

体重移動でコーナリングしているつもりが、実はバイクを不安定にさせていた——そのせいでタイヤが滑って転倒寸前になったライダーが後を絶ちません。
多くのライダーが「体を内側に倒せばバイクが曲がる」と思っています。ところがこれは正確ではありません。モーターサイクルの運動工学的に見ると、バイクが旋回するきっかけはカウンターステア(逆ステア)です。曲がりたい方向とは逆にハンドルをわずかに押すことで、車体が傾き始めてコーナリングが始まります。
「体重移動でバイクが曲がる」という考え方は日本のライディング文化に深く根付いていますが、欧米の工学論文やライテク専門誌ではほぼ使われない概念です。ヤマハが2017年の東京モーターショーで公開した「MOTOBOT ver.2」というロボットライダーは、胴体を車体にボルト固定した状態、つまり体重移動ゼロの状態で、ちゃんとコーナリングを実現していました。これが何よりの証拠です。
では体重移動は全く意味がないのかというと、そうでもありません。バイクはライダーが多関節でつながった「軟体」であるため、MCの動きに対してどうしても体が遅れて追従します。その遅れを防ぐために「あらかじめイン側に体を先行させておく」という動作が、結果的に体重移動のように見えるだけです。つまり原因と結果が逆なのです。
重要なのは「ハンドルを押す」イメージです。左に曲がりたければ左のハンドルバーをわずかに前方へ押す。するとバランスを崩した車体が左に傾きはじめ、キャンバースラスト(傾いたタイヤが発生する横力)によって旋回が始まります。コーナリングの本質はここにあります。
定常旋回に入ったら、ハンドルは自然に旋回内側へ切れた「セルフステア状態」になります。この状態を邪魔しないよう、ハンドルに余計な力を加えないことが大切です。腕が突っ張ってハンドルを押さえ込んでしまうと、セルフステアが消えて旋回が乱れます。これが「腕に力が入ると曲がらない」と言われる理由です。
バイクが曲がる物理の核心はここです。
- キャンバースラスト:傾いたタイヤが発生する横力。リーン角20°以下ではコーナリングフォースのほぼ全てがここから生まれる
- 逆ステア:コーナー入口では曲がりたい方向と逆にハンドルをわずかに押してリーンのきっかけを作る
- セルフステア:定常旋回中はハンドルが自然に適切な角度に切れた状態になる。これを邪魔しないのが上達の鍵
「体重移動で曲がる」のではなく「車体を適切に傾けるためにステアを使う」が原則です。
バイクのコーナリング理論を物理の視点から丁寧に解説しています。
教習所で必ず教わる「スローイン・ファストアウト」は、コーナリングの最も基礎となるルールです。カーブの手前で十分に減速(スローイン)し、コーナーを抜けながら加速していく(ファストアウト)というこの考え方は、今もっとも重要な安全技術です。ITARDA(交通事故総合分析センター)のデータによると、排気量401cc以上のバイクがカーブで起こした事故の約68%がスピードコントロールの失敗によるものです。つまり「入りすぎた速度」がコーナリング事故の最大の原因と言えます。
スローインファストアウトを実践するには、ブレーキングタイミングの習得が欠かせません。カーブの手前のストレートでしっかり減速を完了させ、コーナー進入時にはブレーキを緩め始めることが理想です。ブレーキを引きずったままコーナーに入ると前輪への荷重が不安定になり、スリップの原因になります。
カーブを安全に攻略するためには、以下の4つのセクションに切り分けて考えることが有効です。
| セクション | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ① ブレーキング | カーブ手前で完全に減速 | ここで全ての速度調整を終える |
| ② 向き変え | ブレーキを離して車体を傾ける | バンク角が最深になる瞬間 |
| ③ 旋回 | 一定速度で旋回を維持 | 基本は「何もしない」で安定させる |
| ④ 立ち上がり | 出口が見えたらスロットルを開ける | 車体を起こしながら加速 |
ライン取りについては「アウト・イン・アウト」が基本とされています。カーブの入口はアウト(外側)から入り、頂点(クリッピングポイント)でイン(内側)に寄り、出口にかけてアウトへ戻る走り方です。これによりコーナーの曲率半径が大きくなり、同じコーナーをより安全な速度で通過できます。
ただし公道では、アウト側には路肩・グレーチング・砂利など危険が潜むケースも多いため、無理にアウトいっぱいを使う必要はありません。公道では「自分のレーン内で安全に収まるライン」を最優先にします。
スローインファストアウトが基本です。
ライン取りの詳しい実践ポイントを動画・図解で解説しています。
コーナリングで最も即効性が高い技術改善のひとつが、視線の使い方です。意外なほど多くのライダーが、コーナー中に目の前の路面やフロントタイヤ付近を見ています。これは大きな損です。バイクは視線が向いた方向に自然と進む性質があるため、目の前を見ていると車体がそこへ引っ張られ、コーナーを膨らませる原因になります。
世界GP王者の片山敬済選手は現役時代、「常に3秒先を見ながら走る」という方法を実践していたと語っています。3秒先とは、コーナーの出口方向や次の曲がり始めポイントなど、今向かっている先のことです。これにより身体が自然に正しい方向を向き、ライン修正が最小限で済みます。
視線は常に水平に保つことも重要です。コーナーで頭が傾くと前庭感覚(平衡感覚)が乱れ、バンク角の感覚もズレてしまいます。ヘルメットの中でも意識的に「目線を地平線に合わせる」ことで、コーナーの深さとバンク角の判断精度が上がります。
速度感覚については、ひとつの実践的なチェック方法があります。ワインディングを走行中、カーブミラーを見る余裕があるかどうかを確認することです。カーブミラーをチラッと見られるくらいの余裕がある速度が、自分の「安全ペース」の目安になります。見る余裕がなければオーバーペースのサインです。
視線と速度、この2つをセットで管理するだけでコーナーの安定感が大きく変わります。これは使えそうです。
📋 視線の使い方チェックリスト
- 🎯 コーナー入口では出口方向に視線を向けているか?
- 📐 目線が地平線と水平を保てているか?
- 🪞 ワインディングでカーブミラーを見る余裕があるか?
- 🔭 次のコーナーの始まりを事前に確認できているか?
コーナーの目線の向け方と3秒先を見る感覚を詳しく紹介しています。
初心者ライダー必見!ワインディングを安全に楽しむ7つの心構え – 2りんかん
コーナリング中のリアブレーキは「使ってはいけない」と思っているライダーが少なくありません。ところがこれは大きな誤解です。リアブレーキをコーナー中に適切に使うことは、むしろ車体の安定性を大幅に高めるテクニックです。
バイクの物理的な仕組みを理解するとその理由がわかります。リアブレーキをかけるとリアサスペンションが沈み込み、後輪への荷重が増加します。荷重が増えるということはタイヤのグリップ力が高まるということで、後輪が路面をしっかり押さえる感覚が得られます。特に低速旋回や濡れた路面では、この効果が顕著に出ます。
コーナーへの進入フェーズで、リアブレーキを「軽く引きずりながら」進入するのが実践的なテクニックです。フロントブレーキだけで減速するとフロントがガツンと沈み、ライダーが前のめりになってバランスが崩れやすくなります。リアブレーキを同時に使うことで制動力が前後に分散され、スムーズで安定した減速が実現します。
さらに旋回中にリアブレーキをわずかにかけ続けることで、旋回半径が自然と小さくなるという効果もあります。これはスピードvがv'に下がることで、遠心力とのバランスをとるため旋回半径rが自動的にr'へ小さく変化するためです。急なコーナーに入りすぎたと感じた瞬間のリカバリー操作としても有効です。
雨天走行では特に重要です。旋回中にリアブレーキをごく軽く当てておくと、後輪の滑りを物理的に抑制できます。スリップダウンのリスクが高まる雨の日ほど、リアブレーキを積極活用する場面が増えます。
リアブレーキが条件です。コーナリングでリアを使わないのは、安全マージンを自ら捨てているようなものです。
📌 リアブレーキの使いどころまとめ
- 🚦 コーナー進入時:フロントと連携して引きずりながら進入(前後荷重の安定化)
- 🌀 旋回中:ごく軽く当てて後輪グリップを保持(特に雨天・砂利路面)
- 🔁 コーナー奥で回り込んでいたとき:軽くリアをあてて旋回半径を絞る
- 🏁 立ち上がり時:スロットルを開ける前にリアブレーキをリリース
コーナーでのリアブレーキの物理的効果と使い方を詳しく解説しています。
リヤブレーキを使うほど得をする|KUSHITANI RIDING METHOD – クシタニ公式
多くのライダーは、コーナリングを「道路の曲がり具合に合わせながら成り行きで車体を傾けていく」行為だと感じています。しかしプロのインストラクターや上級ライダーが実践しているのは、それとは正反対の発想です。それは「向き変えを先に完了させてしまう」という考え方です。
コーナーに入る前に、できる限り早い段階で「バイクの向きを変え終える」ことを目指します。向き変えが終わった後は、車体がすでに目標方向を向いている状態で旋回に入るため、コーナー中盤以降はほぼ車体を起こしていく方向に力が働きます。これにより旋回中の「何もしない」という安定状態を長く維持でき、危険回避の余裕も生まれます。
成り行き旋回のパターンと比べると、その違いは明確です。成り行きでグルーンと旋回した場合、バンク角はコーナーの奥にいくほど深くなり続け、コーナーが回り込んでいた場合は対応が遅れます。一方「向き変え先行型」では、バンク角は向き変えのタイミング(コーナー進入直後)に最深となり、そこから徐々に車体が起きていく自然な軌跡になります。
向き変えに必要な操作は「ブレーキをスッと離す瞬間」に集中させることです。ブレーキを完全に離したタイミングで、左のハンドルを軽く前方へ押す(左コーナーの場合)だけで、車体は自然にリーンを始めます。この「ブレーキオフ+逆ステア」の組み合わせが向き変えの核心です。
ブラインドカーブでは特に有効です。先が見えないカーブでは、出口が確認できてから向き変えを始めることで「見えた範囲だけ曲がる」という安全なアプローチが実現します。無理に道路の形に先行して倒し込まず、見えた分だけ向きを変える。これだけで峠道での突然の回り込みに対するリスクが大幅に下がります。
つまり「旋回しながら向きを変える」のではなく「向きを変えてから旋回する」が正解です。
📐 向き変え先行型 vs 成り行き旋回型の比較
| 項目 | 成り行き旋回型 | 向き変え先行型 |
|---|---|---|
| バンク角の変化 | コーナー奥で深くなり続ける | 進入直後が最深、そこから起きる |
| 危険回避の余裕 | 少ない(バンク角が限界に近い) | 大きい(車体が起きかけている) |
| ブラインドカーブ | 見えていない先まで倒し込むリスク | 見えた範囲のみ向きを変えられる |
| 旋回中の安定性 | 継続的な操作修正が必要 | 「何もしない」安定時間が長い |
4セクションに分けたコーナリングの向き変えと旋回の関係を詳しく解説しています。
コーナリング=旋回じゃないの?向き変えの重要性|KUSHITANI RIDING METHOD – クシタニ公式

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