも、35mmのローダウンで両足母指球がつくようになります。
2025年9月に国内発売された KTM 390 ADVENTURE R は、398.7ccの水冷単気筒エンジン「LC4c」を搭載したオフロード寄りのアドベンチャーモデルです。メーカー希望小売価格は97万9,000円(税込)と、100万円を切る価格設定が話題を集めました。普通二輪免許で乗れるクラスとしては、かなり贅沢な装備内容です。
主要スペックをまとめると以下のとおりです。
特筆すべきは車両重量の軽さです。165kgというのは、同クラスの600ccアドベンチャーバイクと比較すると約30〜40kgも軽い数値です。体感的には「CRF250Lに毛が生えた程度の重さ」とも評されており、押し引きや取り回しが非常に楽に感じられます。
エンジンは先代の旧型390アドベンチャーからストロークを延長し、排気量と低速トルクを向上させています。先代モデルは中高回転でパンチが出るキャラクターでしたが、新型はより低い回転域からトルクが盛り上がります。つまり、アクセルを大きく開けなくてもスムーズに発進・加速できるということです。
航続距離も実用的です。14Lタンクを活かし、燃費が約28〜30km/Lとすれば、一回の給油で約400kmの走行が可能になります。東京から大阪まで約500kmなので、ほぼ1回の給油で到達できる計算になります。
保証期間は2年間。KTMジャパンの販売ネットワークでのアフターサービスも受けられます。
参考スペック詳細:KTM公式サイト(KTM Japan)
KTM 390 ADVENTURE R 公式スペックページ(KTM Japan)
390 ADVENTURE R の大きな武器は、フロント・リア共に WP APEX シリーズのサスペンションです。フロントは43mm径の倒立フォークで、コンプレッション(圧縮)とリバウンド(伸び側)をそれぞれ独立して30段階調整できます。ストローク量は前後ともに230mm。オフロードレーサーの目安が300mmですから、ストリートバイクより明らかに長く、アドベンチャー寄りの設定です。
リアはリンクレス構造のWP APEXモノショックで、プリロードとリバウンドを変更できます。積載量やライダー体重に合わせた微調整ができるのはありがたいポイントです。
実際のフィーリングは「しなやかなのに底づきしない」というものです。舗装路ではタイヤが路面に吸い付くような接地感があり、林道に入ると細かい石や段差をやわらかく吸収してくれます。前後の動きに一体感があり、荷重移動のタイミングが掴みやすいと評されています。
また、フラットダートでの走破性が特に印象的です。小石や砂利の路面でフロントが逃げず、スロットルをじんわり開けてもリアが暴れにくい。これはサスの減衰特性と新エンジンの低速トルクキャラクターが噛み合っている結果です。
一点、注意しておきたいのがサスペンション調整の「サグ出し」です。サグとは、ライダーが乗車した際のサスペンションの沈み込み量を指します。自分の体重に合ったサグを設定しておくだけで、ハンドリングの安定感が大きく変わります。特にキャンプツーリングで荷物を多く積む場合は、プリロードを数クリック固めにするだけで姿勢の安定感がかなり改善されます。
調整に迷ったら、KTM正規ディーラーに相談するのが確実です。サスの初期設定を依頼すると、1〜2時間程度の作業で自分の体重・乗り方に合ったベースポジションに仕上げてもらえます。
参考インプレッション(BikeBros試乗記):WP APEXサスペンションの詳細なフィールについて記述されています。
KTM 390 アドベンチャー R 試乗記 - BikeBros(2025年11月)
シート高870mmは、アドベンチャーバイクの中でも高めの部類に入ります。目安として、身長175cm前後でつま先立ち、身長170cmだとつま先がやっと届く程度です。これは購入前に最もよく聞かれる懸念点のひとつです。
ただし、車体がスリムで軽量なため、実際の扱いやすさは数値ほど難しくはありません。車体が250ccのトレール車並みに軽いので支えやすく、試乗したライダーの多くが「数値ほど怖くない」と述べています。片足接地でも車体を支えやすい設計です。
それでも「もう少し足が届けば安心」と感じる場合は、いくつかの対策があります。
まずプリロード調整です。リアショックのプリロードを緩め側に動かすと、乗車時の沈み込み量が増えて実質的なシート高が下がります。工具不要で手軽にできる最初のステップです。
次がローダウン加工です。KTM KOBE EASTなどの専門ショップでは、フォーク・リアショック共に分解・カスタムによる最大45mmのローダウンが可能です。実際に35mmのローダウン加工を行ったユーザーの報告では、スプリングレートも同時に変更(フォーク:5.5N/mm→4.8N/mm、リア:105N/mm→95N/mm)することで、両足の母指球がつく程度まで改善されたとのことです。これは費用がかかりますが、サスペンション特性を損なわずに車高を下げられる方法として注目されています。
ローダウン後に起きやすいのがチェーン張り調整の必要性です。スイングアームの角度が変わるためチェーンが張り気味になりやすく、施工後には必ずチェーンの張りを確認する必要があります。
足つきが心配な場合は、購入前にKTM正規ディーラーで現車に跨ってみることをおすすめします。
参考:ローダウン施工レポート(実際の加工内容・数値データあり)
KTM 390 Adventure R ローダウン施工レポート(tsugataku屋.com)
KTM 390 ADVENTURE Rと比較されることが多いライバルとして、トライアンフ Tiger Sport 660・ロイヤルエンフィールド New Himalayan・ヤマハ テネレ700などが挙げられます。ここでは特に話題になっている3台を軸に比較します。
まずトライアンフ Tiger Sport 660(税込111万9,000円)との比較です。排気量は660ccとKTMより大きく、最高出力も81PSと高め。ツアラー性能は高いですが、車両重量は172kgとやや重く、KTMのような軽快なハンドリングとは異なります。オフロードよりもオンロード寄りの設計で、林道メインの用途には KTM に分があります。
ロイヤルエンフィールド New Himalayan(税込89万8,000円)は価格帯が近く、452ccエンジンを搭載。シート高は825mmでKTMより45mm低く、足つきの点では有利です。乗り味はよりゆったりしており、長距離の快適性に優れますが、エンジンのスポーティさではKTMに軍配が上がります。オフロードでの走破性はどちらも高いですが、電子制御の充実度はKTMの方が上です。
ポイントをまとめると以下のとおりです。
実際に3台を乗り比べたインプレッションでは、「エンジン・ハンドリング共にスポーティなマシンはKTM 390 ADVENTURE R」との評価が出ています。スポーツ走行を重視するなら KTM、ゆったりとしたツーリングを重視するなら他の選択肢も十分候補に入る、という整理になります。
自分の走り方や体格と照らし合わせて選ぶことが大切です。
参考:ミドルアドベンチャー3車比較インプレッション(走行評価あり)
ミドルアドベンチャー3車比較インプレッション(motomegane.com・2025年12月)
KTM 390 ADVENTURE R に標準装備される電子制御は、400cc以下のバイクとしては異例の充実度です。ライドモードは「STREET」「OFFROAD」「RAIN」の3種類から選択でき、それぞれでトラクションコントロール(MTC)の介入強度とABSの動作が変わります。
林道やダートで最も活躍するのが「OFFROADモード」です。このモードに切り替えると、リアABSが解除されます。これにより、意図的にリアタイヤをスライドさせながら姿勢制御をするテクニカルな走り方が可能になります。またMTCの介入も緩やかになり、スロットルを開けたときのレスポンスがよりダイレクトになります。
5インチTFTディスプレイはBluetooth接続に対応しており、スマートフォンのナビゲーションをメーター上に表示できます。林道ツーリングでは地図確認のたびにバイクを止める手間が省けるため、実用性が高い機能です。USB-C充電ポートも標準装備なので、スマートフォンのバッテリー切れを気にせずに走れます。
フロント320mm・リア240mmのディスクブレーキとBYBRE製キャリパーの組み合わせは、165kgの軽量車体に対して制動力は十分です。コーナリングABSも搭載されており、カーブ中のブレーキングでもABSが適切に介入します。
また、スタンダードで装備されているパワーアシスト・スリッパークラッチ(PASC)は、急激なシフトダウン時のリアホップを防ぎます。クラッチ操作が軽く、長時間の運転でも左手が疲れにくいのも魅力です。オプションでクイックシフター+(シフトアップ・ダウン双方対応)も設定されており、より滑らかな変速が楽しめます。
電子制御を最大限に活かすためのポイントは、走行環境に合わせてこまめにライドモードを切り替えることです。舗装路ではSTREETモード、林道に入ったらOFFROADモードに変更する習慣をつけるだけで、安全性と走る楽しさが大きく変わります。
参考:電子制御の詳細フィール(試乗記より)
KTM 390 ADVENTURE Rインプレ「コンパクトな旅の相棒」(Off1.jp・2025年11月)
KTM 390 ADVENTURE RはオーストリアのKTMが設計し、インドで生産されています。これは多くのライダーが知らない事実です。インド生産ということで品質を心配する声もありますが、KTMはインドのBajaj社との合弁生産体制を長年継続しており、品質管理は欧州基準が適用されています。実際のオーナーレビューでも品質面の大きなクレームは少なく、信頼性は高い評価を受けています。
維持費については、まず燃料はハイオク指定です。レギュラーガソリンを入れると本来の性能が発揮できないため注意が必要です。燃費は街乗りで約25〜28km/L、ツーリングでは30km/L前後を記録するケースが多く、14Lタンクを満タンにしても約2,000〜2,500円程度のガソリン代で済みます。
エンジンオイル交換サイクルは、KTMの推奨では約5,000km毎または年1回です。オフロード走行を頻繁に行う場合は、3,000〜4,000kmを目安に早めに交換することをおすすめします。単気筒エンジンはエンジンへの負荷が集中しやすいためです。
チェーンとスプロケットのメンテナンスも重要です。林道走行後は特にチェーンに砂・泥が絡まりやすく、放置すると磨耗が早まります。林道から戻ったらチェーン洗浄とルーブ塗布を習慣化するだけで、チェーンの寿命が大幅に伸びます。チェーンルーブはオフロード用(泥に強いウェットタイプ)を選ぶのが基本です。
スポークホイールは、キャストホイールより空気が抜けやすい構造になっています。林道ツーリングの出発前にタイヤ空気圧を必ずチェックする習慣をつけておきましょう。推奨空気圧は前後で異なり、ダート走行時は舗装路より若干低めに設定すると、路面への追従性が上がります。
保証期間は2年間で、KTM正規ディーラーでのアフターサービスが受けられます。定期点検をきちんと受けていれば、走行品質は長期間維持できるバイクです。