リアサスペンション プリロード調整で乗り心地と操縦性を最適化する方法

リアサスペンション プリロード調整で乗り心地と操縦性を最適化する方法

リアサスペンション プリロード調整の基本から実践まで完全解説

プリロードを強くすると、あなたのバイクはリア車高が最大20mmも変わり、コーナリング特性まで別物になります。


🏍️ この記事でわかること
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プリロードの正体と誤解

「強くすると硬くなる」は半分ウソ。バネレートは変わらず、ストローク位置とサグ量が変わるだけ。この誤解を解くことが正しい調整の第一歩。

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サグ出しで数値に基づいた調整

感覚だけでなく、フルストローク量の1/3を目安に乗車時のサグを計測することで、体重に合った正確なプリロード設定が可能になる。

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状況別・具体的な調整手順

ソロ走行・タンデム・荷物積載など、乗り方に応じたプリロードと減衰力のセットアップ方法を、工具の使い方も含めてわかりやすく解説。


リアサスペンションのプリロードとは何か:仕組みと役割


プリロードとは、英語で「先取り・先読み」という意味を持つ言葉で、サスペンション用語においては「あらかじめスプリングに与える初期荷重(圧縮量)」を指します。バイクに搭載されるリアサスペンションのスプリングは、何も手を加えない状態では自由な長さで存在していますが、プリロードをかけることで「最初から縮んだ状態」に保たれます。


具体的に言うと、スプリングを最初から縮めておくと、ライダーが乗り込んだ際にその縮み始める位置が変わります。これにより、バイクが設計通りの車高・姿勢を維持しやすくなるのです。つまり、プリロードの本質は「ストローク位置を調整する機構」です。


ここで多くのライダーが誤解しているのが、「プリロードを強くするとバネ自体が硬くなる」という認識です。実際にはこれは正確ではなく、バネの硬さ(バネレート)はスプリングの素材・線径・巻き数によって固定されており、プリロード調整では変わりません。サスペンションを専門に手がけるHYPERPROやオーリンズなどのメーカーも、この点を明確に説明しています。


プリロードを強めると「硬い感じ」がするのは、動き始めに必要な荷重が増えるため、小さな衝撃ではサスが動きにくくなるからです。つまり、バネレートが上がったのではなく、サスが作動し始める閾値が上がったということなのです。これが基本です。






















プリロード変化 車高 サスの動き出し 感覚的な乗り心地
強める 高くなる(最大+20mm) 遅くなる・重くなる 硬め・踏ん張り感あり
弱める 低くなる(最大−8mm程度) 早くなる・敏感になる 柔らかめ・路面追従性向上


国内の主要バイクメーカー(ホンダヤマハスズキ等)は、出荷時のセッティングを体重65〜75kg程度のライダーを想定して設定しています。バネレートは変わらない、が原則です。



バイクのサスペンション全般をわかりやすく解説している権威ある情報源として、クシタニが発行しているライテク解説が参考になります。


ライテクをマナボウ 34 サスペンションの調整はプリロードから|クシタニ


リアサスペンションのプリロードを自分の体重に合わせる「サグ出し」の手順

プリロード調整で最も科学的かつ信頼性の高いアプローチが「サグ出し」です。サグ(sag)とは「たわみ」を意味する英語で、ライダーが乗車した際にサスペンションがどれくらい沈み込むかを数値で管理するセッティング手法です。オフロード走行では定番の方法ですが、オンロードバイクでも非常に有効です。


サグ出しの基本的な考え方は、乗車時の沈み込み量をフルストローク量の約1/3に合わせることです。例えばリアサスのフルストローク量が75mmのバイクであれば、ライダー乗車時に約25mmが理想的な沈み込み量となります。このバランスが取れると、路面追従性が高まり、サスペンションが設計通りに機能するようになります。


実際の測定手順:


- まず前後タイヤを浮かせた状態(センタースタンドメンテナンススタンド使用)で、リアサスの基準点から地面までの長さを計測します(この値を「A」とします)
- 次に両足をステップに乗せた乗車状態で同じ箇所を計測します(この値を「B」とします)
- A−Bがフルストローク量の1/3になるようにプリロードを調整します
- 計測には最低2名、できれば3名での作業が安心です(乗車者・計測者・支持者)


乗車状態での計測は1人では難しいため、バイク仲間と一緒に行うのが現実的です。これは手間がかかりますが、一度やれば体重が大きく変わらない限り頻繁な再調整は不要なため、やっておく価値は十分にあります。


サグ出しは数値が出る分、感覚だけで調整するよりも大幅にセッティングの方向性が明確になります。これは使えそうです。不等ピッチスプリング(巻き間隔が不均一)を使う場合は1/3より少し大きめの2/5程度を目安にする場合もあり、スプリングの種類によって目安が変わる点も覚えておきましょう。



サグ出しの実践的な手順をプロから教わった記事として、以下のWebikeの解説が参考になります。乗車時のサス長計測方法や数値の読み方が詳しく掲載されています。


サス調整の基本はサグ出し。バネ荷重を体重に合わせてサスを活かすのだ|Webike News


リアサスペンションのプリロード調整工具と具体的なやり方

プリロード調整の具体的な作業内容は、バイクの車種やサスペンションの型式によって異なりますが、大きく3つのタイプに分類されます。調整を始める前に、自分のバイクがどのタイプに該当するかを把握しておくことが重要です。


① 段階式(カム式)
小〜中排気量のバイクに多いタイプで、専用のフックレンチやバーを溝に差し込んで「カチッカチッ」と段階的に回す方式です。2本ショックのバイクはアクセスが容易で比較的調整しやすいです。ただし左右がある場合は、必ず同じ段数に揃えることが絶対条件です。


② スロッテッドナット式(フックレンチ式)
スポーツ系・大型バイクのモノショックに多いタイプで、大きなリング状のナットを専用のフックレンチで回す方式です。モノショックの場合、調整箇所が車体の奥に位置するため難易度が高く、作業スペースが狭い車種では工具が届きにくいことがあります。


③ ハンドアジャスター式(手回し式)
BMWをはじめとする一部の大型ツアラーに採用されている方式で、工具なしで手だけで調整できます。使いやすい反面、一般的なスポーツ系バイクにはほとんど装備されていません。


調整時の基本操作は共通で、右に回す(時計回り)でプリロード強め、左に回す(反時計回り)で弱めになります。ただしフックレンチは、以前はほとんどの車種で車載工具に含まれていましたが、近年の新型バイクでは車載工具に含まれていないケースも増えており、別途購入が必要な場合があります。これが条件です。


モノショックで作業スペースが確保できない場合や、自分での調整に不安がある場合は無理せずバイクショップに依頼することも選択肢のひとつです。



プリロード調整の機構や調整の考え方について、HYPERPROによる実用的な解説ページが参考になります。タンデムや体重別のプリロード設定の目安も掲載されています。


サスペンションセッティングについて|HYPERPRO(エービーシー商会)


タンデムや荷物積載時のリアサスペンション プリロード調整の考え方

タンデム走行や重い荷物を積んでのツーリング時は、リアサスへの荷重が大幅に増加します。この変化を無視したままプリロードを調整しないと、リアサスが底付き寸前まで沈んだ状態で走ることになり、路面の衝撃をスプリングで吸収できなくなります。


例として、体重64kgのライダーが体重50kgのパッセンジャーをタンデムした場合、リアにかかる荷重は合計で約114kgになります。HYPERPROが基準値として設定している「装備込み70kg」と比べると、約44kgもの超過です。こうなるとシングル走行時の標準プリロードのままでは明らかに不足しています。プリロードを強める方向への調整が必要です。


荷物積載時も同様です。パニアケースや大型のシートバッグを積んでロングツーリングに出る場合、合計積載重量が20〜40kgになることも珍しくありません。こうした場合に「プリロードを調整すると乗り心地が悪くなる」と思ってあえて調整しないライダーもいますが、実際には適切にプリロードを強めることでサスが正常に機能し、バランスが整うため、結果的に乗り心地と安定性が向上します。



  • ソロ走行(標準体重65〜75kg): 出荷時設定(メーカー標準値)でOK

  • 軽体重ライダー(55kg以下): プリロードを1〜2段弱める方向で調整

  • 重体重ライダー(85kg以上): プリロードを強める方向で調整

  • タンデム走行: プリロードを強め、それに合わせて減衰力も強める

  • 大荷物ツーリング(20kg超): タンデムに準じた強めセッティング


HYPERPROのセッティングガイドでは、プリロードを強める際には伸び側・圧側の減衰力も合わせて強める方向に調整することを推奨しています。プリロードと減衰はセットで考えるのが原則です。


なお、走行後に元の設定に戻すことを忘れがちです。タンデム設定のままソロ走行すると、サスが硬すぎてコーナーでの接地感が薄れ、反対に危険なこともあります。ライディング後のリセットを忘れずに行いましょう。


リアサスペンションのプリロード調整でハンドリングが変わる理由:独自視点

プリロード調整を「乗り心地の微調整」と思っているライダーは多いのですが、実はリアのプリロードを変えることはハンドリングそのものに直結します。この点は意外と語られない独自の重要ポイントです。


リアのプリロードを強めると、リア車高が高くなります。リア車高が上がるということは、バイク全体で見ると前下がりの姿勢になるのと同じ状態です。これにより、フロントフォークキャスター角が立つ方向に変化し、トレールが短くなります。その結果、ハンドリングは軽く・クイックになり、ライダーの操作に対する応答速度が上がります。


一方で、プリロードを弱めてリア車高が下がると、前上がりの姿勢になり、キャスター角が寝る方向になります。この場合は直進安定性が増す反面、ハンドリングが重くなり、コーナーへの入りが鈍くなる傾向があります。


つまり、同じバイクでもプリロードのセッティング次第で以下のようなキャラクターの違いが生まれるのです。



  • 🏁 峠・スポーツ走行向け: プリロード強め → リア車高UP → クイックなハンドリング

  • 🛣️ 高速ツーリング向け: プリロード弱め → リア車高DOWN → 直進安定性が増す


このハンドリングへの影響は、元ヤマハエンジニアが解説した記事でも同様の指摘がされており、単純な「乗り心地調整」にとどまらないことが確認されています。意外ですね。


また、プリロード調整によってリアのピッチング(加速・減速時の前後の揺れ)特性も変化します。プリロードを強めるとリアの踏ん張りが増すため、加速時のスクワット(リアが沈む現象)が抑制されます。スポーツ走行でプリロードを強める理由のひとつはここにあります。


なお、リアのプリロード変更に合わせてフロントフォークのプリロードも連動して調整できる車種であれば、前後のバランスを保つ観点から同方向に調整するとより自然なハンドリングになります。これが前後バランスの原則です。



元ヤマハエンジニアがリアプリロードとハンドリングの関係性を詳しく解説しています。キャスター角・トレールの変化とハンドリング特性の相関が具体的に説明されています。


【元ヤマハエンジニアから学ぶ】ハンドリングのためのサスセッティング|RIDERS CLUB


リアサスペンションのプリロード調整:よくある失敗と中古車オーナーへの注意点

プリロード調整はシンプルな仕組みでありながら、実際のところ失敗しがちなポイントがいくつかあります。特に初めて調整に取り組むライダーが陥りやすいミスと、中古バイクオーナーが必ず確認すべき点を整理しておきます。


失敗①:ツインショックで左右の段数を揃えないまま走行する
2本ショックのバイクでプリロードを調整する際、片側だけを変えたり、左右の設定が異なる状態になると車体の傾きや左右でのハンドリングの差が生じます。コーナーで右に倒しやすいが左が重く感じる、などの症状が現れたらこれを疑ってください。左右を必ず同じ設定にするのが絶対条件です。


失敗②:プリロード最弱にして乗り心地改善を狙う
プリロードを弱めると確かにサスが柔らかく動くようになりますが、弱めすぎると底付きのリスクが高まります。BMWのRnineT(標準体重65kg)でテストした実測では、プリロード最弱で車高が8mm下がった一方、大きなギャップを越えた際の底付き感も顕著になったという報告があります。乗り心地の改善が目的なら、プリロードを微調整しつつ減衰力も合わせて調整するのが正しいアプローチです。


失敗③:中古車で前オーナーのセッティングのまま乗り続ける
中古バイクを購入した場合、前オーナーが自分の体重に合わせてプリロードを調整している可能性があります。体重差が大きい場合、プリロードのズレがそのまま乗り心地や安定性の問題として現れます。標準値はハンドブックに記載されており、わからない場合はメーカーのお客様相談室に問い合わせれば確認できます。まず標準設定に戻すことが第一歩が条件です。


失敗④:モノショック車で無理に自分で調整しようとする
モノショックのプリロード調整箇所は車体の奥まった場所に位置することが多く、アクセスが困難な場合があります。専用のフックレンチが必要なうえ、作業スペースが限られていると工具が入らないこともあります。無理に作業して工具を滑らせるとアジャスターのリングナットを傷める恐れがあるため、難しいと感じたらバイクショップへの依頼を迷わず選ぶことが賢明です。



  • ⚠️ ツインショックは左右同じ設定にする

  • ⚠️ プリロード最弱にしすぎると底付きリスクが上昇

  • ⚠️ 中古車は必ず標準値に戻してから調整を開始する

  • ⚠️ モノショックで手に負えないと感じたらショップへ依頼する


プリロード調整は一度正しく理解してしまえば、自分のライディングスタイルや体重、乗り方に応じた最適なセッティングを追求できる非常に有用なツールです。痛いですね、調整せずに乗り続けることの方が実は損なのです。メーカーがわざわざ調整機構を装備している理由は、「ライダーごとに使ってほしいから」に他なりません。ぜひ一度、正しい手順で試してみてください。




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