

プリロードをMAXに締めてもサスが硬くならず、むしろタイヤのグリップが失われて転倒リスクが上がります。
スプリングレートとは、スプリング(ばね)を1mm縮めるのに必要な力の大きさを示した数値です。単位は「kgf/mm」または「N/mm」で表記され、例えば「1.0 kgf/mm」とあれば、スプリングを1mm縮めるために1kgfの力が必要であることを意味します。数値が大きいほど硬いスプリング、小さいほど柔らかいスプリングです。
バイクのサスペンションは、路面からの衝撃を吸収するだけでなく、ブレーキング・コーナリング・加速時の車体姿勢を支える役割も担っています。スプリングレートはその働きの「基本的な特性」を決める最も重要な要素です。
具体的に言うと、フロントフォーク内に入っているスプリングがフロントの動きを決め、リアショックに入っているスプリングがリアの挙動を決めます。この2つのバランスが崩れると、コーナーで思い通りの向きに曲がらなくなったり、直進安定性が損なわれたりすることがあります。つまり乗り心地だけでなく、安全性にも直結する要素です。
バイクメーカーが設定する純正スプリングレートは、特定の体重・走行条件を想定して設計されています。一般的な日本市場向けバイクでは、ライダー体重65〜75kgを基準に設定されているものが多く(YSSの出荷設定もこの範囲)、体重が大きく外れる場合はプリロード調整だけでは補いきれないこともあります。これは知っておかないと損する知識です。
参考:スプリングが持つ役割と3つのタイプについての解説(HYPERPRO)
https://www.acv.co.jp/hyperpro/index.php?tpl=04_spring_eikyo
スプリングは大きく3種類に分けられます。それぞれの特徴を正確に理解することが、自分に合った選び方の第一歩です。
まず「シングルレート(リニアレート)スプリング」は、コイルのピッチが均等で、どのストローク位置でもレートが変わりません。動きが素直で予測しやすいため、サーキットやジムカーナでタイムを追求するライダーに向いています。デメリットは、レートが合わないと全域で使いにくくなること。セッティングの許容範囲が狭く、ピンポイントでレートを合わせる必要があります。
次に「ダブルレート(ツーステッププログレッシブ)スプリング」は、巻きピッチが2種類混在した構造です。初期は柔らかく動き始め、ある点から急激に硬くなります。結論は街乗りやタンデム走行に向いた構造です。一方でサーキットでは、ストロークの途中で急に反発力が変わるため車体姿勢が不安定になりやすく、シビアな走りには不向きです。
そして「コンスタントライジングレート(プログレッシブ)スプリング」は、ピッチが全て不均等で、ストロークが深まるにつれて連続的・なだらかにレートが上昇します。初期の動きは柔らかく、奥では踏ん張るという特性を持ちます。ツーリングや街乗りに幅広く対応できる万能型です。HYPERPROのコンスタントライジングレートスプリングは、オランダの救急バイク全車に採用されているほど実績のある設計です。これは使えそうです。
| スプリング種類 | 特徴 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| シングルレート | ストローク全域で均一なレート | サーキット・ジムカーナ |
| ダブルレート | 途中からレートが急変 | 街乗り・タンデム |
| コンスタントライジングレート | 連続的になだらかに変化 | ツーリング・街乗り全般 |
参考:シングルレートとダブルレートの詳しい比較(ゆるふわ競技場)
https://yurufuwagekijo.com/spring/
スプリングレートを選ぶ際に「どの数値にすればいいか」と悩む方は多いです。目安として、フロントフォーク用スプリングは一般的な400〜1000ccクラスのスポーツバイクで0.7〜1.0 kgf/mm前後が多く、リアは車種やレバー比によって異なりますが、10〜16 kgf/mm(バイク全体のレバー比を含む実効レート換算)程度が参考になります。
最も重要なのは、体重との関係です。純正スプリングは前述の通り65〜75kg程度のライダーを基準に設定されています。体重が軽い方(例:50kg以下)は純正より柔らかめのレートの方がサスペンションが正しく機能し、重い方(例:90kg以上)は硬めのレートが必要になるケースがあります。
ただし「硬いスプリング=速い」は大きな誤解です。硬すぎるスプリングはタイヤが路面から浮きやすくなり、グリップ力が低下します。速度域が時速60km以下のシーンがメインであれば低めのレート、時速100km前後でのコーナリング安定性を重視するなら高めのレートが適しているとGRAの解説でも示されています。走行シーンに合わせた選択が基本です。
体重・車重・前後バランスを入力して目安のスプリングレートを自動計算できるツールもあります。
理想バネレート計算ツール(車重・体重・沈み込みから算出)
https://uur-tech.net/springrate/457/
参考:速度域・用途に合わせたスプリングレートの選び方(GRA)
https://gra-npo.org/lecture/bike/Q&A_spring_rate/Spring_rate_2.html
スプリングを選ぶ前に、現在の状態が自分の体重に対して適切かどうかを確認する作業が「サグ出し」です。サグ(sag)とは「たわみ」を意味し、ライダーが乗車した状態でサスペンションがどれだけ沈み込むかを計測します。サグ出しが正確にできれば、スプリングレートの選択に失敗するリスクが大幅に下がります。
作業には最低2人必要です。1人がライダーとして乗車し、もう1人が計測します。手順は以下の通りです。
例えばフロントのフルストロークが110mmなら、目標サグは約37mm前後です。計測値がこれより大幅に大きければ(サスが沈みすぎ)スプリングが体重に対して柔らかすぎる可能性があり、小さければ硬すぎる可能性があります。プリロード調整でも目標値に届かない場合は、スプリングレートの変更が必要なサインです。
注意点として、不等ピッチ(ダブルレート)スプリングの場合は初期沈み込みが大きいため、目標サグを1/3ではなく2/5程度で見る場合があります。シングルレートかダブルレートかによって基準が変わる点は見落としやすいポイントです。
参考:ダートフリーク監修のサグ出し詳細手順(Webike)
https://news.webike.net/maintenance/360799/
スプリングレートを交換したのに「なんか前より走りにくくなった」と感じる方は少なくありません。その原因のほとんどは、交換後の調整を省いていることにあります。これが見落とされがちな落とし穴です。
最も重要な確認が「1G'時フロント車高の維持」です。スプリングレートを変更すると、ライダーが乗車した状態(1G'時)のサスペンション長が変わります。例えばレートを1.01 kgf/mmから0.96 kgf/mmに変更した場合、体重60〜70kgのライダーなら1G'時の車高が約2.5mm低くなると報告されています(GRA調べ)。たった2.5mmと思うかもしれませんが、これだけでターン進入時のフロントの反応が過敏になり、安定性が崩れます。交換前に現状の1G'時車高を計測しておき、交換後に同じ値になるようフォークの固定位置を調整するのが原則です。
次に見落とされるのが「フォークオイル量の再調整」です。スプリングを交換するとスプリング自体の体積が変わります。その結果、フォーク内のエア(空気)体積が変化し、フルストローク時の残ストローク量(残ストローク車高)が変化します。この残ストローク車高が低すぎると、フルブレーキ時のトレール量が安定限界を下回り、方向安定性が損なわれる危険があります。フォークオイル量を適切に調整し直すことが不可欠です。
さらに「プリロード(初期荷重)の再設定」も必要です。多くの方がスプリングの自由長(スプリング単体の長さ)だけを揃えて組み直しますが、それは間違いです。スプリングレートが変わった以上、同じ初期荷重を与えるために必要なプリロード量も変わります。スプリングとスペーサーの合計長さを変更前と同じにしただけでは、プリロード量が変わってしまいます。
これらを一言でまとめると「レートを替えたら、車高・オイル量・プリロードを必ずセットで見直す」が鉄則です。専門ショップでさえこれらの調整を省いてしまうケースがあると報告されており、スプリング交換後に違和感を感じたらまずこの3点を疑いましょう。
| 確認項目 | 見落とすと起きる問題 |
|---|---|
| 1G'時フロント車高 | ターン進入が不安定になる |
| フォークオイル量 | フルブレーキ時の方向安定性が崩れる |
| プリロード初期荷重 | サスペンション全体の動き出しがズレる |
参考:スプリング交換時に絶対必要な3つの調整作業(GRA)
https://gra-npo.org/lecture/bike/Q&A_spring_rate/Spring_rate_3.html